東方空雲華~白狼天狗の頁~   作:船長は活動停止

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第二十四話 仙人様

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旧都に着くなり辺りから厳しい視線が突き刺さる。紛れもない、鬼達の視線だ。だが襲ってくるつもりはないらしい。

「まぁ……一応は安心か」

「そこの白狼天狗。旧都に何のようだ」

 だが着くとすぐに一匹の鬼に呼び止められる。

「………仕事ですよ」

「………嘘はついてないようだな」

「嘘をついて何になるんですかこの状況で」

「……確かにそうだな。一応、仕事の内容を聞いても?」

「星熊さんと萃香さんに妖怪の山の現状を伝える、ただそれだけです」

「ふん、ならとっとと済ませて帰ることだな」

「はいはい」

 適当に受け流すと旧都へ踏み入る。

 だがそこで違和感が生じる。

「……………?」

 それが何かまだ分からないまま歩き出す。

 鬼は通り過ぎると稀に橙矢に方を見るが特に反応することなく素通りする。

「………やめだやめ、仕事に専念しよう」

 気にしても何もならないと自分に言い聞かせて辺りを見渡す。特に地底だからと言って思ってたより変なところはない。

「居酒屋に飯屋に居酒屋に………人里に酒屋が増えたみたいな感じだな。まぁ……酒は飲まないから辛いな」

 酒の強い天狗になろうとも苦手なものは苦手なのだ。仕方無い。仕方無いんだ。

「いやぁ、前回は散々だったからな。なんか新鮮だ」

 前回というが、かれこれ早六ヶ月も前の話。その時は鬼の殆どを相手取り、さらに鬼の筆頭である勇儀や萃香とやり合った。もうそんなこと二度と嫌だが。

「……地霊殿にも顔を出しとこうかな」

 悟り妖怪である古明地姉妹とそのペット達が凄むところ。

「だとしたら紅魔館以来だよな。……懐かしいもんだ」

「……あれ、そこにいるのは東雲じゃないかい?」

 ふと橙矢を呼ぶ声がする。そちらに視線を向けると瓢箪を片手にする一対の角を生やした少女と一本の角を生やした女性が橙矢に歩んできていた。

「星熊さん、それに伊吹さん」

「やぁ、しばらく見ないうちに随分と変わったじゃないか。そのなりは白狼天狗ってところかい?」

「えぇまぁ。最後に会ったのは俺が人間だった頃ですよね」

「そうかもね。してなんだい、お前さんが白狼天狗になるなんて」

「……色々とあったんですよ」

「そうかい。それで、何のようだ?」

「あぁそうでした。今回はお二人に話があって来たんです」

「私達にかい?珍しいね。それは東雲橙矢としての話かい?それとも白狼天狗としての話?」

「一応白狼天狗としての話です」

「ふぅん、それで話っていうのは?」

「妖怪の山の現状を」

「ん?あーそのことね。もうそんな時期になったのか」

「……………先日、鬼に襲撃を受けましたが、何とか立て直しています」

「…………………鬼の襲撃?」

「えぇ、ご存知では?」

「……………東雲ちょっと場所を移そう。ここじゃ他の奴等に聞かれる」

「………えぇ、分かりました」

 橙矢が頷くと鬼の二人はある場所へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人が来たのは比較的鬼が少ない居酒屋だった。

