魔法少女育成計画routeS&S~もしものそうちゃんルート~    作:どるふべるぐ

9 / 29
今回はおまけのみの三本立てだぽん。
本当は前回に載せるつもりだったけど文字数がとんでもない事になりそうだったのでまとめて一話で投稿する事にしたぽん。

警告!

一・二話は変態成分増し増しの常人ならまずドン引き確定エピソードぽん。心の綺麗な人とキャラ崩壊が許せない人は絶対に見ないでほしいぽん。

三話は嘘予告『魔法アイドル育成計画』の続編だぽん。仕込んだネタを見破った優秀な馬の骨に捧げるエピソードなので完全に馬の骨向けぽん。
馬の骨? なにそれ? という穢れ無き一般人は回れ右するぽん。



番外編・おまけ三連発

おまけ1『そうちゃん女の子チェック』

 

 

王結寺の中は、魔法少女達の困惑に包まれていた。

辛くも森の音楽家クラムベリーからラ・ピュセルを奪取する事に成功したスイムチームだったが、いま彼女たちの表情にあるのは達成感よりも困惑の色だった。

その原因は、スイムチームに囲まれるように床に横たわり、意識を失ったままのラ・ピュセル――であるはずの少年である。

 

「えーと……この子が、ラ・ピュセルなの?」

「うん。状況的に間違いない」

 

大きな瞳にありありと困惑を浮かべるユナエルに、ただ一人いつもと変わらぬ無表情のままのスイムスイムはこくりと頷く。だが、他のメンバー達はやはり今だに信じられないとばかりに颯太の顔をまじまじと見た。

 

「いや、でもどう見たって男じゃん?」

「男っぽい女かもしれない」

「んな馬鹿な」

「だったら確かめてみればいい」

「確かめる?」

 

首を傾げるユナエルにスイムスイムは再度頷き、そして颯太の傍らに跪くとその胸元に手を這わせた。

 

「ん……っ」

 

細くたおやかな指先が布越しに触れた時、眠る颯太が僅かに声を漏らす。

 

「おっぱいが無い。やっぱり男だ」

 

さわさわすりすりと撫でまわす。

 

「ぅあ……んっ……あぁっ……っ」

 

柔らかな指が躍るその度に、颯太の身体は僅かに震え唇から火照った吐息が漏れた。

 

「いやなにいきなりセクハラしてんのさ」

「? 女の子ならおっぱいがあるはずだから」

「いやいやだからっていきなり胸を触るとかないわー。だいたい乳の薄い女かもしれないじゃん。というかその理屈はもしかしてあたし達に喧嘩売ってるの?」

 

自分のぺったんとスイムのボインを恨めし気に見比べるユナエル。

一方、スイムはぽんと手を叩き。

 

「たしかに。ユナエルは頭がいい」

「いや別にこれくらいで褒められても」

「じゃあ、どうすれば男の子だって確かめられるのかな?」

 

その呟きに答えたのは、静かな、だが異様な迫力のある声だった。

 

「――脱がせば、いいよ」

 

瞳をギラギラと輝かせる、その声の主は

 

「お姉ちゃん?」

 

今まで見たことのないような姉の表情に困惑するユナエル。

だがミナエルはそんな妹に構わず、真っ赤に血走った瞳で妙に荒い息づかいのまま提案する。

 

「直接脱がして確かめようよぉ。素っ裸にすれば一発で分かるからさぁ……」

 

ハァ……ハァ……。

何故かその時、ユナエルには姉が処女の血に飢えた吸血鬼に見えた。

 

「そう裸に……ハァ…ハァ…ショタの全裸(じゅるり)❤」

 

その瞬間、刹那よりも早く姉を羽交い絞めにした。

 

「放せえええええ!? あたしはショタが好きなんだ! この子がショタだからちくしょう!」

「スイム今すぐ丸太でぶん殴って! このままじゃお姉ちゃんがマジ犯罪者になるから!」

「ナイスアイディア。ミナエルも頭がいい(がしっ)」

「んぁあっ……(ビクッ❤)!?」

「ズボンに手をかけるなああああああああ!?」

 

