林間学校が終了し、ある日の出来事――。
「おーい、楽ー!」
楽は、小咲に話しかけようとしたが、姉貴に呼び止められていた。
てか、名前呼びになったのね。姉貴と楽、かなり距離が縮まってないか。……ここからまさかの、本物の恋人に……。いや、無いか。
「この日誌ってどこに持っていくんだっけ?」
「ああ?さっき先生が、
「あー、そっかそっか」
姉貴は、準備室の方へ向かって歩き出した。
いや、そっちは音楽室だから……。
「おい、千棘!理科室の方の準備室だぞ。また、音楽室の方と間違えるなよ」
「りょうかい~」
そう言って、姉貴は背を向けながら左腕を上げながら手を振って歩いて行った。
「楽。姉貴のこと名前で呼ぶようになったのな」
「実は最近、下の名前で呼び合う事になってよ。結構長く付き合ってるのに、下の名前で呼んでないのは変だって友達に言われたんだと。まだ慣れねぇけどな」
「なるほどねぇ。ま、良いことじゃないか」
「蓮は、小野寺は名前呼びなのに、宮本は名字なのな」
確かに、宮本は名字だわ。
あれか。名前で呼んだ方がいいのか?つか、男子の皆さんは、女子を名前で呼ぶのに何でそんなに抵抗があるのだろうか?
「でもまあ、本人の承諾が得られれば、すぐに名前呼びにするけど」
「蓮って凄ぇよ。気軽に女子を名前で呼べるなんて」
いや、どこがだよ……。と、俺は心の中で突っ込んだ。
てか、……俺の基準がおかしいとか……。それは勘弁だ。
「おい、一条楽。お嬢を見ていないか?」
教室のドアを開けて出て来たのは鶫だった。
「ハニーなら、さっき理科準備室に行ったぞ」
「そうか。それは都合がいいな。皆さんもお揃いのようですし」
「いや、鶫。集が居ないけど」
まあ、大体は鶫の言いたい事の予想はつくけど。
「皆さんお揃いのようですし。そうですよね、若」
何故か知らんが、集はメンバーに入っていないらしい。何で?
「皆さんに、お願いがありまして。実は今日、お嬢の誕生日なんです。なので、お嬢に楽しんで頂きたいので、サプライズパーティーを計画しているのですが。ぜひ、皆さんも参加してもらいたいんです。その方が、お嬢も大変お喜びになられると思うので」
で、俺が鶫の言葉を引き継ぐ。
「俺からも頼む。姉貴は、友達に誕生日を祝って貰った事があんまなくてな。いつも身内だけなんだよ」
「わたしは行くよ」
「わたしも行こうかしら」
「オレもいいぞ」
小咲、宮本、楽はサプライズパーティーに参加してくれるらしい。
今年は違う誕生会になりそうだよ、姉貴。
「忘れがちだけど、蓮って千棘の義弟だったんだっけか」
楽にそう言われ、俺はずっこけそうになる。まあ、学校ではいつも別行動をしてるし、登下校も別々だからなぁ。無理もないけど。
「てか、忘れるなよ、楽。俺の名字は桐崎だぞ」
「悪ぃ悪ぃ」
誕生日と言えばプレゼントか。つか、姉貴の好きな物なんだっけ……。ヤバイ、忘れた……。ま、適当に……は、怒られるか?
ここは、恋人(偽)の楽に任せるか。後、誰か女子だな。
「んじゃ、楽。姉貴のプレゼント選び頼ん――」
「そういえば一条君。今日日直だったわよね」
宮本さん。言葉を遮っちゃいかんでしょ……。
「あ。そういえばそうだな」
「そういうことなので、蓮君と小咲。千棘ちゃんのプレゼントを選んできなさい」
「いやいや、そこは宮本だろ。女のプレゼントなんだからさ」
「わたし、千棘ちゃんの好みとか解らないし。その点は、義弟の蓮君の方が詳しいでしょ。で、そこに女子の小咲のサポートね」
……言えない。姉貴の好きな物忘れたから無理。とは、流石に言えない。これは言ったら色々とマズイ気がする……。
俺は肩を落としながら、
「お、おう。了解した。てか、小咲の了承がないけど」
「大丈夫よ。小咲なら、二つ返事でOKだから。ね?小咲?」
……いや、宮本さんよ。ちょっと強引すぎない……。まあ、俺が言っても意味がないんだろうけど。
「う、うん。OKで」
OKしちゃうのかいッ!と、心の中で俺は突っ込む。てか、後あれだ。場所と時間も指定されました。はい。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
で、やって来ました。待ち合わせの喫茶店。
俺は私服に着替えてから、窓際でコーヒーを口にしていた。
「(今日の学校は疲れたわぁ。うん、マジで……)」
そんな事を考えながら、テーブルで腕を組んで崩れ落ちる俺。なんつーか、俺マイペース過ぎ?
そんな事を思っていたら、店のドアが開かれる。どうやら、到着したらしい。で、俺の向かいの席に小咲が座った。
「れ、蓮君。だらけ過ぎだよ」
上体を起こす俺。
「
ま、無理だけどな。うん、解ってます……。ちゃんと働きますよ。
小咲は、クスクスと口元に左手を当てて笑った。
「蓮君。やっぱり面白いこと言うね」
「えーと。それ、褒めてる?」
あれか。林間学校の肝試しで言った仕返し的な。
「もちろん、褒めてるよ」
「いや、褒めてるように聞こえねぇから。うん、マジで」
そんなこんなで、小咲もコーヒーを注文しました。
で、俺たちはコーヒを一口飲んでから、
「蓮君は、千棘ちゃんの好きな物わかるんだよね」
内心、ギクッとする俺。
「……忘れました。ごめんなさい。てか、姉貴、ごめんなさい」
「はあ……」
溜息を吐かないで、俺、泣いちゃうよ。マジで泣いちゃうよ……。
「しょうがないか。二人で選ぼう」
「お、おう。そうしてくれると、非常に助かります……」
とまあ、そう言うことなので、デパートに向かいました。
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「はあ、何でデパートは迷宮区かね……。何が良いか解らん。つか、人多過ぎ。マジで帰りたい」
「お義姉さんのプレゼント選びなんだから、シャキッとする」
何で先生口調?まあいいけどさ。
「うす。小咲先生」
「よろしい。桐崎蓮くん」
え?何この小芝居は、まあ乗った俺が言うのもアレだけどさ。
で、プレゼントを選びました。ええ、無難に新しいリボンです。ちなみに、色は赤で。
それからデパートを出て、家に直行。
「良かったね~。良い物が見つかって、千棘ちゃん喜んでくれるかな」
「友達からのプレゼントだし、姉貴は大喜びだろ。……たぶん」
「ほらぁ。また語尾にたぶんって言った」
「い、いや、口癖でな。……えー、何と言うか。すまん?」
「何で疑問形?」
「その前に、これ何の漫才?」
こう話しながら、俺の家に行きましたとさ。
これは、小咲もヒロイン決定ですかね(笑)