君の名は、白き望み。 作:氷桜
<1・2:白望>
<1:白望>
吐く息が凍る季節が過ぎた。
こんな北の、寒い地にも少しずつ春の芽吹きが見え始めた。
「……。」
足元、まだ若干残る寒さの象徴――――霜を踏み割る。
ぱきり、という微かな音が聞こえる。
ぱきり、ぱきり、ぱきり。
ただ無意識に、足を進める。
面倒。
面倒臭がり。
動かない。
私は、いつもそんな風に見られていて。
私自身も、そんな視線を受け入れていた。
考えはする。
ただ、其の考えを行動に動かすまでが遅い。
17年間生きてきて、それが自分に対して思う感情。
他の人が、私を追い抜いて先を行き。
他の人が、私を振り向いて笑う。
何も、思わない。
私は、迷い続けるから。
私は、先を見出すのが遅いから。
だから、もう慣れた。
そんな私を助けてくれる仲間以外は。
それ以外は、好きにしていいよ。
だって。
私は、面倒臭がりなんだから。
――――ふと、視線を上げた先。
見知ったお婆さんと、見知らぬ少年が校門前にいるのが見えて。
「…………?」
誰だろう。
ふと浮かんだその考え。
ただ、それは直ぐに霞へと消え去った。
普段と変わらない日常に、変化が見えて。
それでも、私は考えるのを面倒に思ったから。
ただの、それだけ。
それ以上でも、それ以下でもない。
<2:白望>
入学式。
この学校は、今年から宮守女子から宮守高校に変わる。
近隣の、宮守男子高校と合併することになったから。
女子校と、男子校。
互いに、合併しなければやっていけない程に生徒数が減っていく。
既に男子高は廃校寸前。
二年間は新しい生徒を取っていなかった、とすら聞いた。
理由は簡単。 もっと都会に流れてしまうから。
……この場所に取り残されるのは、動かないか。
動きたくても、動き出せない縛られた人達だけ。
土地を持った人。
元々生まれ育った人。
結婚して定住した人。
その人それぞれで、理由は異なるけれど。
私は、何故だろう。
動こうともした覚えもないし。
動き出そうとして、動けるんだろうか。
或いは――――動くことすら考えられないほど、縛られているのか。
そんな益体もない思考をして。
両親の顔を思い出して、そんなものを振り払う。
多分、悲しむこともなく。
多分、変化することも無いから。
「えー、では今年からこの学校で教えて頂くことになった――――。」
だって。
写真の顔は、笑顔のままに決まっているんだから。
だって。
もう、たった一人なんだから。
「では、新入生を代表して――――。」
考えが、すり抜けて行く。
声が、耳を無視していく。
――――ああ、面倒臭い。