橙矢と椛は山の麓にある山へ侵入するための門へと来ていた。
「………意外とでかいんだな」
見上げると五メートル近くの巨大な門が。
「普通の人はこの門を見ただけで入る気を無くします。ですから山に侵入する人間はほぼこの門ではない何処からか入っている、ということになります」
「………ふぅん、色々と考えてんだな」
「それでも外の世界の科学力には白旗です」
「………そうだな、外の世界にゃあ自動で開く扉が主流だからな」
「確か……せんさぁ、というものを使っているんでしたっけ?」
「センサーな。あながち間違ってはいないな。けど俺はそっち方面は疎いから分からん。河童にでも聞いとけ」
「……橙矢さんにも分からないものがあるんですね」
「おいおい、俺が全知だと思ったか?残念でした、俺はそこまで才はねぇよ」
「全知ほどあるとは思ってませんが……」
「とりあえず俺にも分からないものくらいあるんだ」
「そうですよね。……まぁその話は置いておきましょう。まずは門番にでも軽く挨拶でもしておきましょうか」
門を軽く開けると門番にらしき白狼天狗が二匹いた。その内の一匹が椛に気が付いて近付いてくる。
「ん………あ、犬走さん。お疲れ様です。如何なさいました?」
「いえ、ちょっとした見回りです。気になさらないでください。それより何か変わったことは?」
「いえ、特にありません。いつも通りですよ」
「そうですか。では引き続きよろしくお願いします」
「はい、犬走さんも見回りお気を付けて」
椛が手を振るとその白狼天狗も振り返してきた。
「…………さて、もうここはいいですね」
「じゃあ次に行くか。……えぇと次は………」
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特に異常はなく、難なく見回りは終わった。椛が言うには逆に異常がある方がおかしいとのこと。そりゃそうだ。
見回りが終わる頃にはすでに日が上に来ていた。
「橙矢さん、ちょうどお昼時ですし休憩にしませんか?」
「休憩に?まぁいいが」
「では集会場へ向かいましょうか。隊員の皆さんも集まってくる頃だと思いますし」
「………何かあるのか?」
「特に何かあるわけではないのですが、一応正午の報告を」
「それって俺も参加しなきゃ……いけないよな」
「当然です。貴方は私の隊員なのですから」
「はいはい、分かってますよ隊長」
「分かってるならそれでいいです。とにかく、単独行動は禁止ですからね」
「んなこと重々承知だっての。耳にたこが出来るほど聞き飽きた」
「それほど貴方に言っても聞かないからですよ」
「おいおい、それはねぇぞ。ちゃんと聞いている時だってある。例えば………」
「――――ここにいたのか東雲橙矢」
二人の前に一匹の白狼天狗が現れた。水蓮とは別の椛の隊に属する者だった。
「お疲れ様です、隊長」
「はい、お疲れ様です。してどうしました?何やら橙矢さんに用事があるようですが……」
「あぁそうでした。東雲橙矢、お前に客が来てるぞ。南の門で待たせてある。すぐに向かえ」
「客?俺なんかに?」
まず脳内に浮かぶは昨日自身を弄り倒した緑髪のお姉様。
「……幽香じゃねぇよな」
「橙矢さん?幽香さんと何か?」
「え、あ、いや……何でもない。……すぐに行くよ」
昨日の事がバレたら何かと不味い。なんせ椛に一言も言わずに山の外へ出たのだ。間違いなく何処へ油を売っていたのかを聞かれるに違いない。足を南の門へと向けると歩いていった。
「…………さ、隊長行きましょう」
橙矢の姿が見えなくなった後、隊員が静かに言うと椛はそれに小さく頷いた。
「そうですね。皆さんを待たせるわけには行きません。……橙矢さんは……まぁ後で来るでしょうし」
▼
「ここか」
門の上に乗ると先程挨拶を交わした比較的橙矢に友好的な者達の前に青を基調とした服を着た女性が佇んでいた。