結局、ズボンを完全に下す直前に颯太が目覚めかけたことで性別検査は中止となり、颯太の貞操は間一髪で守られたのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

おまけ2『岸辺颯太が女の子になった日』

 

 

 

「理想の『女の子』に僕はなる!」

 

その日、岸辺颯太は女の子になる事を決意した。

 

 

 

 

 

肉体的でも精神的な物でもなく、立ち振る舞い的な意味で。

全ての始まりは、彼が魔法少女ラ・ピュセルになってからしばらく経った頃、レクチャー役である先輩魔法少女シスターナナに言われたある一言だった。

 

「ラ・ピュセルってまるで男の方みたいですね」

 

それまで露出度の高い修道服のナイスバディなお姉さんというけしからん見た目の彼女に笑顔で手を握られ、内心ドキドキしていたラ・ピュセルの真っ赤な顔はその瞬間一気に蒼白になった。

 

「あっ、いえ、別に悪い意味ではないですよ。ただ、立ち振る舞いがきびきびとして男の方みたいだったので……」

 

完全に盲点だった。背筋が凍り、冷や汗がダラダラと流れる。突如硬直した自分を気遣うシスターナナの声もひどく遠くから聞こえるように思えて「私はそれも凛々しくて素敵だと思いますよ」というセリフも碌に頭に入らない。それから彼女と別れて半ば呆然と家に帰った後、ラ・ピュセルから岸辺颯太に戻った彼は己の考えの甘さを恥じた。猛省した。

 

いくら見た目が女でも、立ち振る舞いが男のままだったら違和感をもたれるのは当たり前じゃないかっ。僕の正体が男であると絶対にバレる訳にはいかないのに……ッ。

もしバレたら、まず間違いなく変態扱いされる。そして最悪、魔法少女界隈からも村八分にされて念願の魔法少女ライフは生き地獄に……ッ。そんなの絶対に嫌だ!

 

だったら、身に着けるしかない。

清く正しい女の子の立ち振る舞いを!

 

こうして、男のプライドをかなぐり捨てた颯太の『理想の女の子』になるための特訓が始まった。

 

まず本やインターネットで女形や女装家の事を調べ、彼らがいかにして男の身で女の艶やかさを表現しているのかを学ぶ。そして家の外ではセクハラと思われないよう冷や冷やしながらも周囲の女性たちの仕草を密かに観察するなど、とにかく思いつく限りあらゆる手段を試し『女の子』になるべく努力した。

恥ずかしさで顔から火が出そうになりながらも「これはもっと女の子になるため女の子になるためだから僕は変態じゃない変態じゃないんだ」と己に言い聞かせつつネット通販で購入した女性用下着を穿いた時などは、可愛らしい下着姿の自分を鏡で見、男として大事な何かを失った事を感じ静かに涙を流した。ちなみに下着はすぐに処分した。一瞬躊躇った事なんて無かった。無かったのだ。

 

かくして色々な物を犠牲にしつつ、それでも一心不乱に特訓を続けたある日のこと……。

颯太のクラスメイトが教室で雑談していると、ふと一人がこんな事を言い出した。

 

「なあ、岸辺ってたまにすげえ色っぽくね?」

「え……っ。いや何言ってのお前。もしやホモか?」

「いやホモじゃねえよ!? ……ただ岸辺ってさ。時たまだけどふとした仕草に色っぽさが出るというか……。おもわずドキッとするというか……」

「いやもうそれアウトだろ。男の色気でドキッとする時点でもう駄目だわ。ホモ確定だわ」

「だから違うって!? それに岸辺のこう……男の色気というか女の色っぽさでよ」

「やべえ。ヤベェよお前……ッ。男に女の色気を感じるとかガチじゃねえか……ッ。あ、それ以上俺に近づいたら尻の貞操を守るためにぶん殴るからな」

「俺はホモじゃねーーーーー!!」

 

 

必死の努力の結果、颯太は徐々に女の子の立ち振る舞いを身につけていった。

 

「よしっ、だんだん女の子らしくなってきたぞぉ。……でもまだだ。人間よりずっと鋭い魔法少女の目を誤魔化すには、もっと鍛えなきゃな!」

 

