Muv-Luv〜wing of white steel〜   作:lancer008

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第八十三話

 

地上で死闘が繰り広げられる中、地下でも死闘が繰り広げられていた。

 

白銀「後方から総数5万を超えるBETAが接近!」

 

セイバー2「先行している国連軍機から緊急通信、広間にて数万のBETAを確認、現在交戦中!」

 

状況は最悪だった。

BETAは突入部隊が主広間に到達すると同時に数十万を超える数で挟撃した。

 

伊藤「セイバー1からヴァルキリー1へ、後ろはセイバー隊が受け持つ、そちらは第1隔壁を突破することを優先してくれ。」

 

伊隅「ヴァルキリー1、了解!」

 

セイバー隊はガウォーク形態で後方から迫りつつあるBETA群を迎撃した。

 

伊藤「セイバー2、何かいい案はあるか?」

 

セイバー2「反応弾を使って天井を崩落させましょう。そうすればある程度の時間を稼げますし弾薬の消費を抑えられます。」

 

伊藤「その案でいこう。セイバー1からヴァルキリー1へ、突入部隊並びにA-04が第1隔壁を突破次第、全反応弾を使って主広間の入口部分を崩落させる。」

 

伊隅「ヴァルキリー1、了解。こちらは第1隔壁を直ぐにでも閉じられるように準備しておきます。」

 

伊藤「頼む。」

 

セイバー隊は全ての兵装をフル活用し攻撃した。今までとは比べようが無いほどのBETAの攻勢に飲み込まれそうになりながらも必死に迎撃した。後に生還したセイバー隊の1人は「あの戦闘を再現するのは嫌だし、もう二度と御免だ。」と語っている。

 

伊隅「ヴァルキリー1からセイバー1へ、第1隔壁を通過!」

 

伊藤「了解!セイバー全機、主広間入口天井部に向けて全反応弾発射!」

 

全8発の反応弾が放たれた。

 

伊藤「全機、第1隔壁まで急げ!」

 

セイバー隊はガウォーク形態からファイター形態に移行し第1隔壁に向かった。第1隔壁は閉鎖が始まっており、徐々に通路は狭くなってきていた。

 

伊藤「全機、針に糸を通せ!」

 

何とか機体一機分のスペースを通過しセイバー隊は第1隔壁を突破した。既に第2隔壁の開放作業も進んでおりもう少しで凄乃皇が通過出来るところまで広がっていた。

 

伊藤「全機、残弾を確認しろ!この隔壁が突破されない限り、敵の増援は来ない!」

 

セイバー3「隊長、11時方向より振動を感知!」

 

伊藤「何⁉︎距離は?」

 

セイバー3「もう殆どありま………。」

 

セイバー3が言い終わる前に壁が崩壊し母艦級が姿を現した。

 

伊藤「セイバー1から全部隊へ、戦闘を継続出来る奴は、全員後方にて迎撃しろ!但し、A-02とA-01は第2隔壁の突破を最優先に!」

 

母艦級から要塞級を含む多数のBETAが出現し、部隊は一息つく間もなく戦闘を再開した。

既に国連軍第3次降下作戦部隊はハイヴ突入前に比べ半数以上が撃墜され、米国軍は手で数えられるほどしか残っていなかった。セイバー隊に関しては機体に大きな損傷は無いものの残弾数は5割を切っていた。

 

セイバー3「開放率70%。」

 

伊藤「もう少しだ踏ん張れ!」

 

第2隔壁が開放されるまで残り5分。

BETAを迎撃している者たちはやけに長く感じた。ひたすら敵に照準を合し、引き金を引き続けるこの状況に焦燥感が出始めていた。

 

伊隅「ヴァルキリー1よりセイバー1へ、A-02に搭載されているS-11弾頭ミサイルを使って母艦級に対して波状攻撃を行います。すぐに爆発範囲やり退避を。」

 

伊藤「それは脱出用のミサイルだぞ。」

 

伊隅「ですがこの状況を打破するにはこれしか無いと思います。何もしなければこの防衛戦はすぐに瓦解するでしょう。それに他にも脱出用に多数の硬隔貫通誘導弾頭弾を搭載してあります。」

 

伊藤「………わかった。セイバー1から各機へ、A-02からS-11が発射される全機すぐに退避しろ!」

 

A-02から2回に分けて数発ずつのS-11弾頭ミサイルが母艦級に向けて飛翔した。1回目は母艦級周辺にいたBETAに当たり炸裂した。2回目も周辺にいたBETAに炸裂し、2発が母艦級に命中した。完全に破壊することは出来なかったものの母艦級の口を半壊させることには成功した。

 

伊藤「やはり2発ではあの程度か。」

 

