魔法少女育成計画routeS&S~もしものそうちゃんルート~    作:どるふべるぐ

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やあやあお待たせ。泣いても笑ってもこれでエピローグぽん。でも怒るのは無しぽん。いやマジで。

ではではさっさくご覧くださいぽん。これぞ作者一世一代のちゃぶ台返し。ラテン語で言えばアクタ・エスト・ファーブラ!(←違う)


ラ・ピュセル

 ◇スイムスイム

 

 

 夜闇に佇む、うち捨てられた廃寺――王結寺の堂内は重い空気に包まれていた。

 張り詰めた沈黙の中、燭台の揺らめく明かりに照らされて闇に浮かぶ魔法少女達――たま、ユナエル、ミナエル。彼女らの人ならざる美貌には一様に不安と緊張が浮かび、今だ受けた衝撃から立ち直れていないようだった。

 

 ……無理も無い。

 その姿を上座から眺めるスイムスイムは、あらためて思う。

 今日という日はあまりにも波乱に満ちていた。

 魔法の端末のバージョンアップに伴う新たなアイテムの登場。ラ・ピュセルの離反。おそらくは彼の魔法だろう夜天に突き立つ巨大すぎる剣。

 そしてなによりも、先ほどのランキング発表で告げられた魔法少女の事故死と、ゆえに脱落者は無しという言葉が意味するあまりにもおぞましい事実が、皆の言葉を奪ったのだ。

 

 スイムスイムもまた内心では動揺していたが、リーダーたるもの常に堂々と振る舞うべしというルーラの言葉を思い出してそれを押し殺し、常である氷像の如き平静さを保つ。

 そしてかつての偉大なるリーダーから受け継いだ部下達に、言った。

 

「たま、ユナエル、ミナエル、動揺するのは分かるけれど、今は今後どう動くかの対策を決めるべき」

 

 ルーラはもういない。だから今、彼女らを導くのは自分なのだ。

 

「誰かが死ねばその週は脱落者がいなくなると分かれば、もうキャンディーの奪い合いではなく、直接的な殺し合いが始まる」

 

 確信を込めて告げると、たまは怯えてびくっと肩を震わせ、普段は軽薄な笑みを絶やさないピーキーエンジェルズですら押し黙り息を飲んだ。

 

「私たちがやることは変わらない。他の魔法少女を襲い、今度はキャンディーではなく命を奪うだけ」

 

 それだけならば、むしろ一々マジカルフォンを奪わずにすむ分楽になったとも言えるかもしれない。それだけならば……

 

「けど――もう一方的にはやれなくなる」

 

 それが最大の問題だ。

 これまでは、自分達のみが襲う側だった。

 キャンディーを集める事にのみ集中する獲物達を奇襲する。まさか自分が襲われるとは思いもよらないからこそ、生まれる隙は大きく仕とめるのは容易い。

 それこそがお世辞にも直接戦闘向きではない自分達の唯一にして最大のアドバンテージ。事実、だからこそスノーホワイトのキャンディーをギリギリながらも奪う事に成功したのだ。

 

 だが、これからは違う。

『殺し合い』が出来ると分かれば、もう誰も油断しない。戦う力の無い者は常に警戒し、戦う力のある者は――容赦躊躇い一切無く殺しにくる。

 もはやワンサイドゲームではなくなった。ここからは互いに殺し殺される殺戮戦。今この瞬間にも、かつての自分たちのように他の魔法少女が襲いかかってくるかもしれないのだ。

 

「ここからはほんの一瞬の油断でも死に繋がる。戦う魔法少女を正面から相手しなくちゃならなくなるかもしれないから」

 

 これが以前までならば、それでもどうにかなると思えたかも知れない。なんたって自分たちは戦わない魔法少女とはいえ人数で言えば最大だ。数を生かして行動すればどうとでもなると。

 だが、スイムスイム達は見た。知ってしまった。

 戦う魔法少女の、限界を破壊したその魔法(マジカルリミットブレイク)を。

 

 

 

 《ぼくの誓った魔法少女-unlimited sword extend-》

 

 

 

 理解を絶し想像を超えて夜天を貫くその剣は、あまりにも巨大で凄まじく、神々しさすらも感じる程に絶対的な――力。

 一度振るわれれば全てが破壊される、もはや災害にも等しい、己が持つ全力をもってしても抗うことすら出来ぬ絶望的暴力。

 本能が絶叫し理性が断じた。あれは違う。あれの前では自分たちの魔法など児戯に過ぎぬ。

 あれはスケールもパワーも何もかもが隔絶した、――ジャンル違いの存在だと。

 あんなことが出来る連中と戦うのか。いや、戦いにすらなるのか……。

 

 スノーホワイトに勝利しルーラをも出し抜いたという自信と矜持を打ち砕かれ、誰もが不安に顔を曇らせている。

 だからこそ、自分が先頭に立ち導かねばならない。鼓舞し士気を上げ勝利に導く、かつてルーラのように――

 

「だから私たちは、――――ッ静かに……!」

 

 口を開き紡いだ声が、ふいに張り詰める。

 何事かと問う部下達の視線に、外へと続く扉へ鋭い眼差しを向けたスイムスイムは答えた。

 

「……外に誰かがいる」

 

 その一言で、たまとピーキーエンジェルズの表情が強張り緊張が走る。

 

「ちょっ、マジで!?」

「まさかさっそく私達を襲いに……!?」

「どっどうしようスイムちゃん……っ」

 

 慄き驚愕する三人。

 そんな彼女らにスイムスイムは、薙刀のような武器――ルーラを構え冷静に指示する。

 

「ミナエルは武器に変身、ユナエルはそれを構えて。たまは透明外套を被って息をひそめて、私が囮になるから敵が来たら隙を突いてピーキーエンジェルズと一緒に飛びかかって」

 

 素早く的確なその言葉。揺るがず冷静に状況に対応しようとするその頼もしさに三人は今だ硬い表情ながらも落ち着きを取り戻し、頷くとそれぞれ指示されたポジションについた。

 迎撃態勢が整った事を確認し、スイムスイムは切っ先を扉へと向ける。来たるべき来訪者、それが敵ならば迎え討つべく。

 そして全員が息を殺し、鋭い眼差しで見つめる中――扉が、開いた。

 

 夜の冷たい風が流れ込み、燭台の炎をかき消す。

 たちまち夜闇に沈む堂内に、射し込むは白き月明かり。闇を切り裂き、開け放たれた扉から降り注ぐ澄んだ月光の中に――その魔法少女はいた。

 

 その姿を目にした部下達が息を飲む音を聞きながら、スイムスイムはやはりかと思う。

 先程のランキング発表でその名が呼ばれなかった時、こうなる予感はしたのだ。

 

「あなたが死んでいないと知った時、きっと来ると思っていた……」

 

 一対の角を戴く亜麻色の髪を靡かせ、しなやかに引き締まった肢体を包む鎧は月の光に煌めいて、その竜の瞳に強き意思を宿し佇む、その名は――

 

「――ラ・ピュセル」

 

 

 ◇ハードゴア・アリス

 

 

 ――時は暫し遡る。

 

 人を超えた力による大破壊によって、半ば瓦礫の山と化した廃工場。

 戦いは終わり、再び墓所の如き静寂が下りたそこには、血に塗れ横たわる一人の少年と一人の少女、そして――そんな二人を絶望の瞳で見下ろす黒い魔法少女がいた。

 