……だが、彼は気付かなかった。あまりに真剣に取り組みすぎた結果、普段の生活でもふとした時に身に付けた女の子の仕草が出てしまっている事を。

 

そして数日後

 

「やべえ、俺もホモかもしれない」

「え、いきなりどうしたよお前?」

「俺岸辺と同じサッカー部じゃん。そんで昨日も部活で一緒に練習してたんだけどよ」

「ほうほう」

「練習中さ、ちょっと足がもつれて顔面から地面に転んだんだよ」

「うっわダセえ」

「うっせ。まあそこまでならただのドジで終わってたんだがよ。俺さ、倒れるとき咄嗟に何かにつかまろうとして腕を伸ばしたんだよ」

「まあ普通はそうするよな」

「でさ、掴んじまったんだよ。――たまたま前にいた岸辺の運動着の半ズボンを」

「え?」

「いやわざとじゃねえよ! マジで偶然が重なった不幸な結果、俺はそのまま岸辺の半ズボンを下ろしちまったんだ。しかも下着ごと」

「いや何してんだよお前!?」

「だから不幸な事故だって!! そして本当の問題はその後だ……。倒れたまま俺がヤベッて思いながら顔を上げたら、ぽかんとしてる岸辺と目が合ったんだよ。俺も岸辺もしばらく呆然としてたんだけど、そのうちようやく我に返った岸辺がやけに可愛い悲鳴を上げて素っ裸になった股間を隠した。童顔を真っ赤にして涙目でよ。俺はすぐに立ち上がって謝らなきゃと思ったさ。でも、できなかった……勃っちまってたんだよ。岸辺は男なのに、女じゃないと分かっていたのに俺……勃ってたんだ」

「…………」

「だから勃って起てない俺の代わりに誰か来て岸辺を慰めてやってくれと願ったけど、誰も助けに入らなかった。……みんな前屈みになってたんだよ。あげく岸辺が急いでズボン履き直した後も岸辺の痴態が頭から離れなくて、結局その後は岸辺以外全員部活が終わるまで前かがみでサッカーしたんだ」

「…………」

「はは、ざまあねえなぁ……お前をホモだって罵っておきながら、自分がホモに目覚めるなんてよ。嗤え。嗤ってくれよ……」

「嗤うかよ……嗤えるわけねえだろ……ッ」

「え……?」

「だって俺達は岸辺を――いや、同じそうちゃんを愛する同志じゃねえか!」

「お、おまえ……ッ」

「「「そうだ! お前は一人じゃないぞ!」」」

「クラスの全男子まで!?」

「「「俺達もお前と同じ、悩み、苦しんでそして真実の愛に目覚めたんだ! 一緒に貫こうぜ! この熱く燃えるそうちゃん愛を!」」」

「うお前らあああああああああ(号泣)!」

 

男たちは、熱く固く抱き合った。

愛が彼らを一つにした。もうなにも怖くない。もう悩み苦しむことはないのだ。

彼らの厚い胸板の中は、そうちゃん愛で満たされていたから。

 

 

それからしばらく経って。

 

「我が名はラ・ピュセル。清く正しい魔法少女にして、高潔なる魔法騎士だ! ――……決まった……ッ。これが、これこそが凛々しさと女の子らしさを兼ね備えた、完璧な魔法『少女』だ!」

 

颯太は、完全に女の子の立ち振る舞いをマスターした。

シスターナナに紹介された新たな魔法少女、ヴェス・ウィンタープリズンとの初顔合わせでも違和感をもたれることなく最後まで怪しまれずにやり過ごせた。

これでもう心配ない。色んなものを失って、恥ずかしさで何度も死にそうになってきたけど、僕はやり遂げたんだ!