セイバー2「ですが排出される量は減りました。」

 

伊隅「ヴァルキリー1から全機へ、第2隔壁開放完了!」

 

伊藤「もう一息だ!BETAを一体たりとも通すな!」

 

この時、誰もが予想だにしてなかった事が起きた。

凄乃皇が第2隔壁を通ると勝手に隔壁が閉じ始めた。

 

セイバー3「隊長、隔壁が⁉︎」

 

伊藤は第2隔壁を見た。唖然としながらも直ぐに指示を出した。

 

伊藤「セイバー1からヴァルキリーズへ閉鎖作業はこちらで行うA-02の元へ向かえ!ルースター1、米軍機を連れてA-02の元へ!」

 

「ルースター1からセイバー1へ、それは出来ない。」

 

伊藤「何故だ!」

 

「こちらはもうボロボロだ。ついて行っても足手纏いになるだけ。」

 

伊藤は国連軍と米軍の衛士を見た。

 

伊藤「わかった。」

 

「殿は任せろ。必ず糞野郎をぶっ倒してこい。」

 

伊藤「ああ任せろ。お前らの分までぶん殴ってやるよ。」

 

伊藤とルースター1は互いに敬礼をし己の任務に戻った。

 

伊藤「セイバー各機へ、戦闘を離脱。A-02の元へと向かう。」

 

「「「了解。」」」

 

セイバー隊が第2隔壁通過後、程なくして隔壁が完全に閉鎖された。

 

「ルースター1から各機へ、そろそろ潮時だ。開閉装置を破壊する生き残っている者は集合しろ。」

 

開閉装置の周りに8機の戦術機が集まった。

そして一斉に自爆し開閉装置と周辺にいたBETAを完全に破壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凄乃皇が第2隔壁を通過した時点で地上では各部隊の離脱が開始された。

アクロススカイは強襲形態から要塞艦形態に戻った。まだ戦闘は続いてはいるもののこれ以上の陽動は必要無しと判断され、まともに動ける部隊以外はアクロススカイに着艦し離脱の準備を進めた。そんな中、1機が命令に逆らって発艦しようとしていた。

 

黒鉄「ランサー1、出るぞ!」

 

「黒鉄中佐、発進許可は出ていません!」

 

黒鉄「殿が居なければ、離脱なんて出来ない!少しでも時間を稼ぐ。全員何かに掴まってろ!」

 

黒鉄は跳躍ユニットを吹かして、戦闘へと戻っていった。

 

「艦橋、こちら誘導員です。現在、回収は60%。尚、黒鉄中佐が再度出撃されました。」

 

「何⁉︎回収を急がせろ!通信員、黒鉄中佐を呼び戻せ!」

 

黒鉄はアクロススカイからの通信を無視していた。眼科に広がるのは無数の生物と人型機械だったもの。どれが生きていて、どれが死んでいるのか分からなかった。

右手に74式長刀を持ち、左手には40mm突撃砲を持ってBETAの死骸を量産していった。ここでアクロススカイより通信が入り、部隊の回収が済んだとの事だった。

 

黒鉄「ランサー1からランサー2、最後の頼み聞けるか?」

 

ランサー2「何でしょうか?」

 

黒鉄「アーチャー1を連れて離脱しろ。もうお前らで最後だ。」

 

ランサー2「了解。アーチャー1に伝言は?」

 

黒鉄「そうだな………。」

 

黒鉄は戦闘を行いながら上総が乗るデルタプラスを見た。上総は防衛線の穴を埋める為、後方から前線に来ていた。その際、突撃級の攻撃を受けるも何とか戦闘を続けていた。だが攻撃時の衝撃により右脚が動かなくなっていたし上総自身も頭から血を流し意識が朦朧としていた。

 

黒鉄「約束守れなくてすまないと伝えてくれ。」

 

ランサー2「分かりました。」

 

黒鉄「頼むぞ。」

 

ランサー2は3と4、そして上総を連れアクロススカイに向かった。

 

黒鉄「もう迷惑かける訳にはいかないからな。」

 

黒鉄は気付いていた。

自身の変化に。

“n_i_t_r_o”を使用した度重なる戦闘は黒鉄の心を蝕み、自分自身を制御出来ない程までになっていた。

そして黒鉄はコンソールを操作し本来は封印されている筈の“n_i_t_r_o”を解除しリミッターを外した。

 

黒鉄「これで俺の旅も終わりだ。行くぞ………BETAども!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に突入部隊は第2隔壁を突破し、“あ号標的”に到達した。

 

セイバー2「あれが……、“あ号標的”……。」

 

伊藤「セイバー各機、警戒を怠るな。この場所にこいつだけというのはあり得ないからな。」

 