 ハードゴア・アリスは、絶望する。

 なぜだ。なぜこうなった……。

 自分はスノーホワイトの助けになりたかった。守りたかった。彼女のために戦い、そして死ねるのならばこの命を犠牲にすることさえ惜しくは無かった。

 ラ・ピュセルは優しい人だった。こんな自分の命を救うために我が身をなげうってマジカロイドに挑み、死ぬなと言ってくれた。

 どちらも素晴らしい人だった。穢れた血の流れる自分なんかとは違う、清く正しく美しい存在。けして、こんなところで死んでいい人達などではなかったのだ。

 なのに二人は死んで……二人のために死のうとしたはずの自分だけが、生きながらえてしまった。

 

「なぜ……ですか……」

 

 どさりと膝をつき、力無く呟く。

 

「どうして……私なんかが……」

 

 力無きその問いに答えられる者は、誰もいない。

 物言わぬ恩人達が流した血だまりの中で、アリスは独り、その死を悼み己が生を呪う。

 

「なんで、どうして………私は何もできなかったのですか……ッ」

 

 自責の念が溢れる。自己嫌悪が止まらない。

 震える唇からは嗚咽交じりの慟哭が漏れ、顔にやった両手の指がどうしようもない程の悲憤に強張り、めり込んだ爪が皮膚を裂く。噴き出した血が血涙の如く頬を濡らした。

 

 何も、何も出来なかった。救うことも身代わりに死ぬこともできず……。

 いや、そもそも――生きている価値の無い、誰にも必要とされない自分が、なぜ誰かを助けられるなどと思ったのだろうか……?

 やはり自分など、生きているべきではなかった……。

 死のう……。せめてあの世で、二人に役に立てなかったことを謝ろう……。

 

 どのみちスノーホワイトのいない世界なんて、自分が存在する意味など無いのだから。

 世界に、何よりも己自身に絶望して、アリスが自らの命を絶つべく変身を解除しようとした――その時

 

「……え?」

 

 輝きを失った紫の瞳が、瓦礫の散乱する床の片隅に突如生じた――《光》を見た。

 

 

 ◇岸辺颯太

 

 

 音も、風も無いどこか。

 痛みも、熱も、身体の感覚も感じない場所で――遠いかつての、夢を見た。

 

 ――そうちゃん……。そうちゃんはなんでラ・ピュセルなの?

 ――え? なんでって……。

 ――私は自分の名前が『小雪』だから『スノーホワイト』っていうアバター名にしたけど、そうちゃんは何で『ラ・ピュセル』って名前にしたのかなあって思って。

 

 それはいつだったか、いつものように夜のパトロールが終わってから、あの鉄塔で二人きり、宝石をちりばめたような星空の下で語った、まだ何もかもが穏やかだった頃の思い出。

 

 ――ああ、そういうことか……。『ラ・ピュセル』っていうのは、憧れている人の二つ名なんだよ

 ――憧れている人? 魔法少女じゃなくて?

 

 小さく首を傾げる君に、僕は言った。

 

 ――《ジャンヌ・ダルク》。フランスの聖女さ。14世紀から15世紀にフランスとイギリスが戦った百年戦争で、神からお告げを受けた彼女はフランスを救うために男の格好をして戦ったんだ。そして女なのに男ばかりの戦場で旗を振って兵を鼓舞し続けて、ついに敵国を破って戦争を終わらせた。

 ――すごいね。

 

 ああ、すごい。ごく普通の少女が不思議な物に導かれて英雄となり、大切な人たちのために強大な敵に挑み、滅びの運命を変えて国を救う。そんな魔法少女アニメのような事が現実にあったなんて、僕には衝撃的で、そして何よりも心を打たれた。

 ジャンヌの清く正しく美しい、理想の魔法少女そのものの在り方に。何よりも、女の子という超えられない性別の差を男装をすることで覆し、男達だけの領域だった戦場で誰よりも勇敢に戦ったというその事実が、『男の子は魔法少女にはなれない』という現実の前に夢を諦めてしまった僕には、あまりにも眩しかったんだ。

 

 だからこそ、その最期を知った時、僕は涙を流した。

 

 ――でも、聖女として崇められた彼女はやがて魔女の烙印を押されて火刑にされる。

 ――そんな。ひどい……

 

 最大の味方であったはずのフランス王からは見捨てられ、同じ神を信じる教会すらも異端の烙印を押し、敵に囚われて自由も名誉も尊厳も何もかも奪われ辱められた挙句――ジャンヌは魔女に堕されたのだ。

 

 ――それでも、聖女から魔女に堕とされても彼女は最期まで神への信仰を失わなかった。世界の全てが敵に回っても、たった一人で己が信念を貫いたんだ。

 

 あまりにも哀しくて救われない、でもどこまでも美しく高潔なその輝き。

 感極まった。魅せられた。ただ独りであっても己が道を征ったこの聖女のように、僕もなりたいと思ったんだ。

 

 ――どんな苦しみと絶望の中でも信念を失わず、愛する者のために戦い続ける。そんな彼女に僕は憧れてね。だから理想の魔法少女を名付ける時――《ラ・ピュセル》にしたんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――……ん………ぱい……っ」

 

 遠くから、声がする。

 

「……しべ……先輩……っ」

 

 必死に、まるで絶望の中でやっとみつけた小さな希望に縋り付くかのように、僕の名前を呼ぶ、声が――

 

「岸辺先輩っ!!」

 

 慣れ親しんだその声に耳朶を打たれて、僕の意識は過去の夢から浮上した。

 ぼんやりと瞼を開くと、薄く霞む視界いっぱいに映る、不安と期待に揺れる紫瞳で僕の顔を覗き込む黒い少女の美貌。

 

「……アリ……ス……」

 

 未だ体の中に残る鈍い痛みを感じながら唇を動かし、微かな声でその名を呟くと、

 

「っ……岸辺先輩……生きているんですね……っ!!」

 

 アリスの顔が安堵の色に染まる。

 名前を呼んでもらえた、それだけの事を心の底から喜ぶ笑みを見ながら「生きている」というその言葉で、僕はようやくこれまでの事を思い出した。

 

「あれ……? 何で……僕は……」

 

 なぜ、生きているんだ……?

 疑問と共に脳裏に蘇る、最期の記憶。僕は壮絶な戦いの果てにマジカロイドを斃したものの、そのまま力尽きたはずだ。

 守りたかったスノーホワイトを死なせてしまう悲しみと絶望の中で、傷つき壊れきった身体から血と熱が失われ全てが消え失せていくあの恐怖を、無念を、確かに覚えている。

 あの時に僕は間違いなく死んだ。なのに、なぜ……?

