魔法少女育成計画routeS&S~もしものそうちゃんルート~    作:どるふべるぐ

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今回のエピソードにはまほいくの世界観に関わる設定捏造があるぽん。原作で触れられてないのをいいことに過去の魔法の国と地球との対立を好き勝手に書いたので、そこら辺はこう……まあ二次創作やし(目そらし)でゆるしてくださいぽん。


キョンシーウエスタン

◇ラ・ピュセル

 

 柄を握る掌に、力を込める。指が白く変色し、痛む程に。たとえギリリと呻こうが構わず、僕はありったけの力を込めて剣を振り下ろした。

 重厚な刃は唸りを上げて虚空を奔り、夜闇に銀の軌跡を描く。

 続けて剣先を跳ね上げ突きを放ち、すぐさま腰を捻っての横薙ぎ、からの更なる斬撃を繰り出さし新たな銀線を宙に刻みつけ――そしてまた剣を振るう。

 

 黄昏すらもとう過ぎた闇の中、夜闇に沈む王結寺の裏庭にただ独りで、何度も、幾度も、繰り返し。

 これは決して、鍛錬などと言う上等な物ではない。技巧など無く、感情を理性で御すのではなくただ激情のままに剣を振り回す、まさに子供の癇癪のようなものだ。

 

 だが、今の僕――魔法少女ラ・ピュセルには、これこそが必要なのだ。

 この胸の中に荒れ狂い、今にも膨れ上がって爆ぜそうなそうな怒りと悲しみと悔いを吐き出すためには。

 

 

 

 ――昏睡状態、だそうです。

 

 

 

 何も考えず、ただ無心で剣を振ろうとしても、心臓を引き絞られるような痛みと共に蘇る――黄昏の病室での記憶。

 集中治療室のベッドに横たわる小雪を、冷たいガラス越しに呆然と眺める事しかできなかった僕に、隣で一緒にその姿を見つめる亜子ちゃんは語った。

 

 ――岸辺先輩と別れた後、私は小雪さんの家に行きました。でも誰もいなくて、しばらく家の前で待っていたら、入院のための荷物を取りに戻って来た小雪さんのお母さんと会って、話を聞きました。

 

 ぽつりぽつりと語られる言葉はどこか遠くから聞こえるかのようで、奇妙に現実感がなかった。

 

 ――小雪さんは朝からずっと目を覚まさずにいるそうです。病院に連れて行った所、脳に異常は見つからなかったとのことですが、今だに意識は回復していません。

 

 あるいは、僕の精神がそれを現実だと受け入れたくなかったからかもしれない。

 理解したくない。嘘だと言いたい。こんなのは悪い夢で、目覚めればいつものように笑顔を浮かべる小雪に会えるのだと、思いたい………ッ。

 けれど、目の前の光景が、無機質な機械に囲まれて横たわる小雪の姿が、これが否定しようのない現実なのだと僕に突き付けていた。

 

 ――原因が全く分からないので、いつ目覚めるかは不明だそうです。

 

 不明。

 それはつまり、今この瞬間、あるいは明日にもにも起きるかもしれないという希望であり、同時に──永遠に目覚めない事もありうるという絶望。

 ぐらりと、視界(セカイ)が揺れた。

 小雪……。己が立っているのかも分からない感覚の中でで、愛しい名を呼ぶ。

 か細く震える声は、僕らを隔てる冷たく無慈悲なガラスの壁に阻まれて、向こう側には届かない。

 駆け寄ることも、その閉ざされた瞼に触れることも出来ず、僕はただ、立ち尽くすことしかできなかった。

 

「うああああああああッ!!!!」

 

 煮えたぎる腹の底から叫ぶ。

 やり場のない激情ごと虚空に刃を叩きつける。

 

 病院から出て亜子ちゃんとも別れた僕は、だが家に帰らなかった。頭の中がぐちゃぐちゃで、どうにかなってしまいそうで、気が付けば足は自然とこの王結寺へと向かい、こうして剣を振るっている。

 

「ふんっ………はっ!! ……ああああ!!」

 

 感情に苛まれて剣を振るうのはこれが初めてじゃない。心が乱れた時、あるいは耐え難い感情をもて余した時、僕は精神を保つためにこうして一人剣を振ってきた。

 こうすればいずれ心は鎮まり、落ち着きを取り戻せるはずなのだが──今夜は違った。

 

 どれだけ叫んでも、いくら剣を振ろうとも心が鎮まらない。怒りが燃えて悲しみは尽きず、時がたつごとに心が荒れていく。

 

「くそ………!!」

 

