季節は流れ、凡矢理高校はただ今夏休み。
俺は待ち合わせ場所にした、屋台の軒並みから僅かに離れた場所で羽姉の到着を待っていた。
――――それから数分後、浴衣姿の羽姉が到着。浴衣姿の羽姉は、最早、女神である。言い過ぎかもしれないが、俺の第一印象で感じた感想なので仕方ない。ちなみに、俺は茶色の甚米姿である
そして羽姉は、パタパタと此方に駆け寄る。
「蓮ちゃん。お待たせ」
「いや、全然待ってないぞ」
羽姉は、クスッと笑う。
「今日は、『待ちくたびれた』じゃないんだね。それで、どうかな?わたしの浴衣姿?」
羽姉はその場で一回転する。羽姉の浴衣は、ピンク色を基調にした花柄があしらってある浴衣だ。
それに今日はいつもと違い、後頭部で髪を纏め、纏めた部分を黄色のシュシュで止めてある。俗に言う、ポニーテールである。
「(……やばい、すぐに抱きしめたいんですが。可愛いすぎる)」
羽姉は、小悪魔な笑みを浮かべる。
「蓮ちゃんは、わたしを抱きしめたいって思ったんでしょ?」
……俺の心の声は、羽姉には筒抜けらしい。
そして、羽姉は頬を朱色に染める。
「……えっとね。蓮ちゃんがよければ抱きしめていいよ」
「お、おう。いいのか」
俺はしどろもどろに答える。
「う、うん。此処からは誰にも見られないしね」
「じゃ、じゃあ――」
俺は羽姉を抱き寄せ、華奢な体を優しく抱きしめる。女の子特有なものが、胸板に当たるが色んな意味で我慢我慢。てか、浴衣だからほぼダイレクトに当たるんだよね……。
それにしても、優しい香りが鼻腔を擽るんですが。女の子って、どうしていい匂いがするだろ?……決して、変態発言じゃないからね。
そして、数秒してから抱擁を解く。……てか、俺も羽姉も、顔が真っ赤だろうな……。
「え、えっと。どうだった?」
そ、それを聞いちゃいますか……羽姉ちゃんや……。
「い、いやまあ、役得でした」
「そ、そっか」
顔を赤くし、俯く俺たち。……つーか、こんなんでこの先大丈夫か心配になってきたわ。
ともあれ、平静を取り戻した俺と羽姉は、手を繋ぎ移動する事になった。
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祭りは凡矢理市主催の為か、かなりの賑わいだ。
「懐かしいなぁ、日本のお祭り」
「羽姉ちゃんは、ずっと中国だったんだもんな」
「でも、寂しくなかったよ。蓮ちゃんとの思い出があったから」
「つっても、子供の時のだろ?」
「うん、だからさ。これから沢山思いでを作ろうね」
羽姉は、屈託のない笑みを浮かべる。てか、俺もそのつもりである。羽姉とは、これから沢山の思い出を共有していきたいと思ってる。
「それと、わたしは蓮ちゃんとずっと一緒だからね」
「そうだな。将来、羽姉ちゃんは俺が貰う予定だし」
「ふふ、そうだね。楽しみにしてるね♪」
「善処します」
そんな時、羽姉が焼きそば屋を見つけ、焼きそばを一つ購入。
それはいいんだが、途中でお腹が一杯なってしまい半分は俺が食う事になった。んでまあ、必然的に割り箸は1膳しかないので、間接キスということになるのだが――、
「はい、蓮ちゃん。後は任せた」
「はいはい、任されました」
俺は割り箸で焼きそばを取り、口に運ぶ。
ちなみに今居る場所は、屋台から僅かに離れた石段に座っている。
「どうどう?わたしの味は?」
俺は焼きそばを飲み込み、羽姉の額を小突く。
「おバカ。セクハラ発言をするんなよ」
「ご、ごめんなさい。つい……」
いやいや、シュンとしないで、罪悪感がハンパないからさ。
「まあ、俺は気にしてないから問題ないだろ」
……てか、羽姉。『大好きだよ』って言って、腕に抱きつかないでくれ、当たってるから。何がとは言わないけどさ。
