東方空雲華~白狼天狗の頁~   作:船長は活動停止

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第三十二話 救世主は遅れてくるものとは限らないけど大体そういうシナリオが多い

 

 

 

 

 

 

 

 

 刀を刺したことで爆発した弾の爆風に吹き飛ばされて橙矢は外へ弾き跳ばされて転がり、地霊殿を囲う石壁に叩き付けられた。

「………へ……まい……ったな………」

 すでに立ち上がるだけの気力はなく今にも気が飛びそうだった。

「……だから……って諦めて……たまるかよ………!」

 壁に手をついて身体を持ち上げるがすぐに倒れる。

「くそ……」

「――――――――」

 奥を見やると空が地霊殿から出てこちらへと向かってきていた。

「おい………ペットは早く……ハウスに、戻れよ……」

 躊躇なく銃口を橙矢に向ける。

「………ハッ、俺を殺す……か。……いいぜ………取ってけよ……この命」

「――――――――!」

 再びすぐに弾を集束させた。

「………俺を殺しても………お前の主人だけは………テメェの家族……だけは………殺すなよ……!」

 命乞いでも頼みでもなく、命令。最後の抵抗にと空を睨み付ける。

「――――――!!」

 空が今まで変えなかった表情が一変して目が開かれる。

「さと……り……さま………」

「………………?」

 薄れていく意識の中で疑問を浮かべた。と、空と橙矢の間に大量の弾が撃ち込まれた。

「……ッ」

「―――――――!」

 空が距離を取って橙矢の身体が持ち上げられる。

「……なに……が………」

「東雲!無事かい!?」

「伊吹……さん………」

 萃香が橙矢を担いで空との距離を取り、ある程度離れると地に下ろした。

「お前は馬鹿か!?逃げるためにかけた麻酔だってのに……!手間かけさせるんじゃないよ!」

「すみま……せん……」

「あぁもう!今はそんな事いいから!それより東雲を頼むよ。あいつが来るまで私があの烏を止めておくから!」

 萃香が空に向かっていくと死角の方から駆ける音が聞こえてくる。それを反応できずに聞いているとふと目の前に誰かが立つ。

「橙矢……さん………」

「……ぇ…………」

 聞き覚えのある声に何とか顔を上げるとさとりが顔を覗き込んでいた。

「……どうしてここにいるんですか。あの時私は……無茶はしないでと言ったはずです」

「…………………もうすぐ……なんだ」

「橙矢さん?」

「……!」

 刀を地に突き刺して杖代わりにして立ち上がる。その際に血が吹き出るが筋肉で抑えた。

「橙矢さん!」

「頼む……ほんとにあと少しなんだ……!だからお前は……安全なところに………」

 口の中の肉を噛みちぎって意識を覚醒させると途切れ途切れの息をしながら続けた。

「あいつは………お前の大切な……家族は俺が取り戻す………!お前は……あいつの帰るところを………」

「全く、お人好しもいいところよ。馬鹿橙矢」

 さとりと橙矢とは別の声がするともうひとつの人影が橙矢の前に立つ。

「………霊夢………」

「…………情けない姿ね。見てるこっちが滅入るわ」

「……ハッ………遅い……んだよ……腋巫女……」

「猫がもう少し教えに来てくれるのが速かったらよかったのだけれど」

「相変わらず………どんくさい……奴……」

 皮肉を言うやいなや力が抜けて崩れ落ちる。

「橙矢さん!」

 さとりが受け止めてゆっくりと横にさせる。次いで霊夢が橙矢の頬に手を当てた。

「………橙矢、私が来るまでの時間をよく稼いでくれたわね。………ありがとう。貴方の頑張りは無駄にしないから」

 対魔用の札を構えると萃香と戦っている空に向けて投げ付けた。

「あんたはいい加減大人しくなさい!」

「――――――」

 弾を放つと札と拮抗して相殺する。

「なるほど、前よりかは難易度は上がってるってことね!」

「…………!」

「チッ、弾幕ごっこは臨めないか……!」

「――――――――」

爆符〈ペタフレア〉

 巨大な焔の塊を放ち、それを前に霊夢はため息をつきながら一枚のスペルカードを引き抜いた。

「宝具〈陰陽鬼神玉〉」

 対して霊夢も巨大な陰陽玉を撃ち、ペタフレアを消し飛ばした。

「………ッ!」

「橙矢は一方的にやられたみたいだけど……それはあいつが空を飛べなくてアンタが飛べる、アンタはそのアドバンテージがあるからであって橙矢が飛べてたら目じゃないもの」

「――――!」

 両手をと翼を広げると弾幕がばら蒔く。だがそれは霊夢に届く前に集束すると消える。

「――――!?」

「悪いね馬鹿烏、私も忘れちゃ困るよ!」

 萃香が横から空を殴り飛ばして追撃をかけるために地を蹴る。

「……………!」

 制御棒を萃香に向けて放つが萃香は霧散して避けた。

「私に当たり判定なんてあってないものさ!」

 背後に出てくると鬼自慢の怪力で殴り付けて地に堕とした。

「……それ、弾幕ごっこでやったら反則だから気を付けなさいよ」

「はいはい」

 霊夢の小言を聞き流して空にのし掛かる。

「さて、まずはこいつをどうするか………」

「……とりあえずこの馬鹿からは放射能を抜かせないと……」

