最強のキャスター呼んだら最強の人形師がやって来た 作:雪希絵
新しい特異点も来たことですし、やらなくてはいけないのはわかるのですが……
はあ、週休五日くらいになりませんかね……(´・ω・`)
「使えない……?何でだ?」
まず真っ先に、それが思いついた。
宝具とは、英霊の生前の逸話、印象に残るエピソードなどが形を成したものだ。
その性質上、基本的には武器や道具などが宝具になりやすい。
宝具は大抵は英霊一騎に一つか二つ。
キャスターこと『久遠寺有珠』は英霊でもとりわけ多い、四つの宝具を使うことが出来る。
真名が分からなくなったわけでもないのに、それがなんで使えないんだ?
「あんた、何言ってんの?あれだけ自由に操ってたじゃない」
青子さんが額に手を当て、呆れたように言う。
「グレートスリーでも最も攻撃力の高い、過去にうちのクソ姉貴の人形20体以上を貪り食った、あのプロイが使えない?どういうことよ?」
青子さんは既にキレ気味だ。
感情が高ぶっているせいなのか、魔力が周囲に溢れ出て、強烈な光を生み出している。
(……ん?なんで青子さんが怒るんだ?)
強力な宝具なら、解放しない方がいいはずだ。
勝負に勝つのなら、相手が不利な方がいいに決まっている。
(全力の相手に勝たないと気に入らないってタイプなのか?)
ダメだ、魔法使いの考えることはわからん……。
「貴女には関係ないわ、青子」
「あるわよ。現在進行形で戦ってんでしょうが」
図星を突かれたのか、キャスターが押し黙る。
「……キャスター?使えない理由の心当たりとかあるのか?」
「……ない………わけではないわ」
「どんな?」
「恐らく、宝具にまだ至ってないのかもしれないわ」
「宝具に至ってない?」
頭いっぱいに浮かぶクエスチョンマーク。
もう俺には何が何だかわからない。
脳筋魔術師の限界という事だろうか。
「ああ……なるほど。そういうこと」
対して、青子さんは納得したようにそう言って鼻を鳴らす。
「なら、このまま続けて無理やり呼び覚ますか……」
ポキポキと拳を鳴らして、青子さんがそう言う。
(容赦ないな、この人……!)
魔力切れだろうが、歯が立たない格下だろうが、容赦なく潰すつもりらしい。
しかし、ただで負けてやるのは性にあわない。
(ここが夢なら、無茶しても問題ないはずだ。だったら、切り札を切る……!)
「───
覚悟を決め、俺は詠唱を開始する。
「
キン……キン……と澄んだ音が鳴り、それに比例するかのように脚の痛みが増す。
(耐えろ……もってくれよ……俺の身体……!)
「
何をしているのかわかっていないのか、はたまた楽しんでいるだけなのか、青子さんは何もしない。
いや、恐らく後者だろう。
証拠に、目が明らかに楽しそうな色をしている。
(後悔すんなよ……!)
「
そう宣言した瞬間、まるで銃をリロードしたかのような音が響く。
そして、両脚の魔術回路が更に光り輝き、ギチギチと締め上げるように収縮した。
「
起動が終わった瞬間、俺は全力で地面を蹴った。
砂埃が舞い、大気に消えていく。
次の瞬間、
「!?」
驚く青子さんの顔に、俺は容赦なく蹴りを叩き込みにいった。
「しっ──!」
「やばっ………!」
危機を察知したのか、青子さんはまるでイナバウアーの如く回避。
「ちっ!」
舌打ちするが、これは計算内。
振り抜いた蹴りの勢いを利用し、すぐさまもう片方の脚で回し蹴りを放つ。
「こんの……!?」
青子さんは右手に魔力を込め、殴ることによってそれを防御。
「いっ……たぁ……!?」
どうにか弾きはしたが、青子さんはそう言って拳を左手で抑える。
その間に一歩飛び下がり、大地が抉れる程に踏み込んで加速。
胴体に膝蹴りを叩き込む。
「あんまり舐めないでよねッ───!」
その直前、青子さんは右手から放った魔弾をジェット噴射のように使い、蹴りを回避。
「とっとと寝なさい!」
光り輝く右手の魔術回路。
大砲のような音を響かせ、先程ついでのように放って来た魔弾とは、比べ物にならない魔弾が飛んでくる。
「せいやぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
気合い共に、俺はその魔弾を思い切り蹴る。
「嘘っ!?」
激しい青色の爆発。
それが晴れた時、俺は普通にその場に立っている。
「……あんた、まさか……!全魔力を、攻撃振ったの!?」
「………ご明察ですよ、青子さん」
『ファランクス』とは、俺の持つ魔術回路の全てを、攻撃力に振ったモードだ。
本来なら設定通りの働きしかしない魔術回路を強引に書き換え、相手を打撃した時の攻撃力一点に絞る。
そうすることで、ダメージと副効果としてスピードの向上が出来る。
「薫……っていったっけ?確かに大した攻撃力だけど、さっきまでの身体強化とダメージ分散はどこいったのよ」
「そんなもの、捨て置きましたよ」
「あんたバカ!?」
唐突に青子さんが叫んだ。
後ろを見ると、キャスターも非難するような目を向けている。
「それはつまり、脚以外は生身で私の魔弾を受けるって言ってるようなもんよ!?」
「……そうでもしないと、あなたには勝てないので」
そもそも夢の中だしな。
妙に痛みがリアルだけど。
「……はあぁぁぁ。まともな奴かと思ったら、やっぱぶっ飛んでるわ。主に思考が」
長いため息をついて肩を落とした後、青子さんは右手をこちらに向ける。
「いいわ。あんたの心意気に免じて、全力で迎え撃つ。覚悟しなさい」
そして、再びその手に魔力を流し込んだ。
お読み頂きありがとうございました!
それでは、また来週お会いしましょう!