夏休みも終盤。授業が再開するまで残り僅かだ。
そう。楽と集との話し合いにより、海に行く事に決まったのだ。
「わたし、日本の海って初めて!ノースカロライナ以来かな」
「わたしは、モルディブ以来でしょうか」
「(……普通の会話じゃねぇぞ。姉貴、橘)」
俺はラフな恰好で、問題集を眺めていた。これは、俺が小咲の為に製作した問題集である。
その問題集に目を走らせながら、俺は答え合わせをする。
ちなみに、問題の範囲は、高校一年の後半の範囲と言えばいいのか。そんな感じだ。
「(あー、ここは惜しいわ。……αを代入しないとなぁ。正解率は、五分五分って言った所か)」
「……ど、どうだったかな?」
噂をすればと言うやつだ。小咲が俺の隣に来た。
俺は振り向き、
「……うーん。五分五分って所だな」
「それって、正解半分って事だよね?」
「そんな所だな。でもまあ、高校一年の後半の範囲なんだ。妥当な結果って所かもしれんな」
「そうかもだけど。蓮君は、一回勉強できただけで解けるようになったんでしょ?」
まあうん。俺の頭はスポンジ的な感じだしね。
け、決して。バカって意味じゃないからねっ!……俺がやるとキモイな。うん……。
「ま、小咲ができるようになるまで付き合うよ」
「そ、そう」
……顔を伏せて頬を若干朱色に染めるのは止めようか。俺の心臓に悪いからね。
「あー楽しみ楽しみ!……わたしいっちばーん!」
そう言って、姉貴は海へ走って行く。
そんな姉貴を見て、小咲は苦笑した。
「千棘ちゃん。元気一杯だね」
「あれが姉貴の良い所でもあるしな」
マイナス思考が続けば、負の連鎖があるかも知れないしね。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
『おい、なんだあの美女集団……』
『レベル高え~~~』
『芸能人?見たことないけど……』
『どこの雑誌の子だろ…………』
ビーチでパラソルを立てていると、周りの視線が集まった。いやまあ、こうなる事はわかっていたけどさ。女子のレベルは、段違いに高いし。
『それに、あのイケメン……どこかの俳優かな……』
『……カッコイイわ』
『ほら、話しかけて来なさいよ!』
……いや、女子の皆さん。何で俺を見てそんな事言ってんの?
俺は平凡な一般男子だから……。
「……なあ、小咲。女子の視線が凄いんだが……。俺、何かやったか?」
溜息を吐く小咲。……いや、何でやねん。
「……蓮君は、誰もがカッコイイって言う容姿なんだよ。こうなるのは当然だよ」
「そんな自覚はないんだがな。俺はそこらにごろついてる男子だぞ」
「蓮君。無自覚は罪だよ」
「……いや、何のだよ」
小咲は呆れ顔である。……つーか、小咲さん。完全に素ですよ。いつもの可愛らしい顔はどうしたの?
ともあれ、俺はパラソルの影に隠れながら、横になりましたとさ。泳ぐつもりでは来てないしね、俺は。
「まあでも、喉は渇くよなぁ……。ラムネでいいか」
そう言う事なので、俺は立ち上がり海の家に向かった。
海の家まで歩いていると、チャラそうな男子に、我が生徒(多分だけど)が絡まれていた。
「あー、すんません。この子、俺のツレなんス。他を当たってくれませんか」
そう言って、小咲の右肩に手を置く。
小咲は、ビクッとしたけど。……何か、申し訳ない。
「てめぇ。オレらが見つけた女だぞ!」
「どうなるか解ってるんだろうな!」
呻くチンピラ共。
「えー、1つ言って置きますけど、手を出したら正当防衛しますからね。やられても文句は言えませんよ」
手をポキポキ鳴らしながら、近寄って来るチンピラ共。
……うん、こうなるのは薄々感じてた。で、殴ってくるチンピラ共。まあ、これで正当防衛ができたんだけどね。
んで、そのチンピラ右手を左手で受け止め、力を込めていく。
「痛ててててて!おい!離しやがれ!」
あれだ。俺の握力によって、チンピラの骨が音を立ててるね。いやまあ、たぶんだが。
