水蓮は烏天狗の本陣に着くなり声を張り上げた。
「報告します!山に………鬼が襲撃してきました!」
水蓮の声に驚いたのかはたまたその言葉の内容に驚愕したのか、数秒の間沈黙が続いた。
「……お、鬼だと!?何で鬼が……!?」
「…………分かりません」
本当は分かっているだがそれを今、烏天狗の前で言うのは更なる混乱を招いてしまう。殺ったのは自身ではないが橙矢と知ってしまったら最後、この混乱が片付いた後に橙矢が最悪殺されてしまうかもしれない。
「とにかくだ、いくら鬼といえどこの山への……烏天狗の本陣までの侵入は阻止しろ!白狼天狗は……」
「はい、すでに犬走隊長をはじめとした者達が相対しております」
「………ならなるべく穏便に済ませるようにしろ。伊吹様や星熊様は」
「おりません。どうやら鬼の中でも下っ端に部類する者達かと」
「………どういうつもりだ……?とりあえず準備が整い次第我々烏天狗も動く。それまでは何とか白狼天狗で抑えてくれ!」
「御意」
水蓮は短く承諾すると踵を返すと山を下っていった。
「鬼……!何で今更………!」
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鬼を殴り飛ばした橙矢は追撃とばかりに距離を詰めようとするがもう一匹の鬼が横から橙矢に突撃する。
「来るんだったら死角から来やがれ馬鹿が!」
急停止すると肩に手を置くと足を宙に浮かせてその後ろにいた鬼を蹴り飛ばした。続いて肩に手を置いている鬼に刀を突き刺す。そして足をかけると蹴って鬼から刀を抜いて着地した。
「…………こんなもんかよ」
刀に付いた血を払って構える。
「手加減してくれるのは助かるが……本気で来いよ。でなきゃ………あっという間に散るぞ?」
瞬間橙矢が鬼の脇を通り様に胴を薙いで真っ二つに裂いた。
「………!?」
「だから本気で来いって言ってんだろうが」
「おのれ、よくも我が同胞を……!」
「おいおい、先に吹っ掛けてきたのはそっちじゃねぇか。何勝手に人様のせいにしてくれてんだ。ッざけんじゃねぇぞ」
齢十八歳とは言えないほどの鋭い口調に思わず鬼達どころか味方の白狼天狗ですら怯んだ。
「お前らの事なんざ知ったことか。俺達天狗からしてみればどうだっていいんだ」
「貴様、同胞をその手にかけておきながらその毅然とした態度はなんだ!」
「……………何を勘違いしているんだ?俺は毅然としていられるほどの余裕は持ち合わせていない」
「ふざけるのもいい加減にしろよ……!」
「それはこっちの台詞だ」
足を斬って崩れさせると心臓に刀を刺した。
「………生憎と俺は加減が分からないもんでね。死にたくなきゃ全力で来な」
残っている鬼達に刀の先を向ける。
「………俺一人くらいなんて事ないだろ。いいから掛かってこい。全員蹴散らしてやる」
言い終えると一匹の鬼が飛び上がり、もう一匹が真っ直ぐ橙矢に駆け出してくる。
「挟撃か、それを悪くねぇ…………が」
刀の峰で落下してくる鬼の拳を受け止めて、鞘で真っ直ぐ来た鬼を殴り飛ばした。
そこから鞘を返す流れで鞘の先で残りの鬼の顎を下から突き上げた。
「――――――!」
鬼は軽く吹っ飛んで地に倒れた。
「………こんなもんかよ」
倒れている鬼に近付くと頭を掴んで上げた。
「力が無い方が悪いのさ。この世の中ではな。力が無ければ護るもんも護れない。だから俺は無くした。………テメェ等みたく快楽で人を殺すような奴等のせいでな!」
「や、やめ――――」
地に叩き付けると顔が潰れて血が吹き出てくる。
「………今更やめれたらあんな異変起こしてねぇよ」
頭が付いてない鬼の死体を投げ捨てると残りの鬼に視線を向けた。
「ひ………!」
「さっきまでの威勢はどうした?所詮は勢いだけの輩か?」
挑発的に言うと鬼は憤怒の意を込めて橙矢を睨み付けるが恐怖の方が勝っているのか一歩二歩と下がる。
「……………」
心底呆れたようなため息をついて歩み寄る。
「呆れた。それでも鬼かよお前」
「橙矢さん!」
