Muv-Luv〜wing of white steel〜   作:lancer008

60 / 91
第五十九話

伊藤は追手を退けようと機体の腕や脚を破壊していたが敵機はそれでも向かってきた。

 

伊藤「(さっさと退け!何故そこまでして向かってくる!)」

 

「セイバー1へ、これ以上は無理です。撃墜の許可を?」

 

伊藤「仕方ない許可する。但し、一撃で仕留めろ」

 

「了解」

 

セイバー隊が使用している機体はVF-25である。元々は伊藤と同じYF-29が配備予定だったがエンジンや部品の調達が困難になってきたため急遽、指揮官機用に配備予定だったVF-25が配備された。

このVF-25は個人のデータを元に性能が機体によって違っている。その為、他の者も乗れるがその機体の力を最大限まで発揮できない。

すると接近してきていた米軍のF-22も戦闘に加わり始め戦闘は一気に優勢になった。

 

伊藤「流石は対人を想定した、いや対人専用に作られた機体か。何故こうも共通の敵がありながら別々の道を歩もうとするんだろうな」

 

伊藤は多くの部下を失っている。

 

殆どがBETAに殺されたわけじゃなく人間に殺されている。

 

伊藤は怒りを覚えていた。

 

何故、人類の為に戦った仲間達が人類に殺されるんだろうかと。

 

伊藤は自身の怒りをほとんど表に出さず今も戦場で戦っている。共に戦っているのが仲間の仇だとしても。

 

伊藤「そこのF-22、指揮官機に言えもうすぐ面制圧が開始される。約20秒後には戦域から離脱する」

 

「わかった。伝える」

 

伊藤「セイバー3、離脱と同時にマイクロミサイルによる面制圧を開始する」

 

「セイバー3、了解」

 

伊藤達は離脱を開始した。その際、マイクロミサイルを発射し敵の動きを止める事に成功した。そして艦砲射撃の音が聞こえ敵機に降り注いだ。

 

伊藤「すまないな。これも戦争だ」

 

伊藤は言葉を残しその場を後にした。

 

 

伊藤「セイバー1からイージス1へ、護衛部隊が動いてないぞ。何かあったか?」

 

倉間「こちらイージス1、目標が"重度加速病"にかかったみたいです。その為、現在機体を停止させているということです」

 

伊藤「何を呑気に」

 

 

合流後

 

場にいたのは、国連軍、斯衛軍、米軍、統合軍である。その中で主に指揮官級の者たちが言い争っていた。

国連軍と斯衛軍は少し休ませる。米軍は精神安定剤"トリアゾラム"を投与する。そんな中、統合軍は周辺警戒を行いながら傍観していた。

そこに黒鉄率いるランサー隊が合流した。

 

黒鉄「状況は?」

 

伊藤「ご覧の有り様だ」

 

黒鉄「結構深刻か?」

 

伊藤「そうだ。話を聞くに結構無理をしていたようだ。クーデター発生日からほとんど休んでないそうだ」

 

黒鉄「健康管理も仕事だろうに気持ちはわからなくもないがな。少し混ざってくるから警戒頼む」

 

伊藤「了解」

 

黒鉄は言い争っている場へ通信を繋げた。

 

黒鉄「すいません、統合軍の黒鉄ですが」

 

黒鉄が発した言葉は喧騒によって掻き消された。今度は少し怒気を込めて発したところようやく気付いた。

 

???「何だね?」

 

黒鉄「統合軍の黒鉄と申します。かれこれ10分程話しておられますがいつ移動するんですか?」

 

⁇?「統合軍……?まあ、いい。さあ白銀訓練兵、トリアゾラムを投与するんだ」

 

神宮司「待って下さい。ウォーケン少佐、トリアゾラムは危険な副作用があります。ここは休息を取るのが一番なのでは?」

 

⁇?「そうだ。殿下に危険な薬を投与させていいはずがない。それに米軍の一介の部隊指揮官がそれを決めていいはずがなかろう」

 

神宮司「命令の再考を具申いたします」

 

ウォーケン「軍曹、君も確か日本人だったな」

 

神宮司「はい」

 

