次の日、俺は朝から父様の剣の鍛錬を早速受けている真っ最中である。ハッキリ言って父様には手も足も出なかった。
これは鍛錬であり、決して勝負ではない。だから手も足も出ないと言う表現は可笑しい様な気もするが、事実まず体力が違う。俺も自主練で山登りをしてそこで魔法の練習をしていた、そのお陰で多少は体力はついていると思ったが、やはり本物の剣士の体力は違う。ちなみに現在は息切れしながら庭に倒れ込んでいる。
「う~ん……」
休憩を取っていると、父様は急に腕を組み唸り始めた。どうかしたのだろうか?父様は木剣を置くと俺の隣に座ってきた。
「カリス一つ聞いても良いか?」
「なんですか父様?」
「お前、俺の剣何処まで見えていた?」
どういう意味だ?父様は俺に何が聞きたいんだ。俺は父様からの質問に首を傾げていた。
「だから、お前は俺の剣捌きが見えてた時があるんじゃないのか!?」
「そうなんですか?」
「そうなんですかってお前、俺の剣を何度か避けてたじゃないか」
そう、俺は何度か父様の剣を避けていた。たまたまではない、キチンと見切って確実に避けた。どうやって避けたかそれは俺の眼だ。
「眼だって!?」
「はい、魔法の練習をしている時もそうなんですが木や植物、その他の動物達の皮膚の奥や繊維や細胞まで見えるんです。さっきも父様との訓練中も父様の筋肉の動きを見て、父様の動きを予測したんです」
「カリス、お前…それって………」
魔眼。生まれ持っての才能、魔眼持ちは世界でも数十人から百人程度だそうだ。ちなみに内の王様、魔王様も魔眼持ちという噂だ。
「だったら尚更よかったわ!」
「「え?」」
母様はそう言うとパンと手を叩き言った。俺と父様は何が良かったのか分からず首を傾げた。
「カリスの魔法の先生ですよ!私のかつての先生なんですが、とても優秀でと言っても私が才能が無かったので魔法の腕は二流なのですが、きっとカリスなら一流いいえ超一流の魔導士になるはずです!」
母様は瞳をキラキラさせながら語った。それを俺と一緒に聞いていたと父様は、何故かすごい剣幕で母様の肩を持つと、
「マルティネス、カリスは超一流の魔導士になるのではない、超一流の魔導剣士になるんだ!」
「そうでしたね!」
そう言って内の親ばか共は手を取り合って庭先で踊っていた。俺は庭に設置されてある椅子に座り、ミクルに汗をタオルで拭いてもらいながらメーティスに用意してもらったジュースを飲みながら、その光景を眺めることにした。ちなみにメーティスも真顔でその光景を一緒に見ていた。ミクルは苦笑いを浮かべていると、メーティスに睨まれたので父様たちには目を逸らしているようだ。
その後、昼食を取り魔法の自主練をした。魔導書を読んで魔法の知識を高めるのも良いが、母様の話だと何と明日には屋敷に着くそうだ。一体どんな人なのだろうか?名前も聞いてないからどんな人かも想像もつかない。というか、このあたりの村の人以外ほとんど知らないから名前を聞いたところで分かるわけがないが…
まあそんな訳ではどんな奴が相手でも明日に備えて魔力の温存はしておかないとな。前世でも体力とかそういうのとか温存しておかないとやばかったからな……というか、もう体力の限界のため俺は寝る…
俺はその日、めずらしく沈む様に眠った。
翌朝、朝食を食べ終えるのとほぼ同時に玄関の戸が鳴りメーティスが向かった。食器類は他のメイドたちや奴隷たちが片付けていると、メーティスが老婆と奴隷と思われる人間の成人男性と一緒に帰って来た。
「奥様、旦那様、カリス様お客様を……」
「お師匠様!」
母様は席から勢いよく立つと、メーティスの隣に立っていた老婆に駆け寄って行った。
「マティ、お前様は子供も出来て多少は大人しくなったかと思えば、昔のまま騒がしい子だねぇ~」
老婆は母様の昔の事をやっぱり知っているのか…母様は未だに謎が多いんだよな~
母様と老婆が親しく話していると、父様が立ち上がり母様たちの下へと歩いて行った。
「自分がマルティネスの夫、ラルスと申します」
父様は老婆に自己紹介をしていると、何か俺の事も紹介されそうな雰囲気だったから俺はそそくさと父様の下へと向かった。
「こちらが自分たちの息子のカリスです」
俺は老婆にお辞儀をし自己紹介した。
「カリス・ボティスです、これからよろしくお願いします」
ところでこのばあさんが俺より上で良いのか?いや、これから俺の師匠になるんだったら俺より上なのか……ところで、このばあさんって何て言う名前なんだ?
「おばあさんは何て名前何ですか?」
俺がそう聞くと、メーティスは脂汗を搔き父様は何か不思議な踊りの様な動きと思える上下運動をしたり、母様はこそこそと逃げようとしていた。
「マティ、お前はわしの事を言ってなかったのかい?」
婆さんは母様を激しく睨みつけていた。なにこれマジで怖い…というか俺は何かまずい事を聞いたのだろうか?知らない人物に名前を聞くのは普通のではないのだろうか?
