Lv.0の魔道士   作:蓮根畑

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主人公には必須の闇落ち回。



38 運命の反転

 

 

 

 

打ち出された剣は1000を超えた気がする。

数えるのが億劫だったのであまり覚えてないがそれなりの剣は弾き飛ばした。

しかし幾らちょっと強めの俺でも限界はある。

体は限界を超え、至る所から血を垂れ流していた。

 

「それ程までになって何故戦う?」

「お前それ聞きすぎだろ...何回も言ってやってんじゃねぇか...お前を止めるためだよ」

 

刀を支えにして起き上がる。

もう振るう力は残されていない。

だからもう次は──

 

 

「じゃあ聞くがな...お前は何のために戦ってんだよ?」

「勿論世界平和のためだ。この塔が完成すれば俺の求めた平和が手に入る」

 

嘘だろ?と思ったが奴の目を見て分かった。

アレは本気の目だ。こんなどう見ても嘘っぽいザオリク搭載型の塔を本気で信じている。

しかし俺が何を言った所でこいつは信用しないだろうな。

 

「俺は幼い頃より正義の味方と言うものに憧れ、その為に生きてきた...だが実際はただの...殺し屋だ...」

「当たり前だな。正義の味方になるってことは誰かを助け、誰かを助けないと言うことだからな...それに人一人で世界が平和になるなんてな、無理な話だ」

「あぁ、だから私はこの塔の完成を願うのだ」

 

例えそれが嘘であっても何かにすがるしかない。そうでもしなければ心が壊れるのだろう。アニメでしか見たことはないが正義の味方を目指した行く末を俺は見た。

 

「そんなの自分の都合を相手に無理やり押し付けてるだけじゃないのか?」

「そうだな...だがそれで平和が手に入るのだ。それの何が悪い?」

 

こいつは壊れてる。

世界が平和になるのならきっとこれから先も闇に染まり続けると言える自信がある。

 

「だから分からない。何故お前が仲間のためとくだらないことで戦っている?

そんなものより世界平和の方が重要だろう」

「確かに...仲間と世界だったら...世界の方がデカイな。そもそも俺は世界平和とかあんまり考えたことがねェ...でもさ──」

 

 

 

揺らぐ体を抑えつけ、意識を留める。

 

 

 

「──仲間一人守れねェやつが世界を平和になんて出来るかよ」

 

 

ただの漫画の名ゼリフをパクっただけだが、ヤツの顔はまるで見たくないものを見てしまったという顔になった。

 

 

「それに俺は優しいんでね...女の涙は見過ごすわけにはいかない。あぁ、俺は世界を救えない。だがそれよりも大事なちっぽけな世界は命をかけて守ろう」

「世迷言を...!」

 

ヤツは干将・莫耶を投影し、顔を怒りに染まらせ俺の元に近づく。

俺は震える手で刀を持ち上げ、前に構える。

ヤツの剣が振られ防御するが紙切れの様に吹き飛ばされた。

 

「仲間一人守れないものが正義の味方になれないだと⁉︎正義とは秩序を示すものだッ!個人の救いと全体の救いは別物だ!」

 

既に体は動かない。

ただひたすらに切られ続けられる。

今は言葉を返すことも出来ない。

 

「それが分からないから貴様はそんな事を言える...!」

 

ドシュッ、と長剣が俺の腹に突き刺さった。

時間稼ぎは十分な筈だ。

意識が遠くなる。死というものには慣れてはないが結構頑張った方じゃないのか?