 

颯太は達成感に舞い上がった。清々しい気分だった。

もはや何も悩みは無い。後は全力で、理想の魔法少女の道を極めるだけだ。

かくして颯太は、後にスノーホワイトと再会して死のゲームが開始されるまでの間、凛々しく美しい女騎士として平和な時間を過ごしたのだった。……時折、何故かクラス中の男子からの視線をお尻に感じる事があったけど。 

 

 

◇◇◇

 

 

おまけ3『魔法アイドル育成計画最終回』

 

 

名深市一のアイドルを決めるためのライブイベント『ムジカマギカ』。

その決勝のステージに立ったのは、戦闘狂アイドル《森の音楽家クラムベリー》と、つくば帰りの復讐鬼アイドル《スノーホワイト》。

魔法アイドルの頂点をかけた二人の対決は、圧倒的な技術と歌唱力を持つクラムベリーに軍配が上がった。

 

「きゃあっ!? ……くっ……つ、強すぎる……ッ」

 

傷付きボロボロとなった衣装でステージ上に倒れるスノーホワイト。その姿を、いっそ絶望的といえるほどのアイドルオーラを放つクラムベリーが無慈悲な瞳で見下ろす。

 

「なかなか楽しませていただきましたが……それもここまでですね」

 

手強かった獲物への敬意と殺戮の喜悦を滲ませる、血に飢えた赤き瞳。

圧すらも伴う眼差しに貫かれながら、満身創痍となったスノーホワイトは死を覚悟した。

 

「ごめんね……そうちゃん」

 

その心にまず浮かぶのは、絶望よりも深い、盟友への想い。

たとえ命に代えても仇をとると誓ったのに、それを成せず死に逝く事への申し訳なさ。

そして

 

「不甲斐無い弟子でごめんなさい……師匠」

 

かつての未熟な自分を鍛え、導いてくれた恩師。

あの人のおかげで、自分は成長し力を手に入れることが出来た。ソロでも活動できるほどのアイドルになれた。

なのに、その全てが無駄になってしまう。

何も成せず、誓いすら果たせずに、私は――

 

「――では、お別れです。せいぜいあの世でラ・ピュセルと負け犬どうし仲良く過ごしてくださいね」

 

徐々に暗くなっていく視界に、クラムベリーの嘲笑うような手向けの言葉が響く。

ああ、もう駄目だ……。せめて最期に、もう一度……聴きたかったな。

今まさに死に逝かんとする絶望の中、魔法少女は想った。願った。――夢を、見た。

 

もう一度、師匠の……うた……を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「窮地の少女よ。私を呼びたまえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そして、夢は叶う。

 

スノーホワイトは、確かに聴いた。

それは、かつて最愛の盟友を殺され復讐の力を手に入れるためにつくば山に籠った彼女が、その山頂で聴いた声。

それは、復讐心のあまり己を顧みず無茶な特訓をして倒れ、寝込んでしまった彼女に高品位粗食を振る舞ってくれた声。

それは、迷える彼女を導きアイドルとしての高みに昇らせた、だがフォロワーを起こそうとしていた時いきなり何者かに背後から鈍器で殴られた日を最後に彼女の前から姿を消し、二度と会えないと思っていた者の――声!

 

再び目を見開いたスノーホワイトは、見た。

ライブという名の戦場と化したステージに悠然と立つ、一人の男の姿を。

 

 

 

「東京の師匠です」

 

 

 

「師匠!?」

「違います」

「その萌えるツンデレぷり……間違い無く師匠!」

 

ああ、師匠だ。本当に師匠だ。

深遠なる叡智を有する大学教授か、真理を探求する哲学者を思わせる無表情。ここではないどこか、遥かなるナーシサス次元の彼方を見つめているかのようなその瞳。

最後に見たあの頃のまま何も変わらない、私の師匠だ!

 

ただ静かに佇むだけでも、師匠は凄まじい存在感を放っている。常人ならば触れただけで圧倒され人ならざる馬の骨となってしまうだろうそれを前にして、だがクラムベリーは微笑んだ。

美しくも猛々しい、凶獣の如き笑みで。

 

「なかなかの強者の気配を感じますね。誰かは知りませんが……邪魔をするというのなら容赦はしませんよ」

 

一方、彼女の邪悪なる相棒――管理者用端末から自身の立体映像を投影する電子妖精ファブはおかしくて堪らないとばかりに嘲笑った。

 

