君の名は、白き望み。 作:氷桜
『一回戦、圧倒的な強さで勝利をしたのは宮守高校です!』
其の言葉を、俺は控室で聞いていた。
先ずは、一回戦。
間違いなく、勝ったことは嬉しい。
見るからに、先輩方全員も喜び合っている。
だけど。
そんな中で、唯一。
シロさんだけは、普段と変わらないまま。
何処か、遠くを眺め続けているだけだった。
「……シロ、未だに迷ったままなのかい?」
宿に戻り。
他の人達がお互いを褒め合う中を、そっと抜け。
トシさんに、連れられて襖の前で待つ。
シロさんに、言うべきことが有るからと。
「……どう、なのかな。」
「ふぅむ。 これは根深い、ねえ。」
迷っている。
迷い続けている。
その異変は、節々で気にはなっていた。
普段、彼女は表情を余り変えない。
変えないけれど、実は表情豊かだ。
それに気付いている人は、決まってシロさんと仲がいい人達だけ。
そんな彼女が、悩みの表情から解放されない。
何故、なのだろう。
「……当ててみよう。 京太郎の事だろう?」
「…………。」
……俺?
トシさんから漏れた其の言葉に、耳を疑った。
「これは重症だね……おい、京太郎!」
――――襖を開く。
何かを堪えるような、小さな表情の変化。
小さく、胸が鳴る。
「……もう良いの?」
「お前じゃないとどうしようもないよ。」
俺、じゃないと?
其の理由が掴めない。
「……良いかい、シロ。」
「……ん?」
「それ自体は悪いことじゃないんだ。 ……しっかり、考えな。」
其の言葉を最後に、トシさんは去っていく。
小さく、俺にだけ聞こえるように。
「似た者同士だね」、と。
其の理由は、分からない。
「……ねえ、京太郎。」
「……はい。」
「私……分からない。 考えても、何も。」
けれど。
吐き出される、シロさんの悩みは。
前に俺が経験したものと似通っていた。
つい、この間にも感じる。
あの、雨の日の傘の下のモノと。
「変、なのかな。」
「変じゃないです。」
「…………変、だよ。」
気付くまでは、辛かった。
気付いてからも、辛かった。
其の2つの辛さは別物のようで。
実質、表裏反転の一体だった。
「……京太郎は、答え。 分かる?」
「……分かります。 俺も、考えましたから。」
「……それは。」
何かを、聞こうとするように。
けれど、聞いてしまえばどうしようもないように。
相反する感情を、無理に押さえつけたような表情。
「……シロさん、約束しましょう。」
「……やく、そく?」
だから。
「俺の個人戦。 若し、優勝できれば。」
――――俺は、貴女に悩んだ答えを告げようと思います。
俺は。
彼女に、そう告げた。
たとえ無謀でも。
たとえ、笑われようとも。
道化師でも、愚者でも構わない。
ただ、前を見るだけだから。
全ての、迷いを越えた上で。
俺の気持ちを、告げるために。
――――全ての、高校生の頂点に立つ。
それが。
俺の、覚悟だった。