 

 

「貴様を殺し、俺はようやく正義の味方になれる...!」

 

肌が寒くなるのを感じながら俺はゆっくりと前に倒れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アハハハハハハ!!こりゃ腹が痛い!散々カッコつけたのに殺されかけたとか冗談でも笑えねぇ!」

 

暗い部屋に一人、男が手を顔に当てて爆笑していた。子供のように足を地面に叩きつけ狂ったように笑う。

 

「正義の味方になるとかほざきやがって超笑えるな。今時の小学生でも言わねぇよそんなゴミみたいな夢」

 

部屋と同じ黒のソファから立ち上がり、首の骨を軽く鳴らす。

コツコツと靴音を響かせ少し歩くとシンプルなドアが一つあった。

男は何の躊躇する事なくドアを開けると、その先には赤い血のような鎖に全身を締め付けられた男がいた。

 

「全く感謝してくれよな...もうちょっとで死ぬところだったんだぜ?」

 

鎖に締め付けられた男の顔を軽く叩くが何の反応もしないことがつまらなかったのか酷く冷たい顔をしてその場に座った。

 

「あー・・・でも久々に出て行くのに目の前に偽善野郎がいるのか...。あんなエミヤに憧れて『僕正義の味方になる!』とか言ってそうなのによぉ...あー、ダルい」

 

血の鎖が一本溶ける。

ドロドロになった液体は血そのものであり、鉄の匂いが周りに蔓延した。

 

「はぁー・・・仕方ねぇ。このままじゃ死んじまうから出て行くか。あいつの体奪えば何とかなるだろ」

 

男は鎖に締め付けられた男の心臓があると思われる場所に鎖の上から手刀で突き刺した。

漏れ出した血は黒。まるで体の元から別のものに構成されたかのようだった。

 

「待っていろよゴミ偽善者...その腐りきった心、俺がテメェの命ごとぶっ壊してやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったか...」

 

男は崩れ落ちたジョニィを見て一言つぶやいた。

手に持っていた剣を消し、遠目から確認したが死は確定だろう。

男にとってジョニィは自身の邪魔をする障害そのものだった。

正義の味方になると決めた彼にとってジョニィの言葉はあまりにも男の心を抉った。

 

「俺は貴様の言うことなど聞くつもりもない」

 

忘れるように自分に言い聞かせる。

自身の心象風景を解除しようとしたその時だった。

 

──ザシュ

 

自身の内側から聞こえた嫌な音。

その音の発生音は自身の右腕。

何事かと見てみると、肘の少し下から丸ごと切断されていた。

 

「なっ、クッ...まさか...!!」

 

零れ落ちる血液を止めるために礼装である自身の服を破り傷口に巻きつける。

男が前を見るとジョニィが馬鹿みたいな血を垂らしながら立っていた。

だが様子がおかしい。体から黒い瘴気が溢れ出し、目が獣のように爛々と光っていた。

 

「アハ、ハハハハハ!!!」

 

ジョニィは笑う。

理由もなくただ笑う。

存在していると言うことだけに対して笑っている。

 

「良い体になったもんだ...随分動きやすいじゃねぇか...」

「貴様...何者だ...?」

「何者だァ?ただのジョニィ君に決まってんじゃねぇか偽善者野郎」

 

切断された右手をジョニィは真下に落とした。するとどう言うことだろうか。

影の中に右手が吸い込まれていった。

更に続いて滝のように流れ出していた血が止まった。

 

「取り敢えずは止血完了...後はお前から奪うだけだな...」

 

男はジョニィから醸し出される気に恐怖を覚えた。

狂気に飲み込まれた獣だ。

 

「──ッッ!投影、開始(トレース・オン)!」

 

空中に投影されたのは対魔の剣100本。

目の前にるのはジョニィであってジョニィではない。

あの馬鹿みたいに正直ものではなかった。

ただ自分の名前すら忘れてしまったかのような一匹の獣だった。

 

停止解凍(フリーズアウト)全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)...!」

 

剣が射られる。

360度から迫る剣群を見ても逃げることはしない。それどころか笑っていた。

 

 

(何故避けないのだ──⁉︎)

 

 

 

ジョニィは手を前に伸ばす。

奪い取った右手から情報を取り出すが圧倒的に少ない。目の前に広がる無限の剣に対しては明らかに小規模。

 

 

──ならば自ら広めてしまえばいい。

 

 

 