「あーっはっはっは! 馬鹿な奴ぽん。魔法アイドルでもないただの人間如きがファブ達に勝てるとでも――」

「管理者用端末の拡張スロットにルーラを刺し込む(グサッ☆)」

「ぽおおおおおおおおおんッッッ!?」

 

ファブ。爆発四散。

薙刀タイプの魔法武器――ルーラを手に、磁場を縫って走り八百万の谷越えて端末を破壊した師匠は、今だ倒れたままのスノーホワイトへと目をやる。

その瞳は、不甲斐ない弟子を嘲るでもなく、叱責するでもなく、ただ静かなる大宇宙の如き眼差しで――導いた。

 

「苦難の弟子よ。私に続きたまえ」

「――っ! はいっ!」

 

そして、スノーホワイトは立ち上がる。

満身創痍のまま、ぼろぼろの衣装で。だが確かに身の内より溢れる力と、希望を感じながら。

 

「いくよクラムベリー。師匠と一緒なら、絶対に負けない!」

 

誰よりも尊敬し憧れる人の隣に並び、倒すべき者へと燃える瞳を向けて――師匠と弟子は、その曲の名を叫んだ!

 

 

 

「「『夢見る魔法少女』!」」

 

 

 

それは、師匠の代表曲をスノーホワイトがアレンジした曲。師弟が紡いだ絆の顕現。

すぐさま自分も代表曲を歌い迎え撃たんとしたクラムベリーは、すぐさま己が耳を疑った。

 

「なっ、何ですかこの曲は……!?」

 

それは、荘厳にして混沌なる音の奔流。

エレキギターに似ているがそれとは異なる奇妙な楽器を持つ二人の弾ける指先が紡ぐ旋律は、未来的でありながら同時に原始の荒々しさをもって空間を蹂躙する電子音。

いかなる型にはまらず、否、それを破壊し新たな型を創造するかの如きそれは、クラムベリーの知るいかなる音楽とも異なり、その全てを超越した音楽。

 

「これが、テクノだ!」

 

ぶつかり合う二曲が、師弟とクラムベリーの間でせめぎ合う。

大気が震え紫電を散らし、時には暴風となってステージ上を荒れ狂う。

乱舞するオーロラ。鳴り響くLOVESONG。人知を超えたそのライブはもはや誰にも止められない。

 

魔法アイドルのライブバトルとは、アイドルどうしが同時に曲を歌い、最後まで歌い切った方が勝者となる戦いだ。

アイドル達は己がアイドルオーラと歌唱力で相手を圧倒し、魔力を乗せることで物理的破壊力を得た歌声で叩きのめす事で歌えなくする。

クラムベリーは類まれなるオーラと歌唱力を持ち、くわえて自身の『音を操る』魔法によって相手の曲に巧みに不協和音を混ぜてリズムを崩しパフォーマンスがボロボロとなった所を一気に叩き潰すやり方で、あらゆるアイドル達を蹂躙してきた。

だが今、圧倒されそのリズムを崩されつつあるのは

 

「馬鹿なっ!? この私がリズムを乱されるなんて!」

 

何故だ!?

この二人はどれほど曲中に不協和音をぶつけても一切乱れず、むしろ不協和音であるはずのそれすらも取り込んで新たなリズムの一つとして昇華する。

何故だ。何故そんな芸当が出来る!? 緻密な計算? 音楽的センス? いや違う。これは、この男の音楽はそんなマトモなものではない!!

 

理解を超える存在に、困惑し混乱するクラムベリー。

そんな彼女に対して、師弟は答える。

ニューロン、倫理テノール、そしてジャス〇ックという恐るべき大敵達との戦いの果てに到達した――己が《音楽》の真髄を!

