Muv-Luv〜wing of white steel〜 作:lancer008
また、誰かに呼ばれた
今度は、人の気配がする
目を開けてみる
そこにいたのは共に戦った戦友だった
統合軍基地隣接軍事病院
唯依は、上総に頼まれ黒鉄の見舞いに来ていた。見舞いといっても花瓶に入っている花を取り替えたり主治医と話をするくらいだった。
花を取り替えようとベットを横切ると視線を感じた。出入口の方を見たが誰もいなかった。ふと黒鉄の方を見るとうっすらであるが目が開いていた。
唯依は一瞬、動けなかった。すぐに我に返り、
唯依「黒鉄、黒鉄聞こえる⁉︎」
唯依の声は室外にいた主治医まで聞こえた。
黒鉄が入院している部屋は個室だが、ICUに繋がっている。そのため、少しでも大きな声を出せば医師が来るようになっている。
「どうしましたか?」
唯依「黒鉄が………」
医師は顔を近づけ、
「黒鉄さん、私の声が聞こえますか。聞こえているのなら瞼を閉じて下さい」
黒鉄は、ゆっくりと瞼を閉じた。
もう一度、何かを確認しようと顔を近づけたところ、途切れ途切れではあるが黒鉄は低く小さな声で唸った。
「は…ず…し…て…く…れ…。く…ち…に…つ…い…て…る…の…を、た…の…む」
医師は唯依に向かって確認を取る。
「どうしますか?」
唯依「外しましょう。黒鉄は何かを伝えがっている」
「わかりました」
医師は、黒鉄の口から人工呼吸器を抜き、酸素マスクを被せた。
唯依は黒鉄に近づき、耳をすました。
黒鉄「唯依、俺を呼んだか?」
ほんの少し話すだけで息が切れた。
唯依「いいえ」
黒鉄「なら、あいつらは……何を…している?」
唯依「伊藤と上総なら現在、作戦行動中よ」
黒鉄「どこでだ?」
唯依「月よ」
黒鉄は目を見開いた。
黒鉄「今すぐ……、作戦を…中断しろ………」
唯依「なんで?」
黒鉄「あそこには………、新種がいる」
その時、廊下から走ってくる音がした。走って来たのは唯依の隊の側近だった。
「篁中尉、大変です!統合軍が月にて新種のBETAと交戦、現在、撤退中です」
唯依「被害の状況は?」
「幸い死者は出ていませが、重軽傷者が多数出ている模様」
黒鉄がまた、唸った。
黒鉄「あいつらと……通信が…出来るところに、連れて行け」
医師が
「それは無理です。あなたは約一月半も寝たきりだったのですから。体力が戻るまでは医師として許可出来ません」
黒鉄「なら、車椅子を……貸してくれ。忙ないと…あいつらが……死んでしまう。唯依頼む、連れていってくれ」
唯依「黒鉄を連れて行きます。通信出来るところもすぐ隣ですし」
「わかりました。準備をするので待っていて下さい」
アクロススカイ艦橋
撤退が始まって、数十分が経過していた。怪我人を優先して回収していたため、思うように進まなかった。今なお、殿部隊とデストロイド部隊は、戦闘を継続していた。一番数が多い、戦車級を優先に攻撃しながら大型BETAから出てくるBETAに対しても攻撃を行なっていた。
既に部隊内での総弾薬用が半分をきっていた。理由は、想定を大きく上回る量のBETAがいたことや、想定していた分の弾薬しか積んでこなかったからだ。既にモンスター隊の弾薬は、一割程しか残っていなかった。
艦長「回収を急がせよ」
「モンスター隊、数十分後には弾薬が切れます」
艦長「く、他の部隊は?」
「荷電粒子系の武器は、艦のエネルギーを使えばまだいけますがミサイルに関しては、もう四斉射ほどで殆ど使い切ります」
艦長「全部隊へ、連絡。モンスター隊の弾薬が無くなり次第、全隊撤収する」