 昏睡の原因は不明だと言っていたが、その原因はおそらく、昨日の廃工場での闘いで負ったダメージだろう。

 あれはかつて僕がクラムベリーから受けた物とは比較にならない、瀕死どころか文字通りに死ぬほどの傷だったのだ。

 幸い僕は甦生後は疲労と倦怠感くらいで済んだが、魔法少女の中でも特にか弱く、ラ・ピュセルと比べれば耐久力が低いスノーホワイトには何らかの後遺症が残ったとしても不思議ではない。……いや、その身を案じていたはずの僕が真っ先に気付くべきだったのだ。なのに……

 

「くそ……ッ!!」

 

 何が、守るだ。

 何が、スノーホワイトの剣だ。

 僕がマジカロイドに殺されてしまいそうだったから、スノーホワイトは僕を庇って――ああなったというのに。

 

「くそぉっ……!」

 

 何だこの様は。何て、不甲斐ない。

 己への怒りに思考が沸騰する。悔しさのあまり唇を噛み締める。歯が皮膚を突き破り、熱い血が溢れた。

 

 スノーホワイトを救ったと思った。もう傷つくことは無いと安堵したのに。この手を血で穢し、抱き続けた夢を棄ててまで守り抜いたと思っていた大切なあの子は――いつ覚めるとも知れない眠りについてしまった……ッ。

 

 「くそおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 荒れ狂う慟哭となって爆ぜた激情ごと叩きつけた刃が、地面を粉砕した。

 轟音と共に爆ぜる土煙。衝撃で夜天に巻き上げられた土砂が、剣を振り下ろしたまま立ち尽くす僕の総身に雨の如く降り注いだ。

 

「はぁ……ッ……はぁ……ッ」

 

 気が付けば、僕の全身は汗にまみれていた。

 叫び過ぎた喉が痛い。吐く息は荒く、肺が引き絞られるようだ。大剣を握る腕も、地面を踏みしめる足も力任せに扱い続けたせいか小刻みに震えて、ともすれば崩れ落ちてしまいそうになる。

 

 そして眼前には、刃で砕かれ、大きく抉れた地面が。

 ……以前の組手でこの場所に出来た無数の穴をたまと二人で埋めて元通りにしたというのに、これでは台無しだ。

 剣を叩きつけたというよりは、もはや爆撃の跡にしか見えないほどのクレーターじみた大穴。激情のままに暴れ、ただ力任せにぶつけた無様な暴力の傷痕は、まるで荒んだ僕の心を映し出しているかのようだった。

 

「はぁ……はっ、はは……無様だな、僕は……」

 

 悔しくて、虚しくて。血の滲む唇に自嘲を浮かべて、呟く。

 白く寒々とした月の光の中で、独り。誰にも届く事無く、夜闇の中に消えるはずのそれに

 

 

 

「――たしかに優雅さには欠けますが、己の無力を怒り、哭き叫ぶ貴方の姿はいじらしく……微笑ましい。私は好ましく思いますよ」

 

 

 

 慈しむようにそう評す声が、背後で笑った。

 

「――――ッッッ!!!!」

 

 瞬間、背筋が凍る。全身の血液が凍てついて、凄まじい悪寒に肌が粟立った。

 だってそれは、僕の耳元で楽し気に囁く、美しくも悍ましいこの声は――ッ

 

「昨夜ぶりですね。颯太さん」

 

 弾かれたように振り返った僕から、おそらくは僕から十歩も離れていないだろう距離に、あいつはいた。

 暗い森に咲く一輪の薔薇のように夜の闇に悠然と佇み、突然の遭遇に目を剥く僕を愉しげに見つめる魔法少女は――

 

「クラムベリー……ッ!」

 

 驚愕しつつも素早く剣を構え、切っ先を向ける。

 真っ直ぐに対峙し、決して赤い双眸から目を逸らさずに。

 底冷えするような恐怖は確かにあるが、以前のようにそれに飲まれかける事無く向き合えるのは、今の僕が確かな戦う覚悟を決めているからか。

 

「何の用だ。クラムベリー……?」

 

 戦う者としての己の成長を実感しつつ、だが呑気に喜ぶ余裕など無い。

 クラムベリーは強者と戦い――殺す事だけを求める戦闘狂だ。

 最後に会った時は、今だ未熟な僕が己と戦えるだけの力を得るまで待つというような趣旨の言葉を言っていたが、それをこいつが律儀に守るとは思っていない。

 

 己に向けられた鋭い切っ先など恐れるに値しないとばかりに動じず、むしろ小さなやんちゃ小僧でも眺めるかのように微笑むこいつは――どこかちぐはぐだ。

 立ち振る舞いは妙齢の美女という見た目に相応しい、知性を感じさせる優雅なものだが、対してその行動は合理性よりむしろ感情でのみ動いている節がある。大人びた知性と子供じみた感情で気の向くままに動くこいつを、僕は計れない。

