東方空雲華~白狼天狗の頁~   作:船長は活動停止

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九話の伏線、ようやく明けます。

橙矢君の描いてみました

【挿絵表示】

腕が黒いのは中にインナーを着ているからです。

ではではどうぞ




第十七話 久方の蓬莱人

 

 

 

 

 

 

 

 神社を出た橙矢はそのまま天狗以外の何者かの気配を感じて門へと向かっていた。

 夜には門番は立っていない。ので何処からでも入りたい放題である。もちろんそんなことをするのは死にたがりの妖怪だけだが。

 門の前で侵入者らしき物影を見付けるとその前に降り立つ。

「おい、ここはすでに妖怪の山だ。しかしもこんな夜に立ち歩くなんて無用心だな。妖怪に襲われてもしらねぇぞ」

 物影を見ると少しだけだが目を見開く。だがそれでも続けた。

「……アンタは運が良いな。俺じゃなくて他の白狼天狗に見付かってたら色々と面倒なことになる。最悪殺されるかもしれん」

「……それは私のことを知ってて言ってるのか?」

 もんぺが特徴的な白髪の女性は橙矢に対して友好的な笑みを向ける。

「………さぁ、知らんな。第一に俺とお前は初対面だろ?」

 藤原妹紅。それが彼女の名だった。人間の頃に世話になった一人であり、叢雲の異変を解決に導いた貢献者の一人。

「お前が白狼天狗になってからは初対面だな橙矢。………すっかり天狗の一員だな」

 生えた尻尾や耳を見ながら苦笑いする。

「…………ふん、それよりなんでお前ここに来た。こんな時間に来るのは自殺行為と同じだぞ」

「私は死にやしないよ。お前は分かってるだろ?」

「まぁな。さて………山に何か用か?」

「山にはないさ。私が用があるのはお前だよ橙矢」

「俺に?」

「あぁそうだ。お前がどうやっているか気になってね。それで慧音に聞いて橙矢がこの山で元気にしてるって。だから来たんだ」

「あー、この間のあれか」

「慧音もつれないよな。私も一緒に連れていってくれれば良かったのに」

 拗ねたように口を尖らせる妹紅を呆れてため息をついた。

「お前はあの時医者の姫様と殺り合っていたそうじゃないか。仕方ないと言えば仕方ないだろ」

「まぁ………そうだけどさ………なぁ橙矢、今更だけどさ。……後悔は」

「してねぇよ」

「……そうか」

「まぁ天狗に成ってから苦労の毎日だけど。……そんな新鮮な日も悪くないけどな」

「……………」

「まぁ大分落ち着いてきた頃だしな。近々里に行こうと思ってる」

「ッ!ほんとか!」

「あぁ、先生にもそう言われたしな。妖怪目線からの授業も悪くないだろって」

「それは良いことを聞いたな。それでいつやるんだ?」

「まだ決まったわけじゃないけどな。詳細はまた後日ってやつだ」

「じゃあ里に戻ったら慧音に聞かないとな」

「そうだな。聞いてみるといいさ。さて、用事が済んだならもう帰ってくれるか。ここにいたら白狼天狗に捕まっちまう。今は夜が更けてるから見付かりにくいと思うが……椛に捕まるぞ。お前も、俺も」

「……橙矢も?それってどういう………」

「……ん、バレたみたいだな」

 何かに気が付いたように橙矢が振り返ると一匹の白狼天狗が橙矢の背後に着地した。

「橙矢さん!ようやく見付けましたよ!」

 白狼天狗は橙矢の目の前まで来ると睨み付けた。

「思ったより早かったじゃないか椛。正直もう少しかかるかと思ったぞ」

「橙矢さんは見付けやすいですからね」

「さすが山のテレグノシス」

「……褒められている気がしませんね」

「まさか、俺は正直な感想を言ったまでだぞ。素直に受け取れよ」

「………まぁ橙矢さんがそう言うならそうなんでしょう」

「にしてもお前ここにいてもいいのか?上への報告とかやることはあるはずだぞ」

「あいにくと今日は何もすることはありません。貴方を追うことに集中できました」

「よりによって今日かよ……」

「いいですか。橙矢さんがいないうちに何かあったらどうするおつもりですか」

「俺がいなくたって支障はきたさねぇよ」

「あのですねぇ……橙矢さんと同等の者達なんてそうそういないですよ」

「それは言い過ぎだ。だったらお前と同じレベルの奴等がどれだけいるか。片手くらいのもんだぞ。隊長殿」

「橙矢さんはちゃんとやっていれば私より上の位に就くことは容易なはずですよ」

「そういうこと言ってんじゃねぇんだよ」

「貴方はそうやっていつも自分を下に見て………」

「それに大層な位なんざいらねぇよ。俺が何処かの隊の長になったとして俺がそいつらをまとめられるかと言ったら頷ける自信はない。……だったらお前の下でやっていた方がよっぽど楽だ」

