東方空雲華~白狼天狗の頁~   作:船長は活動停止

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第三十一話 爆符

 

 

 

 

 

 

 

 

 旧都の建物の屋根に跳び移りながら橙矢は地霊殿へと向かっていた。

 特に痛みは感じないが血が出る感覚だけはハッキリとしていた。

「これじゃあ地霊殿に着く前に死ぬぞ……」

 傷口を押さえながらも足を止めることなく真っ直ぐに地霊殿を目指す。一切他のことに目もくれずに。

「頼むから俺が行くまで暴れてくれるなよ星熊さん」

 恐らく他の者が聞けば自分のことを棚に上げるな、と言われそうだが今の橙矢にとってどうでもいいことだった。

「伊吹さんの麻酔の効果がいつまで続くか分からんが……そう長くはもたんだろ」

 足をさらに強化させて一気に跳躍する。

(俺がどうなろうと知ったことか。ただ……椛に害が及びそうな火種は全て潰す)

 急に目の前に高い建物が出てくるが刀を抜いて突き刺すと身体を縦に回転して上りきると足をかけて跳ぶ。

 地に滑りながら着地して勢いを殺さずに駆け出すと地霊殿が見えた。

「さとり達がいなければいいんだがな……」

 地霊殿の前で止まる。耳を澄ませるが何も聞こえなかった。

「……まだ星熊さんはいるよう……だ――――」

 と、不意に扉がぶち破られて勇儀が突っ込んできた。

「は――――?」

 反応できずに飛んできた勇儀と激突して後方に吹っ飛ばされた。

「……………痛い」

 勇儀の下敷きになりながら呟くがそれは誰の耳にも届かなかった。

「………?星熊さん?星熊さん、ちょっとどいてください」

 身体を揺らして名前を呼ぶがまったく反応がなかった。

「…………………」

 まさかと思い勇儀をどかしてみると橙矢ほど、ではないが傷だらけで所々に火傷の後がある。

「…………星熊さんでも駄目……なのかよ」

 何処まで暴れれば気が済むんだと半ば呆れながら立ち上がると地霊殿へ一歩、また一歩と歩みを進める。

「……次の獲物は俺か、はたまた烏か。白黒つけようじゃねぇか」

 外開きになっている扉を地霊殿内へと蹴り飛ばす。

「第三ラウンドと行こうぜ馬鹿烏!」

 間欠泉センターの最深部に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たどり着いた橙矢の目には破壊し尽くされている最深部の光景が。もはや見る影すらなかった。

「………こりゃあ酷いな」

 ただ何かあるとすれば、ここに空がいないことだろうか。

「……地霊殿内を嗅ぎ回ってるのか?」

(だとしたら面倒だな……もし向こうが俺の存在に気付いているなら尚更のこと。最悪奇襲を受けてそのままお陀仏だぞ……)

 ただでさえ重傷の身体にこれ以上の損傷を与えてしまうとそれこそ死ぬ。

「慎重に行くべきか………」

 ため息をつきながら振り返り――――

 

 

 

 

 探していた者の顔が目の前に迫っていた。

 

 

 

 

「――――――ッ!」

 慌てて刀を盾にするように構えると折れそうになるほどの衝撃が刀を通して伝わり、吹き飛ぶ。

(マズイ、この先は確か……!)