 それほどに何もかもが予測できない存在なのだ。この――森の音楽家クラムベリーと言う魔法少女は。

 ……やはり気が変わって我慢できず殺しに来たと言われても、納得するほどに。

 

 この一瞬後に戦いが始まっても対応できるよう、剣を握り睨みつける。そんな僕を暫し鑑賞するように眺めていたクラムベリーの瞳が、ふっと悪戯っぽく揺れた。

 

「美しい月の夜、乙女が焦がれる殿方と逢瀬をすることに理由など必要ですか?」

「ふざけるな」

 

 殺意を込めて言うと、クラムベリーはそれすらも愉しむかのように微笑んで

 

「そう睨まないでください。今宵は殺し合うために来たのではありませんよ」

「なに……?」

「僭越ながら、弱さを嘆く貴方を援けてあげたいと思いまして」

「……どういう意味だ?」

 

 困惑する僕に、クラムベリーは言った。

 男を誘う妖婦のように、あるいは悪戯を仕掛ける幼女のような声色で

 

 

「今宵、私が貴方に魔法少女の戦い方を教授(レクチャア)しましょう――颯太さん」

 

 

 ◇霊幻導師

 

 

 かつて、偉大なる中華を支配したのは自分たち魔術師だった。

 風水、導術、仙術、天地の気を操り呪を唱える妖しの術をその身に修め、天の星を読み未来を知り、万事の吉凶を占いて人を導き、時の皇帝に天の意思を伝えて国すらも動かす。

 古代ブリテンにはマーリンなる伝説の宮廷魔術師がいたというが、所詮はただ一代のみに仕えたに過ぎず、比べる事すらおこがましい。

 遥か神代に天地が分かたれ最初の国家が生じた時より、中華の魔術は国家と共に在り、そして皇帝の後ろには常に魔術師(われわれ)が居たのだ。

 四千年の歴史の中で幾つもの国が生まれては滅び、皇帝が何度代替わりしようともそれは変わらず、故に魔術師たちは皇帝などよりも自分達こそが真の中華の支配者なのだと、そう誇っていたのだ。

 

 

 

 そう、『奴ら』が現れるまでは。

 

 

 

『魔法の国』を名乗る者達が現れたのは、かつての清朝が隆盛を極めていた頃だった。

 国交の樹立のために訪れたという使者は、自分たちは争いを望まず共に世界平和のために協力したいのだと(のたま)った。

 だが、当然のごとくそれは突っぱねられる事となる。当時の清を皇帝の陰から支配していた魔術師達からすれば『魔法の国』など聞いたことも無く、また異界から訪れたなどと言う話は一笑に伏すしかない戯言。そんな胡乱な者共など相手にする価値は無く、そもそもこの中華は先祖代々より我らが導いた地なのだ。今更それを治めるのに余所者の手など借りる必要など無い。だいたい何だその態度は。高貴なる中華の民ならざる蛮族の分際で、まるで我らと対等の如きその振る舞い、全くもって許し難い。

 

 などなど、無知蒙昧な者共に当然の理を解いてやると、果たして使者達は大人しく引き下がった。

 去っていくその姿を、ここまで言われても怒る気概も無いのかと魔術師達は嘲笑い、やがて数日も経つ頃にはこの無礼な余所者の事などすっかり忘れていた。

 

 そしてまもなく、清朝に暗雲が立ち込める。

 

 大英帝国から大量に密輸入されてきた阿片が蔓延し、国中が中毒者で溢れ返ったのだ。

 その惨状に皇帝は嘆き、そして宮廷魔術師達を問い詰めた。

 貴様らの占いにはこのような事になるとは出ていなかったではないか。これはどういう事だ、と。だが誰よりも困惑していたのは当の魔術師達自身だった。

 ありえない。朴、易、あらゆる占いにおいて清朝の未来は安泰と出ていたはず。まして一つ二つならばともかく全ての占術でこれ程の凶事を見逃すとは思えなかった。

 ……だが実際、自分たちはなんの凶兆も察する事は出来ず、祖国は深刻な病理を抱えてしまった。かくなる上は、この現状を打開する術(すべ)を占う事で名誉を挽回するしかない。

 

 皇帝の信頼を取り戻すため、そして何よりも己の誇りをかけて、宮廷魔術師達は修めた業の全てを以って打開策を占い――そのことごとくが外れた。

 起死回生となるはずの良策は実行に移してみれば愚策であり、重用すべしと出た人材はとんだ悪徳役人であり自ら進んで阿片の密売をする始末。やること成すこと全てが裏目に出、混乱をさらに助長させるだけの結果に終わった。

 ここにきて、魔術師達はようやく悟る。――何者かが我らの魔術を妨害していると。

 