ともあれ、焼きそばを全て食べ、タッパーをゴミ箱に捨ててから次の目的地へ移動。
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次の目的地は、射的屋だ。これは、羽姉の希望である。……てか、嫌な予感がするのは俺の気のせいか……。
取り敢えず、金を払わけなければ何も始まらない。
「親仁、射的2回ぶn――」
「――1回分でいいですよ」
……うん、羽姉に上手く遮られたね。てか、何を狙ってるか想像ついたわ。
ほら、あれだ。『上手く撃てないから。体を支えて的なやつ。んで、胸元が見えそうで見えないやつ』だね。きっと。
「蓮ちゃん蓮ちゃん。1等のやつ狙いたいんだけど。上手く銃口が定まらないから、ちょっと支えてね」
……俺の予想が的中である。てか、羽姉。俺の理性削りに来てるよね……。俺は腹を括る。
「こうか?」
俺は、羽姉の体を優しく支える。
「うん、そんな感じで」
「おう」
さて、素数を数えよう。2 3 5 7 11 13 17 19 23 29 31 37……。
『出ました、1等賞!』と親仁の声が聞こえた。……どうやら、終わったらしい。良く耐えた、俺の理性。
「……はあ~、マジ疲れたわ」
「そ?わたしは楽しかったけど?」
今俺と羽姉は、軒並みを歩いている。もちろん、羽姉の胸の中には、先程景品として取った熊のぬいぐるみが抱かれていた。
そして、最後は祭りの目玉となる打ち上げ花火だ。
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~丘の上~
「へぇ~、こんな場所があるなんて」
「まあな」
この丘からは、花火が一望できる。あれだ。俺のリサーチの賜物である。羽姉には喜んで欲しかったしね。
立ちながら夜空を眺めていると、打ち上げ特有の後、花火が打ち上がる。てか、ハート形とはまたベタな……。
「……綺麗だね」
「そうだな。もちろん、羽姉も綺麗だぞ」
「もうっ、蓮ちゃんのバカっ」
「ごめんごめん」
俺と羽姉は向き合い、唇と唇が重なる。
離れると、僅かに顔を紅潮させ、お互い苦笑した。
「蓮ちゃん。今日はありがとう。何かお返しをしたいんだけど」
「いや、気にするな。その言葉だけで十分だ。……後、プレゼントがあるんだ」
「……プレゼント?」
羽姉はキョトン顔だ。
俺は胸ポケットから、指輪の穴に細い銀色のチェーンが通ったネックレスを取り出す。
「それって、婚約指輪?」
「……うーん。…………ん、そのつもり、かな?」
羽姉は苦笑する。
「釈然としない答えだね」
「絆的な感じでもあったからなぁ。本物は、俺が成人するまで待ってくれ」
「うん、わかった。ところで、蓮ちゃんのもあるの?」
「まあ一応な」
そう言って、俺は首にそのネックレスをかける。てか、羽姉から貰ったネックレスもあるんだよなぁ。2つつけるのもアレだし、どうすっかな?
「蓮ちゃん、つけてつけて」
そう言って、羽姉は後ろを向き、俺は受け取ったネックレスを首にかける。
再び羽姉は向かい、指輪を取り眺める。
「綺麗だね。……うん、決めた。わたし、このネックレスずっとつけてるね」
「ず、ずっと!?」
「そうだよ。ずっとだよ」
「……まあいいんじゃないか。てか、そろそろ帰るか?」
「そうだね」
この会話の後、俺と羽姉は丘から下り帰路に着く事になった。
その間も、今日の祭りの話で盛り上がったのは言うまでもないだろう。
羽さん。ネックレスをずっとつけるという事は副担任の時もですね(笑)
つか、蓮君リア充ですね(^O^)
さてさて、次回は春ちゃんかな?
ちなみに、この小説では、春ちゃんはお祭りで迷子になってない設定ですね。小咲も、皆で祭りを楽しみました。