あの日から数日が過ぎ、文化祭当日。
開演30分を迫っている所で、俺は照明器具の設置を完了させた。あとはまあ、遠隔で操作するらしいので、俺の文化祭での仕事は終了である。
つーか、俺は文化祭でクラスの役に立ってないような。……まあ気のせいだろう。
「ま、皆の様子を見たら、俺は文化祭を回りますか」
という事なので、俺は体育館端の二階から降り、舞台裏へ向かった。
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俺が舞台裏に上がると、壁際で顔を俯けてる小咲と、隣に座る楽の姿が映る。
クラスの奴の話によると、小咲が脚立から倒れそうになった女子生徒と受け止めて、足を挫いたらしい。
俺はそこまで移動し、
「おーす。なんか暗くね。ここの雰囲気」
「ああ、蓮か。小野寺が足を挫いて。それで――」
橘は、と思ったが。風邪で無理らしい。
「……どうしよう。わたしのせいで、皆で頑張ってきた劇ができなくなっちゃう。衣装も台詞も、皆で考えてくれたのに、わたしのせいで。全部無駄になっちゃう……」
「そこまで悲観になる事はないんじゃないか。代役ならいるだろ、この場にぴったりな代役が」
すると楽が、ガバッと立ち上がる。
俺が言った意味を捉えてくれたらしい。
「――千棘か!」
「そだな。セリフは……まあ気合いで何とかなる」
「ああ、そうだな。蓮、サンキュー。後で何か奢る!」
と言って、楽は外へ走って行った。
俺は、これを気に仲直りしてくれよ。と言い小咲の隣に座る。
「劇できなくて、残念だな」
「……それは仕方ない事だよ。でも、一条君と千棘ちゃんなら」
「あの二人に任せられるしな。てか、立てるか?」
「肩を貸してくれれば何とか。それに、体操服に着替えないと」
まあ確かに、ジュリエットの衣装は姉貴が着るしな。
俺は小咲に肩を貸し、女子の元まで送り届けた。着替え等は、女子が手伝ってくれるので心配はないだろう。
俺が回りを見回すと、楽と姉貴がステージの真ん中に立っていた。
そんな時、体操服に着替えた小咲が、俺の隣に立つ。そして俺は咄嗟に肩を貸す。
「蓮君。どうしたの?」
「あそこだ」
俺の目先を小咲が追う。
「……一条君、間に合ったんだ」
「楽はヒーロー主人公だしな。あれくらいは当然なのかもな。てか、小咲はこれからどうすんだ?」
「……劇にはもう出れないし、客席で劇を見ようかなって。蓮君も一緒にどう?」
「自然に俺を誘うんだな」
「だって、蓮君はわたしの気持ちを知ってるでしょ」
あの時の言葉を思い出し、俺は体温が上昇していくのを感じた。返事が返せない俺は、ある意味ヘタレなのかもしれん。
小咲は、俺の内心を読み取ったように微笑んだ。
「蓮君はゆっくり考えていいよ。わたしの気持ちは絶対に変わらないから」
「……悪い、ヘタレで。まだちょっと怖くてな」
「もう、今はいいって言ってるのに」
頬を膨らませる小咲。
「……わかった」
「それでよし。じゃあ、客席に行こうか。蓮君、肩貸してね」
「ああ、いいぞ」
触れ合った肌から、小咲の温もりを感じたのは俺の秘密だ。
……てか、痛い奴じゃないからね。
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観客席に降りた俺と小咲は、ステージの最後尾の椅子に座り劇を眺めている。
『これから語られますは、悲しい恋の物語――。血で血を洗う争いを続ける二つの家、モンタギューとキャピュレット。そこに生まれついたロミオとジュリエットは、皮肉にも恋に落ちてしまうのでした……』
冒頭、集の悲しみのナレーションが入り、劇が進んで行く。
つーか、最早漫才と化してるが、客受けもいいので万事OKという事で。
「一条君と千棘ちゃん。かなり息が合ってるね」
「偽モノとはいえ、恋人だしな。あの二人は」
劇は進み、ロミオがバルコニーに行こうとするが、そこでは召使やら、
てか、クロードさん。何やってんの、あんた?
「あ、あの人って、蓮君のお家の人だよね?」
「……そだな。てか、あのアホ。何やってんだよ、まったく」
そう言ってから、溜息を吐く俺。
ともあれ、
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劇が終了し、俺は小咲に肩を貸して、校庭のベンチに座らせて保健室へ向かい包帯や湿布等を頂戴した。
保健室で治療をしたかったが、橘がいるので断念したからである。
「上手だね」
「まあな。俺は一時期かなり傷を作ってたからな。その時の治療の賜物だ」
包帯を巻いて、サージカルテープを止めて完了と。
「……蓮君ごめんね。文化祭回れなくしちゃって」
「いや、別にいいよ。気にするな」
「それじゃあ、来年の文化祭は一緒に回ろうよ。来年の予約という事で」
「き、気が早いな。まあいいけどさ」
小咲は、悪戯っ子の笑みを浮かべた。
てか、この笑みは羽姉ちゃんと同種のものだ。
「デートの約束の言質をとったよ」
「デートじゃねぇから。ただ回るだけだからね。買い物するだけだからね」
……このやり取り、かなりデジャブを感じるんだが。てか、小咲さん。羽姉ちゃんの影響かなり受けてるよね?もしかして、電話のやり取りで聞いたのかな?
いやまあ、小咲の新たな一面を見れて新鮮だからいいけどさ。
小咲は何かに気付いたように、
「れ、蓮君。わたしたち、ここに何分位居るんだっけ?」
「たぶん、20分位じゃないか。………………あ、やべ」
俺は息を飲んだ。
クラスでは、文化祭成功の打ち上げが始まってるはず。だが、その場に俺と小咲の姿がない。
てことは、色々な誤解が生まれる可能性もある。
でもまあ――、
「……ゆっくり戻ろう。傷に響いたらいけないし。それに、勘違いされても別にいいしな」
「そ、そう。じゃあ、もう少しゆっくりしよう」
「まあいいけど。でも、打ち上げが終わるまでには戻るぞ」
「りょうかいです」
そう言ってから、俺と小咲は空を見上げた。
今日の空は、一段と澄んでいた。
小咲さん、遠慮が無くなってきましたね。学校では控えるはずなんですけどね(^_^;)
てか、羽姉ちゃんを早く出したいですね(笑)
ではでは、感想よろしく!!