ウォーケン「君たちの将軍に対する忠誠、想いの深さには敬意を表する。君たちがそうであるのと同様に私も私の部下たちも祖国である米国に忠誠を誓った軍人だ。国民や国家の安全を守るための命令に従う。そしてこの作戦も任務である以上で全力を尽くす。だが、これだけは言わせてもらうぞ。この人類滅亡の危機に極東防衛の要衝たる自覚もなく無意味な内戦に突入し貴重な戦力や時間を浪費している愚かな国家、それが君たちの国、日本だ!その幼稚で下らない国のために私の部下が命を落とすことは絶対に我慢ならん!」

 

黒鉄「その言葉には俺も賛同する。今なお、前線では部下が戦闘を行なっているからな」

 

神宮司「中佐⁉︎」

 

黒鉄「だが、"幼稚で下らない国"という言葉は撤回してもらおう」

 

ウォーケン「中佐、言っている意味がわからんな。今、起きている状況こそがそれだというのがわからないのか」

 

黒鉄「あなたはこんな内戦ごときに部隊を投入してくるアメリカこそが"幼稚で下らない国"だと思わないのか」

 

ウォーケン「何だと?」

 

黒鉄「帝都防衛戦時にロクな援護もせず一方的に条約を破棄し撤退した国が今更来て、我が国の内戦に介入してくるとは何事か!それにあの艦隊からしてもっと別の任務を帯びている部隊があるはずだ。違うか、ウォーケン少佐!」

 

神宮司「黒鉄中佐、言い過ぎです。それは他国への挑発行為になります!」

 

ウォーケン「中佐、あなたは今ここでアメリカへ宣戦布告をしたいのか?」

 

黒鉄「それもいいかもな何ならあの時の続きをしようか、こっちは部下を殺されているからな」

 

場に静寂が訪れた。

もしこの場で黒鉄とウォーケンの戦闘が始まればまた、日米大戦が始まるからだ。神宮司が何とかせねばと口を開こうとした時、ウォーケンが溜息を漏らした。

 

ウォーケン「はあ〜〜。時間稼ぎはもう十分だろう。全く見事に乗せられてしまったものだ。中佐、あの時とは一体いつのことですか?」

 

黒鉄「知らないとなるとやはりあれは特務部隊だったんですね。まあ、詳しい話は後ほど話ますよ。さあて、これ以上の長距離移動は無理そうですね。すいませんが目的地を変えませんか?」

 

ウォーケン「一体、どこに?」

 

黒鉄「洋上に我が空母艦隊が展開しています。そこまで行けばあとは航路で横浜基地に行けますがそれでいいですか?」

 

ウォーケン「了解した」

 

神宮司「わかりました。月詠中尉は?」

 

月詠「任せます。ただ、殿下の容態を最優先に考えます」

 

黒鉄「それはわかっています。では移動を開始します。セイバー隊を先頭について来て下さい」

 

黒鉄が伊藤に先導を頼もうとした時、緊急アラームが鳴り、切迫した通信がイージス隊から入ってきた。

 

倉間「イージス1から統合軍機へ、未確認機接近!数不明!」

 

黒鉄「イージス1どうした⁉︎」

 

倉間「未確認大型機接近!IFF確認、帝国軍671航空輸送隊」

 

神宮司「671輸送隊⁉︎」

 

ウォーケン「どうした軍曹?」

 

月詠「少佐、671輸送隊は厚木基地所属の部隊です」

 

黒鉄が突然、伊藤に向けて叫んだ。

 

黒鉄「伊藤頼む!ランサー各機、戦闘用意!」

 

伊藤「セイバー全機行くぞ!」

 

黒鉄「全機、すぐに防衛形態になって下さい。最悪、死人が出る」

 

ウォーケン「黒鉄中佐どういうことだ?」

 

黒鉄「話してるのは後だ!敵の空挺が来るぞ!」

 

 

輸送機に向かっていたセイバー隊は、その手前で戦闘状態になっていた。輸送機に追従するF-3、約30機を相手に戦闘をしていた。既に蒼い炎も確認され劣勢に追い込まれつつあった。

 

伊藤「これ以上は無理か。一時撤退する黒鉄のところまで戻るぞ!」

 

「「「了解」」」

 

輸送機は全部で10機程で2機ずつ搭載されていたため総数は50を超えていた。黒鉄たち護衛部隊は完全に取り囲まれた。

クーデター側から全機に向けて通信が入った。

 

沙霧「国連軍指揮官に告ぐ、私は本土防衛軍帝都守備第1戦術機甲連隊所属沙霧 尚哉大尉である。直ちに戦闘行動を中止せよ。我々の目的は戦闘ではない、繰り返す…………」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。