魔法少女育成計画routeS&S~もしものそうちゃんルート~ 作:どるふべるぐ
作中でクラムベリーが言ってる説明は作者が独自解釈の名の下に適当に考えた設定なので、色々とおかしい事があっても生温かい目でスルーしてほしいぽん。
◇ラ・ピュセル
夜の空気を唸らせ、拳を突き出す。
狙うは眼前に立つ魔法少女――森の音楽家クラムベリーの余裕の笑みを顔面ごと殴り飛ばそうとした一撃は、だが軽やかに避けられてしまう。
思わず舌打ちする僕の視界に映る、振り上げられたハイヒールの爪先。カウンターで放たれた首を狩るような回し蹴りを、僕は咄嗟に目の高さに手を上げて防ぐ。
鋭く尖ったハイヒールと強固な籠手が衝突する音と衝撃が、夜の採石場に響いた。
荒涼とした石と砂の大地が広がる、名深市郊外の採石場。重機によって山の斜面が切り崩され、まるで山々の間に造られた
◇◇◇
『場所を変える?』
『ええ。ここではレッスンをするのに少々手狭ですから』
クラムベリーから『戦い』の手ほどきを受ける事を了承した僕に、まず彼女はそう提案してきた。
『僕は別にここのままでも構わないが』
『そうですか。まあどうしてもと言うのならこのまま王結寺の裏庭で特訓をやっても構いませんが……おそらくは境内が滅茶苦茶になりますよ?』
それは……不味い。
今後の戦いを生き抜く上で、人目につかずに集まれる拠点は必要不可欠。そしてなにより、スイムスイムからしてみればルーラから受け継いだ大事な城だろう。もしそれが瓦礫の山になったとなれば……想像したくも無い。
『ゴゴゴゴゴ……』という効果音を背にルーラを振り上げるスイムスイムの姿が頭をよぎり、身震いしながら僕はやっぱり場所を変えようと言ったのだった。
『ここならば人目も無く、大立ち回りをしても誰にも気付かれることは無いでしょう』
そして案内されたのが、この採石場だった。
十分な広さを持ち、障害となる物は見当たらず、なにより人気が無く人家から遠く離れたここは魔法少女が暴れてもバレる心配は無い。なるほど、まさに理想的な空間だ。
『良い場所でしょう?』
『ああ、そうだな。確かにここなら思う存分動ける』
『ええ。それになにより──人知を超えた力を持つ者が特訓をするのなら採石場というのが伝統ですから』
『そうなのか?』
『そうなのです』
聞いたことも無い話だが、妙に自信たっぷりと断言するクラムベリーの態度にそういうものかと納得する。うん、覚えておこう。
『――で、具体的には何をするんだ?』
恐るべき戦闘狂――森の音楽家クラムベリー。今はこちらに害意は無いとはいえ、ただ共にいるだけで、肌がざわつき背筋が冷たくなる。
その緊張を押し殺しつつ問うと、クラムベリーはそんな内心などとうに読んでいるのかクスリと微笑み、答えた。
『基礎体力や身体能力などは長い時間と回数を重ねて鍛え上げるもの。一朝一夕でどうにかなる物ではありません。ですので、今あなたに教えるのはあくまでも『戦い方』。魔法少女としてどう戦うべきかです』
『どう、戦うべきか……?』
『ええ。貴方のこれまでの戦いを鑑賞してきましたが、貴方の戦い方にはまだ『人間』の部分が残っているようです。それを今宵限りで棄ててもらいます』
さながら無知な生徒に授業方針を教える教師の様に、スラスラと淀みない口調で言った後
『百聞は一見にしかずと言いますが、ここで百の言葉で教えるよりも――まずは体で知りましょう』
「ファイト!」という明るいエールと共に、鉄をも砕く拳を送ってきたのだった。
◇◇◇
風を切り、砂塵を巻き上げ、僕とクラムベリーは拳を交える。
砲撃にも等しい威力を持つ魔法少女の拳を繰り出し、蹴りを放ち、幾重もの衝撃音を響かせながら。
連なる打撃の音に乗せて、クラムベリーの解説が流れる。
「魔法少女の特訓というものは実戦形式の組み手が最も効率的です。魔法少女は一人一人異なる魔法を使うので、それを指導できるのは同じ系統の魔法を使う者のみ。ですので、系統の全く異なる私ができるのは、こうして拳を交え、貴方が戦いの中で己が魔法を更に知り、可能性に気付き、自ら新たな境地に至る、その手助けをする事だけです」
