Lv.0の魔道士   作:蓮根畑

40 / 48

ジョニィ「評価が上がるとどうなるか知ってるか?」

サクラ「え?どうなるんですか?」

ジョニィ「評価が下がるんだよ」

7.0→5.5


ランキング1位に数時間なりました。
ありがとうございます。


39 君に幸あれ

 

 

 

 

 

 

 

「出しやがれこのやろオォォォォォォ!!」

 

 

宇宙に似た空間に一人いるナツは出口が見つからず叫び散らしていた。

しかし音も反響せず、何も聞こえない。

ただ身を凍らすような冷気が体を支配する。

火竜の力を持つナツであるが、魔力が底をつきかけているため無駄な消費は避けなければならない。

 

 

「寒ィな...」

 

 

宇宙空間に一人残されてたナツは体を震わせ、腕を組む。

すると自分を覆う大きな影が突如として現れた。

反射的に後ろを見るとそこには巨大な竜がいた。

赤い鱗を上回る炎のような赤い目。

力強い四肢、鋭い爪。そして何より呼吸するたびに口から炎が漏れ出していた。

 

 

「イグニール...?」

 

 

その姿は竜。

さらにつけ付け加えるならナツの育て親であるイグニールにそっくり...いや、本人そのものだった。

 

「久しぶりだな、ナツ」

「な、何でここにいるんだよ⁉︎ずっと探してたんだぞ⁉︎」

 

10年前に消えた父を探すためにギルドに入り、力をつけたというのにこんな所であっさりと会ってしまい驚いてしまった。

イグニールは前足を持ち上げて顎を擦る。

 

「所でナツ、ここは寒くないか?」

「そりゃ寒いけどさ!イグニールに会えたならそれでいい!」

「そうか寒いか、なら──」

 

 

 

 

「──暖かくしてやろう」

 

 

ボッ、とイグニールの体から小さな炎が湧き上がった。

炎は体のあちこちに転移し、溶けないはずの鱗が溶け、皮膚は焼き落ちる。

 

 

「な、何してんだよイグニール⁉︎」

「暖かいだろう?」

「馬鹿言うな!やっと会えたのに何してんだよ⁉︎」

 

炎を喰らって消そうとしたが何故か食べることは出来ない。そうしてる間にイグニールはせいぜい竜と言うことが分かるぐらいまでに焼けており、形をギリギリで保っている所だった。

 

 

「イグニール───!!」

 

 

どうしようもなくその場に項垂れていると、炎は燃え上がり、ただ其処に焼けた死体が落ちていた。

 

 

「何で...イグニール....」

 

 

目から涙がぼろぼろと零れ落ちる。

自身を育てた親が死ぬ所を見て悲しくならない人間がいるわけがない。

 

 

「──ナツ」

 

 

焼け焦げた死体を見ていると後ろから声がした。

ナツは後ろを見るとルーシィが立っておりナツに向かって手を振っていた。

 

「る、ルーシィ...イグニールが...!」

「もうこんなに泣いてたらカピカピになるわよ?」

 

ルーシィの体がナツに覆い重なる。

父親が目の前で亡くなった衝撃で、ここにはいないはずのルーシィが何故ここに?という疑問は考えつかなかった。

 

 

「ほら、これでも飲んで」

「は?何言って──」

 

 

ポタリと顔に何かが落ちた。

手でぬぐってみるとそれは赤い液体。

更に赤い液体が自身に降り注ぐ。

見たくない、ナツはそう思ったが見ずにはいられない。まるでそう仕向けられているかのように。

 

「こんなものだけど我慢してね?」

 

笑顔でそう言うルーシィの手首からは赤い鮮血が盛大に漏れ出していた。

 

「あぁ...ああぁぁ...」

 

違った痛みが心を抉る。

焼いて止血しようとしたが何故か出来ない。

結局どうすることもなくイグニールと同じように死んだ。

青くなった体。漏れ出す鮮血は本物。

 

 

「嫌だ...ここから出してくれ」

「出すって言われてもな──」

 

 

またしても声。

見てみるとグレイが立っていた。

しかし自身の胸に切り口を入れ、自身の手で臓器を漁っていたが──

 