「──投影、開始(トレース・オン)

 

 

ジョニィの周りに揺らぎが現れたかと思えば剣が次々と現れ始めた。

1...10...100、数はドンドン増えていく。

 

 

「──飛べ」

 

 

ジョニィが腕を振ると、剣が弾けるように飛び出した。ジョニィに接近する剣を全て叩き落とす。

 

「馬鹿な...何故貴様が使えるのだ!?」

「んなのどうだっていいだろうが...生きるか死ぬかの場面でそんな事を聞くのか?」

 

ジョニィは落ちてた自身の刀を持ち直し方に担ぐ。

 

「さてと、久しぶりだからあんまりもたねぇ。その前にお前を殺させてもらうぞ」

 

 

黒い、黒い瘴気がジョニィの体から漏れ出した。

来る、と思ったその時にはジョニィは目の前にいた。

 

「死ねええええぇぇぇぇぇ!!!」

 

満面の笑みで刀が叩きつけられた。

何とか投影した剣を間に入れることが出来たが──

 

(──重い...!)

 

心象世界の地面が爆発した。

男はあまりの威力に吹き飛ばされる。

今の一撃で残った腕一本にヒビが入った。

 

「アハハハ!何だよ!もっとさっきみたいに力出してみろよ!」

 

黒い瘴気が影のようにユラユラと消えては現れる。

 

「クッ...投影か──」

「──遅ェんだよ」

 

顔に掌が叩きつけられた。

そのまま足を払い中に浮かせ、地面に叩きつける。

 

「おいおい...まだ時間があるんだよ...もっと楽しませてみろよッ!」

 

ジョニィ顔面を掴んだまま前方にぶん投げた。ジョニィはその後を追い更に走る。

だが男も負けてはいられない。空中で剣を投影し即座に射出する。

 

 

「邪魔なんだよ──!!」

 

 

ジョニィが力強く足を一歩踏み出すと地面が陥没し、次いで爆風を引き起こした。

飛来した剣は全て何処かに吹き飛び何一つ掠めない。

 

 

「──だが動きが雑だ!」

 

 

目の前に現れた刀を逸らしカウンター。

これで決まった、そう確信した。

 

 

「鈍いねぇ...」

 

 

グジュ、という音は掌から聞こえた。

掌からは剣が突き出しており痛々しいが、致命傷は間逃れていた。

 

「隙あり、だぜ?」

 

もう片方の手で男の耳を素早く押しつぶすように叩く。

鼓膜というのは案外脆い。

これがいわゆる鼓膜裂きと呼ばれる技だ。

 

「グッ...!」

 

アーマープレートの上から強力な蹴りが叩き込まれ、地面に転がった。

ジョニィの掌からは血が溢れ出していたが、痛みなど感じてないかのように笑う。

 

「貴様...化物か...⁉︎」

「化物ねぇ...人間なんて人の皮を被った化物だろ?だってそうじゃなきゃさ──」

 

 

 

 

 

 

「──アンナコトデキナイダロ?」

 

 

 

その瞬間、ジョニィは獣になった。

天に掲げた刀には黒い瘴気が纏わり付き、もはや呪いの領域に達していた。

 

 

 

「今でも憎らしい...!

目の前にいたら殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺殺殺殺殺殺──魂が摩耗するまで永遠に殺す!!」

 

 

 

振り落とされた刀はギロチン。

回避など不可能。ただ受け入れるだけしか出来ない。

黒い瘴気は怒りを得たのか炎が揺らめく。

 

 

「俺の前に立つ奴は死ね。死んで死んで、物言わぬ残骸となれ」

 

 

 

刀が振り落とされる。

狂気が世界に響き、壊れ始めた。

 

 

 

「私は...正義の味方に───」

 

 

 

男は言葉を最後まで言えず、ただ暗い狂気に飲み込まれた。

 





主人公の闇落ちの原因はニルヴァーナ編で!
早くニルヴァーナまで行きたいな...

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