右ストレートを鳩尾に一発。その場に蹲るチンピラ。
「えーと。次はそちらのお兄さんですか?相手になりますけど、正当防衛ですから」
手をポキポキ鳴らしながら、チンピラ共を見る俺。
「こ、こいつ。ガキの癖に強ぇぞ……」
「ず、ずらかるぞ」
「……ちょ、テメェら!オレを置いてくな!」
チンピラ共はこの場から去りました。
あれだな。典型的な噛ませ犬って所か。てか、さようならー的な感じです。
「はあ、面倒な輩だったわ。小咲は大丈夫か?」
「う、うん。ありがとうございます。助かりました」
……いや、何で敬語。まあいいけどさ。
「小咲は大事な友達だしな。助けるのは当たり前だ。……てか、友達で合ってるよな。他人とかだったら、俺、泣いちゃうかも……」
「……も、もちろん。友達だよ」
「サンキュ。俺のHPがかなり削られる所だったわ」
そんなこんながあり、ラムネを買ってから歩幅を合わせ皆の所へ帰りましたとさ。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
~小咲side~
「るりちゃん。ただいま」
わたしは蓮君と一緒に、パラソルまで帰って来た。
それから、るりちゃんと2人になった。
「……小咲。あんた一条君はどうしたの?アタックしなくていいのかしら?――もしかしてあんた」
……さすが、るりちゃん。もうバレたかも……。
「う、うん。るりちゃんの思ってる通り。……わたし、軽い女かな」
「いえ。恋は時間じゃなく、本人の想いよ」
やっぱり、るりちゃんは、あの時とほぼ同じを言ってくれた。ありがとう。
「小咲の気持ちも分かる気もするわ。蓮君は誰にでも優しいし、誰にでも手を差し伸べるし、どんな悩みも真剣に聞いてくれるしね。きっと彼は、一条君にはない物を持ってるかもね」
るりちゃんは、『でも』と続ける。
「蓮君は、恋愛をしないって決めてるわね。たぶん、孤児院出身って事が引っかかってると思うわ」
るりちゃんの言う通りだと思う。わたしも、縁日の時にそれが引っかかってたから。
――蓮君は、自分に好意が向けられるなんて、あり得ないって思ってると思う。
「それに、蓮君のガードはかなり固いと思うし、強力なライバルも隠れてそうね。わたしの直感がそう言ってるわ。頑張りなさい、小咲」
「うん」
わたしは、小さく頷いた。
~小咲side out~
夕食も食べ終わり、俺は防波堤に腰をかけ、歌いながら海を見ていた。
ちなみに、夕食はバーベキューであり、片付けは姉貴と楽たちだ。俺はジャンケンで勝ったので免除だ。
「隣。いいかな?」
「いいぞ」
隣に腰をかけたのは小咲だ。
「さっきの歌。綺麗だね」
「げっ……。聞いてたのか」
ちなみに、俺が独自に考えた歌だ。
「ま、まあ。ガキどもに聞かせた事がある、子守唄みたいなもんだ」
「ガキども?」
「凡矢理幼稚園のガキどもだな」
俺が街をぶらぶらしていたら、迷子になってる子供を見つけたのだ。
何でも、昼休み遊んでいて、好奇心で外に出たら帰れなくなったと言う事だった。それから、その子を送ってあげてから、遊んだ。という事である。つか、帰ろうとしても帰してくれなかったんだよね。
「んで、寝る時間に子守唄を歌ってくれっていう無茶ぶりから創った歌だ。まあでも、たまに俺も口ずさんじゃうんだよなぁ。てか、夏休みの最終日に会いに行く予定だしな」
「そうなんだ。蓮君は、子供も好かれるんだね」
「好きで好れてる訳じゃねぇけどな」
小咲は、何かを決心したように言う。
「わたしも、一緒に行ってもいいかな?」
「いいけど。多分、小咲と遊べる時間はないかもしれん。ガキどもに連行されるかもしれないからな」
「うん。りょうかい」
「おう」
とまあ、こうして一日目が終了した。
もしかしたら、これから原作ブレイクがあるかも(^_^;)
子守唄は、即興で知ってる言葉を繋げた感じです。音楽は、昔聞いてたのを聞いてた曲をアレンジした感じ。