君の名は、白き望み。   作:氷桜

1 / 19
<白き望み。>
<1・2:白望>


<1:白望>

 

吐く息が凍る季節が過ぎた。

こんな北の、寒い地にも少しずつ春の芽吹きが見え始めた。

 

「……。」

 

足元、まだ若干残る寒さの象徴――――霜を踏み割る。

ぱきり、という微かな音が聞こえる。

ぱきり、ぱきり、ぱきり。

ただ無意識に、足を進める。

 

面倒。

面倒臭がり。

動かない。

 

私は、いつもそんな風に見られていて。

私自身も、そんな視線を受け入れていた。

 

考えはする。

ただ、其の考えを行動に動かすまでが遅い。

 

17年間生きてきて、それが自分に対して思う感情。

他の人が、私を追い抜いて先を行き。

他の人が、私を振り向いて笑う。

何も、思わない。

 

私は、迷い続けるから。

私は、先を見出すのが遅いから。

 

だから、もう慣れた。

そんな私を助けてくれる仲間以外は。

それ以外は、好きにしていいよ。

だって。

私は、面倒臭がりなんだから。

 

――――ふと、視線を上げた先。

見知ったお婆さんと、見知らぬ少年が校門前にいるのが見えて。

 

「…………?」

 

誰だろう。

ふと浮かんだその考え。

ただ、それは直ぐに霞へと消え去った。

普段と変わらない日常に、変化が見えて。

それでも、私は考えるのを面倒に思ったから。

ただの、それだけ。

それ以上でも、それ以下でもない。

 

 

<2:白望>

 

 

入学式。

この学校は、今年から宮守女子から宮守高校に変わる。

近隣の、宮守男子高校と合併することになったから。

 

女子校と、男子校。

互いに、合併しなければやっていけない程に生徒数が減っていく。

既に男子高は廃校寸前。

二年間は新しい生徒を取っていなかった、とすら聞いた。

理由は簡単。 もっと都会に流れてしまうから。

 

……この場所に取り残されるのは、動かないか。

動きたくても、動き出せない縛られた人達だけ。

土地を持った人。

元々生まれ育った人。

結婚して定住した人。

その人それぞれで、理由は異なるけれど。

 

私は、何故だろう。

動こうともした覚えもないし。

動き出そうとして、動けるんだろうか。

或いは――――動くことすら考えられないほど、縛られているのか。

そんな益体もない思考をして。

両親の顔を思い出して、そんなものを振り払う。

多分、悲しむこともなく。

多分、変化することも無いから。

 

「えー、では今年からこの学校で教えて頂くことになった――――。」

 

だって。

写真の顔は、笑顔のままに決まっているんだから。

だって。

もう、たった一人なんだから。

 

「では、新入生を代表して――――。」

 

考えが、すり抜けて行く。

声が、耳を無視していく。

 

――――ああ、面倒臭い。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。