「つまり、力が欲しければ自分で学んで掴めってことか」
「不満ですか?」
問うクラムベリーに、僕は唇の端をニヤリとさせて、
「いいや。ああしろこうしろと知識と技術だけを一方的に詰め込まれるより、よっぽど──僕好みだ!!」
少なくとも後輩の意思を無視して頭ごなしに指示してくるサッカー部の一部の理不尽な先輩よりもよほど好感が持てると、返答を乗せて拳を打ち込んだ。
「それはなによりです」
クラムベリーもまた微笑みで応じて、打撃の応酬が続く。
「ふっ……ハッ……やああっ!」
握る拳を、唸る蹴りを、目の前の音楽家に向けて何度も繰り出す。
その速度、鋭さは、先日までとは明らかに上。自分でもわかる。死線を潜り、マジカロイド44という強敵を倒してきた今の僕は、かつてとは明らかに成長していると。
「くっ……ッ」
だが――当たらない。
ひらりひらりと踊る様に、新緑色の衣装を白く飾るフリルをふわりと揺らして躱し続けるクラムベリーを、拳で捉えることが出来ない……ッ。
「ふふっ。焦っていますね?」
拳を振るい続け、すでに額に汗をにじませている僕に対して、クラムベリーの顔はあくまで涼し気。
僕が全力で攻撃を続けているというのに、こいつはまるで大人が小さな子供と遊んでいるかの如く、汗の一つもかかず、呼吸すらも全く乱さずに流麗な身のこなしを保ち続ける。積極的に攻める事も無くほぼ受けに徹していてなお崩れぬ余裕の表情が、僕とこいつの実力差をそのまま表しているかのようだ。
「何故私に攻撃を当てられないのか。なぜこうも容易く防がれるのか、と。ちなみに――ヴェス・ウィンタープリズンの拳は私を捉えてていましたよ」
「ウィンタープリズンと戦った事があるのか?」
不意に出た意外な名に、思わず聞き返す。
「ええ。丁度この場所で、貴女と同じように月の下で拳を交わしました」
かつての激闘を思い返しているのだろう。そう語る音楽家の瞳には、血生臭い愉悦が滲んでいた。
「マフラーを翻して戦う強者と採石場で戦うというのは一度はやってみたかったのですが、……ええ、久しぶりに心が昂る悦い一時でしたよ」
ああ、そうだろうな……。
《ヴェス・ウィンタープリズン》
僕の魔法少女としての師であるシスターナナの
常に冷静沈着で、どんな危機的状況でも正確な判断を下し、愛する女性のためならばいかなる敵にも立ち向かい守り抜く――まさに僕が理想とする騎士像を体現するかのような人だ。
そして、真に凄まじいのはその戦闘力。彼女の拳は速さ鋭さ精確さの全てを備え、魔法少女としては僕の妹弟子にあたるのに、互いに徒手空拳での組手では一度たりとも勝った事が無い。
剣道三倍段――剣に拳で勝つには三倍の強さが必要なんて言葉があるけど、逆だ。たとえ剣で挑んだとしても、僕は素手のウィンタープリズンに勝てる気がしないのだ。
「ヴェス・ウィンタープリズンの拳と貴方の拳。その差こそが、今宵貴方が超えるべきものです」
ぱしっ――と、打ち込んだ左拳を躱され、中空で伸びきった腕をクラムベリーの右手に掴まれた。
マメの一つも無い白くたおやかな手は、だが咄嗟に振り解こうとした僕の腕を万力のような力で握って離さない。
ならば残る右手で殴ろうとすれば、まるでそれを読んでいたかのように筋肉に力を込める前の絶妙なタイミングで、クラムベリーの左掌に包まれる形で拳を掴まれ、両手を封じられてしまう。
「確かに、貴方の拳は以前より速く、鋭さを増しました。甘さや手加減も捨てています。ですが――やはりまだ『人間』が残っている」
「『人間』だと……?」
腕を捕らえて離さぬまま、クラムベリーが、すっと顔を近づけ言う。
その言葉の意味を掴めず呟く僕の顔を、底知れぬ赤の瞳で愉し気に眺めながら
「貴方は自分でも気づかない無意識化で、まだ己の身体は『人間』であると思っていますね。人間ならばこうする。人間はこうできない――その固定された