 だがその時には、既に全てが手遅れとなっていた。

 もはや皇帝は完全に魔術師達に失望し、かつては天にも届かんばかりだった権威は奈落へと失墜したのだ。

 かくて清朝の運命は転がる石の如く荒廃へと転げ落ち、大英帝国との無謀な戦争が始まる。

 

 後の歴史書に阿片戦争として記されるこの戦いの顛末は、もはや語るまでもないだろう。

 そして戦争が終わった後、皇帝の後ろにはもはや魔術師達の姿は無かった。

 そこにいたのは、無能の烙印を押され政治の場から放逐された彼らに取って代わった『魔法の国』の者共だったのだ。

 

 今だ神秘の息づく中華を治めるにやはり魔法の力は必要、我々ならば平和的かつより効率的にお力添えが出来ます。

 そう言葉巧みに皇帝に取り入り、自分達に成り代わったその姿に、誰が自分達の占いを妨害していたのかようやく悟った魔術師達は怒り狂う。

 名誉と誇りを踏みにじられた彼らの憤怒は凄まじく、すぐさま魔法の国の者達に呪いをかけ──その全ては解呪、あるいは呪い返しによって跳ね返され無残に敗北した。

 

 業腹ではあるが、奴らの魔法技術は我らより遥かに発展している。このままでは勝てない。力を付けなければ、編み出さねば、奴らを上回る大魔術を……ッ。

 

 自らが放ったはずの呪いをその身にうけ、一人また一人と死んでいく中、生き残った僅かな者達は復讐を誓い身を隠す。

『魔法の国』の者達の目の届かぬだろう、中華の果ての辺境に逃れた彼らは、憎悪を糧に禁忌とされた邪法にすら手を出して己が魔術の研鑽に励んだ。

 いずれ魔法の国を上回る好機到来した暁には、あの憎き『魔法の国』の者共らを一人残らず縊り殺し、再び中華の支配者の座へと返り咲くために。

 

「――(ころせ)!!」

 

 その末裔たる老人から殲滅の命を下された黒スーツの男達は、一斉に(てのひら)を下に向け両手を前につき出すという奇怪な姿勢をとると地を蹴り、跳ねた。

 ぴょおんぴょおんと跳ねながら迫る男達を、だがそれに囲まれたメアリの手下達は滑稽と笑うことなどできない。

 生気の失せた青白い顔で、無表情に跳び跳ね迫ってくるその姿は不気味であり、目にするだけで背筋が凍るような死の予感があったのだ。

 

「くっ、来るんじゃねえええ!!」

 

 恐怖に耐えきれず、手下の一人が目の前の男に発砲。構えたトカレフから放たれた弾丸が胸に命中し、男は衝撃に仰け反ると──何事もなかったかのように体勢を立て直した。

 

「へっ!? な、何で──うぎぃッ!?」

 

 弾丸に抉られながら悲鳴も上げず、どころか痛がる様子すらない。あり得ない事態に驚愕する手下は、だが次の瞬間には飛び掛かってきた男に喉を噛まれ、そのまま食い千切られた。

 破れた喉元から噴き出す血。飛び散り、絶句する周囲の手下達の服を赤く染める。

 男は噛み千切った肉片をしばし歯で咥えていたが、やがてどす黒い血の付いたそれを、ごくりと呑み込んで――喰った。

 

「ひいいっ!?」

「うぷ……ぅげええええッ!!」

 

 人が人を喰う。

 裏社会に生きる者たちとは言え、その行為の悍ましさは常人が耐えられるものではなかった。多くが顔を引きつらせ悲鳴を上げ、中には堪えきれずおう吐する者までいる。瞬く間に恐怖が伝播する一方で、だが仲間を殺された怒りで恐怖に抗い、銃を向ける者達がいた。

 

「死ねやあ!」

 

 怒号と共に放たれた幾つもの弾丸が男に当たるも、だが――やはり倒れない。

 

「畜生!! 何で死なねえんだよ!?」

「馬鹿野郎いいから撃ちまくれ! 撃ってりゃそのうち死ぬはずた!」

 

 頼む。そうであってくれ。心から祈りながら撃ち続けるも、男は死なない。死ぬべきであるのに、死なない。

 否、正確には──既に死んでいるのだ。

 

 《キョンシー》

 

 三魂七魄のうち魂がなくなり、風水的に正しく埋葬されなかったか、死しても消えぬ怨みを持っているか、もしくは呪術師や道師の儀式によって魄(はく)を入れられた屍が蘇り、誕生するこれは、数ある中華の妖怪変化において最も名が知られていると言ってもいい屍の怪異である。

 

 曰く、正者の首をも容易くねじ切る怪力。

 曰く、銃剣にすら耐えるほど硬化し、血の気が失せた青白い肌。

 曰く、両手を伸ばし、足首のみで跳ねる奇怪な動き。

 曰く、常に血に餓えて正者を襲い──喰らう。

 