「艦長、統合軍基地より通信が入っております」
艦長「こんな時になんだ!」
艦長は、通信に出て言葉を失った。
数分前、統合軍基地作戦指揮所
多くのものが固唾を飲んで見守っていた。途中までは優勢で多くの言葉が飛び交っていたが今は、全員が静かに見ていた。新種のBETAの登場により、劣勢に追い込まれ先程、撤退するという通信が入ったからだ。
そんな中、作戦指揮所の扉が勢いよく開け放たれた。
病人の様だった。途中までは車椅子に乗ってきたのだろう今は、肩を担がれたまま、通信席の方に向かっていった。この中で、知っている者はごく僅かだった。
「現在、作戦行動中です。今すぐ退出して下さい」
「よせ、通してやれ。少佐こちらへどうぞ」
軽い敬礼を交わした後、通信席へ向かっていった。
現在、アクロススカイ艦橋
艦長「少佐、ご無沙汰ですあります」
黒鉄「現状は、…聞いている。セイバー隊を……呼び戻せ」
艦長「何故です?」
黒鉄「その……艦には…奴を倒せる……兵器が…搭載されて………いる。今から……言うことは、絶対に…漏らすな」
艦長「わかりました」
艦長はヘッドセットをつけた。
黒鉄「兵器管理システムにアクセス。…………パスコード……※※※※※※※※※」
艦長は、言われた通りに操作パネルを操作すると兵器一覧に新しく兵器名が出ていた。補給部隊からも通信が入ってきていた。
「弾薬庫に見たこともない兵器が出現しました」
黒鉄「反応弾だ………。使用弾数は……4発、使い方は、伊藤と……整備長が分かる。必ず勝て」
黒鉄は通信を切り、椅子に深く座り酸素マスクを被った。
艦長「セイバー隊は?」
「今、着艦します」
艦長は伊藤への直通回線を開き、
艦長「伊藤少佐、反応弾を装備し再出撃せよ。使用弾数は、計4発のみです」
伊藤「わかりました。必ずあいつを倒します」
伊藤は通信を切り、セイバー隊各機へ、通信を行なった。伊藤からはだいたいの威力や性能を聞いていたためすぐに理解し、作戦を立てた。再度、アーマードパックや各種弾薬、推進剤の補給を済ませ出撃した。
伊藤「セイバー隊全機、大型BETAに対して攻撃を行う。距離1万になり次第、セイバー2から4まで反応弾発射、命中後、大型BETAの損傷状況を確認しながら再度攻撃に移る。セイバー1から他部隊へ、これより突撃を開始する。突撃と同時に援護射撃を求む。なお、大型BETAにはあまり近づくな」
セイバー隊は、突撃を開始し距離1万に近づいたところで反応弾を発射した。3発の反応弾がミサイルよりも遅いスピードで大型BETAに向かって行き命中した。大爆発が起こり付近にいたBETA群は消滅した。大型BETAはもうひと押してで絶命するところだった。体には大穴が開きそこから中にいるBETAが見えていた。閉じていた口が開いていた。そこに大量のビームやマイクロミサイルが殺到した。モンスター隊のレールガンも命中し中にいたBETA群は殆ど全滅し大型BETAの顔も吹き飛んでいた。
伊藤「セイバー1からセイバー全機へ、突入するぞ続け!」
「「「了解」」」
突入を開始した。特に邪魔される事なく反応炉に向かった。胴体の最後尾に反応炉があった。伊藤は反応弾を発射し即座に反転し離脱した。中でこれまでにないほどの爆発が起きた。おさまると地表に残っていたBETAが活動を停止した。その隙をつき、全部隊による一斉射撃で殲滅した。
「BETAの反応ありません」
「我々の勝利です!」
地表では多くの機体が上に向けてライフルを撃ち、雄叫びを上げていた。