 戸惑い、思わず顔を手で覆おうとして、

 

「これは……?」

 

 その手が――いや、僕の全身が淡い光に包まれているのに気が付いた。

 それは白く優しい――まるでスノーホワイトを思わせる温かな光。徐々に体の中から痛みが消えていく、力が、命が蘇ってくるのを感じる。

 

「これの、力だと思います」

 

 いまだ事態を理解できないでいる僕に、そっとアリスが差し出してきた手の中にあったのは、白く柔らかな毛皮のマスコットの形をした何か。

 

「使用者がピンチになったらラッキーな事が起こる《兎の足》です。私が、スノーホワイトにあげました」

「ラッキーな……そうか、小雪が死にそうになったから発動して……それで僕は―――ッそうだ! 小雪はっ!!」

 

 ハッと跳ね起きて、傍らに横たわる小雪へと目を向ける。

 まだうまく力の入らない脚を動かして立ち上がり、駆け寄った彼女の身体には一切の傷は無かった。

 

「小雪っ……小雪っ!!」

「スノーホワイト……スノーホワイトっ!!」

 

 その事に安堵の息をつくも、彼女はまだ目覚めてはいない。だからアリスと一緒に必死に呼びかける。けどどれだけ叫んでも呼びかけても、その瞼は開かず淡い唇も動かない。返事は無い。してくれない。

 

「――っ!?」

「まさか、そんな……スノーホワイトだけは助からなくて――」

「そんなことないっ!」

 

 最悪の想像が頭をよぎり、けどそんな絶望は絶対に受け入れたくなくて、僕は藁にも縋るような思いで屈みこみ小雪の胸に耳を当てた。

 お願いだから……。心の底からそう祈りながら目を閉じ、耳を澄ませ――

 

 

 

 とくん、と鳴る――命の音を聞いた。

 

 

 

「あ……あぁ……っ」

 

 とくん、とくんと、鳴り続ける小さな鼓動は、彼女の身体に血(いのち)が巡る音だ。小雪が、僕たちが守りたかった女の子が――生きている証だ。

 

「……生きてる……生きてる……っ!」

 

 湧き上がる安堵と歓喜に体が震える。僕が死ななかったことよりも、この子が生きていてくれるという事の方が比べ物にならないほど嬉しくて、潤んだ視界から熱い涙が溢れた。

 

「生きているんですね、スノーホワイト……よかった……本当に……っ」

 

 傍らではアリスもまた涙を流し、その生を喜んでいる。

 小雪の柔肌に落ちて、温かく濡らす涙の粒。それを感じてか、口元が僅かに動き頬が頬が揺れる。それすらも嬉しく愛おしい。

 その想いが新たな涙となって、また溢れる。

 

「ありがとう……生きていてくれて……ありがとう……っ」

 

 大切な人を喪う絶望を知った僕は今、大切な人が生きているという事の幸せを噛み締めた。

 

 

 ◇スイムスイム

 

 

 真っ先に動いたのは、透明外套を被り息をひそめていたたまだった。

 

「ラ・ピュセルーー!」

 

 外套を脱ぎ捨てて虚空から姿を現したたま。

 ラ・ピュセルに最も懐き、ランキング発表でその無事を知った時に安堵していた彼女は、再び会えたことの喜びに目を潤ませながらラ・ピュセルに飛びつこうとして

 

「たま、動かないで」

 

 鋭い眼差しを向け、それを制す。

 

「えっ……っ!? スイムちゃん、何で……?」

「今のラ・ピュセルは敵。今度また邪魔したら、たまでも容赦しない」

「そんな……っ」

 

 一度目は許したけれど、二度目は許さない。

 有無を言わさぬ口調で言うと、悲し気に眉を寄せ、その場に止まるたま。

 だがその瞳は縋るようにラ・ピュセルを見て

 

「ラ・ピュセルは、私達と戦いに来たの……?」

 

 震える声で、問いかける。

 

「私達を、殺す気なの……?」

 

 空気が、更に張り詰めた。

 スイムスイムは静かにルーラを握る手に力を籠める。ラ・ピュセルの答えによってはその瞬間に斬りつけられるように。おそらくはもう潜在能力的には己が上だろうが、今眼前に立つラ・ピュセルは、最後に見た時とは明らかに違う。

 あの時はまだ、何か迷いを抱いていたようにも見えた瞳は確固たる意志を宿し。清廉な闘気を纏い迷い無く凛と立つその姿は、まさに一皮剥けたようだ。

 

 以前とは一回りも大きくなったかのようなその存在感に頬を一筋の冷たい汗が流れるのを感じながら、戦いに備えるスイムスイム。

 誰もが月光に立つ竜の魔法少女へと目を向ける中、その唇が――動いた。

 

「――いいや。僕は戦いに来たわけじゃない。ここへは交渉に来た」

 

 戦うつもりはない。その言葉にたまはほっと胸をなでおろしたようだが、スイムスイムは今だ構えを解いてはいなかった。

 

「なにを交渉するの? 先に言っておくけど、マジカルフォンなら渡さない」

 

 もはやキャンディーの意味など無いに等しいが、それでも他の魔法少女への連絡手段を渡す気は毛頭無い。

 だが、ラ・ピュセルは首を横に振り

 

「もし二つ、条件を飲んでくれるなら――」

 

 静かに、だがこの場の全員を驚愕させるセリフを言った。

 

 

 

「――僕は、君の下に(くだ)ろう」

 

 

 

 ◇ラ・ピュセル

 

 

 突如、拍手の音が鳴り響く。

 

 初めは小さく、だがしだいに高らかに、月光射す廃墟に鳴り渡り喝采する、心からの歓喜と感動を伝えてくるのにどこか不吉な胸騒ぎがするその音。

 

「――ッ!」

 

 直感した。ざわめく胸の奥、魂に刻まれた決して消えない恐怖と痛みが叫んだのだ。これが、この美しくもおぞましいこの音色を奏でるのが誰であるのかを。

 

「岸辺先輩、これは……?」

 

 隣で戸惑うアリスに僕は答えを返さず、ともすれば恐慌状態に陥りそうな意識を集中させて《ラ・ピュセル》に変身する。

 説明はしない。だってきっと、そうする前に奴が来るからだ。

 誰よりも恐ろしく、血に飢えて、そして鮮やかに咲き誇る――あの音楽家が!

 

 そして、積みあがった瓦礫に遮られ生まれた、月明かりの届かぬの闇の奥から

 

「おめでとうございます。――ラ・ピュセル」

 

 祝福の言葉と共に――森の音楽家クラムベリーが姿を現した。

 

 その姿を目にした瞬間、心臓が恐怖に震える。

 声を聴くだけで鳥肌がたち、薔薇の冠を戴く金の髪も、若草色と白のコントラストが映える優美な衣装に包まれたその肢体も、耐えがたい喜悦を湛えるその美貌も――何もかもが恐ろしかった。

 

「ずっと、ずっと貴方を見ていましたよ」

 

 微笑みを湛えて、クラムベリーはひどく楽し気に歩いてくる。

 

「忘れ難いあの夜から、今この瞬間まで――貴方が奏でた戦いの全てを鑑賞しました」

 熱っぽく、まるで夢見るように語るその声が、新たな恐怖を生む

 

「見て……いた……? 僕を、ずっとだって……?」

 

 全く気付かなかった。それ以前に、強者を求めるこいつは無様に負けた僕になど興味を失ったものだと思っていた。だからこそまた殺しに来るのではなく捨て置いているのだと。

 でも、違った。こいつは常に僕を見ていたのだ。一切悟られること無く、この次の瞬間にも僕を容易く縊り殺せるだろう最恐の魔法少女は……ッ。

 

「なんで……」

「それはもちろん――」

 

 そして遂に僕の眼前、手を伸ばせば触れられる距離に立ったクラムベリーは――言った。

 

「貴方ですよ。ラ・ピュセル――いえ、岸辺颯太さん」

 

 艶めく唇が紡いだ僕の、魔法少女ではない本当の名に背筋が凍った。

 震える声で問いかける。

 