「………先生?どうしてこちらに?」
「ん?お前は…………東雲か!」
「えぇまぁ……白狼天狗になってから他の者達とは区別がつきませんよね」
「にしても風見幽香から聞いたぞ。お前が生きていると」
「幽香が先生に?」
「あぁ、今日彼女が里の花屋から出たところでバッタリと会ってな。少し話したらお前の話題が出たから」
「……そうですか。……あれ」
と、そこで何か違和感を感じる。
「先生。妹紅とは一緒じゃないんですか?」
「妹紅か?あいつなら今日は永遠亭に行っている」
「それで、俺に何か用なんですよね?」
「もちろんだ。じゃなかったらこんなところまで足を運ばない」
「………どんな御用で?」
「あぁ、ちょっと頼み事でな。妖怪目線からの授業をしてほしいんだ」
「まぁいいですけど……椛の許可を取ってからで」
「あの白狼天狗がどうかしたのか?」
「一応俺の上司なんですよ。だから椛に許可を取らないと堂々と外へは出れません」
「意外とそこは気にするんだな」
お前らしくない、と苦笑いされて橙矢は返す言葉を失う。
「まったくその通りですよ。椛曰く自由奔放で唯我独尊な貴方は何処行ったんだ、と言われましたよ」
「違いないな。それで東雲、さっきのことは?」
「教師の件なら承りますよ。暇をもて余していたところです。それくらいなら椛も承諾してくれるでしょう。尤も、当日にはオプションが付いてくると思いますが」
「そうか。ありがとう、助かるよ」
「礼ならいいですよ別に。たまたま俺が暇だっただけで都合が良かっただけですよ。それで詳細は?」
「そちらが良ければこっちが勝手に決めさせてもらうよ。日程については後にこちらから連絡する。だからってすぐじゃないから安心しろ」
「はいはい」
「にしてもお前が生きているなら烏天狗がすぐに駆け付けて新聞を作って号外として配ってるはずなんだが……」
「ん……射命丸さんとは白狼天狗に成ってから一度も会ってないな」
「………そうか、だったら納得だ。いずれにせよ見付かるのは時間の問題だな」
「えぇそうですね。その時は………プライバシーを守るよう言い聞かせます」
「守ると思うか?あの方が」
「いえ、まったく思いませんが」
肩を竦めて苦笑いすると慧音が笑む。
「じゃあ私はこれで失礼するよ。お前が生きていると分かっただけでここに来た甲斐があったもんだからな」
「そうですか。では帰り気を付けてくださいね。……先生なら心配無用でしょうが」
「………あぁ、そうだな。気持ちだけ受け取るとするよ」
橙矢に背を向けると歩き出す。
「………先生」
「ん?」
「妹紅のことを……よろしく頼みますね」
「ふっ、私を誰だと思っている。お前よりも妹紅との付き合いは長いんだ。任せておけ」
「………そうでしたね」
再び歩き出してその姿が消えると橙矢も踵を返した。すると門番が人懐っこい笑みをする。
「東雲さん挨拶は済みました?」
「あぁ、終わったよ。……俺も戻るとするかね」
「お疲れさまです」
「お疲れさん。午後も頑張れよ」
手をあげると跳び跳ねて門の上に乗って山の中へ再び入る。
「さて、また戻らなきゃな………」
なるべく早めに戻った方がいいかと足を強化させると駆け出す。瞬間
「ッ!?」
地が揺れて足を取られて転んだ。
「なん………?」
起き上がらせると見渡した。すると目の前に水蓮が降り立った。
「ここにいたのか東雲!たった今北の門が何者かに破られた!急いで向かえ!」
「……………は?破られただぁ?」
「だからそうだと言ってるんだよ!いいから早く!隊長達も向かってるから!」
「あ、あぁ……!」
水蓮に促されて足を再び強化させると山の反対側へと駆け出していった。
慧音先生男前
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では次回までバイバイです。