君の名は、白き望み。   作:氷桜

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<12:白望>

「リーチ。」

 

『此処でチャンプのリーチ宣言が入りました!』

 

『不必要だとは思いますけどね。』

 

『ただ、まぁ。 彼の場合、そうするしか無いのでしょうけど。』

 

男子、個人戦決勝。

その席の一つに、京太郎は座っていた。

初出場、初公式大会で決勝進出。

永世八冠が為した偉業にも近いことを、彼はやってのけて。

今も、戦いを続けている。

 

『不必要、ですか。』

 

『ええ。 今の供託で点差は8000点。 満貫直撃でも届いてしまうようになった。』

 

『えーと……ああ、岩手の須賀選手ですね。 現在二位の。』

 

『ただ、チャンプの打ち方としては仕方ない部分もありますからね。』

 

席で見守る、私達。

全員の手牌が見えていて、全員の顔が見えていて。

現チャンプが、楽しそうに笑う顔が視界に入ってしまう。

あれは、多分。

勝ちに行く目じゃなくて、楽しむ目だ。

過去の経験上、そう察してしまう。

 

『おや……須賀選手、長考です。』

 

『一応テンパイにはなりましたが……手を変える所でしょうね。』

 

『チャンプには8000点届きませんからね。』

 

いや。

京太郎の目は、そうじゃない。

今、彼は悩んでる。

今までの自分を信じるか。

この場の運を信じて、二度目をやり直すか。

その場にいられるのは、彼一人。

だからこそ、迷っているのだろう。

 

だったら。

それを導くのが、私の能力なんだろう。

迷った人を試し。

心清らかならば、一つだけ褒美を与え。

その相手は裕福になる。

そんな伝承――――迷ヒ家。

 

『おや――――?』

 

京太郎。

悩む必要なんて無いよ。

ずっと、頑張ってきたんだから。

運なんて、信じなくていい。

 

「リーチ。」

 

『おおっとぉー!? 須賀選手、此処でリーチ!?』

 

『裏ドラに賭けたんでしょうかね……分が悪いと思いますよ?』

 

『ああっと、チャンピオン。 それに須賀選手も一発が消えました。』

 

今までの、過去を信じて。

…………私を、信じて。

そんな願いが、通じるかどうかは分からない。

ただ、私は信じた。

彼と、共に過ごした4ヶ月という短い時間を。

4ヶ月で変えられた、私と彼の関係を。

 

…………いつしか。

目の前に、古ぼけた屋敷が見えてきて。

其の中に、京太郎が入っていく幻覚を見て。

 

「……ツモ。」

 

ああ、大丈夫だと。

そう、感じた。

 

『…………え?』

 

『リーチ、白、裏ドラ採用ルールだから裏3。 5翻……満貫だな。』

 

『えーと、つまり……。』

 

『供託リーチ棒だけ、須賀選手が上回った。』

 

『優勝は、彼だ。』

 

大きく響く歓声の声。

最後の最後の逆転劇。

 

そんな中。

――――ありがとう。

初めて、私の持った能力に。

そう、感謝した。

 


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