「なんで、僕の名を知っているんだ……ッ?」

「なぜとは心外ですね。愛しい殿方の名を知りたいと思うのは女として当然でしょう」

「愛しい……だって」

 

 言葉だけ聞けば、愛の告白だ。だがそう語るクラムベリーの瞳に在るのは単なる恋情などではない。それよりも遥かにか狂おしく絶望的に歪んだナニかだ。

 何を考えているか分からない。理解できない。ゆえに不気味で、恐ろしい。

 

「なんでだ。なんでお前は、そこまで僕を……ッ」

 

 くすりと、クラムベリーは嗤う。

 

「全部、颯太さんのせいですよ」

「僕の……?」

「ええ」

 

 語られたその理由は、でも到底理解できるものでは無くて、困惑する僕にクラムベリーはますますその笑みを深め、吊り上がった唇を動かす。

 

「あの夜を覚えていますか? 私と貴方が初めてリアルで出逢い、戦い逢ったあの夜を」

 

 もちろん覚えている。忘れられるはずなど無いじゃないか。あの血と恐怖の戦いを、僕とこいつの――始まりの夜(ビギンズナイト)を。

 

「貴方は最高でした。貴方は理想と戦意を燃やして全力で挑み、傷つき倒れ血を流し、一度は絶望しながらも再び立ち上がり――私に傷をつけた」

 

 その時を思い出しているのだろうか。クラムベリーの白い手が、自らの胸元へ伸びる。

 僕が斬りつけ傷をつけた。魔法少女らしからぬ成熟したその肢体で唯一そこだけは幼子のようなその胸に指を這わせ――愛おし気に撫でた。

 

「残念ながら傷はもう消えてしまいましたが、あの時の感触は今でもここに残っていますよ」

 

 艶めく唇から吐息が漏れ、指が躍る。

 

「硬く鋭い切っ先がめり込み、私の肉を切り裂き抉るあの痛みが。冷たい刃から流れ込む戦意の熱さが。そして何よりも剣を通してあなたと一つに繋がったかのような――あの得も言われぬ一体感!」

 

 頬を上気させ、高揚のあまり震えながら語るその声が――ふと沈んだ。

 

「嗚呼、きっと破瓜の感覚とはあのような物なのでしょうね……。本当に愉しく、そして嬉しかったのです。――だからこそ……この思いを裏切られた時、とても傷つきましたよ」

 

 あれほどに華やかだった笑みが消え、失意に染まる。それはまるで本当に、男に弄ばれた傷心の乙女のような顔で

 

「貴方は、私を殺さなかった。私は本気で心の底からあなたを殺そうとしていたのに、貴方は殺さなかったのですよ……ッ」

 

 僕を糾弾する。

 

「私が望むのは互いに命を懸け、全てをぶつけ合い触れ合う殺し合いでした。だからこそ、貴方が再び立ち上がってくれた時は嬉しかった。命を奪い合う覚悟の無かった貴方が遂に覚悟を決めたのだと。ああ、これでようやく殺し合えると思ったのに――貴方は、そんな私の心を弄んだ!」

 

 戦闘狂の瞳が命を奪わない戦いになど価値は無い、ただの遊びでしかないのだと断じ、責めたてた。貴方のしたことは、殺し合いに生きてきた私の誇りに対する最大の凌辱なのだと。

 

「ひどいじゃないですか。あんまりじゃないですか……ッ。私はこんなにも颯太さんを思っているのに、殺したいのに。私にとっては真剣な殺し合いでも、貴方にとっては遊びでしかなかったのですか……?」

 

 呟き、縋り付くようににじり寄る、鬼気迫るその姿は恐ろしくも、どこか泣き喚く小さな子供のように思えたのは、果たして僕の気のせいだろうか。

 分からない。何もかもが。こいつの言う事ははあまりにも壊れていて、価値観が隔絶しすぎしている。

 確かに目の前にいる筈なのに、まるでこいつだけが別の世界に存在しているような感覚に陥る程に――クラムベリーという女はずれていた。

 危うい。危険だ。戦闘狂とかそういう以前に、こいつはもっと根源的な何かがどうしようもなく破綻している。

 

 でも、だからこそ――

 

 湧き上がる恐怖を抑え、この手に剣を展開する。

 呼吸を整え、柄を強く握る。

 心を鎮め、クラムベリーに圧倒され潰えようとしていた戦意を再び燃やして――僕はクラムベリーの向かって剣を突きつけた。

 

「それ以上、スノーホワイトに近づくな」

 

 背後に横たわる小雪を背に庇い、立ちはだかる。

 これ以上、こんな奴を小雪に近づけてはならない。これ以上、小雪を傷付けさせはしない。絶対に。

 決意を込めて睨みつける僕の眼差しに、クラムベリーはその歩みを止めた。

 赤い瞳をじっと細め、見極めるように僕の瞳を覗き込み、

 

「もしも、私がその女に近づいて害するというのなら、貴方はどうするのですか?」

 

 静かに、問う。

 

 それに答えるのを、以前までの僕なら迷ったかもしれない。

 誰も殺さずすべてを守るという理想を貫き戦うには、こいつはあまりにも強すぎるから。

 

 だが、今の僕には、もはや『理想』は無い。

 在るのは、愛しい人を喪うことの恐怖と、二度と失わせはしないという思い。

 この子の剣となり仇なす全てを斬り捨てる――『誓い』だけだ。

 ゆえにこの子を害するというのならば、僕はお前を

 

「――殺してやる。クラムベリー」

 

 誓いの下、全霊の殺意を以って宣言した。

 そしてクラムベリーは、

 

「ふ……ふふふ……――あはっ」

 

 その唇が、吊り上げる。

 小さく漏れた声は、やがて弾ける狂笑となって溢れ出た。

 

「あっはははははははははははははははははははははっ! 素晴らしい! ようやく、嗚呼ようやく決めてくれましたか! 私を殺すことを、命を奪い合い殺し合う覚悟を!」

 

 より高らかに。よりおぞましくより狂おしく。

 何処までも純粋に闘争を望み、血と死と殺戮に飢えた音楽家は狂い笑う。

 嬉しいと。嗚呼まったくもって素晴らしい最高だよくぞ吠えたと。

 向けられる歓喜の眼差し、その喝采に込められた狂気と狂喜に総身が震えた。

 そして全てが破壊された戦場に響き渡る、謳い上げるかの如き狂える賛辞。

 

「ずっとずっと待っていましたよこの時を! 望み焦がれ待ちわびて、そしてついに貴方は堕ちた。堕ちてくれました!」

 

 まるで長い間想い焦がれた恋が成就したかのように、待ちわびた運命の人ど出会えたかのように

 

「ならば殺し合いましょう。貴方の全力と全霊と全殺意を以って私を殺してみなさい。私もまた身も心も総てを捧げて貴方を殺します。健やかなる時も病める時も――死が二人を分かつまで殺し合いましょう!」

 

 狂笑と共にその全身から噴き出るは、濃密な殺意。

 肌が粟立ち血も凍る超密度のそれを浴びて、生存本能が絶叫する。

 マジカロイドを始め僕が対してきたあらゆる敵達の物とは比べ物にならない、浴びるだけで精神が壊されかねないの程のそれ。いったいどれほどの修羅場を潜り、どれだけ殺し尽せば、こんなものを出せる領域に至れるのだろうか。

 

