君の名は、白き望み。 作:氷桜
「リーチ。」
『此処でチャンプのリーチ宣言が入りました!』
『不必要だとは思いますけどね。』
『ただ、まぁ。 彼の場合、そうするしか無いのでしょうけど。』
男子、個人戦決勝。
その席の一つに、京太郎は座っていた。
初出場、初公式大会で決勝進出。
永世八冠が為した偉業にも近いことを、彼はやってのけて。
今も、戦いを続けている。
『不必要、ですか。』
『ええ。 今の供託で点差は8000点。 満貫直撃でも届いてしまうようになった。』
『えーと……ああ、岩手の須賀選手ですね。 現在二位の。』
『ただ、チャンプの打ち方としては仕方ない部分もありますからね。』
席で見守る、私達。
全員の手牌が見えていて、全員の顔が見えていて。
現チャンプが、楽しそうに笑う顔が視界に入ってしまう。
あれは、多分。
勝ちに行く目じゃなくて、楽しむ目だ。
過去の経験上、そう察してしまう。
『おや……須賀選手、長考です。』
『一応テンパイにはなりましたが……手を変える所でしょうね。』
『チャンプには8000点届きませんからね。』
いや。
京太郎の目は、そうじゃない。
今、彼は悩んでる。
今までの自分を信じるか。
この場の運を信じて、二度目をやり直すか。
その場にいられるのは、彼一人。
だからこそ、迷っているのだろう。
だったら。
それを導くのが、私の能力なんだろう。
迷った人を試し。
心清らかならば、一つだけ褒美を与え。
その相手は裕福になる。
そんな伝承――――迷ヒ家。
『おや――――?』
京太郎。
悩む必要なんて無いよ。
ずっと、頑張ってきたんだから。
運なんて、信じなくていい。
「リーチ。」
『おおっとぉー!? 須賀選手、此処でリーチ!?』
『裏ドラに賭けたんでしょうかね……分が悪いと思いますよ?』
『ああっと、チャンピオン。 それに須賀選手も一発が消えました。』
今までの、過去を信じて。
…………私を、信じて。
そんな願いが、通じるかどうかは分からない。
ただ、私は信じた。
彼と、共に過ごした4ヶ月という短い時間を。
4ヶ月で変えられた、私と彼の関係を。
…………いつしか。
目の前に、古ぼけた屋敷が見えてきて。
其の中に、京太郎が入っていく幻覚を見て。
「……ツモ。」
ああ、大丈夫だと。
そう、感じた。
『…………え?』
『リーチ、白、裏ドラ採用ルールだから裏3。 5翻……満貫だな。』
『えーと、つまり……。』
『供託リーチ棒だけ、須賀選手が上回った。』
『優勝は、彼だ。』
大きく響く歓声の声。
最後の最後の逆転劇。
そんな中。
――――ありがとう。
初めて、私の持った能力に。
そう、感謝した。