俺は家に帰り、自室で休んでいた。
まあ、
『蓮。入っていいかい?』
この声は俺の義理の父親、アーデルト・桐崎・ウォグナーだ。
ちなみに、
「ああ、いいけど」
ガチャとドアが開き、親父が顔を覗かせた。
「いきなりすまないね。蓮には、立ち会って欲しくてね」
「何に?」
嫌な予感がするんだが……。
「千棘が恋人になる瞬間をさ。最近、ヤクザと小競り合いが起きててね。全面戦争になりそうなんだよ」
「なるほどな。そのヤクザとの抗争を止めるために、仲裁として、姉貴とヤクザの息子が恋人の振りをするってことか」
「その通りさ。蓮は飲み込みが早い」
いや、この件に関しては褒められても嬉しくないんだけど……。
……姉貴、面倒くさいことに巻き込まれたな。
で、あれだ。俺が姉貴たちが恋人になった瞬間を見届けた第三者になれってことだ。その方が、確実性が出るし。
「今から出発か?」
「そうだね。一緒に来てくれるかい」
そう言って、俺は部屋を出て、玄関前に止められている黒貼りされたベンツに乗り込んだ。
俺は、一般の軽でいいって言ったんだけどなぁ……。
とまあ、そんなこんなで車を発車させ、目的地の集英組へ向かった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
所変わって、集英組のある一室。
カーテンが下ろされ、恋人役のヤクザの息子と目が合った。それは俺がよく知る人物――楽であった。てか、ヤクザの跡取りだったのね……。
姉貴と楽は目が合った瞬間、再び痴話喧嘩を始めてしまったけど。
「……親父。これしか方法はないと思うけどさ。上手くいくのか?」
「千棘と楽君には、上手く役を演じてもらわないとね」
え、何。その一方的な意見は。
その時、『ドガッッッン!!』と爆発音が響き、入口の扉が吹き飛んだ。
「見つけましたよ、お嬢……。どうやら、集英組のクソ共がお嬢を攫ったというのは本当だったそうですね」
眼鏡をかけ、髪をバックに整えたスーツを来た奴が乗り込む。その後ろには、部下がウジャウジャと居るし。
「く、クロード!」
姉貴がそう叫ぶ。
「ご安心ください、お嬢。お嬢を守るのがビーハイブの幹部としての私の役目。不肖このクロードめがお迎えに上がりました」
この騒ぎを聞き付けた、集英組の皆さんも到着する。
「おうおう、ビーハイブの大幹部さん……。こいつぁ、ちょいとお痛が過ぎやしやせんか……?今までは手加減してやって来たけんどのぅ……今度という今度は許さへんぞ」
そう言う、集英組の幹部。
「ふん、猿どもが……」
睨み合う両者。まああれだ。このままだと戦争が起きるわ。
はあ、面倒くさい、――俺は冷ややかな声で言う。
「……おい、クロード。少し黙ろうか」
俺を見て、目を丸くするクロード。
「れ、蓮坊ちゃん。いらっしゃったんですか……」
全身を震え上がせるクロード。
てか、俺はあんま身長がないから、親父の全身で隠れちゃうだよね。
「……まずは、俺の話を聞いてもらおうか。――集英組の皆さんもいいかな?」
集英組の皆さんが、『へ、へい』と言ってから、僅かな沈黙が流れた。
親父が、『さすが蓮だね』と言っていたが、聞かなかったことにしよう。
「いいか。よく聞けよ。桐崎千棘と一条楽は恋人だ」
それぞれの両親が、楽と姉貴の肩を掴んで密着させる。
「そうだよ。僕らが認めた恋人さ」
「こいつら、超ラブラブの恋人同士だしな」
「恋人になった瞬間を見届けた、桐崎蓮だ。まあ、皆さんも聞きたいことがあると思うし、邪魔者は退散するよ。んじゃ、親父。後は頼んだわ」
俺の逃げるような言葉を聞いて、姉貴と楽は恨みがましい視線を俺に向けたが、俺は知らん顔で受け流す。
そういうことなので、俺は逸早くこの場から離れたのだった。
話が終わるまで縁側で月を眺めていたら、俺のスマホが震えた。俺はポケットに手を突っ込み、スマホを取り出し、ディスプレイを見て顔を引き攣らせる。
「……で、出たくねぇー」
そう、ディスプレイに表示された名前は、
俺が昔、孤児院でお世話になった人だ。で、孤児院から俺を連れて出してくれたのが、今の親父である。だからまぁ、俺は両親の顔を知らない。
それは置いといて、今はこの電話の方が問題だ。
俺は通話ボタンをタップし、通話口を右耳に当てた。
「……もしもし。どうしたんですか?羽さん」
『もー、蓮君はつれないんだから。羽姉ちゃんって呼んでくれてもいいのよ。昔みたいに。あと、敬語もなし』
「昔の話ですよ」
何、無言の威圧的な感じは。
「………………わかったよ。羽姉ちゃん」
満足そうな声を上げる羽姉ちゃん。
てか、精神がガリガリ削られてくわ。
「で、何の用だ?」
『特にこれと言った用はないんだけど。……ちょっと寂しくてね』
「ああ、そうか。羽姉ちゃんは一人で中国なんだよな」
羽姉ちゃんは、チャイニーズマフィア、
まあでも、息抜きは必要だ。
「……そうだな。なんか話すか」
『そうね。蓮君の高校の話が聞きたいかも』
「俺の高校のか。そんな面白くないぞ」
『いいの。わたしは、蓮君と話すことが重要なんだから。楽しいし』
「俺と話のが楽しいとか、変わってるな、羽姉ちゃんは」
あれだ。通話口でムッとしてる羽姉ちゃんが容易に想像できる。
俺は苦笑してから、
「俺が悪かったから、ふくれるなって」
『んじゃ、面白い話を期待してる』
「だから、面白くないって言ってるだろうが」
俺は溜息を一つ吐いてから、凡矢理高校のことを話し始めた。
久しぶりに羽姉ちゃんと話す時間は、昔に戻ったような感じになって楽しかった。
羽姉ちゃん出すの早すぎたかも……。
ちなみに、久しぶりの電話です。