東方空雲華~白狼天狗の頁~   作:船長は活動停止

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お久しぶりです、船長です。
最後に投稿してからかなりの時間が経ちました。ですので所々おかしい箇所がありますがどうかご了承ください。




第七十七話 打ち上げは程々がちょうどいい

 

「寝ていなさい東雲さん」

「───させっかよ!!」

 突如橙矢の前にひとつの影が地を砕きながら着地した。

「…………何?」

「おいおい、ひどい有り様だな。もっと気楽に行こうぜ」

「…………!」

 声の主の姿がハッキリ見えてくると紫が、というよりその場にいた全員が目を見開く。

「………どうして、貴方が………」

「なんで………どうして………お兄様!」

 椛の声を煩わしげに受け止めると総隊長は紫の方へ視線を向けた。

「なんで、か。まぁ確かに当然の疑問だな。……簡潔に言えば、義理は果たす」

「総隊長………貴方が東雲さんを庇う理由はないはず。それどころか貴方は………」

「俺にも立場ってものがあってだな。時にはそんなこともあるさ」

「隊長!」

 総隊長の背後から追ってきていたのか水蓮が出てくると椛に駆け寄る。

「……………水蓮……さん……?」

「遅くなってごめんね隊長。……総隊長を呼ぶのに手間がかかったんだ」

「お兄様が………」

「うん、ボクも少し意外だったよ」

「……いえ、お兄様だからこそです」

「ん?」

「………………呼びに行ったのが貴女で良かった。他の方なら来なかったでしょうに」

「……隊長、それって────」

「すみません。無駄話が過ぎましたね」

「………………」

 椛が話を打ち切って相対し合うスキマ妖怪と総隊長に視線を移した。

「………貴方、そこまであの少女を……」

「黙れ。これは俺のケジメだ。お前なんざにとやかく言われる筋合いはない。だからさっさと退け。……ま、やるんだったらそれでもいいが?この使い道のない能力で相手してやるよ」

「………………………貴方とやり合う気はさらさらないわ。……何が望みなの」

「俺の、じゃないんだけどな。そこの舟幽霊の解放、それだけだ」

「……その娘は何人もの人を殺した。報いは受けるべきよ」

「悪いが殺ったのは八尺だ。奴じゃない。故に咎められるは八尺だけだと思うがな」

「………………いや、彼女も共犯よ」

「………じゃあ無罪ということに、しろ」

「無理よ」

「では死ね」

 総隊長が剣を引き抜いて突き付ける。

「俺の能力、忘れたとは言わせないぞ。あんたなんぞ話にならない」

「…………その通り。貴方は実に馬鹿げている。あんな能力でここまでやってきたのだか」

「褒めたって手加減する気はない。覚悟しろよ。あんたには聞きたいことが山ほどあるんだ。洗いざらい吐いてもらうぞ」

「…………大体想像できるけど、答える気はさらさらないわ」

「────吹き飛べ」

 いつの間にか紫の目の前に迫っていた。

 剣を逆手に持って柄を紫に激突させ、そのまま岩壁へ叩き付けた。

「─────カ……!?」

「残念。いくらお前でもこの速度には追い付けないみたいだな」

 刀身を首に突き付けて残りの片手で顎を持ち上げた。

「無様だなァ賢者サマ?あの頃とは立場がまるで逆だ」

「…………!」

「分かったらいい加減俺の言う通りにしろ。お前に構ってる時間が無駄だ。早くしろ」

「………………そんなこと……」

「………あ?」

 剣を押し付けて首が僅かに裂かれる。

「俺は命令してるんだ。理解しろ」

「…………ッ」

 苦悶の表情を見せながら何か呟き、総隊長がそれを聞くと不快そうに顔を歪める。

「答えが違う」

 そのまま剣を振り抜いて首を軽く裂いた。

「ァ……カ……!?」

「いいから、早くしろ。遅かれ早かれお前は俺の言うことを聞くことになるんだ」

「………………!わ………分かった………わ」

「………………そうか、それならいい。おい蔓、これでいいんだろ?」

「え、あ………はい」

「……………………もう戻る。じゃあな。スキマ妖怪、お前は俺と来い」

「………………………分かったわ」

「それと椛、早くその馬鹿共を治療してやれ。特に舟幽霊をな。東雲橙矢はその後でもいい」

「お兄様!?橙矢さんが一番の重症なのですよ!」

「馬鹿した幽霊に事情聴衆するのが先だろうが」

「それは………そうですが…………」

「分かったら早くしろ。天人と尸解仙もついでだ。面倒を見てやれ。俺は地底の奴等を帰してくる」

 そう言って今まで隠れていたこいしを促して地霊殿組を連れていった。

「………………お兄様」

「隊長、総隊長のことは後にしよう。まずはこの惨事を元に戻そう」

「…………そうですね」

 二人が辺りを見渡すとひとまず目についた天人と尸解仙に歩み寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………村紗」

