Muv-Luv〜wing of white steel〜   作:lancer008

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第六十七話

黒鉄と伊藤は休憩室で一息ついていた。壁面に設置されているモニターで今なお続いているシミュレータ戦闘を観戦していた。

 

黒鉄「流石に少しは出来るようになってきたか」

 

伊藤「1番進出しているのは真田教官くらいか。その下は他の隊長方かな」

 

黒鉄「ちょっと厳しくし過ぎたか?」

 

伊藤「あれぐらいで丁度いいだろう。俺ら的にはもっと上げたいがな」

 

黒鉄「それよりもいつから煙草を吸うようになったんだ?」

 

伊藤「いつからだろうな」

 

伊藤が吸い始めたのは明星作戦後からだ。死んだ部下から勧められていた事もあり吸い始めた。最初は気をまぎらわすためだった。それからというもの部下が死んでいくのと同時に吸う量も少しずつ増えていった。

 

黒鉄「程々にしとけよ」

 

伊藤「わかってるよ。上総の戦闘データ借りていってもいいか?」

 

黒鉄「横浜基地か?」

 

伊藤「ああ、あいつらだったらどこまで行くのか見てみたくてな」

 

黒鉄「いいよ。あいつらも俺たちと同じ特殊部隊のようなものだ。結果は後で報告してくれ、それと例の事も伝えとけよ」

 

伊藤「わかってるよ」

 

伊藤は静かに退室し入れ替わりで上総が入室してきた。上総は伊藤と2、3言話した後、黒鉄の正面に座った。何か言いたいことがあるのか上総の目は真っ直ぐ黒鉄を見ていた。

 

黒鉄「どうした?」

 

上総「本当にあのままの状態で戦闘に出すつもり?わたしの狙撃で上陸も出来ないまま全ての機体が海上で叩き落とされた。このままだと全滅するわよ」

 

黒鉄「………………」

 

上総「少し何か言ったらどう」

 

黒鉄「そうだな。早急に操縦技術、反射系を底上げしなければいけないな」

 

上総「それだけ。元デルタ大隊長がそれしか言えないの」

 

黒鉄「今はな」

 

上総「呆れた。アドバイスするような意見は出さないのかしら」

 

黒鉄「出さなくても大丈夫だよ。アドバイスしたってそれがそいつ自身に当てはまるかていうとそうでもない。最終的には自ずと答えを出す」

 

上総「戦場に“次は”という言葉はないのよ。生きるか死ぬのかのどっちらかよ」

 

黒鉄「だから今こうして訓練をしている。お前の方もいいのか?弾薬の消費が激しいぞ。折角、自分の部下も狙撃態勢に入っているんだ。お前だけが狙撃しては部隊の練度向上にはならねえぞ」

 

黒鉄は少し怒りを滲ませた。

上総は少し黙り込み、下を向いた。

 

黒鉄「(少し言い過ぎたか)なあ上総、昔のようにはなるなよ。この戦い孤独になったら負けだ。信頼できる仲間がいて初めて勝つことが出来る。全員が自分の役目を理解し自身の背中を預け合い戦闘に勝利し全員生き残るデルタはそういうところだ。自分だけ先走るな、皆と息を合わせろ」

 

上総「わかってるわよ。そんなこと………」

 

黒鉄「明日の午後から休みに入るんだが飲みに行かないか?一応、唯依とユウヤ、伊藤も呼んであるんだが」

 

上総「ちょ、ちょっと待って?休みって?」

 

黒鉄「ああそうか、告示はもう10分後だったな。統合軍は来週12月19日(水)まで休みに入る。まあガード隊は留守番だがな」

 

上総「それ大丈夫なの?」

 

黒鉄「大丈夫。こっちは他軍とは指揮系統が違うからな。それにこれが最後になるかもしれないからな」

 

上総「それって⁉︎」

 

上総は両手を机に付けたまま立ち上がった。

 

黒鉄「今、予想している通りだよ。俺の予想では来週以降、その前に家族と愛する人と会ってきてほしいんだよ」

 

上総はゆっくりと椅子に座った。

 

黒鉄「俺たちは先陣を切る部隊だ。死者は出るだろうな」

 

