君の名は、白き望み。 作:氷桜
<11:白望>
宮守高校、二回戦突破。
準決勝敗退――――ベスト8。
全国5位。
それが、私達の残した記録だった。
つい、この間の京太郎との”約束”。
あれをしてから、考えが変わった気がする。
恥ずかしいところは、見せられない。
尊敬してもらえる、私でいたい。
その気持が、牌に移ったのか。
或いは、これが私達の実力だったのか。
どっちにしても、時間は前には戻らない。
戻れないし――――戻る気もない。
「じゃ、全国5位を記念してー。」
かんぱーい。
かちゃん、とコップをぶつけ合う。
余り、気が向かなかったけれど。
今日だけは良いかな、と。
そんな思いで、小さくぶつける。
「珍し、シロが自分から参加するなんて。」
「何かあった?」
「…………別に。」
只の気まぐれ。
ほんの少しの心境の変化。
多分、それを言っても理解してくれないだろうから。
そんな、言葉の壁で私は誤魔化す。
「しっかしすげー! 全国で5位ですよ、5位!」
「スゴイ、デショウ!」
「ま、この後個人戦もあるし。 京太郎くん、君の出番はもうすぐだよ?」
うげ、と声を上げて嫌な顔をする京太郎。
笑う顔、困った顔、驚く顔。
コロコロと変わる表情は、見ていて飽きない。
そんな風に、思ってしまう。
「あれ、シロ。 京太郎君の顔見てたー?」
「……え、そう?」
気付けば、見入っていた……とでも言うのだろうか。
皆が、私の顔を見ている。
いや、訂正。 京太郎以外の皆が。
彼は、何か照れたように頬を掻いている。
「……気のせいだよ。」
「エ、ソウカナ?」
そうだよ。
そういうことにしておいてよ。
それで、御魔化されてくれたのか。
或いは分かってて追求を諦めたのか。
出来れば後者であって欲しくはない。
……気付かれている気しか、しないけど。
だけど。
だから、こそ。
「……京太郎。」
「……はい?」
「…………見てる、から。」
耳元で、そう囁く事くらいは。
誰も、知らないでいて欲しい。
私と、京太郎以外は。
<11:京太郎>
宮守高校、二回戦突破。
準決勝敗退――――ベスト8。
全国5位。
それが、先輩方の残した記録だった。
二回戦突破した時は、立ち上がって喜んだ。
準決勝で負けた時は、遠巻きでそれを眺めた。
三年間。
それまで、何があったかは俺には推し量れない。
だから。
口は出さなかった。
口は、出せなかった。
「じゃ、全国5位を記念してー。」
かんぱーい。
高い声、低い声で響く声色。
トシさんは参加を断ったから、6人6色の声で。
苦労を分かち合う言葉が響いた。
「珍し、シロが自分から参加するなんて。」
「何かあった?」
「…………別に。」
とは言っても、酒なんか飲めるわけもないし飲む気もない。
精々、買ってきたお菓子と飲み物での小さなパーティー。
それでも、十分に楽しめるのが高校生。
「しっかしすげー! 全国で5位ですよ、5位!」
「スゴイ、デショウ!」
「ま、この後個人戦もあるし。 京太郎くん、君の出番はもうすぐだよ?」
だから、こんな失言だってする。
女子の個人戦が、約2日。
それが終われば――――男子の大会だ。
笑って、内心を覆い隠した。
「あれ、シロ。 京太郎君の顔見てたー?」
「……え、そう?」
気付けば、顔を見られていたらしい。
何だか照れくさくて、頬を掻いて誤魔化す。
「……気のせいだよ。」
「エ、ソウカナ?」
其の言葉には、多分に嘘が混じっているのは分かった。
だけど、其処に深く突っ込まない。
それが、友人付き合いなのだろうな、と感じて。
一段と、緊張が深まった。
俺は、シロさんと約束した。
だからこそ――――負ける気はない。
けれど、心はどうしても震える。
自分で言っておいて何だけれど。
もし。
もし、負けたら。
「……京太郎。」
「……はい?」
そんな時に、そっと近付いてきたシロさんが耳元で囁く。
「…………見てる、から。」
何を。
決まっている、優勝を。
――――それだけで、大分和らいだ。
自分ながら現金だな、と思いながら。
恐らくは。
シロさんが、迷いに素直になってくれ始めているのだろう、と思って。
少しだけ、誇らしくなった。