 年月を経れば生前に修めた武術も使えるようになるなど、その力はまさしく脅威。だが真に恐るべきは、ヴァンパイアやグールなどといった他のアンデットとは異なり──完全に制御する術が確立されているという事実である。

 

 ただの理性無き獣であれば知恵で倒せよう。殺しの本能のみで動くのならば容易く読める。が、そこにもし人間の知恵が、狡猾さが加わったとすれば、それはもはやただの群れに非ず。人ならざる暴力を備え、人の意思によって完全に統制された屍の軍団。

 魔法の国に一矢報いるべく老人が長年に渡って作り上げてきたその脅威が、今、哀れな獲物達に襲いかかった。

 

「こ、この化け物がぁッ──ぎぃあッ!?」

 

 あまりにも理不尽な存在に怒りと絶望を叫んだ手下の顔面は噛み砕かれ、それを眺めていた別の手下もまた背後から飛び掛かってきた他のキョンシーに心臓を抉られる。

 ドスを構えて突撃した者は毒の滴る爪に裂かれ、逃げようと背を向ければたちまち追い付かれ、泣きながら命乞いする頭部を背骨ごと引き抜かれる。

 殺到する屍の軍団に、なす術もなく次々と餌食になっていく手下達。

 

「畜生……ッ!! ああ糞が死にたくねえ!」

「だ、誰か助け──ひぎっ!?」

「やめっ、殺さな……ぎゃあああ!!」

 

 夜の港に響き渡る幾重もの断末魔。波音すら掻き消し響く、この世の地獄めいた惨劇の調べを、老人は心地良く聴き入っていた。

 

「く、くはははは……」

 

 つり上がった唇から漏れるは、隠しようの無い愉悦の笑み。

 

「冥府におります我が師よ弟子よ同胞よ。ご覧あれ。我らが作り上げたキョンシーが、我らが術の集大成が今、憎き魔法の国の尖兵共を殺戮するこの光景を」

 

 地獄絵図を眺める瞳は、長年の恨み、重ね続けた呪い、全てを奪われた憎悪と屈辱を晴らす復讐の悦びに満ちていた。

 

「くひひひ……殺せ殺せぇ。儂らが味わった痛みを、苦しみを、今度は奴らに味わわせてやれい」

 

 正確には尖兵のさらに手下程度だろうが構うものか。同じ地球人類だろうと魔法少女にすり寄り頭を垂れる者など死ねばいい。

 

「なぁに安心せい。貴様らだけでは終わらせんから、冥府で寂しい思いをする事は無い。いずれ魔法の国に関わった全ての者がそこに逝くからなぁ……!」

 

 そうだ。これは始まりに過ぎん。

 あくまで復讐の第一歩。この戦いで魔法少女を討ち取ることで我が魔術が魔法の国に対抗できることを証明し、そしてさらに戦力を増した後に、奴らと地球の覇権をかけた大戦争を――ッ

 

 

 バンッ!!!!

 

 

 老人の哄笑を掻き消す銃声が、一体のキョンシーの頭を吹き飛ばした。

 血と脳漿が飛び散る中で、銃声が更に鳴り響く。

 

 

 ババババババババンッッッ!!!!

 

 

 切れ目すら分からぬ連続射撃。絶え間ないマズルフラッシュが夜闇を焼くその度に、同数のキョンシーの頭がザクロの様に弾け飛んだ。

 首から上を失ったキョンシー達は正真正銘の死体となり、噴水のように血を噴き出しながら崩れ落ちていく。

 

「なにぃっ!?」

 

 無敵のはずの魔術兵器が、目の前で次々と破壊されていく。あり得ざる光景に、愕然と目を見張る老人。

 その姿を嘲笑うかのように、折り重なる血と臓物に塗れた屍の中心で、その魔法少女は嗤っていた。

 硝煙を立ち昇らせ黒光りする無骨な回転式拳銃(リボルバー)を手に、血煙混じる海風に金の髪を靡かせ、匂い立つほど蠱惑的で、血に飢えて獰猛な――牝豹のごとき笑みを浮かべて。

 

 

 ◇ラ・ピュセル

 

 

「戦い方を教授……だと?」

「はい」

「それはつまり……お前が僕に戦いの指導をするという事か?」

「ええ。その通りですよ颯太さん」

 

 思わず問いかけた僕に、クラムベリーは答えた。

 その真意が分からず困惑する僕の顔を、悪戯が成功した子供の様に愉しげに眺めながら

 

「強くなりたいのでしょう? 弱いのはもう嫌なのでしょう? ならばこれは貴方にとって悪くない申し出だと思いますが」

「……ああ、そうだな。確かに悪くない――それが本当ならな」

 