 

「内臓か?それとも腎臓か?」

「あぁ....あああああぁぁぁ...」

 

 

背後からもまた自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。

それどころかどんどん名前を呼ぶ声が増え終わらない恐怖が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「どうなっているんだ...⁉︎」

 

体に鞭を打ち何とか起き上がるが、目の前には小規模な宇宙が円状に形成されていた。

見たことも聞いたこともない魔法だが体を突き刺す魔力からかなり上位の魔法である事は容易に推測される。

 

「ジェラールを...!」

 

 

一般的に永続的な魔法はその場から動けないが、今のエルザの場合まずジェラールに行くまでの道が体力がなくなっている今は難しいだろう。

 

 

「こうなれば私が直接中に入るしか...!」

 

 

ふらつく足で宇宙空間に近づこうとするエルザの肩を力強く握る締める手があった。

とっさに後ろを振り返ると、親友であるシモンが傷口を抑えエルザを止めていた。

 

「何をするんだシモン...早くしないとナツが...!」

「・・・あの魔法は 暗黒の楽園(アルテアリス)。一度入ったら死ぬまで...いや、壊れるまで出てこれない最悪な魔法だ」

 

──暗黒の楽園(アルテアリス)

それは天体魔法の中で唯一精神に干渉する魔法である。一度決まると相手の友人、愛人などの大切に思っている人たちの死を永遠に見せ続けるという魔法だ。

だからこの魔法は殺す事を目的とせず、心を壊す事を目的とした魔法なのだ。

更に付け加えるなら暗黒の楽園(アルテアリス)の中の空間は外の時間に比べて早い。

こちらの1分が暗黒の楽園(アルテアリス)の中では5分。

 

──どんな豪傑な人間でも嫌なものを無限に見せられたらいつかは壊れるだろう。

 

「ではナツは...!」

「あぁ、今もあの中で苦しんでるだろうな」

 

えらく簡単に言うシモン。

既にナツが閉じ込められてから3分。

人の死に触れたことがないナツが何処まで耐えれるか──

 

「待つんだエルザ。行ったらエルザまで──」

「仲間を見殺しにするぐらいなら死んだ方がマシだ!」

 

既に体はボロボロなのに、何故これだけ見せられるのだろうか。

シモンは軽く驚いてから、小さく笑った。

 

「な、何がおかしい...?」

「いや、エルザは心も体も強くなったんだなって。俺とは大違いだ」

 

シモンは一歩進む。

目の前に広がる虚無を前にしてもその背中には恐怖はない。

 

「し、シモン...?」

「大丈夫だ。あいつは連れてくる。なーに、心配するな。俺だって少しは魔法が使えるからな」

 

まるでその言い方は死を覚悟したかのような──

 

「ダメだ!行くなシモン!」

 

手を前に伸ばそうとしたが、体全体が凍りついたかのように自身の動きが止まった。

体を見ると巻き付くように蛇の呪印が描かれていた。

 

「すまない...こうでもしないとエルザだったら来るからな」

「やめろ...やめてくれ...」

「そう泣かないでくれ。今のエルザには大切な仲間がいるだろう?

それに俺はエルザを裏切る真似をしたから...これぐらいちっぽけなものだ」

 

また一歩進む。片足が宇宙空間に入った。

手を伸ばそうとしても、足を動かそうとしても全く動かす、唯一動く目からは涙がこぼれ落ちていた。

 

「妹は...妹はどうするんだ⁉︎

ずっと会いたいと言っていただろう⁉︎」

 

この言葉が通じなければきっと言ってしまうのだろう。

他人を天秤にかけるのはズルいと気づいていたが必死だった。

 

「そうだな...いつまでの家に帰らないダメ兄貴だから怒るだろうな。

だから頼みたいんだ。──妹を、カグラに会ったなら...支えてやってくれ」

 

 

最後に振り向いたその顔は、いつまでも輝く──例え奴隷でも光り輝いていた笑顔。

そう言い残し、シモンの体は全て宇宙空間に消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙空間で一人恐怖を見せ続けられたナツは思考を停止していた。

感覚機能は薄れ、感情を浮かべない。

しかしそれでも目の前の死体たちは消えない。それどころか更に増えて行く。

 