 ――ッいや、呑まれるな。

 深く息を吸い、そして吐く。歓喜する戦闘狂のあまりの規格外ぶりに戦慄する心を、だが僕は戦意を以って奮い立たせ、眼に力を込めて睨み返した。

 するとクラムベリーはますますその美貌を蕩けさせ

 

「ああ、素晴らしい。今のあなたならばきっと、私を恐れながらでもそれに屈せず戦えるでしょうね。その戦意その覚悟は正しく強者の心です。――ですが」

 

 陶然と呟いた、―――次の瞬間、僕は唇を奪われていた。

 

「――ん……ちゅぅ………」

「………ッ!?」

 

 押し当てられる、艶やかな唇の感触。

 それは柔らかく扇情的で、だが軽く触れ合うだけだったスイムスイムの物とは異なり、まるで喰らいつくような口づけ。

 だがそれよりも、その動きが全く見えなかった事に僕は戦慄する。集中し、全神経を研ぎ澄ませ一挙手一投足ですらも見逃すまいとしていたのに、気が付けばまるでコマ落としのように触れられていたのだ。

 驚愕と共に直感する。これはマジカロイドのような超スピードなんてチャチな物ではない。今の僕では認識すらも出来ないほどに隔絶した――純粋にして圧倒的な戦闘技術なのだと。

 

「ふふっ……ちゅくぅ……っ」

 

 愕然とする僕の瞳を映すクラムベリーの血色の瞳が嗜虐的に細められ、突然、硬直する唇を割って熱く濡れた舌を押入れられた。

 

「ん!? んんぅ……ッ!?」

 

 滑る唾液と共に咥内に侵入したそれが、縮こまる僕の舌を絡めて捕らえる。

 味わうように舐められ、絡みつき嬲られ思うがままに蹂躙するクラムベリーの舌。

 反射的に顔を逸らし引き剥がそうとするも、素早く伸ばされた掌に後頭部を抑えられ動きを封じられる。

 ざらり舌裏を舐められるたびに背筋がぞくぞくと痺れ、苦しくて息を吸えば(むせ)かえるような薔薇の香りが鼻から流れ込み脳髄を侵し、その度に強くなる、お腹の下がきゅんと甘く痺れるような感覚。

 

「んっ…ちゅ………はぁっ…や、めろぉ……っ!!」

 

 味わった事の無い全く未知の感覚に翻弄される僕を楽しむかのように、クラムベリーの口づけはますます激しくなり、そして――

 

「痛ああっ!?」

 

 硬い歯に舌先を強く噛まれる痛みで、終わった。

 口の中に血が溢れ鋭い痛みに顔を離した――いつの間にか抑えていた手は外されていた――僕の唇と、僕の血の色で更に鮮やかさを増したクラムベリーの唇の間に赤の混じった唾液の橋がかかり、名残り惜し気に切れる。

 

「――ですが、貴方は私から見ればまだ隙が多く、今だに未熟。私の相手をするには力が足りません」

 

 ふぅ……と、火照った吐息を漏らし、艶やかに微笑むクラムベリー。

 血に飢えた期待に満ちて欲望に燃える瞳が、僕を捉えた。

 

「ゆえにもっともっと修羅場を潜り戦ってください。立ち塞がる敵全てを捻じ伏せ斃し血肉と成し、己が武を鍛え上げてください。血を吐き涙を流し死を撒き散らす破壊と殺しと闘争の果てに屍山を登り血河を越えて――この私の領域へと辿りついてみせなさい!」

 

 白い月光のスポットライトを全身に浴びて、血に濡れた笑みでまるでオーケストラの指揮者の如く両手を広げ、音楽家は高らかに謳う。

 

「ようこそめくるめく修羅道へ。夢と魔法の殺し合いへ」

 

 それは新たなる強者の誕生を祝う祝辞であり、己と同じ悪鬼外道の道へと堕ちた者への歓迎の言葉。

 そしてクラムベリーは今宵の惨劇を締めくくり――新たなる恐怖劇(グランギニョル)の開幕を告げた。

 

「これより始まるは血花咲き乱れ断末魔鳴り響く鬼畜外道のオーケストラ。すなわち希望満ち絶望溢れ互いの夢を喰らい合う地獄ですが、屍喰らい血を啜る人でなし(わたしたち)にとってはこれ以上ない楽園ですよ。さあ共に歌い踊り奏でましょう。心ゆくまで死に逝くまで。この地獄は貴方を歓迎します――ラ・ピュセル」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 その後、クラムベリーは言うべき事を言い終えたのか、背を向けて歩き出し、闇の中へと姿を消した。いつでも貴方を見ていますよと、赤い瞳で語る微笑を残して。

 その姿が消えてからしばらくたっても、僕とアリスは声を出せなかった。僕はあの口づけで噛まれた舌先からの出血が止るまで時間がかかり、アリスは――完全に気圧されていたから。

 

「なんですか……アレは……ッ」

 

 呟く声は震え、もとより血の気の無いその顔はもはや屍蝋の如き白となっている。

 無理もない。アレはそれほどまでに理解を絶して、対峙するだけで肉体どころか魂すら破壊されると思えるほどの真性の怪物なのだから。

 

「分からないよ……。あいつが一体何なのかは、僕が知りたいくらいだ。」

 

 あいつに関しては何も知らない。その本名も年齢も経歴も、普段はどこにいて何をしているのかすらも。誰とも交わらずただチャットルームの片隅で音楽を奏で続ける、16人の魔法少女の中で最も謎に満ちた存在、それが森の音楽家クラムベリーだ。

 

 

「一つだけ言えるのは――」

 

 ただ、その目的だけは、奴が何を求めているのかだけは知っている。

 

「あれは殺し合いが出来ればそれでいい――最凶で最悪の戦闘狂だよ」

 

 あの血に飢え殺戮を愉しむ笑みを思い出しつつ言うと、アリスは息を飲んだ。

 改めてその恐ろしさを感じているのか、言葉を失っている。

 再び下りる沈黙。

 余計なショックを与えてしまったかと後悔するが、その謝罪は後回しに、僕は口を開いた。……僕にはもう、時間が無いのだから。

 

「ありがとう、アリス」

「え……?」

 

 唐突な感謝の言葉に困惑するアリス。

 僕は頭を下げた。

 

「君が小雪に兎の足をあげなければ、僕たちは死んでいた。僕たちが助かったのは君のおかげだ。本当にありがとう」

「そんな……いいえ。あれはスノーホワイトへ助けていただいたお礼をしたかっただけで、それを言うなら岸辺先輩がいなければあの魔法少女は倒せませんでしたし…っ…」

「それでも、最後に全てを救ったのは君のあげたアイテム――君のスノーホワイトへの思いだ。だから、ありがとう」

「っ……はい。どう、いたしまして……」

 

 心からの感謝をこめて言うと、アリスはしばし紫の瞳をおろおろと徨わせた後、やがて観念したように呟く。

 あまり人から感謝されることに慣れていなのだろうか。俯いたその頬が微かに色づいていた。

 それを微笑ましく思いながら、僕は再び口を開く。そんな彼女にしか頼めない、僕の最期の願いを伝えるために。

 

「どうかこれからも、小雪を、スノーホワイトを支えてほしい。――僕の、代わりに」

 

 恥ずかし気に俯いていたアリスが、怪訝気に僕を見る。

 

「代わり……ですか?」

「うん。僕はもう、小雪を守ることは出来ないから……」

「どうして――」

 