 睨みつけ、言う。握る大剣の切っ先を威嚇するように突き出し、決して相手から逸らさずに。

 戯れ言ならば切り捨てる。眼差しに殺意を込めて伝えると、はたしてクラムベリーは余裕を崩さず、小さく弧を描く唇を開いた。

 

「おや、私が嘘を言っているとお思いですか?」

「素直に信じる方がどうかしているだろ」

「悲しいですね。私はただ健気に頑張る貴方の力になってあげようと思っただけなのですが……」

「それが嘘ではないという証拠は?」

「ありません」

 

 硬い声で問う僕に対して、苦笑して小さく肩をすくめるクラムベリー。

 少々芝居がかった仕草だが、ファンタジーの世界から現れたかのような幻想的なその姿と相まって良く似合っている。

 

「言葉巧みに騙し、罠にかけて殺そうとしているのかもしれない。そう思われるのは、たしかに私が颯太さんにした事を思えば仕方のない事なのかもしれませんね」

 

 実際、誰とは言いませんがそのようなことを嬉々として行う鬼畜はいますし。と、小さく呟き

 

「その疑いを晴らすための物理的証拠はありませんが――」

 

 とんっ……。

 

 台詞の途中で、裾の短いスカートから伸びる美脚の爪先が軽やかに地を蹴り――僕の首に白い手が触れた。

 触れ合う肌から感じる手の感覚は、柔らかく冷やりとして絹のような肌触りなのに――ゾッとするほどに恐ろしい。

 

 背筋が凍るようなこの感覚は、二度目だ。

 あの廃工場での戦いの終わりにも、こいつは全く同じように僕の下にやって来たのだ。

 あくまでも自然に、気負いも緊張も無く、ゆえに全く反応できない動きで。

 動作の起こりが見えない。気が付けば、こうして致命的に距離を詰められていたのだ。

 

 戦慄し言葉を失う僕を、まさに目と鼻の先で、踊り子のような一ステップで間合いどころか懐にまで潜り込んだクラムベリーの赤い瞳が、からかうように僕を見つめていた。

 

「わざわざそんな回りくどい事などしなくとも、今の貴方なら正面から容易く手折れる。……そうしない事が、罠ではない証では駄目ですか?」

 

 問いかけながら、冷たい汗が浮かんだ首を指がそっと撫でる。

 今この瞬間にも、へし折ることも、引きちぎることも、まさに花を手折るよりも容易く出来る、森の音楽家の恐るべき魔手が

 

「私を信じてくださいますか。颯太さん?」

 

 僕の(いのち)を、握っていた。

 

「っ…………」

 

 そして僕は――ゆっくと、剣を下ろした。

 まるで首を垂れるように地へと向いた刃を一瞥したクラムベリーの手が、そっと離れる。

 冷たい指の感触が消えた瞬間、引きつっていた口からぶはっと息が漏れた。

 あまりの緊張感で、呼吸すらも出来なかったのだ。

 ばくばくと鳴る鼓動を感じながら荒い呼吸を繰り返すたび、ふき出した汗が額から流れ、滴り落ちていく。

 

 言い訳のしようもないほど完全に、手玉にとられた。

 やはり、強い。身体能力以前に、戦闘における技術が。

 ……もし仮に、僕がクラムベリーを上回る身体能力を持っていたとしても勝てないだろう。そう確信できるほどの技術の差が、僕たちの間に広がっていた。

 

 だがそれでも、せめてもの矜持として瞳に宿した戦意だけはそのままにクラムベリーを睨みつける。

 

「そんな目で見つめないでください。それに、これで分かったでしょう。今夜の私は誘惑の悪魔(メフィストフェレス)などでは無く、迷える子羊を導く音楽の天使(エンジェル・オブ・ミュージック)なのですから……」

 

 そんななけなしの抵抗すらも愛でるように微笑みながら、問いかけてくる赤い瞳。

 

 さて、どうしますか?

 

 深い血の色に染まった音楽家の眼差しが、答えを待つ。

 僕は、

 

「…………――ッ」

 

 脳裏に蘇ってくるのは、力無く眠る幼馴染の姿。力の無い僕のせいでそうなってしまった、大切な女の子。

 

 僕は、強くならなくてはならない。

 守ると誓ったあの子を――救うために。

 そのためなら、何でも利用すると決めたのだ。『正しい魔法少女』であることを辞めたあの夜――スイムスイムの狂気を以ってクラムベリーの暴力に対抗しようとしたように。

 もはや手段を選んではいられないのだ。

 たとえ、悪魔の誘いに乗ることになろうとも

 

「……わかった。今夜だけ、僕はお前の教えを受けてやる」

 

 君だけは守りたい。そう誓ったのだから。

 

「ありがとうございます。颯太さん」

 

 血を吐くような思いで言った、答え。

 それを聞き届けたクラムベリーの唇が、更に笑みを深め、その瞳が妖しく光り、僕を捉える。

 