「さて、ここなら聞かれることはない。それでさっきの話の続きなんだが……」

「えぇ、ハッキリ言いますと」

 とそこで刀を少し抜く。

「どうして鬼が山を襲撃したか、というのを聞きたく馳せ参じましてね」

「お?やるのか?」

 宣戦布告と受け取ったのか勇儀が立ち上がる。だがそれを萃香が止めた。

「落ち着きなよ勇儀。今はそんなことどうだっていい。………東雲、その話は本当かい?」

 萃香が勇儀を座らせてその後に視線を橙矢に向ける。

「……えぇまぁ」

「……そうか、ならハッキリ言うが私達は何も知らない。それにその報も受けてない」

「……………」

「鬼は嘘が大嫌いだ。それはお前も知ってるだろ?」

 確かに、鬼は嘘に敏感でさらに嘘が嫌いだ。それが地下に潜った原因のひとつでもある。

「………分かりました、信じましょう。ですがだとしたら余計に不自然ですね。鬼の四天王とも呼ばれる貴女達に許可なしで妖怪の山を襲撃するなんて」

「さてね、私にも分かりかねるさ。東雲、悪いけど私達からは何も言えない」

「そうですか。なら仕方無いですね」

「ん、いいのかい?」

「いいですよ別に。貴女達が知らないと言うのならそうなのでしょう」

「ふぅん、物分かりが随分と良くなったね。話がしやすいよ」

「人は時に進化する生き物です。と言いたいところですが進化し過ぎて白狼天狗になりましたが」

 少し気が抜けたのか苦笑いしてその場の空気を和ごす。だが鬼の二人は険しい表情を浮かべる。

「……………私達に許可なしで外に出る馬鹿がいるなんてね。勇儀、これを信じれるかい?」

「まさか、いくらなんでもそんな馬鹿はいない、と思ってたけど」

「単なる暴動だとまだ納得出来るよ。けどねぇ、それ以外となると………」

「……………」

「………私達以上の干渉力を働かせることの出来る者……かな」

「地底で貴女達より上の方が?」

「考えられるとしたら鬼神長辺りだな。それ以外は考えられない」

「だとしたら萃香。それはマズイんじゃないのか?」

「確かにね。なんで今更だと思うけど……恐らく暇潰しだろう」

「……そんなんで襲われたってのか?」

「東雲、気持ちは分かるが抑えてくれ。いくらお前が怒ったところで何か出来るわけじゃない。殺されるぞ」

「だが一言くらいは言わないと気が済まない」

「殺されるぞ」

「知ったことかよ」

「……………どうしても引けないのか?」

「当たり前だ」

「じゃあ………力づくでも止めさせてもらうよ」

 勇儀が双眸を鋭くし、橙矢もそれに応える。

 

 

 

 

 

「―――――そこまでにしておきなさい」

 

 

 

 

 

 

 急に入ってきた言葉によって止められた。

「「…………」」

 二人が声のした方を向くと左腕を包帯で巻いている女性が佇んでいた。

「………華扇」

 勇儀が構えを解いて女性、茨木華扇の名を呼んだ。

「貴方達、何を騒いでいるのですか。ここは地底であろうと店の中。他の方の迷惑になります」

「珍しいじゃないか華扇。アンタが地底にいるなんて」

「ちょっとある噂を聞きまして。確かめに」

「噂?」

 おうむ返しに聞く橙矢に気付いたのか不審そうに首を傾げた。

「ん……。あら、貴方………御山の天狗よね?なんでこんな地底にいるのかしら?」

「以下省略」

「そう、説明する必要はないってことね。まぁ大体は予測できますが」

「…………鬼の襲撃」

「やっぱりご存知でしたか」

「実際被害に遭ってますから」

「そのことは鬼の一部ではすでに噂になってました。尤も、信じる者は少なかったですが。普通に考えてあり得ませんよね。鬼が天狗に全滅させられる、なんて話は」

「だがそれは事実だ」

「知ってますよ。否が応でも信じなければいけない。それが事実なのですから。………どうやら今回の暴動を起こしたのは全員下っ端の鬼達らしいです」

「………なんだ、鬼にも上下関係があるんですか?」

「そりゃあ私や萃香みたいな鬼の四天王があるんだ。上下くらいはある」

「そういうことです。他の鬼達には適当に説明しておきますので貴方はもう帰ってもいいですよ。さて、私もそろそろ……」

 華扇がそう言って店から出ようとすると勇儀がその腕を掴んだ。

「まぁまぁ待ちなよ華扇。せっかく会ったんだ。付き合ってもらうよ」

「は?」

「……………」

 橙矢は無言で華扇に合掌をして店を後にした。それからすぐ後に華扇の悲鳴が聞こえたが何も聞こえてないように歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の後、橙矢は帰ることはせずにさらに地底の奥へと進んでいた。

 目指すは地霊殿。

 鬼とすれ違う度に避けられている感じがする。まぁ致し方ないことだと思うが。

「地霊殿に行くのは二回目だよな。……あの時はフランが色々とやらかしてくれたから綺麗な地霊殿を見るのははじめてか」

 前回来たときはフランの手によって半壊状態だったのでちゃんとした地霊殿は今回で初となる。

「まぁちゃんと再建したって言うし……」

 何も心配することはない、と言い聞かせて足を早めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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では次回までバイバイです。

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