~夏休み最終日、とある一軒家~
俺は、2LDKのリビングでのんびりとしていた。言わずとも、羽姉の家である。てか、女の子の特有の良い匂いが鼻腔を擽るんだが……。決して変態発言じゃないからね。
「明日から学校か。……メンドイ」
「もぉ、そんな事言わないの。明日サプライズがあるんだから」
羽姉ちゃんは、笑みを浮かべる。
「サプライズねぇ。ま、楽しみにしてるよ」
「……だ・か・ら、今日はお泊まりなしね☆」
羽姉は妖艶な笑みを浮かべた。だがまあ、いつもの事なので俺は平然と受け流す。
「はいはい。そういうのは、俺が高校を卒業してからな」
「ぶぅー、蓮ちゃんのケチ」
「ケチで結構。……ほら、おいで」
俺が腕を広げると、羽姉は目を細めて胸の中に飛び込み、俺は優しく抱きしめる。いつも思うけど、こうなると羽姉は年下にしか見えない。
「……蓮ちゃんの胸の中、暖かいね」
「そうか?普通じゃね」
それから、数秒の抱擁をした後、俺たちは離れた。てか、羽姉。名残惜しそうな顔しないでくれ。いつでもやってやるから。
「蓮ちゃん。ご飯食べてく?」
「うーん、そうだな。……うん、戴いていくよ」
「ホント!?お姉ちゃん、腕を振るちゃうぞ~!」
そう言いながら、羽姉は立ち上がりキッチンへ向かった。
最初、羽姉は餃子しか作る事ができなかったが、努力の末、中華料理全般は作れるようになったらしい。
ともあれ、俺は羽姉の作った中華料理を御馳走になり、帰路に着いた。……まあ、玄関で深いキスをされたけど。
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次の日の新学期。
俺はいつも通り登校し、退屈な始業式を受け、自身の席に座り、机の上で頬杖をしていた。クラスメイトは『担任が変わるらしいよ~』『しかも、美人らしい』『ずっと副担任で回してもんね~』と言う声が聞こえる。
そして、その人が教室に入って来ると、俺は頬杖を崩し、顔面を机の上にぶつけてしまった。……サプライズってそういう事かよ。
その人は教壇に上がり自己紹介を始める。
「今日からこのクラスの先生になる――――
ちなみに、担当は英語らしい。
……つーか、俺を見てウインクするな……。
「ねぇねぇ、先生ってどこから来んですか?」
「これって、“
羽姉は、この質問に答えていく。
――俺は次の質問で、心臓が飛び上がる感じになる。
「先生が首から下げてる指輪って、何なんですか?」
「えっとね。この指輪は、婚y――」
「――羽先生。ちょっと来て」
俺は立ち上がり、羽姉の右腕を優しく掴んで廊下に出る。『蓮ちゃんどうしたの~』っていう羽姉の声や、『蓮ちゃんだと!どういうことだ!桐崎弟!』って声が聞こえたが、無視である。今はこっちの方が重大事項だ。
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「蓮ちゃん、どうしたの?」
キョトン顔をしないで羽姉さんや。
「あのままじゃマズイと思ったから、連れ出しただけ」
羽姉は、『この事?』と言って、指輪を右手で取って持ち上げる。
「……ああ。その指輪の事は、上手く誤魔化して欲しいです……」
「もぉ、蓮ちゃんったらウブなんだからぁ」
「ウブじゃねからな。つーか、此処は学校だからね」
「そうでした」
そう言って、羽姉は舌を出して笑った。その表情は、誰から見ても魅力的である。
「……ったく、頼んだよ。羽姉」
うん、マジで頼んだ。俺の平穏な高校生活に関わるかもしれないからね。
「しょうがないな、わかりました」
ともあれ、教室に戻りました。
……まあ、それからの質問攻めは凄かったけど。難なく乗り越えたよ、俺。てか、姉貴と橘も羽姉と知り合いだったとは世の中狭いのね。
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~屋上~
放課後になり、屋上には羽姉、小咲、姉貴、橘、鶫、楽が集まっていた。どうやら。この5人は約束の場所に一緒に居たらしく集まったということらしい。……つーか、俺って呼ばれる理由あったのか?うん、早く帰りたいまである。
「……うそ。奏倉先生もあの場所にいて、鍵まで持ってるなんて……」
姉貴がそう声を上げる。まあ確かに、約束の場に6人が居て、その4人が鍵を持ってるなんて、凄い偶然である。つか、本当に偶然なのか?まあどうでもいいけど。
「わたしも、ビックリしたんだよ~。あの場に皆が勢揃いしてるんだもん」
「……口を挟んで悪い。羽姉、俺って居る意味あんの?」
「あるよ、蓮ちゃん。約束の場所から数キロ離れた所に、蓮ちゃんが住むお家があったんだよ」
……マジか。初耳である。でもまあ、これなら辻褄も合う。何故、俺が小さい時に羽姉と姉貴に会えた。っていうのが。
「……なるほどな。俺はそのまま親父に引き取られたんだな」
でもまあ、羽姉と姉貴が入れ替わりで遊んで感じになったけどね。
羽姉は頷き、
「うん、大当たりだよ。蓮ちゃん」
俺も若干関連してたとは、意外すぎる。下手したら、小咲と橘とも会ってるんじゃね。まあ、記憶に無いからそれはないと思うけどさ。
それからはまあ、羽姉が皆について教えてくれた。んで、肝心の鍵の事に――、
「あの……先生は、鍵の事……。いえ、約束の事を覚えてるんですか?私たち皆、10年前に楽と何か約束したらしいんですけど、それについて何も思い出せないんです。先生は、何か覚えてませんか?」
姉貴が羽姉にそう聞くが――、
「あー……約束ね」
右拳を口元に当て、空を見上げる羽姉。つか、俺が中国に行った時、鍵の事を少し話してたよな?――自分の鍵は、絶対に開かないって事も。
「ごめん、全然覚えてない。――でもね。一つ言える事は、わたしが持ってる鍵じゃ、楽ちゃんのペンダントは絶対に開かない」
「「「「え?」」」」
ポカンとする、姉貴、橘、小咲、楽。まあ確かに、鍵を持ってる女の子が、絶対に私のじゃ開かない。って言えばそうなるも無理もないと思う。
「それにわたしは、既に新しい恋が始まってるしねー。――だからはい。楽ちゃん」
羽姉は、左ポケットから取り出した鍵を楽に渡し、楽はそれを受け取る。楽は、この場でペンダントに鍵を入れ、錠を開けようとしたが開く事はなかった。
羽姉は、楽を見ながら、
「ねっ。開かないでしょ、楽ちゃん。わたしは、約束の女の子じゃないんだよ」
「お、おう。そ、それじゃあ、残りは3本って事になるな……」
いや、実際には橘と姉貴。どちらかなんだけど……。
……この際だから、楽も2人と付き合っちゃえばいいのに……。はい、すいません。一方的な押し付けだよね。
――その時、
「じ、実はわたしも、新しい恋をしてるの……。だから一条君。もし、わたしの鍵で開いても、わたしの事は気にしちゃダメだよ」
そう言って、小咲は首に下げた鍵を取り楽に渡した。……つーか、小咲の鍵でペンダントが開く感じが凄ぇするんですが……。
ま、昔は昔。今は今だしね。なんつーか、いい訳みたくなってるけど、良しとしよう。
その後は、小咲と羽姉は質問攻めにあってたけど上手く交わした。まあこれが、羽姉が凡矢理高校の担任に就任した日のできごとであった。
楽さんのペンダントの意味が……(苦笑)
ちなみに、その後は皆一緒に帰りました。