 

「リズムもへったくれもありゃしない、乗れるもんなら乗ってみてください。私たちは今日はケダモノです。何も考えておりません」

「本当に大切なのは、技術でもセンスでもない。この胸の中で熱く燃えて、溢れるこの《想い》なの。アイドルが夢を見て、ファンを魅せ続けながら叫ぶことなの! クラムベリー、これが本当の――アイドルの歌よ!」

 

音が躍る。声が弾ける。乱舞する旋律が、スノーホワイトの夢が紡いだ曲が、その師匠に導かれライブ会場を満たし――爆発した。

炸裂する閃光。押し寄せる衝撃波。天井を突き破り空に見事なキノコの雲。

物理的破壊力を伴う魔法アイドルの歌は凄まじく、幾万もの音を消し――クラムベリーの歌をも掻き消した。

 

「本当の…ッ…アイドルの歌? そんな物にこの私が、この私の音楽がッ――うあああああああああ!?」

 

やがて、旋律が止む。歌が吐息となる。ライブが、終わる。

曲が終了した時、二人の前には膝をつくクラムベリーの姿が在った。

傷つき、気力どころか体力すらも尽きかけた身で、だがその瞳だけは今だ爛々と戦意を燃やしている。

 

「くっ……まだ、まだです……ッ。私はまだ死んでいない……まだ戦えますッ!」

 

震える唇で言葉を紡ぐたびに血を吐いて、それでも死のない男の如く立ち上がろうとするその姿に、師匠は

 

「やかましい!」

「なっ!? 貴方は私には戦う価値すらないと言うのですか!」

「アンコールはやらないとゆっただろう! かえれー!!! 解散だ!」

 

無表情で叱責する師匠を、クラムベリーはしばし呆然と眺めていたが、やがて屈辱に耐えるようにその唇を咬みながらゆらりと立ち上がった。

 

「帰れー! ばかもの!」

「……わかりました。ここは退きましょう。――ですが必ず、あなたを殺せる曲を作り戻ってきます。その時、ここで私を逃した事を後悔しなさい!」

「お帰りはあちらです」

 

師匠の言葉を背に、修羅の瞳で雪辱を誓いクラムベリーは去っていった。

かくして激しいアイドル同士の戦いは終わり、ステージ上にはその勝者――魔法アイドル《スノーホワイト》と、その師匠だけが残された。

 

「ありがとうございます師匠。あなたのおかげで勝つことが……そうちゃんの仇をとることが出来ました」

 

ようやく悲願を果たせた。

感謝と、そして再び出会えたことの喜びを金色の瞳に涙をためて伝えるスノーホワイト。

そんな弟子の姿を師匠は変わらぬ無表情で一瞥した後、すっと踵を返し背を向けた。

 

「じゃな」

 

短く別れを告げ、去っていくその背中をスノーホワイトの叫びが引き留めようとする。

 

「待ってください! 私には、もっと師匠から学ばなければならない事が――」

 

 

 

「師匠というのは分かりにくくて不親切で憎たらしいんだ。あんたが期待している男じゃない。さあ、回れ右!」

 

 

 

振り返らず、その歩みを止める事無く、師匠は去っていく。

最後まで、己が背中だけを見せて。

 

「……分かりました」

 

去りゆくその背中を――ただ、己が道を征く男の背を見詰めながら、弟子は己が腕で目元を強く擦り、流れ落ちようとしていた物を拭った。

これ以上、師匠に不甲斐ない姿をさらさないために。

 

「……いつまでも師匠に頼ってばかりでは、一人前になれませんよね」

 

腕を離し、再び開いたその瞳に、もう涙は無かった。

どんなに辛くて、苦しくて、泣き出しそうになっても、夢のために戦い続ける――それはアイドルの瞳だ。

 

師匠の背が遠くなっていく。

もう、二度と会えないかもしれない。

けど――

 

湧き上がり溢れ出そうとする全ての激情を抑え、スノーホワイトは――笑った。

絶望の闇をもその輝きで消し去る太陽光(ソーラ・レイ)のような、アイドルの笑顔で。

去りゆく師匠に、誓った。

 

 

 

「私、最高のアイドルになります!」

 

 

 

ここに今、一人の少女が真にアイドルとなった。

修羅道の如きアイドル業界に足を踏み入れた彼女の前に待つのは、荒波絶えぬ嵐の海かもしれない。

だが、それでも彼女は決してその歩みを止めず、歩き続ける。

流行に流されず、権威に媚びること無く、己が征くと決めた道を。

かつて己を導いた――あの背中と同じように。

 

 

 

――それでもアイドルは、夢を見る。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。