「蓮君、明日のお休み時間あるかな?」
俺が呼ばれたのは、午前の授業が終了し教材を机の中に片付けている時だった。
「明日か。……うん、空いてるぞ。どうかしたのか?」
「えっと、実はバイトを頼みたくて」
「バイト?」
「う、うん。温泉旅館でのバイトなの」
「ふむ。温泉旅館ね」
とまあ、日時等の約束をして俺はOKを出した。
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土曜日。小咲と俺はバスに乗って目的の温泉旅館へ向かっていた。
「うちが和菓子を卸してる旅館なんだけどね。親戚のおばさんがそこの女将さんをやってて、この時期は人手が足りなくなるの。わたしも何度かお手伝いに行ったことがあるんだ」
「なるほどね。つか、俺なんかで良かったのか?接客スキルとかほぼないぞ、俺」
「そこは大丈夫かな。蓮君に頼むのは力仕事だと思うから。……それに、完全に心を許せる男の子は蓮君だけだし」
「……まあなんだ。そこまで信用してくれてありがとな」
「当然だよ。将来は一緒になる仲なんだから」
うん、面と向かって改めて言われると、何だか恥ずかしい。
「それに蓮君。わたしたちの予想通り、春も落としちゃったんだね。蓮君、ハーレムだね」
小咲は苦笑した。
「あー、まあ、うん、そうだな。でも、皆幸せにするって誓うよ」
「ふふ、そこは心配してないから大丈夫だよ」
小咲は小さく欠伸をした。
どうやら、今日の準備等で寝るのが深夜になってしまったらしい。
「寝ていいぞ。教えてくれた駅に着いたら起こすよ」
「……う、うん。じゃあお願いね」
そう言ってから、小咲は俺の肩に体重を預け眠ってしまった。結構疲れが溜まっていたのだろう。
それから数分後、バスが目的の駅に到着し、バスから下りて数分歩くと、旅館に到着した。
正面から旅館へ入いると、花柄の着物をきた女性が此方に歩み寄る。どうやら、この旅館の女将さんらしい。
「いらっしゃい、小咲ちゃん!久しぶり!いつも悪いわね~」
「こんにちはおばさん!今日はよろしくお願いします!蓮君、此方はこの旅館の女将さん」
「桐崎蓮です。本日はよろしくお願いします」
業務的な自己紹介になってしまったが許して欲しい。俺、あんまり対人スキルがないからね。
女将さんは、ニヤニヤ笑い、
「桐崎君って、小咲ちゃんの彼氏?」
顔を真っ赤にする小咲。
「まあ、はい。そうです……」
「女将さんもからかうのは程々にお願いしますね。小咲、まだ耐性がないらしいので」
「あら、そう。残念。じゃあ、早速で悪いけど仕事に入ってもらうわね。まずは着替えてから、後で小咲ちゃん、色々教えてあげてね」
「は~い」
ともあれ、挨拶を終え俺たちは別々の部屋で仕事着に着替える事に。つっても、和服に近いんだけどね。
「さてと、行くか」
着替え終わった俺は、部屋の襖を開け廊下に出る。
「蓮君、お待たせ。どうかな?」
「あー、うん。可愛いぞー」
「ちょ、棒読みすぎないかな」
「冗談、冗談だって。かなり似合ってるよ」
うん、最早女神だね。
「ありがとう。――じゃあ、早速だけど仕事の説明をするねじゃあ早速仕事の説明するね?こっちに来てくれる?」
「おう、了解だ」
俺が小咲に案内されたのは、ある一部屋だ。どうやら、最初の仕事はこの部屋の掃除らしい。
小咲は畳んだ布団を持ったが、意外に重かったらしく足元がふらふらしてる。ちなみに、俺は使用済みの湯飲みなどをお盆に乗せている。
「おっとと……」
「あ、そういうのは俺やるぞ。せっかくの男手なんだろ」
俺は立ち上がり、小咲の元まで歩み寄るが、小咲は足元のシーツに足を捕られ体勢を崩してしまう。
「ありがと。じゃあお願い……きゃっ!」
「小咲!」