「い、いえ……後で師匠の事をきちんと説明しておこうと思ったのですが……」
「ずるずるきて、今の今までわしの事を言わなかったと。そういうことで良いんじゃな?」
「は、はい…申し訳ございませんでした…」
母様は半泣きで婆さんに謝ると、婆さんは思いっきり目を光らせると両手の拳を母様の頭に押し付けてぐりぐりした。昔アニメで某野原さん家の息子さんがされていた光景と全く同じ光景を俺は今見ていた。
「あんたは昔っからそうやって少しでも面倒くさい事は後回しにして、十年以上経ってもまだ変わらないのかい!」
「も、申し訳ありませ~ん、許してくださいししょ~……」
母様が婆さんに頭をぐりぐりされながら泣きながら謝っている。不覚にも萌えてしまった。いや、それはまずいか…倫理的に。
「まあ、うちの元馬鹿弟子は放っておくとして、あんたが今日からわしの弟子になるんだったか?」
「は、はい!改めてカリス・ボティスです。これからよろしくお願いします!」
「ああ、宜しくね。わしの名前はカルストラ・アートラ、一応これでも若い頃は現魔王がアンタぐらいの子供の頃に魔法を教えてたこともあったのさ」
「す、すごいですねカルストラ師匠!」
本当にすごい、というか現魔王の年齢は確か五百歳前後だったはず…じゃあこの人最低でも七百から八百くらいなのか…結構な年なんだなこの人……というかそんな人が師匠ってマジでうちの母親って何者なんだ?
「それじゃあ、あんたえ~っと…」
「メーティスでございます」
「それじゃあメーティスよ、バケツ一杯に水を入れて持ってきてくれないかい」
「畏まりました」
メーティスはカルストラ師匠に頭を下げると、指示通りバケツ一杯に水入れて帰って来た。
「カルストラ様、こちらでよろしいでしょうか」
「ああ、それで構わないよ」
メーティスは俺とカルストラ師匠の間に水の入ったバケツを置いた。
「それじゃあカリス、今のお前の実力を見せてもらえるかい?」
水を使っての実力。それは魔導士としては基礎の基礎いつも俺もやっていることだ。ところでどれくらいやったら良いのだろうか?全力でやったほうが良いのか?でも、適当にやってこんな奴は弟子にとらないなんて言われたらたまったもんじゃないからな……
俺はそっとバケツに手を添えバケツにの水を宙に浮かせ二つに分けた。その分けた水を甲冑の兵士の姿に変えた。その甲冑兵士には、水で作ったレイピアを持たせ戦わせた。もちろん室内で戦わせているため、通常なら兵士の足が付き床が水浸しになるが床から数ミリカロッツォ(1カロッツォ=1.3cm)ほど離してあるため水浸しならない。それを見て師匠たちは口を開けて驚いていた。すると、師匠だけはそれを見て口を開けて笑った。
「シャハハハ!驚いたよ、現魔王がお前さんくらいの時は殆ど魔法なんざ碌に扱えなかったというのにねぇ」
師匠は未だに「シャハハ」と笑いながらソファーに座った。
「それで、マティの話によると剣術も習うそうじゃないか、私は何時から魔法を教えればいいのかいね?」
「はい、カルストラ様には午後からカリス様に魔法を教えていただければと思います」
師匠は「そうかい」と言って一度座ったソファーから重い腰を持ち上げた。
「それじゃあ、わしの部屋に案内してもらえるかい?」
「畏まりました。奴隷の方はこちらの私の奴隷35号に案内させます」
「ああ、別に構わないよ。こいつはわしと同じ部屋に通してくれないかい」
「しょ、承知しました」
メーティスが動揺した姿初めて見た。俺たちはメーティスと師匠たちを部屋に案内して行く姿を見送った。
「し、師匠って変わってるんですね。人間と同じ部屋で良いなんて…」
「昔っからなんですよね~私の時も住み込みで教えてもらっていた時も、あんな風に奴隷と一緒にしばらくの間過ごしていたんですよ」
俺と父様は母様の話を聞いて「へぇ~」と同時に呟いた。うちは当然俺たち魔族と奴隷とは別室だ。というか他の奴隷持ちの魔族はどこもそうだ。人間の奴隷とは昔の大戦で魔族が勝ち取った所謂勝利の証、己の力を他種族に見せつける他の道具。それと一緒の部屋で過ごすというのはその奴隷と同価値だと他者に言っているようなものだ。別に父様や母様ほどのプライドはない、だが俺にだって多少なりとも意地やプライドという物はある。今のところはそこまで人間は嫌いじゃないし特に嫌いになる理由もない、とは言っても人間は下に見ているのは事実ではある。
その後、父様と剣術の鍛錬を午前で終わらせ昼食も終わらせ、午後になり俺はついに本物の魔導士の鍛錬を受けることになる。
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