「力を得るためなら、倒すべき敵にすらも教えを乞う。そんな貴方の気持ちに応えるため、私も誠心誠意レッスンをいたしましょう。未だ小さな蕾である貴方が、更に強く美しく咲き誇れるように。――私の渇望を満たせるように」

 

 艶やかな唇が紡ぐは祝福の言葉。

 だが、その美しくも、怖気がするほどの愉悦を滲ませた歪んだ笑みは──捕らえた無垢な獲物をどのように己好みに染め上げようかと愉しむ、悪魔の笑みに思えた。

 

 

 ◇カラミティ・メアリ

 

 

 血と臓物の香りに満ち満ちた修羅場で、血に飢えた魔法少女が嗤う。

 

「なかなか良い的じゃないか」

 

 吊り上がった唇。ハスキーな声に宿るのは、暴力的な喜悦。

 

「数が揃ってて……」

 

 続く言葉と共に銃口が連続で火を噴き、数体のキョンシーらへと弾丸が撃ち込まれる。

 

「そこそこ頑丈で……」

 

 殆どは血飛沫を散らして倒れたが、しぶとく致命傷を免れた一体が人間離れした跳躍力カラミティ・メアリへと跳びかかり

 

「おまけにぶっ壊し甲斐もある」

 

 その艶めかしい肌に喰らい付く直前、額に押し付けられたリボルバーの零距離射撃によって脳天を粉砕された。

 

「まったく、パーティー本番前の肩慣らしには丁度いい玩具だよ」

 

 あまりにも鮮やかなカウンター。

 今まで自分達を兎を狩るように虐殺してた相手を鼻で笑ってブチ殺すその様に、手下達は喝采するよりも前に戦慄し、老人は言葉を失った。

 

 見開かれた幾多の瞳と脳漿交じりの鮮血を浴びながら、カラミティ・メアリは銃の回転式弾倉(シリンダー)をずらし薬莢を排出。空薬莢が軽やかな音を立てて地に落ちるまでに流れるような手つきで弾丸を全装填し、構え――呆然と立ち尽くし、あるいは尻餅をつく手下達に気が付いた。

 

「なんだい。その情けない面は?」

 

 覇気の欠片も無いその姿を眺め、呆れたように溜め息を吐くカラミティ・メアリ。

 

「御法に背いて真っ当な道から外れて清く正しく生きられないヤクザ者が、あげくにタマまで無くしちまったのかい?」

 

 呆れて、嘲りを込めて、図体ばかりデカくて揃いも揃って醜態をさらす玉無し共に言う彼女の瞳が、問う。

 で、お前らはそれでいいのか? と。

 

「目の前に自分を舐め腐ってる奴がいる。だったらやることは一つきりさ」

 

 カラミティ・メアリは彼らを哀れんだりしない。

 力の無い奴が力のある奴に殺されるのなど当たり前のことだ。まして抗うこともせず諦める奴など死ねばいい。

 カラミティ・メアリは彼らを励まさない。

 雑魚の生き死になどどうでもいい。この世界において自分より優先すべき者など何も無く、ただ思うがままに力を振るい、望むがままに暴れまわる。己とは――カラミティ・メアリと言う魔法少女はそういうモノだ。

 

 故に、メアリが語りかけるのは絶望に囚われている彼らを鼓舞する為ではなく

 

「『そのニヤケきった面をぶちのめす』。痛い目見せられたなら倍返しでシメてやらなきゃ、極道の名が廃るってもんじゃないか。……だろう(オーケイ)?」

 

 これから楽しもうってのに周りでヘタレられてたらシラケるだろ。だからさっさと立って手前の鉄砲(エモノ)をぶっ放して盛り上げろ。

 あくまで己の戦いを盛り上げるための『賑やかし』になれと、その戦意にぎらつく瞳で命じているのだ。

 

 血も涙も無い、己の都合のみで仲間を死地に追いやろうとする外道の言葉は、だがしかし、ゆえにこそ――ろくでなし共の心を、震わせた。

 

 ああたしかに。そりゃあそうだ。

 何だこの様は情けねえ。今にも化け物共に殺されそうになっている――たかがそれだけで、なにダッセェ醜態曝してやがる……。

 

 一人、また一人と。カラミティ・メアリの言葉を聞いて、恐怖と絶望に染まっていた男達の瞳が――輝きを取り戻していく。

 だがそれは勇気とか希望とか、そんな清く正しい真っ当な意思ではなく

 

 俺たちゃ極道。安らかに死ぬなんざ出来る筈もねえヤクザ者だ。

 碌な死に方しねえのは分かってる。

 だがよぉ、ダセェ死に方だけは御免だぜ。

 化け物に殺される? 良いぜ上等ロクデナシにはふさわしい末路ってもんだ。

 ただし、ただじゃあ死なねえよ。極道は極道らしく命尽きるまで暴れて暴れて暴れまくって、いっちょ派手に死に花咲かせてやろうじゃねえか!

