ニセコイ~千棘の義弟~   作:舞翼

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第49話 アルバイト

「蓮君、明日のお休み時間あるかな?」

 

 俺が呼ばれたのは、午前の授業が終了し教材を机の中に片付けている時だった。

 

「明日か。……うん、空いてるぞ。どうかしたのか?」

 

「えっと、実はバイトを頼みたくて」

 

「バイト?」

 

「う、うん。温泉旅館でのバイトなの」

 

「ふむ。温泉旅館ね」

 

 とまあ、日時等の約束をして俺はOKを出した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 土曜日。小咲と俺はバスに乗って目的の温泉旅館へ向かっていた。

 

「うちが和菓子を卸してる旅館なんだけどね。親戚のおばさんがそこの女将さんをやってて、この時期は人手が足りなくなるの。わたしも何度かお手伝いに行ったことがあるんだ」

 

「なるほどね。つか、俺なんかで良かったのか?接客スキルとかほぼないぞ、俺」

 

「そこは大丈夫かな。蓮君に頼むのは力仕事だと思うから。……それに、完全に心を許せる男の子は蓮君だけだし」

 

「……まあなんだ。そこまで信用してくれてありがとな」

 

「当然だよ。将来は一緒になる仲なんだから」

 

 うん、面と向かって改めて言われると、何だか恥ずかしい。

 

「それに蓮君。わたしたちの予想通り、春も落としちゃったんだね。蓮君、ハーレムだね」

 

 小咲は苦笑した。

 

「あー、まあ、うん、そうだな。でも、皆幸せにするって誓うよ」

 

「ふふ、そこは心配してないから大丈夫だよ」

 

 小咲は小さく欠伸をした。

 どうやら、今日の準備等で寝るのが深夜になってしまったらしい。

 

「寝ていいぞ。教えてくれた駅に着いたら起こすよ」

 

「……う、うん。じゃあお願いね」

 

 そう言ってから、小咲は俺の肩に体重を預け眠ってしまった。結構疲れが溜まっていたのだろう。

 それから数分後、バスが目的の駅に到着し、バスから下りて数分歩くと、旅館に到着した。

 正面から旅館へ入いると、花柄の着物をきた女性が此方に歩み寄る。どうやら、この旅館の女将さんらしい。

 

「いらっしゃい、小咲ちゃん!久しぶり!いつも悪いわね~」

 

「こんにちはおばさん!今日はよろしくお願いします!蓮君、此方はこの旅館の女将さん」

 

「桐崎蓮です。本日はよろしくお願いします」

 

 業務的な自己紹介になってしまったが許して欲しい。俺、あんまり対人スキルがないからね。

 女将さんは、ニヤニヤ笑い、

 

「桐崎君って、小咲ちゃんの彼氏?」

 

 顔を真っ赤にする小咲。

 

「まあ、はい。そうです……」

 

「女将さんもからかうのは程々にお願いしますね。小咲、まだ耐性がないらしいので」

 

「あら、そう。残念。じゃあ、早速で悪いけど仕事に入ってもらうわね。まずは着替えてから、後で小咲ちゃん、色々教えてあげてね」

 

「は~い」

 

 ともあれ、挨拶を終え俺たちは別々の部屋で仕事着に着替える事に。つっても、和服に近いんだけどね。

 

「さてと、行くか」

 

 着替え終わった俺は、部屋の襖を開け廊下に出る。

 

「蓮君、お待たせ。どうかな?」

 

「あー、うん。可愛いぞー」

 

「ちょ、棒読みすぎないかな」

 

「冗談、冗談だって。かなり似合ってるよ」

 

 うん、最早女神だね。

 

「ありがとう。――じゃあ、早速だけど仕事の説明をするねじゃあ早速仕事の説明するね?こっちに来てくれる?」

 

「おう、了解だ」

 

 俺が小咲に案内されたのは、ある一部屋だ。どうやら、最初の仕事はこの部屋の掃除らしい。

 小咲は畳んだ布団を持ったが、意外に重かったらしく足元がふらふらしてる。ちなみに、俺は使用済みの湯飲みなどをお盆に乗せている。

 

「おっとと……」

 

「あ、そういうのは俺やるぞ。せっかくの男手なんだろ」

 

 俺は立ち上がり、小咲の元まで歩み寄るが、小咲は足元のシーツに足を捕られ体勢を崩してしまう。

 