刀を振りかぶると聞き覚えのある声がして手を止めた。
「………椛、もう言ってきたのか?」
「はい、何とか伝えておきました。……破られた北以外の門は破られてないようです。どうやら北から入り、そこからバラけたものかと」
「……………なるほどね、分かった。一応ここらの鬼共は片付けておいた。後は―――」
「―――――」
橙矢が倒れている鬼に背を向けた直後鬼が跳ね起きて橙矢に拳を放った。が、それは空振りに終わり、代わりに鬼の眉間に刀が刺さっていた。
「………お前の処理だけだな」
刀を抜くと蹴り飛ばして鞘に収めた。
「………さて椛、ここら一帯は終わったぞ。後は他の奴等を待つだけだ」
「そうですね。………ですが両方ともかなり押され気味です。恐らくこのまま行けば全滅………かと」
「………なんだよ、そんなに鬼の奴等は数が多いのか?」
「……いえ、ただ……相性が悪すぎるのです」
「どういう意味だそれ」
「……今は助太刀に行きましょう。ここにいては時間の無駄です。橙矢さんはあちらを、私は反対側へ行きます」
「……分かった。………お前は頼むから死んでくれるなよ。もし危なくなったら俺の方へ逃げてこい。最悪一旦引いて体勢を立て直す」
「それはこちらの台詞ですよ」
「……ハッ、そうだな。頼りにしてるぞ、隊長」
「―――ここに残っている白狼天狗に告ぐ!半々に分かれ東西で苦戦している者達へ助太刀に行く!橙矢さんか私を筆頭に散れ!」
椛が叫ぶと素早い動きで左右に散っていき、その場に橙矢と椛が残された。
「御武運を」
「………………あぁ」
橙矢も足を強化するとその場から消えた。
「………そちらは頼みましたよ橙矢さん」
ひとつ息を吐くと眼孔を鋭くした。
▼
白狼天狗と鬼の集団を見付けると即座に飛び上がり上空からの奇襲を仕掛ける。
腕を振り上げて強化すると振り下ろして―――
「ッ!?」
寸前に横から何者かに吹き飛ばされて地に転がった。
「ゲホッ!ゴホ……!」
あまりに急な不意打ちだったので頭が混乱していた。
「東雲橙矢!」
「大丈夫だ!それより早く援護してやれ!」
「自分のことは後回しか?随分と余裕だな」
橙矢の前に大柄の鬼が着地する。すぐに橙矢は奴が先程自身をを吹き飛ばした者だと見当付けた。
「やっぱり情けねぇな天狗はよぉ!」
拳を振り下ろす、と同時に橙矢は刀を掴んで膝を回転して斬り裂いた。
「ぐ―――!?」
膝から崩れ落ちた鬼を上段から刀を叩き付けて真っ二つに斬り落とした。
「あんま俺達のことを馬鹿にすんなよ」
蹴り飛ばして視界から消すと刀をその場で上段から振り下ろした。すると直線上に斬撃が飛んでいき、鬼達を斬り裂いていく。
「お前等が相手にしてんのは御山の天狗だ。………死ぬ覚悟で来いよ」
刀を地に突き刺すと妖力を解放する。それに伴い橙矢を中心に衝撃波が発生して辺り一帯に広がって白狼天狗、鬼関係無く吹っ飛んでいく。
「まぁどうせ死んで地獄へ行くんだ。覚悟なんざいらねぇか。俺直々に送ってやるよ!」
橙矢がもう一度刀を振り抜くと暴風と言っては足りないほどの風が鬼に叩き付けられた。
「ガ……!?」
為す術なく吹き飛ばされた鬼は宙を舞う。その一匹一匹に斬撃を飛ばして直撃させた。
「脆いものよ」
刀を返して鞘に収めると鬼が次々と墜落した。
「……粗方ここは終わったか。じゃあ椛のところへ………」
すると橙矢の前に同じ隊の水蓮が現れた。
「…………水蓮?」
「東雲橙矢!今すぐにボクと隊長のところへ来てくれ!」
「は?どうしたんだよ」
「いいから!隊長以外が全滅寸前なんだよ!このままじゃ……隊長一人だけになって孤立無援になる!その前に君とボクとで隊長と合流する!」
「…………分かった。すぐに行く」
「じゃあボクに付いてきて!ここからは少し離れているから」
「あぁ、そのつもりだ」
頷くと水蓮が駆けてそれを追うように橙矢も駆け出した。
考査週間になったので次回の更新は遅れるかもです。
感想、評価お待ちしております。
では次回までバイバイです。