「橙矢さん………」

「悪いが俺は人の上に立つのは嫌いでね。だからといって下に見られるのも嫌いだ」

「橙矢さん。貴方は一体何が言いたいんですか?」

「さぁどうだろうな。さっきの言葉のままだと俺はどの隊にも属さない、と言っているのと同じだか俺はこうしてお前の隊にいる」

「つまり………?」

「おいおい、まだ分かんねぇかよ、お前なら気付くと思ってたんだが……」

「分かりませんよ」

「ま、分からないならそれでいいさ。その方が面白いしな」

 ニヒルな笑みを作ると妹紅に向き直る。

「悪いな妹紅、これまでだ。これからこいつの説教を聞かなきゃならんからな」

「………あまり苛めてやるなよ橙矢」

「分かってるよ。苛めるのはお嬢様をおぜう化させる時だっての」

 橙矢がまだ幻想入りした時の頃。橙矢は紅魔館の執事として、そして紅魔館の家族の一人として働いていた。その時の主人であるレミリア・スカーレットのことは今でも当時の名残が消えずに未だにお嬢様、と呼んでいる。

「お前は………ほんと性格悪いよな」

「ハッ、よく言われるよ」

「だったら自重しろよ。知らず知らずのうちに敵を作ることになるぞ?」

「あぁ大丈夫大丈夫。そんな時は……」

 ビキビキと口の端が鳴るまでに三日月に歪めた。

「返り討ちに遭わせるまでだ」

「へ、へぇ………そう」

 夜間なのにも関わらず冷や汗を流しながら退き気味の笑みを作った。

「とにかくだ。近いうちに里には行くからよ。慧音先生に聞いておいてくれ」

「………分かった。じゃあ……また今度な」

「あいよ。……行くか椛」

「はい。……では妹紅さん。失礼します」

「はいさ、じゃあね」

 妹紅が片手を上げると橙矢が椛に並んでから応える。

「夜道は暗いから気を付けろよ。……つってもお前にこの言葉は野暮だな」

「私をだれだと思ってる?伊達に自警団をやってるだけあるよ」

 一瞬だけ威嚇するように焔を巻き上げる。

「私は自分よりお前のことが心配だな橙矢」

「俺は大丈夫だよ。天狗がいるからな。って言ったらお前もだな」

「あぁ、私には慧音や里の奴等がいるからな」

「そろそろ切り上げるとするか。このままじゃいつまででも話しちまう」

 踵を返すと山の奥へと足を動き出した。

「…………」

 チラとだけ妹紅に振り向くと何を思ったか橙矢は足を強化して駆け出した。

「ッ!橙矢さん!?」

「ちょっとした用事だ。待ってな」

 速度を上げると一気に跳び上がる。木々から飛び出て橙矢の視界に妹紅が映る。

「………………」

「………………」

 微かに笑みを浮かべるとそのまま落下してすぐに木々に視界が遮られて妹紅の姿が消える。

「…………もう大丈夫だ。時間取らせたな」

 椛の前に着地すると再び歩き出す。

「何してたんですか?」

「アイツがちゃんと帰ったか気になってな。それだけだ」

「それで、どうでした?」

「心配いらなかったな。アイツの言う通りだ。心配が過ぎた」

「もういいですか?」

 椛の問いに頷いて答えると歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………橙矢さん。ちょっといいですか」

 十分くらい歩いた頃だろうか。椛がふと橙矢に言葉をかける。

「ん、どうかしたのか?」

「……………白狼天狗の仕事には地底へ山の現状を報告する、というものがあり、それは代々白狼天狗と成ったばかりの者達がやる、というしきたりがあります。だから橙矢さん」

「……地底へ行けと、そういうことだな」

「……えぇ、そういうことです。……事が事の後なので………」

「ふぅん?それで、俺はいつくらいに行けばいいんだ?」

「少しだけ時間はあります。三日後、それが行われます」

「三日後ねぇ。思ったより時間がねぇな。いやはや、それまでに鬼達が頭冷やしてくれてたらいいんだが」

 やれやれと心底からため息を吐いて肩を落とした。

「……気の毒ですが我慢してください。それもこれも全て貴方が白狼天狗になったのに因がありますから」

「分かってるよんなこと。別に後悔なんざしちゃいない。こうしてお前と歩けるんだからな」

「………それなら良かったです」

 それからの帰路は、二人とも一言も発することはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、評価お待ちしております。

では次回までバイバイです。

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