「ありがと。じゃあお願い……きゃっ!」

 

「小咲!」

 

 俺は傾く正面を支え、布団は後方へ崩れ落ちていく。だが、馬乗り状態になってしまったのだが……。

 

「ったく、危ねぇぞ」

 

「う、うん。……ありがとう」

 

 ……まあうん、この状況は俺が色々とマズイ。

 

「わ、悪い、すぐに退く」

 

「……ねぇ蓮君。キス、してもいいよ」

 

 俺は僅に逡巡したが、唇を重ねた。

 

「「ん……」」

 

 ま、マズイ……。これ以上は本当にマズイ……。そういう雰囲気が流れてる……。てか、俺、高校卒業するまで持つのか心配になってきたわ……。

 とりあえず、俺と小咲は上体を起こす。

 

「さ、さて、仕事再開といきますか」

 

「そ、そうだね」

 

 ともあれ、俺たちは仕事を続け、夕暮れになってしまった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 縁側で休んでいると、小咲が慌てて此方にやって来る。

 

「蓮君!大変だよ!」

 

「大変?」

 

 

 ~厨房~

 

 話を聞くと、板前さんが腰を痛くして作業が中止になってしまったらしい。また、今日に限って替わりの板前さんも居ないらしい。

 「大丈夫だ」と板前さんは言っているが、何処からどう見ても大丈夫ではない。

 

「困ったわねぇ……。もう夕食の準備を始めなきゃいけないのに……」

 

 すると、小咲が、

 

「女将さん、板前さん。わたしと蓮君ならできます!」

 

 いやいや、小咲さん。その自信は何処からくるの?

 

「こう見えて、わたしたち料理には自信があるんです。やらせて下さい!」

 

 だが、そう簡単にはいかなかった。

 

「けっ、板前を舐めんなよ嬢ちゃん。ガキのままごとで務まるような、そんな甘っちょろい世界じゃねえんだ」

 

「できます!」

 

 こうなってしまうと、小咲は意見を曲げない。簡単に言えば、頑固になるのだ。

 俺は覚悟を決め、

 

「俺たちが板前さんの代わりになれるとは思いません。ですが、やらせて下さい。仰って頂いた事はちゃんとやります」

 

「お願いします!」

 

 頭を下げる俺たち。

 

「……手加減しねぇぞ」

 

「「望むところです」」

 

 手を洗い、食材を準備してから作業を始める。

 そして、俺たちみながら目を丸くする板前さん。

 

「……てめぇら、本当に料理初心者か」

 

「いや、俺は子供の時から作ってまして」

 

 ほぼ野郎共にですが。あいつら、料理できねぇし。

 

「わ、わたしは独学です。……わたし、料理が壊滅的だったのでかなり頑張りました!」

 

 女将さんも「まあ、この旅館に就職してくれないかしら」とか言ってるしね。

 てか、料理の技量は俺の方が上でも、飾り付けとなると小咲には負けるけど。

 

「それじゃあ、最後の飾り付けだ。てめぇら、できるのか?」

 

「何とかできます。小咲には負けますけど」

 

「ふふ、料理の技量は蓮君の方が上じゃない」

 

「まあそうだけど」

 

 まああれだ。傍から見たら夫婦に見えるのは気のせいじゃないのかもしれん。

 ともあれ、作業を続ける俺たち。

 

「ほぉ~!お前ら、オレの弟子になる気はねぇか?」

 

 俺たちの腕前に、板前さんは愉快に笑うだけだ。

 そして料理が終わり――、

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「あー……。疲れたわ」

 

「うん、すごくドキドキしちゃった!」

 

 無事料理を作り終えた俺たちは、玄関前で腰を落としていた。

 

「にしても、此処で俺の料理スキルが役に立つとはなぁ」

 

「わたしの方も同感だよ」

 

「さて、帰ろうぜ」

 

「そうだね。女将さんに挨拶をして帰ろっか」

 

 立ち上がり、女将さんに挨拶をしてから俺たちは着替えバス停へ向かう。

 最終バスは十九時だ。ギリギリ間に合うだろう。

 ともあれ、今日色々あったが、楽しい一日になったのだった。




混浴は書きませんでした。もう将来は決まってるんで、書かなくていいかなーと思いまして。

次回も早く投稿できるように頑張ります!!

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