 問いかけるその瞳を真っ直ぐに見つめて、答えた。

 

「僕は、今夜死ぬんだよ」

 

 アリスが息を飲む音が、響く。

 

「どういう……ことですか……?」

「クラムベリーは知らなかっただろうけど、僕のマジカルキャンデーの数はゼロなんだ」     

「――ッ!?」

 

 告げた事実に驚愕する紫の瞳。

 信じられないと語るそれには、微かな絶望の色がある。

 このキャンディー争奪戦において、命と同義であるそれを失った者がどうなるかを知っているのだ。

 

「どうして……?」

「スイムスイム――別の魔法少女に全部奪われてね」

「――ッ! なら、私のキャンディーを全部あげます……!」

 

 その言葉に思わず苦笑してしまう。かつてまったく同じことを、僕も言ったから。

 ああよかった。やっぱりそんな君なら、僕の代わりにスノーホワイトを任せられる。

 穏やかな笑みで、僕は首を横に振った。

 

「気持ちは嬉しいけど、マジカルフォンごと奪われたから転送できないよ。今からじゃもう、奪い返す時間も無いしね」

「そん……な……」

「そんな顔をしないでくれ。これは全部僕の自業自得なんだから」

「なんで…っ……どうして…先輩こそ…そんな穏やかな顔が出来るんですか……っ」

 

 紫の瞳を悲しみに潤ませ、嗚咽が漏らしながら問うアリスに、答える。

 死に逝く胸に、確かな希望を抱いて。

 

「君のおかげだよ。アリス」

「わた、しの……?」

「前も言ったけど、僕はもともと死ぬつもりでここに来たんだ。そしてスノーホワイトを守れて、ただ一つだけ心残りだったあの子を託せる相手も見つかった。君が希望をくれたんだ」

 

 この絶望的な殺し合いにスノーホワイトを独り残して逝くのだけが不安だった。けど、それも消えた。これからはこの子が、僕に代わる存在となって守ってくれるのだから。

 だからこそ、僕はここで笑って逝ける。

 

「っ……でも……私は――」

 

 

 

『はい。それじゃ今日も元気に報告するぽん』

 

 

 

「――っ!?」

「来たか……」

 

 アリスとスノーホワイトのマジカルフォンから聞こえる、マスコットキャラの甲高い声。

 ついに、来た。チャットのランキング発表が。その週の脱落者を告げる、死の時間が。

 そして、僕の最期が。

 

『参加者は……クラムベリーだけぽん? まあいいけどとりあえずBGMの音量をちょっとだけ下げてほしいぽん。ていうか『Phantom of the Opera』とかどう考えても合わないだろぽん雰囲気考えろぽん』

 

 始まりから間の抜けた会話だが、それを聞くアリスの蒼褪めた表情はまるで自分の方が死ぬかのようだ。

 一方、僕はふと、もしラ・ピュセルが死ぬことが分かったらクラムベリーはどんな顔をするのだろうかと思った。

 

『良いお知らせと悪いお知らせがあるぽん』

 

「なに……?」

 

 おかしい。

 今までの流れならすぐに脱落者が発表されるはずなのに。

 不穏な違和感に、言い様の無い胸騒ぎがする。

 

『まずは悪いお知らせから。マジカロイド44――いや555だったかぽん? まあどっちでもいいぽん――が事故で死んじゃったぽん』

 

「事故……だと……?」

 

 違う。マジカロイドは僕がこの手で確かに殺した。断じて事故ではない。マスコットキャラクターならばそれを知らないはずはないだろうに……。

 思わず傍らのアリスと顔を見合わせれば、彼女もまた困惑していた。

 

『悲しいぽん。つらいぽん』

 

 そう悼む声が、だがどこか嘲笑っているように聞こえるのは、果たして僕の気のせいだろうか。

 分からない。今何が起こっているのかすらも。

 僕たちの手の届かない場所で、恐るべき何かが動いている。そんな予感に慄く僕は、だが次の言葉に今度こそ絶句した。

 

『そして良いお知らせぽん。マジカロイドが死んじゃったから今週の脱落者は無し。というわけでまた来週~』

 

 チャットは終わった。

 だが、僕たちはしばらくどちらも声を発することが出来なかった。

 ファブの言葉があまりにも衝撃的で、そして自分が今だに生きていることが信じられなくて、僕はそれこそ彫像にでもなったかのように呆然と立ち尽くし、そして――

 

「先輩……っ!」

 

 胸に飛び込んできたアリスの衝撃でようやく我に返った。

 

「あっ、アリス……!?」

「よかった……よかった……です……」

 

 慌てて受け止めた腕の中から聞こえてきたのは、潤んだ声と、胸に感じる温かな雫の感触。

 

「死ななくて……先輩が生きてて……っ」

「アリス……」

 

 その思いに胸が温かくなる。僕は頬を緩めて、感極まって震えるアリスの頭を撫でた。

 

「ごめんね。心配かけちゃって……」

「いいんです……先輩が生きててくれるなら、それで……」

 

 顔を上げたアリスは紫の瞳に涙を溜めて微笑んでいた。それは微かな、だが僕の無事を心から喜ぶ安堵の笑み。

 それを前にして、あらためて自分が生き残ったという実感が湧き、僕とアリスは、しばらく抱き合っていた。

 

 やがて、嗚咽を漏らしていたアリスは落ち着きを取り戻し、僕の胸から身を離した。

 

「これで先輩も、スノーホワイトと一緒にいられますね」

 

 本当に嬉しそうに、そう語りかけてくる。

 けど、僕はそれに答えなかった。

 押し黙り沈黙する僕に、アリスは笑顔を曇らせ問いかける。

 

「先輩……?」

「……悪いけど、アリス」

 

 僕は、首を横に振った。

 

「やっぱり僕は、スノーホワイトの隣にはいられないよ」

「そんな……どうしてですか……だって先輩は生きて――」

 

 共にスノーホワイトといられると信じていたのだろう。愕然する彼女に申し訳なく思いながらも、言った。

 

「――僕はもう、『正しい魔法少女』ではなくなったからね」

「え……?」

「僕は、マジカロイドを殺した。スノーホワイトを救うために、自ら進んで殺したんだ」

 

 あの時の感触を、今でも覚えている。

 振り下ろした剣から伝わる、肉が潰れ骨が砕ける、人の命が潰えるその感触。

 それがこの手に拭えぬ血糊の如くべったりと残り、きっと死ぬまで消える事は無いのだろう。

 

「僕にはもう、あの子の隣にいる資格は無い」

 

 きっとマジカロイドを殺したあの時、清く正しく美しい理想の魔法少女『ラ・ピュセル』もまた死んだのだ。――僕がこの手で、殺したのだ。

 

「あの子の隣にいた、理想に生きた『ラ・ピュセル』は死んだんだ。ここにいるのは――あの子の想いも願いも総てを裏切った、ただの穢れた魔法少女だよ」

 

 殺してはいけないと言っていたのだ。

 清く正しく美しく在って欲しいと願っていたのだ。

 その尊い願い、自らの命よりもなお友が堕ちる事を拒んだその切なる想いを統べて裏切った、そんな奴が――

 

「――そんな奴が、スノーホワイトの隣にいていいはずがない……ッ」

 

 吐き捨てた声は己への怒りと嫌悪に煮え滾り、それに気圧されたのかアリスがビクッと後ずさった。

 

