君の名は、白き望み。   作:氷桜

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<10:京太郎>

『一回戦、圧倒的な強さで勝利をしたのは宮守高校です!』

 

其の言葉を、俺は控室で聞いていた。

先ずは、一回戦。

間違いなく、勝ったことは嬉しい。

見るからに、先輩方全員も喜び合っている。

だけど。

そんな中で、唯一。

シロさんだけは、普段と変わらないまま。

何処か、遠くを眺め続けているだけだった。

 

「……シロ、未だに迷ったままなのかい?」

 

宿に戻り。

他の人達がお互いを褒め合う中を、そっと抜け。

トシさんに、連れられて襖の前で待つ。

シロさんに、言うべきことが有るからと。

 

「……どう、なのかな。」

 

「ふぅむ。 これは根深い、ねえ。」

 

迷っている。

迷い続けている。

その異変は、節々で気にはなっていた。

普段、彼女は表情を余り変えない。

変えないけれど、実は表情豊かだ。

それに気付いている人は、決まってシロさんと仲がいい人達だけ。

そんな彼女が、悩みの表情から解放されない。

何故、なのだろう。

 

「……当ててみよう。 京太郎の事だろう?」

 

「…………。」

 

……俺?

トシさんから漏れた其の言葉に、耳を疑った。

 

「これは重症だね……おい、京太郎!」

 

――――襖を開く。

何かを堪えるような、小さな表情の変化。

小さく、胸が鳴る。

 

「……もう良いの?」

 

「お前じゃないとどうしようもないよ。」

 

俺、じゃないと?

其の理由が掴めない。

 

「……良いかい、シロ。」

 

「……ん?」

 

「それ自体は悪いことじゃないんだ。 ……しっかり、考えな。」

 

其の言葉を最後に、トシさんは去っていく。

小さく、俺にだけ聞こえるように。

「似た者同士だね」、と。

其の理由は、分からない。

 

「……ねえ、京太郎。」

 

「……はい。」

 

「私……分からない。 考えても、何も。」

 

けれど。

吐き出される、シロさんの悩みは。

前に俺が経験したものと似通っていた。

つい、この間にも感じる。

あの、雨の日の傘の下のモノと。

 

「変、なのかな。」

 

「変じゃないです。」

 

「…………変、だよ。」

 

気付くまでは、辛かった。

気付いてからも、辛かった。

其の2つの辛さは別物のようで。

実質、表裏反転の一体だった。

 

「……京太郎は、答え。 分かる?」

 

「……分かります。 俺も、考えましたから。」

 

「……それは。」

 

何かを、聞こうとするように。

けれど、聞いてしまえばどうしようもないように。

相反する感情を、無理に押さえつけたような表情。

 

「……シロさん、約束しましょう。」

 

「……やく、そく?」

 

だから。

 

「俺の個人戦。 若し、優勝できれば。」

 

――――俺は、貴女に悩んだ答えを告げようと思います。

 

俺は。

彼女に、そう告げた。

 

たとえ無謀でも。

たとえ、笑われようとも。

道化師でも、愚者でも構わない。

ただ、前を見るだけだから。

全ての、迷いを越えた上で。

俺の気持ちを、告げるために。

 

――――全ての、高校生の頂点に立つ。

 

それが。

俺の、覚悟だった。


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