「ふん、ぶっ飛ばして霊夢が夢想封印撃って終わりでしょ。あいつが正気に戻れば放射能はどうにかなる」

「まぁ私にはそういうのは全然分からないから……とにかく目の前の妖怪をぶっ倒すまでよ」

「おー怖い怖いッ!」

 起き上がろうとしていた空を踏みつけて地に伏せさせた。

「お前、少し暴れすぎだ。大人しく出来ないのかい?」

「――――――」

「萃香退きなさい、私がケリをつけてやるわ。正々堂々サシでね!」

「はいはい」

 やれやれといった様子で足をどかせると空が一気に宙に舞い、それを霊夢が追う。

「せいぜい頑張んなさい。ただし、遊んでられる時間はないと思いなさい」

「―――――!」

 咆哮を上げて直線的な弾幕を放つが当たり判定が小さい霊夢には当たらない。

 針を取り出して空を向けて投げ付けるが全て制御棒により防がれる。

「ハッ、さすがにこれだけじゃ無理なようねッ!」

 急加速して接近を試みる。それを察した空は辺りに弾幕を張るが無意味だった。

「夢符〈二重結界〉」

「――――!」

 周りに結界が張られて閉じ込められる。すぐさま空が破ろうと制御棒の先端に弾を集束させる。だがそれが霊夢の狙いだった。結界は所詮空の弾幕を止めさせるためだけのダミーであり、本命は別にあった。

「散りなさい」

 滞空三角飛びで空の背後を取る。

 霊力を高めると一気に放った。

「霊符〈夢想封印〉」

 光輝く七色の陰陽玉が飛び回り、全てが空に直撃した。

「…………―――――」

 制御棒を盾にするが皹が入ると音を立てて砕けた。さすがの空も耐えきれずに大きく身体が吹き飛び、地霊殿の屋根に落下した。

「………しばらくは大人しくしてなさい。馬鹿烏」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 目を開けるとまず、何故ここにいるのか分からなかった。確か間欠泉センター最深部で仕事をしていて………。

「……あれ、私なにして………」

「やーっと正気に戻ったわね八咫烏。早く放射能を除いてちょうだい」

「放射能………?」

「アンタが馬鹿やってここの温度が馬鹿みたいに高くなってんのよ。今度は私が見てるから安心してやりなさい」

「……?」

「とにかく、最深部に溜まった放射能の駆除と地下の温度調節。これだけはやりなさい、今すぐ」

「え、いや、あの」

「いいから」

「………はい」

 霊夢の気迫に負けて空は何が何だか分からずに首を傾げながらため息をついた。

「それとだけど」

「?」

「アンタ……………後で橙矢に礼でも言っておきなさい」

「東雲橙矢?」

「………あいつがいなかったらアンタは旧都を破壊してたかもしれないんだから。ま、橙矢の行動も褒められたものじゃないのだけれど」

 苦笑いして肩を竦める。

「………東雲橙矢はここにはいないの?」

「何言ってんのよ。アンタが瀕死に追い込ませたんじゃない。……どうせ地霊殿で大人しくさせるんでしょ」

「…………………」

「とにかく、アンタはやることをやりなさい」

「横暴」

「ん?」

「な、なんでもないです……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 哨戒をしていた椛は何度目になるかわからないため息を吐いた。それを心配そうに水蓮が見ている。

「……隊長」

「分かってます………分かってますよ」

「……少し休んだらどう?気休め程度にさ」

「いえ、大丈夫ですよ。隊長である私が休むわけにはいきません」

「真面目すぎるのも程々にね」

「…………」

「確かに東雲君が心配なのは分かるよ。けどさ、彼はボク達が思ってる以上にタフだ。それにそんな姿東雲君に見られたら笑われるよ?」

「…………そう、ですね」

 ここは水蓮の言葉に甘えようかな、と思った瞬間、下の方から一匹の白狼天狗が椛と水蓮に向けて駆けてきた。

「い、犬走隊長!」

「……どうしました?侵入者ですか?」

「いえ……あの、地下の使いからこのようなものを預かりまして……。これを犬走隊長にと」

 そういう者の手には一枚の手紙が。

「私に、ですか?……わざわざありがとうございます。しかと受け取りました」

 では、と戻っていく白狼天狗を横目に椛と水蓮は互いに顔を見合わせる。

「………嫌な予感しかしないのですが」

「まぁまぁ……とりあえず見てみれば?」

「……そうですね」

 水蓮の言うままに手紙を広げて見てみる。

「…………………」

「………隊長?なんて書いてあったの?」

「………――――――――」

 何も言わない椛の顔を覗き込むと瞳孔を開いている椛が。

「た、隊長……?」

「……水蓮さんしばらく留守にします後はよろしくお願いします」

 一切言葉を切らさずに言うと水蓮の返答を聞かずに駆け出した。

「え、ちょっ、隊長!」

 止めようとするもののすでに遅く椛の姿が消えた後だった。

「…………何だってんだよ」

 落ちている手紙を拾って見てみると水蓮は目を細めた。

 

 

 

 

 

 

 

 


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