上総「そうね」

 

上総はゆっくりと黒鉄を見た。

 

黒鉄「どうした?」

 

上総「いえ、何でもないわ」

 

黒鉄「必ず帰ってくるよ。毎回、生きてるのか死んでるのか、わからない帰り方してるからな」

 

上総「ならお願いね。また泣くのは勘弁ですから」

 

黒鉄「了解した」

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、伊藤はブレイド隊に会うため基地を訪れていた。途中、道に迷い風間に迎えに来てもらっていた。

 

伊藤「すまない。迎えに来てもらって」

 

風間「構いません。むしろこうして会うのも久しぶりですね」

伊藤「そうだな。ところでそっちの状況はどうだ?」

 

風間「新人が入ったぐらいですかね。着きましたよ」

 

伊藤は部屋に入った。何やら連携の確認をしているようだったが少し言い争っていた。言い争っていたのは上丘と伊隅だった。いつもの事だろう、周りの者は呆れてるようだった。

 

伊隅「こちらにはこちらの戦い方があります!命令を無視して勝手に動かれては困ります!」

 

上丘「だがあの時、二手に別れなかったら全滅していた!」

 

両者の意見がぶつかり合う。

ブレイド2が伊藤に気付き近づいてきた。

 

ブレイド2「少佐どうしたんですか?」

 

伊藤「その前にそっちがどうしたんだだよ」

 

ブレイド2「毎度の事で、意見が合わないんです。シミュレータで全機被弾無しで戦闘終了なんですが上丘大尉の命令無視が多過ぎて、終いには何機か連れて行く始末で」

 

伊藤は溜息をつき頭を抱えた。

 

伊藤「(この忙しい時期に一体何やってるんだあの馬鹿は)ブレイド2、今すぐあの馬鹿をここに連れて来い。逃げようとしたらその場で拘束しても構わない」

 

ブレイド2「わ、わかりました」

 

ブレイド3とともに上丘の方へ向かっていった。上丘が伊藤に気付き驚いていた。上丘は伊藤の前に来て正座した。それから約20分間説教を受けた。

 

伊藤「伊隅大尉、これを」

 

伊隅「これは?」

 

伊藤「現在、我々が行なっている対重・光線級のシミュレータ戦闘のデータです。あの馬鹿にやらせてみたいのですがいいでしょうか?」

 

伊隅「構いません。私達も参加しても?」

 

伊藤「どうぞ、どうぞ」

 

上丘「少佐、相手の数は?」

 

伊藤「1機だ」

 

上丘「え⁉︎もしかしてですけど相手は?」

 

伊藤「流石だな。勘は鈍ってないようだな元デルタ大隊第1部隊長。相手はデルタ大隊第5部隊アーチャー隊」

 

上丘「最悪ですね」

 

伊隅「何が最悪なんですか?」

 

上丘「相手は統合軍最強の狙撃部隊長です。仕留められたのは一度のみです」

 

伊隅「狙撃なら回避していけば………」

 

上丘「無理だ。以前、ファング隊とともに模擬戦闘を行ったが視界に捉える前に全滅した」

 

伊隅「それは機動力が遅い機体が混ざっていたからではないんですか?」

 

上丘「それは関係無い。あの時は宇宙での戦闘ですので」

 

伊藤「まあ、一度やってみてくれ。俺はこれから帰ってもう一仕事やらなきゃいけないからな」

 

上丘「少佐、このデータに入っている結果は?」

 

伊藤「ここに来る前、行われたものだ。視認圏内に入る前に全ての機体が叩き落とされた。やっと今、半分くらい行けるようになってきたがな。上丘、後でデータを送ってくれ」

 

上丘「わかりました」

 

伊隅「風間、少佐を正面ゲートまで送ってやれ」

 

風間「わかりました。行きましょう少佐」

 

伊藤は風間とともに退室した。

 

伊藤「明日の夜、空いてるか?」

 

風間「ええ、大丈夫です」

 

伊藤「わかった。明日の夜7時くらいに迎えに行くから待っててくれ」

 

風間「わかりました」

 

伊藤は統合軍基地に戻った。

 


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