俺は傾く正面を支え、布団は後方へ崩れ落ちていく。だが、馬乗り状態になってしまったのだが……。
「ったく、危ねぇぞ」
「う、うん。……ありがとう」
……まあうん、この状況は俺が色々とマズイ。
「わ、悪い、すぐに退く」
「……ねぇ蓮君。キス、してもいいよ」
俺は僅に逡巡したが、唇を重ねた。
「「ん……」」
ま、マズイ……。これ以上は本当にマズイ……。そういう雰囲気が流れてる……。てか、俺、高校卒業するまで持つのか心配になってきたわ……。
とりあえず、俺と小咲は上体を起こす。
「さ、さて、仕事再開といきますか」
「そ、そうだね」
ともあれ、俺たちは仕事を続け、夕暮れになってしまった。
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縁側で休んでいると、小咲が慌てて此方にやって来る。
「蓮君!大変だよ!」
「大変?」
~厨房~
話を聞くと、板前さんが腰を痛くして作業が中止になってしまったらしい。また、今日に限って替わりの板前さんも居ないらしい。
「大丈夫だ」と板前さんは言っているが、何処からどう見ても大丈夫ではない。
「困ったわねぇ……。もう夕食の準備を始めなきゃいけないのに……」
すると、小咲が、
「女将さん、板前さん。わたしと蓮君ならできます!」
いやいや、小咲さん。その自信は何処からくるの?
「こう見えて、わたしたち料理には自信があるんです。やらせて下さい!」
だが、そう簡単にはいかなかった。
「けっ、板前を舐めんなよ嬢ちゃん。ガキのままごとで務まるような、そんな甘っちょろい世界じゃねえんだ」
「できます!」
こうなってしまうと、小咲は意見を曲げない。簡単に言えば、頑固になるのだ。
俺は覚悟を決め、
「俺たちが板前さんの代わりになれるとは思いません。ですが、やらせて下さい。仰って頂いた事はちゃんとやります」
「お願いします!」
頭を下げる俺たち。
「……手加減しねぇぞ」
「「望むところです」」
手を洗い、食材を準備してから作業を始める。
そして、俺たちみながら目を丸くする板前さん。
「……てめぇら、本当に料理初心者か」
「いや、俺は子供の時から作ってまして」
ほぼ野郎共にですが。あいつら、料理できねぇし。
「わ、わたしは独学です。……わたし、料理が壊滅的だったのでかなり頑張りました!」
女将さんも「まあ、この旅館に就職してくれないかしら」とか言ってるしね。
てか、料理の技量は俺の方が上でも、飾り付けとなると小咲には負けるけど。
「それじゃあ、最後の飾り付けだ。てめぇら、できるのか?」
「何とかできます。小咲には負けますけど」
「ふふ、料理の技量は蓮君の方が上じゃない」
「まあそうだけど」
まああれだ。傍から見たら夫婦に見えるのは気のせいじゃないのかもしれん。
ともあれ、作業を続ける俺たち。
「ほぉ~!お前ら、オレの弟子になる気はねぇか?」
俺たちの腕前に、板前さんは愉快に笑うだけだ。
そして料理が終わり――、
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「あー……。疲れたわ」
「うん、すごくドキドキしちゃった!」
無事料理を作り終えた俺たちは、玄関前で腰を落としていた。
「にしても、此処で俺の料理スキルが役に立つとはなぁ」
「わたしの方も同感だよ」
「さて、帰ろうぜ」
「そうだね。女将さんに挨拶をして帰ろっか」
立ち上がり、女将さんに挨拶をしてから俺たちは着替えバス停へ向かう。
最終バスは十九時だ。ギリギリ間に合うだろう。
ともあれ、今日色々あったが、楽しい一日になったのだった。
混浴は書きませんでした。もう将来は決まってるんで、書かなくていいかなーと思いまして。
次回も早く投稿できるように頑張ります!!