ゆっくりと、囁くように、耳朶を侵し脳に直接沁み込む様な声で、
「魔法少女に人間の戦いかたなど必要ありません。あれらは人間の身体機能に合わせて考えられたもの。対人のみしか想定されていない『人間用』の格闘技術など、人を超えた魔法少女にはあまりに非効率的」
両手を囚われ耳をふさぐこともできない僕に、語りかける。
「スイムスイムに関節技がかけられますか? あるいは触れれば即死するような魔法への対処方は? 何もありません。だって『人間』はそんなことは出来ませんから。ですが……魔法少女ならば出来る」
その言葉にハッと思い出すのは、あの夜の、クラムベリーに殺されかけた僕が王結寺で目覚め、そしてスイムスイムに敗北した記憶。
あの時、僕はスイムスイムを脅してでも奪われたマジカルフォンを取り戻すべくその首に刃を突き付け──そして、彼女の魔法で無効化された。
そして思わず驚愕している隙をつかれ、容易く捩じ伏せられたのだ。
「…………ツ」
ああ、今なら分かるさ。
あの時の最大の敗因は、スイムスイムの魔法を攻略できなかったことでも、僕が満身創痍であったことでもなく──『驚いてしまった』ことなのだと。
魔法少女の魔法は千差万別。何が起こってもおかしくはない。
そう頭では理解していたはずなのに。やはり僕は、どこかで魔法少女に人間の
「人間の戦いかたなど忘れてしまいなさい。貴方は魔法少女。その角も爪も尻尾も、ただ己を飾るためにあるのでは無いのでしょう?」
「──ツ!!!!」
この愚かさを嘲笑うように、あるいは甘く誘うように囁かれた言葉が、僕の身体を突き動かした。
ぐっと上体を反らし、そして亜麻色の髪を激しく揺らして、そこから突き出た二つの角を正面目掛けて振るう。頭突きではない。この鋭く尖った先端で――クラムベリーの顔面を切り裂くのだッ。
「ようやくそれを使いましたか……。ですが、いささか単純ですよ」
今まさに己の美貌を傷つけんと迫る竜角を目にして、だがクラムベリーの艶めく唇が浮かべるは絶望ならぬ余裕の微笑。
まるでこの程度の危機など飽きるほどに経験してきたとばかりに、クラムベリーは僕の両腕を拘束していた手を瞬時に離し、竜角が己に届く寸前に地を蹴った。そうして軽やかなバックステップで後方へと逃れることで反撃を避け――た瞬間、その右脚に竜の尻尾が巻き付いた。
「おや……!」
「逃がすか!」
もとよりこいつが正面からの攻撃を容易く受けるなんて思っていない。だからこれが僕が角を囮に繰り出した起死回生の一手。いかなる地球生物とも異なる金色の甲殻に覆われた竜の尾で、純白のタイツに覆われた美脚の
「うっ、おおおおおおおおおお!」
全力で地面へと振り下ろすッ。
「ふふっ……」
その身が地へと叩きつけられるまさに刹那、クラムベリーは悲鳴ではなく笑みを漏らし――『音』が爆発した。
それはこれまでの人生で聴いたどの音よりも凄まじい大音量。超至近距離からの轟音が鼓膜に直撃し、のみならず骨を伝って脳髄をも揺さぶり視界を明滅させた。
「ぐうぁ……ッ!? なんだ……これッ!?」
崩壊する平衡感覚。三半規管すら狂わされた事で襲いかかる目眩と虚脱感に全身から力が抜け落ちて――その好機をクラムベリーは逃さなかった。
自らを掴む力が緩んだ瞬間に身を捻り、僕の手を振り払って鮮やかに地面に着地、と同時に鋭い蹴りを放ったのだ。
「がッ――ハぁッ!?」
今だ轟音のダメージから立ち直れない僕はそれをまともに受け、蹴り飛ばされる。
そしていつかのように宙を舞い地面に激突。地への衝突と蹴りの衝撃による激痛が全身を襲った。
涙が出そうなほどに痛い。そして爆音に曝されたせいだろう。肉体のダメージはもとより、酷い耳鳴りがする。苦悶の声を漏らしつつも立ち上がり、目を向けると、眼前には悠然と佇むクラムベリーの姿が在った。