 名前を呼ばれた気がして、長い夢から覚める。そこには橙矢の顔が。しかしそれは血で濡れていていつもの見る影もなかった。

「とう………や…………………?」

「………起きたのか…………村紗」

 後ろに倒れそうになる橙矢に気付いたのか慌てて支える。

「橙矢!?ねぇ、ちょっと、橙矢ってば!」

「……………ら……さ………」

「いや!橙矢!」

「………─────」

 橙矢の意識が飛び、その身体を村紗が抱き止めた。

「橙矢………………」

「橙矢さんは気を失っているだけです。安静にさせておきましょう」

 いつの間に傍らにいたのか椛が村紗を見下ろしていた。

「…………他の者はすでに運びました。後は貴女と橙矢さんだけです」

「…………分かった。すぐに行くから………」

 橙矢の腕を肩に回して立ち上がろうとするが村紗も相当疲弊していたのか膝から崩れ落ちる。

 その身体を椛が支えた。

「しっかりしてください。彼を運ぶのなら責任を持って最後まで遂げなさい」

「………!…………ごめ、ん………」

「貴女が謝る相手は私ではありません。橙矢さんです」

 橙矢と村紗の間に割り込み、二人を支えながら地上の道へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、橙矢が目覚めたのは日が真上に来たときだった。

「……………………」

 身体を起こしてふと、何か違和感を感じた。

「……………」

 隣を見てみると橙矢に寄り添うように椛が寝ていた。

「……椛」

「ん……………」

 少し身動ぎしてからゆっくりと瞼が開かれ、橙矢を映した。

「……………………」

「……………………」

「…………………ッ!!と、橙矢さん!?」

「あ、あぁ俺だが…………どうして添い寝?」

「あ、いやこれにはですね……海より高く空より深い理由がありましてててて」

 慌てたように手をわたわたさせながら支離滅裂な言葉を言い出す。

「おい落ち着け椛」

 落ち着かせるために両肩を掴むと椛の顔が真っ赤になる。

「…………椛?」

「…………橙矢さん………」

「ん?」

 ふと、椛が橙矢にもたれ掛かってきた。

「良かった……貴方が無事で………」

「………何を急に」

「あんなにもボロボロになって……見ているこっちの身にもなってください………」

「ごめんな、椛」

 椛を抱き寄せると頭を撫でる。

「…………橙矢さん……………」

「今だけの気の迷いだ。気にするな」

「今だけ……ですか?」

 椛が顔を上げて至近距離で橙矢と見つめ合う。

「…………」

「…………………私はこれからもずっと貴方とこうして……いられたら」

「…………悪かったよ、今だけじゃない。俺もこれからもお前とこうしていたい」

 すると椛の顔が目に見えて分かるように明るくなる。

「はい、私達……ずっと一緒ですから」

「………あぁ」

「…………あの、橙矢さん?」

 ふと、椛が声を上げて橙矢を見る。

「どうした?」

「………急なのですが……数日後、里で行われる祭り……はご存知ですか?」

 夏の末に里では数少ない祭りのような催しが行われるらしい。それはこの幻想郷の新参者である橙矢も知っていること。異変やらが立て続けに起きていたせいでまったく気にしてはなかったが確かにもう数日後のことだった。

「ん?あぁ知ってる。それがどうした?だがあれがあったばかりだからなぁ………やるのか?」

「えぇ、幸いにも被害は大きくないらしく、いつも通り行われるらしいですよ。……あの、それで、ですね………」

 何やら椛がもじもじしながら時たま橙矢から視線を外したりしている。

「なんだ、言いたいことがあるならはっきり言ってくれ」

「……………橙矢さんがよろしければご一緒に行きませんか?」

 少し遠慮したように橙矢を見つめながら誘う。

「あー、ん…………」

 バツが悪そうに頬をかくと口を開いた。

「……悪い、先客がいるんだ」

「え?」

「だからごめんな」

「い、いえ気になさらないでください。橙矢さんにも付き合いがありますから」

「あぁ、そういう訳だ。……ほんとに悪いと思ってる」

「あの………ちなみにお相手は?」

「そんなの聞いてどうする」

「あ、いえ………少し気になって………」

「うーん………まぁいずれにせよ俺はお前とは行けない」

「……分かりました」

「そんな残念そうな顔するな」

 手を頭から頬に添えると再び抱き寄せた。

「待っててくれ。穴埋めはいずれする」

「そんな穴埋めだなんてわざわざ………。ですがえぇ、今度してもらいます」

 椛にしては珍しい意地悪げな笑みを浮かべ、それに対して橙矢は軽く笑みを浮かべた。

 

 

 

 


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