君の名は、白き望み。 作:氷桜
「リーチ。」
個人戦――――決勝戦。
シードなんて無い、只の岩手県個人三位。
ここまで上がってくるのに。
何人もの夢を潰してきた。
何人もの、涙を超えてきた。
其の果ての、戦い。
「(――――悪趣味、だな。)」
オーラス、現状は2位。
しかも相手の親番で、きっちり点差は13000点。
単純に流せば、それで勝ちなのに。
相手は、此方を見た上で笑顔でそう宣言していた。
「(…………。)」
手牌はいつもの通り最悪。
それを、技術と運の悪さと。
今までの教えで処理してきてイーシャンテン。
半ば祈るように引いてきた牌は――――五萬。
テンパイ成立。
残るは……何を切るか。
大物手は、望めない。
逆転するには、最低でも満貫が必須。
手元に残った牌で切れるのは、一筒のみ。
望めるのは、ほぼリーチのみの手。
右端の白二枚を、ちらりと見る。
「(――――今から、手を変えるべきなのか?)」
……テンパイしたのは8順。
初手の手牌から組み替えていって何とかこの状況。
手を変えるのならば、間に合うかどうか。
一旦断って、暫しの長考。
『――――――――。』
外野で何かを言っているのが、振動で聞こえる。
分かってしまう程に、集中している。
思考の沼。
もう少し、大きい手を。
直撃すれば、勝てる。
最悪二位でも誇れるんじゃないか。
迷っても、迷っても。
答えは、出ない。
「……チッ。」
相手は、焦れ始めたのか。
長考気味になっていた俺を急かすように、小さく舌打ちをする。
周囲の三位と四位は、既に点差で絶望的。
ある意味、諦観の表情を浮かべていた。
「……そう、だな。 じゃあ、こうする。」
長く、長く考えた後。
フッ、と考えが楽になった。
迷い続けても。
どれだけ、迷い続けても。
いつかは、自分の意志で決めなければいけないのだったら。
「――――リーチ。」
俺は、この手牌と心中する。
リーチのみ。
付いて一発、或いは海底摸月。
ドラには掠ってすらいないし、そもそもアガる牌は地獄待ちだ。
勝つのは絶望的、と言ってもいいだろう。
ただ。
俺は、信じていた。
いや、思い出した。
自分の運の悪さ、それを武器にしようと思った時のことを。
……あの時も、シロさんの小さな助言からだった。
だったら。
あの時と同じく、俺はシロさんの助言を信じる。
たん、たん、たん。
相手の一発は消えて。
俺の一発も消えて。
祈る牌も減っていく。
相手の笑顔が増していく。
優勝出来る、と信じて疑わないんだろうな。
何となく、そんな俯瞰をしていた。
目の前の、敵なのに。
そんな想いは、幻想になると思ってすら無いのだろうな、と。
憐れむような思いで。
俺の、ツモ番になった。
――――目の前に、小さな古ぼけた屋敷が見える。
戸を開け、中へと入り込み。
ただ、何となく目の前にあったものを拾った。
そんな、一瞬の幻覚と。
誰かの、笑顔が見えた気がした。
「――――ツモ。」
引いた牌は、白。
リーチ。
白。
裏ドラ……中。
3つ乗って、ドラ3。
5翻。 満貫。
「2000-4000。 ……リーチ棒だけ、逆転です。」
勝ちましたよ、シロさん。
そんな、奇跡を起こしてくれた。
勝利の女神に――――そう、思った。
感想であった点数修正。