「……そう。それですよ颯太さん。私の知る他の尻尾持ちの魔法少女に比べればいかんせん粗削りな戦法ですが、それでよくぞ私に魔法を使わせました。人ならざる魔法少女としての戦い方、その第一歩としてまずは及第点を差し上げましょう」
今の『音』は、こいつの魔法か……ッ。
ただ音を鳴らす。それだけの魔法でも、この大音量ならばもはやれっきとした音響兵器だ。
背中に氷を入れられたかのようにゾッとする。
ならば鼓膜が破れるかと思うほどのこれを浴びて、意識を飛ばされなかっただけでもむしろ幸運か。
だが僕を真に戦慄させたのはその威力だけではない。真に恐るべきは、眼前で優雅に微笑みながら語る森の音楽家の美しさに、一片の陰りも無いことだ。
攻防が終わり改めて見れば、月明かりに光る金の髪も、闇に浮かぶ白い肌も、暗い森に棲む妖精を思わせる美貌にも、ほんの小さな傷や微かな汚れすら無く、この特訓を始めた時と変わらぬ姿を保っている。
それが示す事実に背筋が震え、悟ってしまう。僕がこれまでに繰り出してきた拳は残らず防がれ、渾身の反撃もこの魔法少女の『音』の衝撃で容易く振り払われ、かすり傷すらも与えられなかったのだと。
「ですので、ここからは魔法少女の真髄――すなわち『魔法』を用いた戦闘訓練に移りましょう」
圧倒的過ぎる。それはスイムスイムの天性の才能による強さとはまた異なる、いくつもの実戦を潜り、血と屍を糧に鍛え上げた修羅の『強さ』。
勝てるビジョンなど全く浮かばない。今の僕がいくらこの手を伸ばそうとも決して届く気がしない遥かな高みに、こいつはいるのだ。
だが、それでも
「……ああ、わかった」
震えそうになる両足に力を込めて地を踏みしめ、鞘から剣を抜き構える。
ずしりとくる重量を両腕で支え。切っ先は真っ直ぐ、クラムベリーへと向けて。
実力差などはとうに承知している。心構えすらも未熟な事も痛感した。
それでも、今この時が『好機(チャンス)』なのだ。そのために、僕はクラムベリーの誘いにに応じたのだ。ここで、この特訓(たたかい)で僕はもっと強くなって、そして同時に――
「いい顔ですね。それでこそです。それでいいのです」
覚悟を込めた切っ先を前に、クラムベリーは微笑む。
「いくら力を持とうとも、格下としか戦おうとしない者など所詮は『弱者』に過ぎない。たとえ己より強く、強大な相手だろうとも血反吐を吐きながら挑み打ち倒す者にこそ、『強者』と成る資格があるのですから」
その心意気は認めよう。そう、遥かな高みから見下ろす眼差しで言い――すっ……と、その右手を優雅に差し出して
「さあ、来てください。――ああ、遠慮はいりませんよ。挑戦者の全力を受け止めるのもまた強者の務め。もちろん最初に言った通り殺す気などありませんから怖がることはありませんよ」
まるで小さな子供に言い聞かせるように語ってくる。
そのからかう様な言葉に、余裕の態度に、僕の頭に血が上り、胸の中心にカッと火が着いた。視界が真っ赤に染まり、思考が沸騰して――いや、堪えろ……ッ。これは挑発だ。僕を怒らせ、戦う気を出させるための分かりやすい手だ。
感情のままに向かっていってもこいつには勝てない事など、あの港での戦いで思い知ったはずだ……ッ。
ぎりりと唸る歯を食いしばり、今にも怒号と共に斬りかかろうとする衝動を堪える。
それでもなお身の内から爆ぜようとする激情は、
「そしてだからこそ、私の誘いに応じてくれたのでしょう?」
そんな僕の姿を、赤い瞳で愛でるように見つめていたクラムベリーが口にした言葉で、一気に凍りついた。
「殺気は頑張って抑えていたようですが、瞳に宿る殺意までは隠せていませんでしたので、とうに分かっていましたよ。――貴方が『ここ』で私を殺そうとしている事は」
「……とっくに、見抜かれていたと言う訳か……」
「ええ」
「そう……か……」
見抜かれていた。最初から、僕がクラムベリーの申し出を受けたその瞬間、いや、もしかしたらその前から、胸に秘めていた真意は知られていたらしい。
僕は小さく溜息を吐き――戦意の裏に隠し、押し殺していた殺意を解き放つ。
豪!