「「「了解!」」」 

 

伊藤は何かを感じとり、周囲を見渡した。

 

伊藤「(待ち伏せか。)セイバー1からヴァルキリー1へ、“あ号標的”を仕留めてくれ。こっちは別の相手する。」

 

伊隅が理由を聞こうとした時、レーダーに無数の反応が出た。“あ号標的”の左右に飛行級が数百体、出現した。

 

伊藤「セイバー1からセイバー全機へ、“あ号標的”左側を。俺は右側をやる。」

 

セイバー2「隊長、あの数を1人では無理です。」

 

伊藤「大丈夫だあ。あのくらい、あの時に比べればどうってことない。行くぞ!」

 

「「「了解!」」」

 

セイバー隊は飛行級に対し攻撃を開始した。

伊藤は飛行級の光線を回避するため、広範囲にマイクロミサイルを発射した。飛行級がマイクロミサイルを迎撃しようと光線を発射した瞬間を狙って飛行級の集団の背後に回った。そして装備されている全ての兵装で攻撃を始めた。次々に飛行級を倒していく。全ての弾薬を使い切ると言わんばかりに。

 

伊藤「セイバー1からセイバー2、状況は⁉︎」

 

セイバー2「残敵、残り20%!」

 

伊藤「こちらはもう終わる!」

 

セイバー2「了解!」

 

伊藤が飛行級を殲滅しセイバー2の元へ行こうとした時、A-02から変な通信が流れて来た。

 

「……発生……生命体………と……む。兵士級…………本………………せよ。」

 

伊藤「何だ?一体、誰が話している。」

 

伊藤はA-02の方を見た。するとあ号標的の2本の触手がA-02の胴体刺さっていた。そしてあ後標的は残っている内の1本で何かを吊るしていた。それは地上で戦っている筈の仲間の骸だった。

 

セイバー2「隊長、左翼飛行級の殲滅を完了。合流します。」

 

伊藤「弾薬はどのくらい残ってる?」

 

セイバー2「もってあと一回が限界です。」

 

伊藤「なら仲間を助けるぞ。」

 

伊藤はセイバー2を待つ事無く、あ号標的に向けて突撃した。

 

セイバー2「なっ⁉︎隊長!」

 

伊藤「セイバー全機、後方から援護!」

 

「「「了解!」」」

 

セイバー2、3、4もあ号標的に吊るされいる人物を見た。全員、言葉が出なかった。

 

伊藤「何でお前がここにいる、黒鉄!」

 

あ号標的によって吊るされていたのは黒鉄だった。

伊藤は近づけないでいた。あ号標的から多数の触手が縦横無尽に襲いかかってきていた。そこにA-02から通信が流れてきた。あ号標的はA-02の搭乗者である社 霞を使って伊藤に対して話し掛けてきた。

 

「この標本は最大級の災害である。人類が生命体だと言う証拠の提示を求む。」

 

伊藤「そんなの分かりきっている事だろう。それはこの世界で生きている全てが生命体だ。ここでお前と話している時点で俺の定義に合わせれば知的生命体と証明される。まあ、これは俺の定義であってお前たちの定義では無いがな。だがこれだけは言える。」

 

続けて

 

伊藤「俺たち人類は運命に抗う生命体だよ!」

 

伊藤はアサルトナイフを取り出してあ号標的に肉薄する。後方からセイバー隊がガンポットを使い援護する。

 

伊藤「黒鉄は返してもらうぞ!」

 

アサルトナイフで触手を斬り、黒鉄を回収した。同時に伊隅と速瀬が凄乃皇に刺さっていた触手を切断した。

 

伊隅「白銀!エネルギーをチャージしろ!ヴァルキリーズ、あ号標的に向かって撃ちまくれ!」

 

伊藤「セイバー隊、残っている弾薬を全て叩き込め!」

 

セイバー隊とA-01の一斉攻撃があ号標的を襲った。あ号標的は触手を使って反撃しようとするが既に殆どの触手が撃ち抜かれ使いものにならなくなっていた。

 

白銀「チャージ完了!撃てます!」

 

伊藤「全機、射線上より退避!」

 

白銀「人類の力を思い知れ!」

 

凄乃皇から荷電粒子砲が発射され、あ号標的は消滅した。

 

伊隅は部下にすぐに凄乃皇に搭載されている装甲連絡艇に乗るよう指示した。伊藤は黒鉄の遺体を伊隅に渡した。

搭乗が完了すると凄乃皇から硬隔貫通誘導弾頭弾が発射され天井を破壊、地上まで繋がる主縦坑への脱出ルートが確保され装甲連絡艇は飛び立った。セイバー隊もそれに続き飛び立っていった。

 


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