 最深部には放射能が溜まるに溜まっている。橙矢は今まさにそこに突っ込んでいる形になっていた。

「それは冗談でもやめろよ!?」

 床に刀を突き刺して無理矢理止まり、反動で空目掛けて駆け出す。

「中々悪い性格してるじゃねぇか!」

 目の前で空、ではなく横の壁に跳ぶとさらに壁を蹴って通り過ぎるとそのまま空との距離を離しにかかる。

「鬼さんこちら!」

「――――――――」

 恐らく言葉に反応したのだろうか橙矢に向けて滑空してくる。

「いいぞ、そのまま来い……!」

 激突する、寸前に刀を真下に突き刺して身体を浮かした。

「乗車券は持ってないけど特急で頼むぞ!」

 空の背中に乗ると翼を掴んで地に叩き付けた。

「脱線させて悪いな」

 離れた瞬間激昂した空が橙矢の顔を掴んで壁に投げ付けた。抵抗できずに壁に打ち付けられた橙矢は続くように顔面に制御棒を突き付けられる。

「ったくこっちは麻酔打ってまで来てるんだぞ!?少しくらい手を抜けよ……っと!」

 顔を避けさせると制御棒から弾幕が放たれて壁を破壊してその衝撃で橙矢を奥へと吹き飛ばした。

「手厳しいな……」

 地を転がりながら距離を開けて息を整える。

「だからっつって黙ってやられるわけにはいかねぇよな!」

 飛び掛かって制御棒を横へ蹴り飛ばして胸ぐらを掴むと引き寄せる。次いで強化した足をかけると思いっきり押しやった。

「――――――――」

 さすがの空も後退して翼を広げて宙へと舞い上がる。

「宙はてめぇだけの領じゃねぇぞ!」

 追うように壁を蹴って登ると空に向けて跳んで刀を振り抜いた。

 斬ッ、と音がすると空の制御棒が僅かに欠ける。

「チッ、掠っただけ―――――!」

 着地してすぐ廊下の奥へと跳んでひとつの部屋に逃げ込む。

「―――――」

 追うように邪魔になっている壁を壊しながら部屋に突撃する。

 入ってきた空を迎えたのは強化した足を振り抜く光景だった。

「ッラァ!」

 しかしさすがと言うべきか上半身を仰け反らせて避けた。あらかじめ予測していたのか橙矢は向かい側の壁に張り付いて跳ぶと後ろから空を羽交い締めにする。

「ッ、どうだ!放してみろよ……!」

「―――、―――――!」

 橙矢を振り落とさんと激しく暴れるが指先を強化させて掴んでいるため放れることはなかった。

「――――――」

 振り落とせないことが分かったのか背中から壁に飛んで背中ごと橙矢を叩き付けた。

「………!」

 片腕を放して翼を掴んで引っ張る。そこでバランスを崩して平衡感覚を失わせる。

「堕ちやがれ馬鹿烏!」

 だが空もやられっぱなしではなく地に堕ちる寸前に捻って橙矢を地に落とさせた。

「ガ……フッ!?」

 舌打ちして蹴り上げると回転しながら蹴り上げた空を蹴り飛ばした。

「――――!」

 切り返すと銃口を橙矢へと突き付ける。がすぐに壁を蹴って範囲から逃れながらも空に迫る。

「簡単に殺れると思うなよ!」

 制御棒を足で地に押さえると刀を振り抜いて浅くであるが空を初めて裂いた。

「――――!」

 刀を返す勢いで振り上げるが制御棒で弾かれながらも弾かれた方へ回って蹴る。苦悶の声を上げながらも耐えた空は足を掴んで床に組伏せ、銃口を橙矢に突きつけた。

「ッ、さすがにこれは規定範囲外だろ――――――」

 一瞬で弾が凝縮すると橙矢の腹に貫通した。

「―――――――アアアアァァァァァァ!」

 耐えきれずにいつぶりになるだろうか絶叫を上げてもがくが一向に振りほどけない。

「ァ……ア……!」

 腕が折れること覚悟で強化するとほどいた。骨が軋むがなんとか折れはしなかった。

「少しは……加減しろ……っての……!」

 痙攣しながらも立ち上がるが、左腕で殴り跳ばされてから制御棒を構えて妖力を込めた。

爆符〈ペタフレア〉

 壁や床を破壊しながら巨大な核融合を付与した弾を放つ。

「ちょ、それは洒落にならねぇよ馬鹿!」

 床に着くと同時に全力で後ろに身を投げ出す。だがそれだけでは範囲からは出られない。

「くそ!どれだけでかいの撃てば気が済むんだ………って……!」

 そこで巨大な弾の進行方向に旧都があることに気が付く。

(おいおい、こんなものが旧都に着弾してみろ………大惨事なんてレベルじゃ片付かねぇぞ!)

 すぐ逃げという考えを捨てて腕を限界まで強化させる。

(今の俺で止められるか!?少なくともあと俺並、俺以上のやつがいないと無理だぞ……!)

 いや、なりふり構ってる場合ではない。橙矢が止めなければ旧都はまた壊滅状態になるのだ。しかも弾が爆発すれば上にある妖怪の山にも多少の被害が出る。それはなんとしても避けたい。

(霊夢は何してやがる……!間違いなく異変だろ!………いや、他人に頼ることはやめだ)

 大きく息を吸うと

「フッ――――――!」

強化してない腕を強化した腕に添えて弾を受け止めた。

「………!」

 触れた瞬間手の皮が剥けて筋肉が露出する。出てくる血も一気に蒸発して消える。

「グ……!?」

 指先に強化を集中すると後退されるが受け止めることはやめない。

「っだこの……!」

 強化している上から妖力を込めてさらに強化する。

「何処まで続くか分からんが耐えろよポンコツ………!」

 妖力を込めたところでようやく拮抗するぐらいまでは持ち込んだが妖力や能力には限度がある。 

「ッ……!止まりやがれデカブツがッ!」

 強化をしてない方の腕で刀を抜くと突き刺す――――

 

 

 

 

 

 

――――――橙矢の視界が真っ赤に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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