ニセコイ~千棘の義弟~   作:舞翼

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れ、連投です。



第26話 ホンバン

 あの日から数日が過ぎ、文化祭当日。

 開演30分を迫っている所で、俺は照明器具の設置を完了させた。あとはまあ、遠隔で操作するらしいので、俺の文化祭での仕事は終了である。

 つーか、俺は文化祭でクラスの役に立ってないような。……まあ気のせいだろう。

 

「ま、皆の様子を見たら、俺は文化祭を回りますか」

 

 という事なので、俺は体育館端の二階から降り、舞台裏へ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 俺が舞台裏に上がると、壁際で顔を俯けてる小咲と、隣に座る楽の姿が映る。

 クラスの奴の話によると、小咲が脚立から倒れそうになった女子生徒と受け止めて、足を挫いたらしい。

 俺はそこまで移動し、

 

「おーす。なんか暗くね。ここの雰囲気」

 

「ああ、蓮か。小野寺が足を挫いて。それで――」

 

 橘は、と思ったが。風邪で無理らしい。

 

「……どうしよう。わたしのせいで、皆で頑張ってきた劇ができなくなっちゃう。衣装も台詞も、皆で考えてくれたのに、わたしのせいで。全部無駄になっちゃう……」

 

「そこまで悲観になる事はないんじゃないか。代役ならいるだろ、この場にぴったりな代役が」

 

 すると楽が、ガバッと立ち上がる。

 俺が言った意味を捉えてくれたらしい。

 

「――千棘か!」

 

「そだな。セリフは……まあ気合いで何とかなる」

 

「ああ、そうだな。蓮、サンキュー。後で何か奢る!」

 

 と言って、楽は外へ走って行った。

 俺は、これを気に仲直りしてくれよ。と言い小咲の隣に座る。

 

「劇できなくて、残念だな」

 

「……それは仕方ない事だよ。でも、一条君と千棘ちゃんなら」

 

「あの二人に任せられるしな。てか、立てるか?」

 

「肩を貸してくれれば何とか。それに、体操服に着替えないと」

 

 まあ確かに、ジュリエットの衣装は姉貴が着るしな。

 俺は小咲に肩を貸し、女子の元まで送り届けた。着替え等は、女子が手伝ってくれるので心配はないだろう。

 俺が回りを見回すと、楽と姉貴がステージの真ん中に立っていた。

 そんな時、体操服に着替えた小咲が、俺の隣に立つ。そして俺は咄嗟に肩を貸す。

 

「蓮君。どうしたの?」

 

「あそこだ」

 

 俺の目先を小咲が追う。

 

「……一条君、間に合ったんだ」

 

「楽はヒーロー主人公だしな。あれくらいは当然なのかもな。てか、小咲はこれからどうすんだ?」

 

「……劇にはもう出れないし、客席で劇を見ようかなって。蓮君も一緒にどう?」

 

「自然に俺を誘うんだな」

 

「だって、蓮君はわたしの気持ちを知ってるでしょ」

 

 あの時の言葉を思い出し、俺は体温が上昇していくのを感じた。返事が返せない俺は、ある意味ヘタレなのかもしれん。

 小咲は、俺の内心を読み取ったように微笑んだ。

 

「蓮君はゆっくり考えていいよ。わたしの気持ちは絶対に変わらないから」

 

「……悪い、ヘタレで。まだちょっと怖くてな」

 

「もう、今はいいって言ってるのに」

 

 頬を膨らませる小咲。

 

「……わかった」

 

「それでよし。じゃあ、客席に行こうか。蓮君、肩貸してね」

 

「ああ、いいぞ」

 

 触れ合った肌から、小咲の温もりを感じたのは俺の秘密だ。

 ……てか、痛い奴じゃないからね。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 観客席に降りた俺と小咲は、ステージの最後尾の椅子に座り劇を眺めている。

 

『これから語られますは、悲しい恋の物語――。血で血を洗う争いを続ける二つの家、モンタギューとキャピュレット。そこに生まれついたロミオとジュリエットは、皮肉にも恋に落ちてしまうのでした……』

 

 冒頭、集の悲しみのナレーションが入り、劇が進んで行く。

 つーか、最早漫才と化してるが、客受けもいいので万事OKという事で。

 

「一条君と千棘ちゃん。かなり息が合ってるね」

 

「偽モノとはいえ、恋人だしな。あの二人は」

 

 劇は進み、ロミオがバルコニーに行こうとするが、そこでは召使やら、本当の恋人()やらの乱入があったが。

 てか、クロードさん。何やってんの、あんた?

 

「あ、あの人って、蓮君のお家の人だよね?」

 

「……そだな。てか、あのアホ。何やってんだよ、まったく」

 

 そう言ってから、溜息を吐く俺。ロミオ()ジュリエット(姉貴)を会わせない為に乱入したと予想できるけどさ。

 ともあれ、ロミオ()が頑張り劇は成功しました。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 劇が終了し、俺は小咲に肩を貸して、校庭のベンチに座らせて保健室へ向かい包帯や湿布等を頂戴した。

 保健室で治療をしたかったが、橘がいるので断念したからである。

 

「上手だね」

 

「まあな。俺は一時期かなり傷を作ってたからな。その時の治療の賜物だ」

 

 包帯を巻いて、サージカルテープを止めて完了と。

 

「……蓮君ごめんね。文化祭回れなくしちゃって」

 

「いや、別にいいよ。気にするな」

 

「それじゃあ、来年の文化祭は一緒に回ろうよ。来年の予約という事で」

 

「き、気が早いな。まあいいけどさ」

 

 小咲は、悪戯っ子の笑みを浮かべた。

 てか、この笑みは羽姉ちゃんと同種のものだ。

 

「デートの約束の言質をとったよ」

 

「デートじゃねぇから。ただ回るだけだからね。買い物するだけだからね」

 

 ……このやり取り、かなりデジャブを感じるんだが。てか、小咲さん。羽姉ちゃんの影響かなり受けてるよね?もしかして、電話のやり取りで聞いたのかな?

 いやまあ、小咲の新たな一面を見れて新鮮だからいいけどさ。

 小咲は何かに気付いたように、

 

「れ、蓮君。わたしたち、ここに何分位居るんだっけ?」

 

「たぶん、20分位じゃないか。………………あ、やべ」

 

 俺は息を飲んだ。

 クラスでは、文化祭成功の打ち上げが始まってるはず。だが、その場に俺と小咲の姿がない。

 てことは、色々な誤解が生まれる可能性もある。

 でもまあ――、

 

「……ゆっくり戻ろう。傷に響いたらいけないし。それに、勘違いされても別にいいしな」

 

「そ、そう。じゃあ、もう少しゆっくりしよう」

 

「まあいいけど。でも、打ち上げが終わるまでには戻るぞ」

 

「りょうかいです」

 

 そう言ってから、俺と小咲は空を見上げた。

 今日の空は、一段と澄んでいた。




小咲さん、遠慮が無くなってきましたね。学校では控えるはずなんですけどね(^_^;)
てか、羽姉ちゃんを早く出したいですね(笑)

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