やはり、海の最後を締めくくるのは花火である。
俺は線香花火を持ちながら、小咲と真剣勝負をしていた。そう、線香花火耐久勝負である。
その証拠に、パチパチと燃え上がる玉を見つめていた。
で、結果は――、
「俺の勝ちだな」
そう、俺の勝ちだ。……なんつーか、小学生の勝負みたいだけど。まあ気にしない。
小咲さん。シュンとしないでくれ……。何か、かなりの罪悪感を感じちゃうからさ……。つーか、これって、かなり神経を集中するよね。
「俺も小咲も、かなり集中してたな」
「あはは、そうだね。『落ちるな、落ちるな』って思いながら、花火を見てたかも」
「たしかに。つか、小咲。姉貴と昼に何か話してたけど、何だったんだ?」
林間学校を過ぎてから、姉貴と楽はなんか変なんだよなぁ。
「えっとね。千棘ちゃんのお友達が、『胸がドキドキしたり苦しくなったり、前みたいに話せなくなったのは何なのかな?』っていう相談だったんだ」
……いや、それってモロ姉貴の事だよね?あれか。姉貴が楽に本気になったって言うことか?
「それって恋じゃね」
小咲はバケツに線香花火を捨ててから、右手人差し指を唇に当てた。
「蓮君も、やっぱりそう思うよね。鶫さんの事だったのかな?」
……姉貴。恥ずかしくて、自分の事って言い出せなかったんだな。んで、『友達が』って事にしたんスね。うん、知ってた。
「まあそれは何とかなるんじゃないか。時が解決してくれるさ」
そんな時、俺がポケットに入れていたスマホ震える。
……まあうん。着信者は解るんだけど、この場では拙いような、拙くないようなって感じなんだけど。
「蓮君。電話が鳴ってるけど、出なくていいの?」
「出ていいか?たぶん、駄姉からだ」
そんな事を言ってから、俺はスマホを取り出し通話ボタンをタップしてから、通話口を右耳に当てる。
「もしもし、駄姉か」
『んもー、開口一番に駄姉はヒドイよ~』
通話口で唇尖らせてる、羽姉ちゃんが容易に想像できるわ。
「悪い悪い、羽姉ちゃん。つか、あの問題集終わりそうだわ」
『さすが蓮ちゃんっ!わたしの無茶ぶりをこなすなんてっ』
「……やっぱり、無茶ぶりだったんだな。予想はしてたけどさ」
『でもでも、大学一年生の学問はほぼ完璧でしょ?』
その通りなんだけどね。てか、高校の勉強が復習的な感じになってしまってる。
『蓮ちゃん。女の子と今一緒にいるでしょ?』
「……何で解ったんだよ?怖ぇな、女の勘」
いや、何。無言で『変わって』的な感じは。
ともあれ、通話口を離す俺。
「小咲。羽姉ちゃんが話したいだって。どうする?」
目を丸くする小咲。無理もないけどさ。
「えと。いいのかな?」
「姉ちゃんが変わってって言うんだから、いいと思うぞ」
「じゃ、じゃあ、失礼します」
そう言って、俺が手渡したスマホを受け取り、右耳に通話口を当てる小咲。
ここからは女子の会話なので、話が終わるまで野郎は退散しますか。と言うことなので、俺は小咲に『終わったら呼んでくれ』と言ってからこの場を離れた。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「あ、あの。お電話変わりました。小野寺小咲です」
『わたしは奏倉羽。よろしくね、小咲ちゃん』
わたしの最初の印象は、かなり明るくて元気な人だ。
『とりあえず、何か話そっか』
「は、はい」
そう言うことなので、わたしと羽さんは、学校の事や最近の事などを話した。それを約十分話した所か、蓮君の話題になった。……こうなる事は解ってたけど、何か緊張する。
『蓮ちゃんの優しい所は変わらないんだね』
羽さんは、慈愛に満ちた声でそう言う。今の話題は、昨日のナンパから助けてくれた蓮君の話だ。
「はい、蓮君はとっても優しいですよ。皆に分け隔てなく接して、どんな事でも真剣に相談に乗ってくれて。こんな風にあげたら、切りがないですよ」
そう言って、わたしは苦笑した。
『そっか』
羽さんのこの言葉には、色んな意味が込められてるとわたしは思った。
『ところで小咲ちゃんは、――蓮ちゃんの事が好きだったり?』
わたしは噴き出しそうになってしまった。
「い、いや。あの……好きです」
わたしの顔は真っ赤になってはずだ。
よし、わたしの反撃だ。
「う、羽さんはどうなんでしょうか?」
『ん、わたし?わたしは大好きだよ。蓮ちゃんのことが、世界で一番大好き』
羽さんはキッパリそう言った。その言葉には、一つの迷いもない。
ホントに好きって事が、通話越しでもしっかりと受け取る事ができた。
『でもね。蓮ちゃんは恋愛に蓋をしてるの。きっと自分の出身とかが、突っかかってるのだと思う。――小咲ちゃんも聞いてると思うけど』
「はい。孤児院出身って事ですよね」
『うん。“誰の子供かも解らないのに、そんな奴が恋愛なんて”っ感じだと思うんだ。今の蓮ちゃんは』
やっぱり、長年一緒にいる羽さんもこう思ってたんだ。きっと羽さんは、わたしの知らない蓮君の事を沢山知ってる。
『だから、蓮ちゃんを振り向かせるのはかなり難しいよ。お互い頑張ろうね、小咲ちゃん。近直、わたしも日本に行くし、その時はお茶しよっか』
「いいですね。その時沢山話しましょう」
それからもわたしと羽さんは、話に花を咲かせました。
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あれから約一時間後、女子トークが終わったららしい。……てか、女子の話はかなり長いわ。いや、知ってたけどさ。
俺は元の場所に座り、
「かなり長話だったな。どうだ?楽しかったか?」
「羽さん。とっても優しい人だね」
「そうか。仲良くなって何よりだ。……あとあれだ。もしかしたら、駄姉が無茶ぶりをするかも知れんが、その時は受け止めてやってくれ……」
「う、うん。それはさっきの会話の中で感が見えたかも」
おい、羽姉ちゃんよ。もう、無茶ぶりをしたんかい。ちょっと早すぎない?
そんな時、
『そんなもん、上手くいくわけがねーだろ。バカ』
『うっさいわね!分かったからもう黙っててよ!』
途切れ途切れだが、このような会話が聞こえてきた。つか何、姉貴と楽の声やん。あの中に割って入るのは、今後色んな意味で拙い気がする。
そう思った俺は溜息を吐く。
「……これから、一騒動ある感じだな。小咲」
「そ、そうだね。頑張ろう」
「……そだな」
再び溜息を吐く俺。
夏休みが終わるまでの、一週間程度の夏の夜の事だった。
ヒロインが、邂逅?しました。
てか、今後ヒロインが増えるか未定ですが……。