最強のキャスター呼んだら最強の人形師がやって来た   作:雪希絵

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よ、ようやく書く時間ができました……

テストなんか嫌いだーーー!

課題なんか嫌いだーーー!


威力偵察へ

「すみませんでした」

 

両の手をつき、額をべったりと床につける。

 

俗に言う土下座である。

 

いや、正直これで許されるとは思っていない。

 

なにせ、わざとではないとはいえ、女の子の入浴直後に上半身裸でばったりしてしまったのだ。

 

殺されても文句は言えない。

 

だが、キャスターは何も言わない。

 

ただただ、無言で俺を見下ろすだけだ。

 

母さんと香は、ハラハラとしながらそんな俺たちを見ている。

 

特に、香は原因でもあるからか、若干涙目になってきている。

 

どれくらいそうしていただろうか。

 

不意に、キャスターがため息をつきながら立ち上がった。

 

「顔を上げて」

 

そう言うので、恐る恐る顔を上げると、相変わらずの無表情でこちらを見ていた。

 

ただ、なんとなく怒ってはいない気がする。

 

「事情はお母様と妹さんから聞いたわ。わざとじゃないのは分かったから、もういいわ」

 

どうやら、許してくれるらしい。

 

けど……。

 

(これで、いいのか……?)

 

いや、よくない。

 

このままじゃ、俺の気が収まらない。

 

昔のヤンキーじゃないが、ここはあの手で行こう。

 

「キャスター」

「なに?」

「俺を殴ってくれ。容赦はいらない」

「……は」

 

アホみたいな発言をする俺に、キャスターがキョトンとする。

 

「このままじゃ、気が収まらないんだ」

「……それはあなたの自己満足でしょう。許すかどうかは、私が決めることよ」

 

たしかに、その通りだ。

 

俺は殴られて、それで償いたいだけ。

 

「だったら、俺の自己満足に付き合ってくれよ」

 

立ち上がり、笑ってそう言う。

 

すると、キャスターは面食らったような顔をして、

 

「……分かったわ。じゃあ、遠慮なく」

 

と言って、右手を上げる。

 

「おう」

 

身構え、衝撃に備える。

 

直後、

 

バキッッッ……!!!

 

と、おおよそ張り手ではならないような音が左頬から響く。

 

「いっ……!?」

 

覚悟していたにも関わらず、床に派手に転がってしまう。

 

いや、本当に痛い。

 

キャスターとはいえ、やはりサーヴァントの筋力は伊達ではないということか……。

 

けど、別に立ち上がれないようなダメージじゃないし、問題ないだろう。

 

「これでいい?」

「……ああ。悪かった、変なことを頼んで」

「別に構わないわ。気が済んだのも確かだし」

「そっか」

 

どうやら、思い切り殴られたかいはあったらしい。

 

今度こそ、許してくれたようだ。

 

母さんと香の方を見ると、母さんはほっとした顔で微笑んでいた。

 

だが、香は慌てて救急箱を取ってきていた。

 

「お兄ちゃん!結構腫れてるよ!」

「えっ、マジ?」

 

……どうやら、思ったより重傷なようだ。

 

───────────────────

 

「はい、おしまい」

「おう、ありがと。いてて……」

 

香に治療してもらった部分を指で触ると、なかなかに痛い。

 

「もー、お兄ちゃんってば無茶して」

 

救急箱を片付けながら、香は頬を膨らませてそう言う。

 

なんか可愛いな、おい。

 

「仕方ないだろ。あれが最善だったんだ」

 

実際、あの後キャスターは俺に一言謝り、何事もなかったかのように本を読んでいる。

 

その端正な横顔からは、もう怒りは感じない。

 

……なんか俺、無表情のはずのキャスターの感情が読めるようになってるな。

 

マスターだからか?

 

「っていうかさ、お兄ちゃん」

 

片付けを終え、とてとて歩いて来た香がそう呼ぶ。

 

「ん?」

「それ、治さなくていいの?」

 

そう言って指差したのは、俺の左頬。

 

たしかに、治す手段はある。

 

けど、それは筋が違うだろう。

 

「いいよ。これはケジメだからな」

「……もう、お兄ちゃんは変なとこで真面目なんだから。そういうとこも好きだけど」

「そいつはどうも」

 

いつもの冗談に、お互い微笑む。

 

……冗談だよね?

