新学期、夏休みも終わり残暑の夏が再び始まる。
そして俺はいつも通り1人で登校し、教室に入ってから席に座り、鞄をかけてから机に突っ伏していた。
「(……暑い、焼ける、焦げる、灰になる……)」
つーか、海の一件以来姉貴の様子がおかしい。楽と目を合わせないし、対応がドライだしね。……あの声を聞いた瞬間にこうなる事は予想してたけどさ……。
そんな時、俺の隣席の人物が席に着いた。
「……だらけ過ぎだよ。蓮君」
俺は組んだ腕の隙間から顔を出した。
「……おう、小咲か。おはよう、そしておやすみ」
俺は再び寝ようと――、
「ちょ、寝ちゃダメだよ。そろそろホームルーム始まちゃうから」
「……えー、めんどい。適当に聞いてばいいだろ」
頬を膨らませるな。まあいいけど。
んで、はぁ。と息を吐きながら上体を上げる俺。
「ん、よくできました。蓮ちゃん」
「おい、それは止めんか。恥かしいだろうが」
小咲の頭に軽くチョップをする。
……涙目になんないで。凄ぇ罪悪感にかられちゃうよ俺。
「うぅ……。蓮君がいじめた」
「いや、虐めてないからね。…………えーと、ごめんな小咲」
謝っちゃったよ、俺。
つーか、満足気な顔をするな、小咲さんや。
「じゃあ、お詫びとして近い内に皆の所に行こうね♪」
皆とは、昨日の園児たちの事だろう。
てか、最近の小咲は小悪魔化するんだけど。何で?
「あ、そうだ。今度は羽さんも一緒にどうかな?」
「予定が合えば構わないけど」
「やたっ!」
おい、はしゃぐな。
てか、最近の小咲は、コロコロと表情が変わるよなぁ。出会った時と比べたら考えられないわ。真面目女子!って感じだったし。
ま、心の心境でもあったんだろう。例えば、羽姉ちゃんの影響とか。
それからホームルームが始まり、キョーコ先生が名簿を開き出席をとり終わると、文化祭関連の事を一通り言うと、集がキョーコ先生と入れ替わるように壇上に上がる。
集は文化祭実行委員なので、文化祭の出し物についてだろう。
「我がクラスの出し物は、厳正な投票によって文化祭当日に行われる演劇に決まった!気になる演目は……ロミオとジュリエット。……そして、オレに提案があるんだ。――主役であるロミオとジュリエットについてなのだが……我がクラスのラブラブカップル!一条楽と桐崎千棘嬢にお願いしようと思うのだが、いかがだろうかー!」
「やりたくない」
姉貴はやりたくないらしい。……まあ薄々気づいてたけどさ。
これを気に仲直り。と思ったんだけどなぁ。んで、公平の為にくじ引きで決めたんだが、楽と小咲だった。
で、俺は照明係だ。仕事が楽なので最高だわー。
「よかったな、楽と一緒で。頑張れよジュリエット役」
「……ん、頑張る」
あれ、何で喜ばないの?てか、落ち込んでる?何で?
小咲って、楽の事好きなんだよな?俺の頭は疑問符だらけである。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
俺は演劇の時間になった所で教室を出て、キョーコ先生から指定された部屋にやって来ていた。
何でも、使える照明が一つないから探してくれだそうだ。つーか、結構埃が舞うんですが、どんだけ使われてなかったんだよ、この部屋。
そんな時、入口のドアが開かれた。
「蓮君、いる?」
ん、キョーコ先生じゃなくて、小咲?
「いるけど。どうしたんだ?」
「うん、休憩時間に入ったから、蓮君の様子を見に来たって所かな」
「……小咲は、俺のオカンかよ……。まあいいや。ちょっと待っててくれ、今そっち行くよ」
そう言って、俺はドアの前までやって来た。んで、近場の椅子に座る俺と小咲。
「んで、劇の方はどうだ?」
「ぼちぼちって所かな。主役って、覚える事が多いね」
台本を膝の上に置く小咲。
そこには付箋がある。おそらく、ジュリエットのセリフの所だろう。
「かもな。まあ、小咲なら大丈夫だ。勉強の覚えも早かったしな。流石、我が生徒」
「もう、我が生徒は言いすぎだよ」
小咲は笑みを浮かべる。
「やっと笑ったな」
「え?わたし笑ってなかったの?」
「笑ってたぞ。……でもな、小咲が心の底から笑ってる気がしなくてな。いや、別物の笑みって言えばいいのか。そんな感じだ」
小咲は目を丸くした。
「よ、よくわかったね」
「小咲とは、まだ数ヵ月のつき合いだけどさ、細かい変化が分かるってとこか。考えまでは分からんけどな。てか、嫌なのか、主役が?」
「ち、違うよ」
ぶんぶんと左右に頭を振る小咲。
「(い、言えないよ。一緒に演じたかったって。それに、わたしの事がそこまで分かるのは、蓮君だけだよ)」
「まああれだ。練習相手にはなってやるよ」
「ほ、ホント!?」
「お、おう。てか、テンションが急に上がったな」
「……あ、あはは、そうかな。気のせいじゃないかな」
「そうか?まあいいや、あの場所でどうだ?」
あの場所とは、小咲に教えてもらった秘密の場所である。
練習するには、絶好の場所だ。……セリフは、まあ台本を見ながらでいいだろう。
「うん、お願いします。今日は一緒に帰ろうね」
「そだな。んじゃ、そろそろ作業に戻るか。休憩もそろそろ終わりだろ?」
椅子から立ち上がった俺と小咲。
「それじゃあ、放課後は校門前で待ってるね」
「了解だ」
そう言ってから、俺は作業に、小咲は教室に戻った。
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放課後になり、俺と小咲はあの場所へやって来ていた。
やはりこの場所から見る街の景色は、絶景の一言だ。
「やっぱ綺麗だな。夕陽が輝いてる感じだな」
小咲は苦笑する。
「輝いてるは違くないかな。だけど、その表現も分かる気がするかも」
「だろ」
「それより、練習しないと」
「ああ、そうだっけ。あまりの絶景で、練習を忘れそうになったわ」
「も、もう。バカなんだから」
あれ、何で俺怒られたの?まあ、小咲が楽しそうなら別にいいけどさ。
それから、俺と小咲は沢山練習をした。文化祭当日までには間に合うはずだ。
小咲もヒロイン力高ぇー。
文化祭は、小咲のターンですね。