 

「──、───!」

 

 

自身を呼びかける声がした。

だが感情を表現する機能は既に失われてる。

すると突然、自分の顔を力強く殴られた。

 

「イテェ!何すんだテメェ!」

「よし!起きたか」

 

よくよく顔を見るとエルザの親友であるシモンが目の前にいた。

 

「あれ?何でこんな所にいるんだ...ウッ──」

 

さっきまでの現象を思い出し、胃の中のものを全て吐き出した。

燃える死体も、冷たくなった死体も全て本物だった。

 

「安心しろ。アレは全部幻だ。お前は魔法にかかっている状態なんだ」

「そう言うことか...じゃあとっととここから脱出するかって...」

 

 

 

 

 

「出口ねぇじゃねぇかあああぁぁぁぁぁ!!」

 

この魔法は術者がやめない限り永遠。

だが空間内に二人いる場合は魔法は発動されない。

 

「心配するな、出口は作ってやる」

「本当か⁉︎一体どうやって」

「俺はこんななりをしているが解析魔法が得意でな...それにジェラールにこの魔法も聞いた」

 

そう言うなりシモンは複雑な言葉を呟き始めた。

 

「だが出口を作るのはほんの一瞬でな...今の魔力ではそう持たん」

「安心してくれ。俺は速ェからな...ってそれだったらお前はどうやって出るんだよ?」

 

 

ニッ、と笑うシモンの姿にナツは嫌な気がした。

 

 

「──俺はここに残る!後は任せたぞ!」

 

 

シモンの蹴りが背中に当たり、前のめりに倒れる。

丁度よくナツの体が完成された出口に入り、宇宙空間からの脱出に成功した。

そしてその出口に駆けつけたエルザが穴の向こうのシモンに手を伸ばす。

 

「早く来いシモン!」

 

だが魔力切れで動けないシモンは既に己の死を悟った。

ならば最後は悲しい顔なんてするべきじゃない。思いも伝えるのもこれが最後。

 

 

──・・・俺はエルザの事を

 

 

いや、そんな事はガラではない。

 

 

「いやだ...帰ってきてくれ」

 

 

自分の名前を呼ぶ大好きな声が聞こえた、

だから最後に、笑顔を浮かべた。

 

 

「──幸せになれ、エルザ」

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を最後に出口は閉じ、完全に一人きりになったシモンはその場でため息を吐いた。

 

「これで...よかったんだ」

 

好きな人に最後まで尽くす。

男冥利に尽きるものだ。

後ろから足音が聞こえた。一人となったため魔法が再始動されたのだ。

 

 

「──おにいちゃん」

 

 

 

その声を聞きたくて10年もたった。

だからその声が、形が虚構で作られた幻だったとしても笑顔でいなければならない。

 

 

 

「──なんだいカグラ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗黒の楽園(アルテアリス)が解かれ、闇のとばりが周り一体に弾け飛んだ。

その真ん中では白髪になり、魂が擦り切れた男の死体が転がっていた。

 

「チッ、ナツを狙ったが...余計なものが邪魔しやがって...」

 

エルザは枯れ果てた死体に顔を当て、体を震わせていた。

──もう彼は動かない。

言葉も発しない。

 

 

「お前が...エルザを泣かせた.....!」

 

 

──炎が湧き上がる。

 

 

「お前がシモンを殺した...!」

 

 

だがその色は怒りではない。

何故なら...

 

 

「だけど後は任せたって言われたんだ──だから見ててくれ...約束だ!」

「来るかナツ・ドラグニル!殺してやるからかかってこい」

 

 

 

 

 




NEW SKILL!

暗黒の楽園(アルテアリス)...原作だったら攻撃系の魔法だが、真島作品のRAVEでは相手に恐怖を見せ続けるという魔法。今作品では後者を使用。


原作だったらあっさりと死んでしまったのでせめてこの作品ではかっこよく死なせてやりたかった。

お気に入りがここ数日で100ぐらい増えて友達に自慢したら、友達はFGOの10連ガチャでAUOが3体当たったとか言ったので殴りました。
こんな自己満足な小説ですがこれからもよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。