 

よし、そうしておこう。

 

「母さん、カレーできた?」

 

強引に話題を転換するため、母さんに話しかける。

 

「今ちょうど出来たよー」

 

どうやらいいタイミングだったようだ。

 

「お兄ちゃん、口の中切れたりしてない?切れてたら超染みると思うけど」

「さすがにその状態でカツカレーに挑戦はしねえよ……」

 

やったらとんでもないドMだぞ。

 

「切れてないから安心しろって。さっさと食べよう」

「威力偵察するんだもんね。キャスターちゃん、こっちおいで」

 

母さんが手招きしながらそう言うと、キャスターは本を閉じて頷き、俺の正面に座った。

 

「じゃ、いただきます」

 

手を合わせ、食事が始まった。

 

───────────────────

 

「よし、準備完了。行こうか、キャスター」

「ええ」

 

準備といっても、俺の場合はせいぜいグローブと衣服の強化しかないのだが。

 

キャスターはいつの間に出したのか、黒い帽子と黒い外套を身につけている。

 

どうやらそれでいいようなので、家を出ることにした。

 

「お兄ちゃん、キャスターさん、いってらっしゃい」

「怪我しないようにね」

「ああ、いってきます」

「……いってきます」

 

家を出ると、外気が急速に身体を冷やしていく。

 

まさか、寒いから冬木なんて土地名になってるわけじゃないよなぁ……。

 

「……寒いな」

「そうね」

 

って言う割には寒くなさそうだな。

 

サーヴァントって寒さ感じるのか?

 

さすがに風邪は引かないだろうけど。

 

「とりあえず、森の方に行こう」

「そうね。そっちの方に、恐らくサーヴァントがいるわ」

「……それは好都合」

 

ついつい、口元が歪む。

 

森にいるなら、先程聞いたキャスターの能力が充分に活かせる。

 

屋敷から続く坂を降りると、すぐに住宅地に出る。

 

とはいっても、駅近くとは違って田舎だ。

 

そのため、普通に近くに森がある。

 

最初のサーヴァントがいたのは、その森の奥だった。

 

「……あれか」

 

何をしていたか知らないが、一組の男女がそこにはいた。

 

女の方は恐らく十代後半。

 

委員長タイプとでも言うのか、黒髪を三つ編みにし、眼鏡をかけた少女。

 

男の方は、かなり目立つ風貌だ。

 

金髪に整った顔立ちで、立ち姿だけでも人の目を引く。

 

キャスターによれば、男の方がサーヴァントらしい。

 

「作戦はどうするの」

「その前に確認したい。魔力の方はどうだ?充分に戦えるか?」

「充分過ぎるほどよ。あなたはどうやら、魔術師として相当に優秀なようね」

「お、おう、ありがとう……」

 

ストレートに褒められた……。

 

って喜んでる場合じゃないな。

 

起動(アクティブ)────」

 

魔術回路を起動。

 

両脚に宿る魔術回路が音を鳴らして動きだし、青白く輝く。

 

「さあ、開戦だ。援護を頼む」

「? 私が前衛じゃなくていいの?」

「俺の魔術には身体強化がある。とんでもないのじゃない限り、サーヴァントの相手は出来るさ」

「そう。なら、任せるわ」

「おう」

 

お互い頷き合い、偵察用に登っていた木から飛び降りた。

 

マンション4階分はある高さだが、派手な音が鳴るだけでダメージはない。

 

「!? マスター、下がって!」

「えっ!?う、うん!」

 

突然現れた俺たちに驚き、男の方が女を庇うように立つ。

 

(やっぱり、サーヴァントか!)

 

さらに、一瞬風が吹き荒れたかと思うと、次の瞬間には彼は白い甲冑に包まれていた。

 

完全に戦闘形態。

 

そして、今になってようやく分かった。

 

どうやら俺は、『とんでもないの』を引いてしまったらしい。

 

両手で細い何かを掴み、身体の右側に流すような構え。

 

俺の経験が告げている。

 

あいつは、『最優のサーヴァント』こと、セイバーのサーヴァントだ……!




時間を空けてしまったので、極力早く投稿します

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