「……ごめん、怖がらせて。それに僕は何も、それだけでスノーホワイトから離れるわけじゃない。むしろもう一つの理由が重要なんだ」

「もう一つの……? それは一体……?」

「スノーホワイトを守るためだよ」

 

 言うと、だがアリスは怪訝気に眉を寄せる。

 

「どういうことですか? 傍にいた方が守れるのでは……?」

「守りながら逃げることに専念すればね」

 

 魔法少女は強大だ。

 その魔の手からスノーホワイトを庇うというのは、守る事のみに専念してようやく可能なのだ。それ以外で戦ってはいけない。倒そうなんてもってのほかだ。

 それを知らなかったから、僕はルーラたちの襲撃からスノーホワイトを守れなかった。

 

「でも他の魔法少女、カラミティ・メアリやウィンタープリズン、そしてクラムベリーは正真正銘の戦う魔法少女で、僕の遥かに格上だ。きっと戦わずにやり過ごす事なんてできない」

 

 そうなれば、守りながらという生半可な姿勢では死ぬ。

 全身全霊を以って倒しにかからねば戦いにすらならない。

 

「そして僕には、スノーホワイトを守りながら戦う力なんて無いんだよ」

 

 そしてきっと、スノーホワイトは殺されるのだ。

 攻撃のために防御を疎かにして生まれた隙を突かれて殺されるか、攻撃に専念できず僕が殺された後で殺されるか。

 特にあのクラムベリーは、たとえアリスと二人がかりで挑んでもスノーホワイトを守れる気がしない。

 

「だからこそ、僕はスノーホワイトと離れて――彼女の剣として敵を倒すことに専念する。アリス、君は戦わず生き残ることだけを考えて盾としてスノーホワイトを守ってくれ」

 

 それが、僕が考えたスノーホワイトを生かすための最も現実的な方法だ。

 オフェンスとディフェンスに別れ、アリスという最高の耐久力を持った魔法少女に守ってもらうことで、僕は心置きなく戦いに専念できる。

 何よりもそれならば、アリスとスノーホワイトという大切な二人の女の子を戦いから遠ざけられるのだから。

 

「頼めるかい? アリス」

「でも、先輩はそれで本当に……」

 

 アリスは迷っているようだが、これだけは譲れないのだ。

 僕は未だ逡巡するアリスの手を強く握り、想いを込めて訴えた。

 

「これは君にしか頼めない、いや、君だからこそ頼むんだ。頼むよアリス。僕には――君が必要なんだ!」

 

 

 

「――――――――っ!!」

 

 

 

 もはや叫びとなった僕の言葉に、アリスの動きが止まった。

 目を大きく開いて、息を飲み、沈黙する。

 まるでそう、何か途轍もない衝撃を受けたかのように。

 

「……アリス?」

 

 その思わぬ反応に戸惑いつつ呼びかけると、淡い唇が震える声を漏らした。

 

「私が……必要なのですか……?」

「あ、ああ――うん、君が必要だよアリス」

 

 頷くと、アリスは恐る恐る問う。

 

「こんな……私でも……?」

「君しかいないさ。僕がスノーホワイトを託そうと思えるのは世界中で君だけだもの」

 

 その言葉に、アリスは静かに目を閉じ、再び沈黙した。

 今度は声をかける事はしない。僕には何故か、その姿がとても侵し難く神聖な物のように思えたのだ。

 そうして、暫し何かを味わうように、あるいは噛み締めるように閉じられていた瞼がそっと開き、唇が動く。

 

「――はい。分かりました」

「――っじゃあ……」

「はい。私はスノーホワイトの盾となることを――貴方に誓います」

 

 神に誓う信徒のような敬虔さで語られた、宣誓の言葉。

 静かながらも、己の全てをかけて果たさんとする意思が籠められたそれに、安堵の息が漏れた。

 

「ありがとう、アリス……」

 

 本当に、ありがとう。

 君のおかげでもう、憂いは無い。

 これで僕は、心置きなく――地獄に堕ちれる。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「一つ目の条件は、スノーホワイトとハードゴア・アリス――16番目の魔法少女の二人をターゲットから外す事だ」

 

 君の下に降ろうという僕の言葉に驚き固まるスイムスイム達へ、その条件を言う。

 あくまでも堂々と、迷いや不安など欠片も見せずに、ここが僕の運命を決める最後の舞台。生死を分ける分水嶺なのだから。

 

「…………」

 

 スイムスイムは、答えない。深く底の見えぬ深海の瞳で僕をじっと見て、その手に魔法武器ルーラを握り向かい合っている。

 たまは固唾をのんで僕達を見守り、おそらくはどこかに潜んでいるのだろうピーキーエンジェルズも同じだろう。

 未だ誰一人言葉を発さず――だが、否定の言葉も無かった。

 ならば、まだ交渉は終わっていない。

 

「そして二つ目、最後の条件は――」

 

 勝負はここからだ。

 

「必ず、森の音楽家クラムベリーを斃す事だ」

 

 そこでスイムスイムの眉が初めて動いた。

 小さく震えるそれは、きっとクラムベリーの姿を思い出したから。

 あの魔法少女の強さと恐ろしさは、僕を助け出す際に直接対峙したという彼女たちの脳裏にも刻まれているのだろう。

 だからここからが本当の勝負所。絶対に負けられない、真のクライマックスだ。

 

「もちろんスイム達だけにはやらせない。奴とは僕が直接やり合う。この僕が出せる全力で相手をするから。君達は僕が作った隙を突いてクラムベリーに止めを刺してほしい」

 

 アリスにはああ言ったけど、僕一人ではたとえ命を捨てて挑んだとしても到底クラムベリーに敵う気はしない、だからこそ、不意打ちに特化した彼女たちの力が必要なのだ。

 正々堂々では勝てないのなら卑劣外道に騙し討つ、到底、正しい魔法少女のやり方じゃないな……。

 思わず漏れそうになった自嘲の笑みを抑え、スイムスイムに目で問う。

 

 さあ、答えはいかに――?

 

 誰もがそう思ったのだろう。一気に張り詰める空気。あまりの緊張感に時すらも凍り付いたのかと思えるほどの沈黙が過ぎ、そして――スイムスイムが答えた。

 

 

 

「――わかった」

 

 

 

 それは、僕の勝利が確定した瞬間だった。

 安堵のあまり全身からどっと力が抜けて、膝をつきそうになるのを何とか堪える。

 

「ありがとう。スイムスイム」

「礼はいらない。私はただ、これからを考えて一番いいと思う選択をしただけ。ラ・ピュセルは、ちゃんと約束を守ってくれればそれでいい」

「ああ、そうだな……」

 

 交渉は成立した。

 ならば、契約を果たそう。

 

 僕は足を踏み出し、スイムスイムの下へと歩み、膝をつく。

 魔法騎士であるラ・ピュセルをロールするうえで必要な騎士の知識を集める過程で知った、騎士の誓いの儀式を思い出して。

 そしてこの後の流れをスイムスイムに教えようとした時、僕の肩にルーラがすっと置かれた。

 

 ……知っているとは驚いたな。お姫様に憧れていたというからもしかすると、彼女が見たことのあるお姫様と騎士の物語に誓いの儀式が描かれていて、それを覚えていたのかもしれない。

 

 そして、スイムスイムが問う。

 これより騎士となる者へ、主が贈る宣誓の問いを。

 