 

 それは極道の矜持(プライド)。血と暴力に生きるろくでなし共の(おとこ)道。

 今だ震えていようが己の足で地を踏みしめ、腹に気合を込めて、次々と立ち上がる『鉄輪会』の男達。

 己や殺された同胞の血に濡れた手にそれぞれの武器(エモノ)を握り、ここまでコケにしてくれた礼を百倍返しで思い知らせてやるべき敵達(クソども)へと向けて

 

「くっ……な、なんじゃこいつら……つい先程まで怯えていたというのに……ッ」

 

 全身から怒りと殺気を立ち上らせる手下達。その狂暴な眼差しを受け、霊幻導師は思わずたじろいだ。そしてキョンシー達もまた、主の動揺を感じたか、それとも彼らすら豹変した獲物達に気圧されるものがあったか、僅かに後ずさる。

 

「はっ。少しは良い顔になったじゃないか」

 

 カラミティ・メアリは笑う。

 美しく、そして獰猛に。

 死兵と化した手下達を率い、リボルバーの引き金にかけた指に力を込めて

 

「仕切り直しだ。派手にいくよ!」

 

 反撃のマズルフラッシュが、夜の闇を吹き飛ばした。

 




お読みいただきありがとうございます。
キョンシーなんて昔の中国映画か漫画のグレイトフルデッドくらいでしか知らないニワカの作者です。
とりあえず額に符つけてピョンピョン跳ねてりゃキョンシーだよね(適当)

原作では魔法の国は地球の魔法組織と平和的な関係を築いているようですが、作者的にはでも絶対中にはアンチ魔法の国で攘夷運動した奴らとかもいたろうな~~という邪推から今作ではこうなりました。
本エピソードでは魔法の国がアコギなマッチポンプをしてますが、もちろん原作の魔法の国はこんなにブラックじゃないですよ。きっと平和的な話し合いとラブ&ピースの精神で仲良しこよしになったんだようんホント(  ̄▽ ̄)

本当はもう少し早く投稿したかったのですが、プロットを考えようとしても別な作品のアイデアばかりが浮かんで止まらないという病気にかかってしまいましてここまでかかってしまいました。

おまけ

※キャラ崩壊注意

『教えてクラムベリーせんせー(その1)』

ラ・ピュセル「え、突然何が始まったの?」
クラムベリー「ふふ、戸惑っているようですねラ・ピュセル。これはベテラン魔法少女である私が、胸ばかり育ってそれ以外はまだぺーぺーのひよっこである貴方に魔法少女のあんなことやこんなことを教えるコーナーですよ」
ラピュ「胸ばかりって……いきなりセクハラから始めるとか不安しかないんだけど」
クラ「そんな駄肉をこれ見よがしにぶら下げている貴方の自業自得でしょう」
ラピ「駄肉って……いくら自分は絶壁だからってそこまで言わなくともいいだろ」
絶壁「(^ω^#)」



しばらくお待ちください♥



ファブ「ボコボコにして国道に放置とかいくらなんでもやり過ぎぽん」



気を取り直してレッスン開始♪



クラ「ぶっちゃけスイムスイム倒すのに音も光も必要ありませんよ」
ラピュ「え!?」
クラ「ずばり重力攻撃で殺れます!」
ラピュ「な、なんだってー!?」
クラ「もしも重力まで透過できるなら魔法を発動した時点でふわふわ浮き上がるじゃないですか。つまり重力波は透過できないかあるいはしていないのですよ」
ラピュ「な、なるほど……。って、それがわかっても僕はそもそも重力攻撃なんてできないよ」
クラ「出来ます」
ラピュ「なんで断言するの!?」
クラ「中の人繋がりで出来ます(ドン!)」
ラピュ「中の人って誰!?(あやねるボイス)」
クラ「貴方なら出来るはずです。自分の個性を信じなさい」
ラピュ「魔法じゃなくて個性なの!? いやいや絶対無理だよていうか意味わかんないしっ」
クラ「ふぅ……(ため息)。分かりました。そこまで言うのならばいいでしょう。この私が直々に貴方の個性を伸ばす特訓をつけてあげます」
ラピュ「ありがた迷惑や(ブハッ)!?」
クラ「つべこべ言わずにさあ始めますよ。合言葉は『プルス・ウ●トラ』!」

かくして始まったクラムベリーせんせーの地獄特訓。ラ・ピュセルは果たして厳しいシゴキに耐えられるのか!?
次回『僕の魔法少女アカデミア』をお楽しみに!(by うるる)

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