爆ぜる殺気で大気を震わせて、僕は剣を握り龍の双眸に紛うこと無き殺意を燃やして睨みつけた。
「――ならばもう、隠すことは無いな」
クラムベリーの申し出を受けたのは、力を得るためだけではなかった。
誰にも邪魔されない場所でクラムベリーと一対一、しかも殺す気はないと明言している。まさしく千載一遇。考えるまでも無く、こいつを斃すのにこれ以上の好機は無いからだ。
故に――ここで殺す。
相手の情けを利用して討つ。騎士どころか人としても最低の戦法だが、僕が夢を棄てて選んだのは、これだ。愛する人を守るためならばどこまでも堕ちていく地獄の道なんだ。
「以前に戦った時の貴方には無かったその
そう語るクラムベリーの瞳は、だが殺意に燃える僕のそれとは対照的に静かに凪いでいた。こうして艶やかな唇を緩ませ愉悦の言葉を紡ごうとも、そこだけは再会してから今に至るまで変わらぬ静寂を保ちつづけ、波紋一つ立たぬ血だまりのような赤で、僕を見つめる。
「ではそろそろ次のステップに進みましょう。もちろんそのまま殺すつもりでやってもらって構いません。たとえそれで死ぬのならば、私は所詮その程度だったというだけです。それに――」
「『人知を超えた者同士が戦うのなら、命のやり取りになるのは当たり前』か?」
「ええ。分かっていただけたようで嬉しいですよ」
己がかつて言った台詞に愉し気に微笑んで首肯した――瞬間、クラムベリーの総身から『音』が鳴り響いた。
高く、低く、高音と低音が重なり鳴り響く多重奏が採石場に木霊し、同時にブワッと押し寄せる圧倒的なプレッシャー。真に力ある者だけが放てる極限の闘気に、背筋が震え肌がぞわりと総毛立った。
「気張ってください。これより貴方が学ぶのは魔法少女が最強種たる所以。人の理を超えた暴力の真骨頂」
この場の空気が一気に冷えて重力が何倍にもなったかのような感覚に、僕の中の戦士の本能が悟る。これより戦いのレベルが、一段階上がるのだと。
駄目だ。呑まれるな。
ともすれば後ずさりしてしまいそうになるほどの『強者』の圧を前に、それでも己を保ち、奮い立たせる。もう恐怖には屈しないと、そう決めたのだから。
目を閉じて、深く息を吸い、吐く。心を落ち着かせたのち、キッと目を開くと同時に構えた剣に力を込め魔法を発動。一回りも巨大化した刃の切っ先を、対峙する音楽家へと突きつける。
「では、レッスン2――スタートです」
採石場の闇に、鳴り響く音色と銀の軌跡が奔った。
お読みいただきありがとうございます。
例の短編『魔王塾地獄サバイバル』を読んでいないのでクラムベリーの戦い方がいまいち分からず、でもそれ以上にラ・ピュセルというか大剣での戦い方のイメージが掴めずウンヶ月もスランプに陥った中なにげなく視聴したベルセルク(2016、17版)のアクションシーンに「これや!」と感銘を受け、それを参考にしつつ『灰よ』を作業用BGMに無限ループで流しながらようやっと投稿した作者です。
何か月も待たせてしまって申し訳ありませんでした。
すべては自分の生産力がうんこなせいです。
特訓編は次回で終わらせる予定なのでしばしお待ちください。
おまけ
次回予告(BGM『灰よ』)
ハイマエー!
――だから温いっていうんだよ。あたしを殺りたきゃ全員纏めて来な。
――舐めるなァ! 魔法少女おおおおおおおお!!
――ここからはテンポを上げますよ。ついてこれますか?
――僕の魔法の…可能性……ッ?
――ラ・ピュセル。次に殺す魔法少女が決まった。
『魔法少女育成計画routeS&S~もしものそうちゃんルート~』
次回『スキルアップのお知らせ!』