最強のキャスター呼んだら最強の人形師がやって来た   作:雪希絵

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風邪が大分良くなって来ました

風邪の治りが元々遅いタイプなので、まだしばらく続きそうですが(^_^;


負けたくないから

その後の俺と青子さんは、ほぼ互角だった。

 

青子さんの魔弾は俺が残らず弾き返し。

 

俺の攻撃は青子さんが正面から迎え撃った。

 

(………けど、そろそろ限界……か?)

 

全身からとめどなく脂汗が流れる。

 

焼け付くほどに喉が痛い。

 

両脚など、もうとっくの昔に感覚が消えかけていた。

 

「……薫。もう限界でしょ?」

 

すると、唐突に青子さんがそう言った。

 

「なんのこ」

「隠しても無駄。明らかに動きが落ちてるでしょ」

「…………」

 

やっぱり無駄だったか。

 

というか、もう既に隠しきれてないしな。

 

「……言わないつもりだったけど、やっぱ言うわ。このままだと、間違いなく目の前で人がぶっ壊れるとこ見ることになるし」

 

髪をかきあげ、青子さんは続ける。

 

「ここはね、私が作った空間みたいなもんよ。確かにあんた達が寝てる間に引っ張り込みはしたけど、それでも現実の身体にダメージは残る。現実世界とそんな変わらないわよ」

 

だから、と一旦区切る。

 

「これが最後の忠告。少なくとも、そのファランクスだけはやめておきなさい。じゃないと、本当に死ぬわよ?」

 

静寂。

 

キャスターはどうやら気がついていたようで、無表情ながらも顔をやや俯き気味にしている。

 

たしかに、言われてみればそうだ。

 

魔術回路は問題なく使えるし、身体の動きもスムーズ過ぎる。

 

どうやら、青子さんの言ってることは本当らしい。

 

けど、

 

「だから、どうしました?」

 

そんなことは微塵も関係ない。

 

「……あっそう。それとも何?死ぬのが怖くないの、とかテンプレなこと聞いた方がいいわけ?」

「怖いですよ。当たり前じゃないですか」

 

はっきり答えると、青子さんは『は?』と言いたそうな顔をする。

 

「誰だって死ぬのは嫌ですし、怖いでしょう?けど……」

 

汗を拭き取り、不敵に笑う。

 

精一杯の強がりと虚勢を乗せて、言い放つ。

 

「あなたに負けるのは、もっと御免だ」

「………!」

 

後ろのキャスターがピクリと反応したのが分かる。

 

青子さんは呆気に取られた顔をし、すぐに、

 

「…………くっ、ふふ…っ」

 

下を向き、肩を震わせた。

 

「ふふっ……!あっはははははっ!」

 

そして、声を上げて笑い出した。

 

「あはははっ、はっ、ばっ、ばっかじゃないの!?ま、負けたくないからとか……本当に……!」

 

今度は俺が呆気に取られた。

 

なんだか、最初のイメージと違う。

 

行動こそ無茶苦茶だけど、色んな人生経験がそうさせるのか、大人の余裕のようなものを持っていた青子さん。

 

けれど、今笑ったところを見ると、なんだか大分幼いような。

 

ともすると、俺と同じくらいの女の子のように見える。

 

「あははは……はぁ、はぁ、はぁ……!あー、あんた面白いわ」

 

ひとしきり笑い、青子さんは屈託のない笑みを浮かべる。

 

「けど、気に入ったわ。『有珠のため〜』だとか、『死ぬのが怖いわけない〜』とか、そんな理由よりよっぽどいい」

 

そして、キャスターの方を指差し、

 

「負けず嫌いのあんたには、お似合いのマスターだわ。ねぇ?有珠」

「………そうね」

 

直後、キャスターの周りが爆ぜる。

 

全身のおびただしい数の魔術回路が光り輝き、その光が突き出された右腕に集中していく。

 

膨大な魔力が、キャスターの右腕に集中しているんだろう。

 

「……そういえば、私に初めて『薔薇の猟犬(ワンダースナッチ)』を使った時も、容赦なく叩き潰したかったからだったわね」

「痛い目にあわないと分からないからよ、青子は」

「ま、たしかにね。実際相当痛い目にあったし……あの時の有珠ってば、本当に負けたくないって顔してた」

「ええ、心からそう思ったわ」

「で、今のマスターもそう思ってると」

 

あはは、と軽く笑い、不敵な笑みを浮かべる。

 

「だったら、そりゃあ、目覚めるはずよね」

 

キャスターを中心に、霧が生まれる。

 

それは渦を巻き続け、徐々に形を定めていく。

 

鋭利な形の頭部と、長く伸びた首。

 

翼が生え、鉤爪のついた手が伸びる。

 

それを一言で表すなら。

 

「ドラゴン……?」

 

白いドラゴン。

 

そう言うのが、一番わかりやすい。

 

「『薔薇の猟犬(ワンダースナッチ)』」

「──────────ッッッッ!!!」

 

目の前に顕現した最後のグレートスリーは、声なき声で吠えた。




お読み頂きありがとうございました!

それでは、また来週お会いしましょう!

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