「汝ラ・ピュセルは、我スイムスイムの騎士となり、忠義を貫き裏切ること無く、あらゆる法と全ての道徳よりもなお主命を尊び、忠誠こそ我が名誉としてその身を捧げることを誓うか?」

 

 僕は――

 

 ――ねえ、アリス。この子はね、とても寂しがり屋なんだ。

 

 僕は、魔法少女になりたかった。

 

 ――だから、魔法少女でいる時は出来るだけ一緒にいてあげて。一人でいると、きっと泣いてしまうから。

 

 清く、正しく、美しく

 

 ――それに争い事が嫌いで、昔は喧嘩を見ただけで関係なくても泣いていたんだよ。

 

 強きを挫き弱きを守り、

 

 ――だから、もしも敵が来たら戦わず逃げてほしい。血の穢れも戦いの恐怖も、この子に感じさせないで。この子はきっと、自分を殺しに来た相手の死でも涙を流してしまう。

 

 大切な誰かの涙をぬぐうことのできる、

 

 ――君はこの子と一緒に逃げる事だけを考えて。何も心配しなくていい。大丈夫。敵はこの子の見えないところで、僕が殺すよ。

 

 そんな魔法少女に、なりたかった。

 

 

 

「――たとえこの身は滅びたとて、貴女の騎士となることを誓いましょう。我が姫、スイムスイム」

 

 

 

 かくて宣誓は成され、契約は結ばれた。

 その夢を成就させる為ならば悪魔よりも残酷になれるだろうスイムスイムの騎士となった僕が征くのは、血塗られた地獄への道だろう。

 かつて、己が信仰を貫いたゆえに魔女に堕ちたジャンヌ・ダルクは火刑台の炎に消えた。

 ならば、僕もまた最期は地獄の業火に焼かれるのだろうか。

 だが、それでもかまわない。たとえ僕が地獄に墜ちても、それで正しい魔法少女が救われるのなら笑って死ねる。

 たとえ魔女と責められ悪鬼と罵られようとも、僕は諦めない。

 

 

 この地獄の果てに、あの子が生きる未来があることを――――それでも僕は、夢見てる。

 

 

 fin




お読みいただきありがとうございます。
そして読了おめでとうございます。こんなクソ長い話を最後まで読み終えた貴方はたぶん忍耐力が三つくらいレべルアップしたことでしょう。ヤッタネ★

こんな魔法少女育成計画という極上の食材を好き放題に鍋にぶち込んだあげく勢いのままかき混ぜまくった闇鍋的作品を読んで下さった物好きもとい読者様には感謝してもしきれません。
初めての二次創作という事もあり、この作品を書くのはそれはもうとんでもなく苦労しましたが、皆さまに支えられてなんとか一区切りさせることが出来ました。
たくさんのご感想やランキングに入れてもらえるくらいの評価やお気に入りをいただけて嬉しかったです。

いやほんと読者様にこの作品が曲がりなりにも認めていただけて本当に良かったですよ。
だってラ・ピュセルと無印最多アンチ数を誇るだろうスイムスイムを絡ませた挙句キスさせたり、クラムベリーを殺し愛系ストーカー女にしたりマジカロイド555を出したあげくショットガン持たせて未来の殺人ロボの台詞(なっち訳ver)喋らせたり最後はパロネタのパロネタであるアンリミテッドソードエクステンドぶっぱしたりといやホントと我ながら正気じゃねえなこの作品。読者様いくらなんでも心が広すぎやしませんかね。

とまあ言いたいことはまだまだありますが、あまり長くなるのもあれですしおすしこのあたりで締めさせていただきます。

本当にありがとうございました。この物語を読んでくれた全ての読者様に感謝します。この作品を書いたのは作者ですが動かしたのは間違いなく皆様方です。
この物語はここでお終いですが、次はオリジナルまほいく物を書きますので、よければそこでまたお会いしましょう。

ああっ……畜生終わらせたくないなぁ。でもね、どんなに続いてほしい物でも必ず終わりがくる物なのですよ。ENDマークを打たれて初めて物語は真に完成するのです。だから作者は、本当に、ここで終わらせます。ああ、この物語をかけて本当に良かった。
ではではあらためまして万感の想いを込めて、この三文字で終わりとさせていただきます。






END










おまけ


ドジでのろまで何をやってもダメな魔法少女たまの下に、ある日未来から送られてきた猫型ロボット魔法少女のマジカロイド。
たまが巻き込まれるトラブルを不思議な未来の秘密道具で解決しつつ、愉快な日々を過ごしていた二人でしたが、ある日、唐突に別れの時がやって来ました。

「突然ですが未来に帰らなければならなくなったデス」
「ええっ!? なんでどうして!?」
「それはこの作品がこれで完結デスので、このおまけコーナーも本編が終わる以上今回で終了するからデスよ」
「なにそのメタい理由!? うえーんやだよいなくならないでよーマジカロイドー!」
「ちなみに延長料金は一日一万円デスが中学生には払えないでしょう。金の切れ目が縁の切れ目と申しますし潔く諦めるデス」
「そ、そんにゃぁ~……」

たまがどんなに引き止めても、マジカロイドはうんと言いませんでした。大人の事情だからしかたないのです。
ついにはたまも諦めました。ですがある夜、偶然、寝惚けて空き地を徘徊する森のゴリラことクラムベリーに遭遇したのです。

「キミに勝たなきゃ、マジカロイドが安心して未来に帰れないんだにゃー!」
「負け犬が、墓穴はぐはあああああああああ(ボーン★)!?」

喧嘩の末にボロボロになったたまを発見したマジカロイドはたまを背負って家に帰る事にしました。

「マジカロイド……私やったよ……」
「あの森のゴリラを倒すなんてすごいじゃないデスか」
「うん……強者だ何だとか言ってたけどワンパンで殺れたよ……」

次の日の朝、たまが目覚めた時にはマジカロイドはもう未来に帰った後でした。
ですがたまはマジカロイドがいなくなってももう泣きませんでした。未来に帰ったマジカロイドに笑われないように頑張ってそれからの日々を過ごしました。
ですが、ある日どうしても寂しくなったたまは、マジカロイドが残してくれた最後の秘密道具『言ったことが全部嘘になる薬』を飲みました。それをつかってしばらくは孤独を忘れて楽しく過ごしましたが、やはり寂しさは消えません。

「もうこの作品は終わっちゃう!マジカロイドはどうせ帰ってこないんだ!」

そうしてわんわん泣くたまの下に、しかしなんとマジカロイドが帰って来たのです。

「なんで!? どうして!?」
「いや~なんかいきなり『終わり』じゃなくなったんですよ」
「え、それって……」
「どうやらもうしばらくはアナタに付き合わなければならないようデスね。やっと解放されたと思ったのにやれやれデス」
「うっ……うえーん! マジカロイドー! よがっだよおおおおおおお!!」
「まったく、アナタはワタシがいないとホント駄目駄目デスね」

やれやれと肩をすくめるマジカロイドの顔には、まんざらでも無い笑みが浮かんでいました。
それから二人はドタバタで夏には大長編な冒険をしつつもいつまでも二人楽しく暮らしましたとさ。

めでたしめでたし。




というわけでたまが秘密道具を使ったため続編決定です。いやー秘密道具のせいならしかたないねっ(テヘペロ★)
なお現在プロット製作中につき、投稿はオリジナルまほいく終了後になる予定ですぜ。
 

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