最強のキャスター呼んだら最強の人形師がやって来た 作:雪希絵
雪希絵です。
最近久しぶりに魔法使いの夜をやったら、こんな展開は面白いのではないかと思いついたものです。
ただ、元ネタが魔法使いの夜しかないだけに、少々情報量が足りてない気がします。
登場するサーヴァントも、友人に相談しながら決めたものなので、実は詳しく知らなかったりします。
上記の理由から、「なんかキャラ違うんじゃね?」となることもあるとは思いますが、どうぞお付き合いいただければと思います。
よろしくお願いします。
暗い、暗い部屋の中。
用意したのは魔法陣と最高潮の自分自身、触媒になり得る道具。
揃えられるものは全て用意した。
あとは、呼び出すだけだ。
「素に銀と鉄。
礎に石と契約の大公」
ゆっくりと、確実に、紡ぐように詠唱する。
「降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国へ至る三叉路は循環せよ」
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」
手にする鈴が、詠唱する度に揺れる、鳴り響く。
魔力が循環する音と合わさり、不思議な調和を生み出す。
「──────Anfang」
「────────告げる」
「──────告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
「誓いを此処に。
我は常世総ての善となる者、我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ────!」
詠唱完了。
あとは、結果が出るのを待つだけ。
(さあ……何が来る……!)
昨日、教会に行って何処ぞのエセ神父に聞いた結果、現在召喚されているのはセイバーのサーヴァントだけらしい。
最優のサーヴァントであるセイバーを召喚できないのは残念だが、それ以外にも優秀なサーヴァントは五万といる。
しかし、その応えは予想外のものだった。
突然、
バチッ……!ドカンッッッ!!
と、派手な音を立てて爆発したのだ。
「え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
爆発とはいっても、大した威力ではない。
なんだか雷みたいなものも見えた気がするが、どうやら煙が派手に上がっただけですんでいるようだ。
実際、俺の工房は少し散らかったくらいで、別に壊れた様子はない。
だが、術式がどうなったのかがわからないのが問題だ。
(何があった……?何か間違えたか……!)
頬を冷や汗が流れ落ちる。
ひとまず、現状の確認のために煙の晴れるのを待ってから近づく。
だが、
「なっ……!はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
爆発よりさらに驚かされるはめになる。
明らかになった視界。
ちょうど入って来た月明かりに照らされたのは、黒い衣服に包まれ、ピクリとも動かない女の子だ。
(どういうことだ!?まさか巻き込まれた!?事故か?それとも何者かによる妨害?罠か……!?)
様々な可能性が頭をよぎる。
大急ぎで駆け寄り、背中に手を回して抱き起こす。
「おいっ!だいじょう……!?」
ぶか、と続けようとしたが、声がかすれてしまった。
先程は見えなかったその少女の顔が、
「か、可愛い……!」
思わずそう言わざるを得ないほどに、綺麗だったからだ。
色素の強い艶やかな黒髪を肩口で切りそろえ、その髪にはなんの汚れも曇りもない。
白く、きめ細かな肌は背中越しでもわかるほどに柔らかく、程よい体温を伝えてくる。
手脚は細長く、スラリとスレンダーな体型も合わさって、まるで人形のような雰囲気を醸し出している。
(どうしよ……こんな可愛い子巻き込んじまったのかな……)
傍から見れば、まず間違いなく犯罪者にしか見えないだろう。
どうにかこの事態を収める方法を考えていると……。
「んっ……」
腕の中の女の子が僅かに身じろぎ、徐々に目を開いた。
髪と同じ、深い黒色の瞳と目が合う。
その直後、
「痛ぁ!?」
顔面を思い切り殴られた。
その細い腕のどこからそんな力がと言いたくなるレベルの強さだった。
というか、儀式のために魔術回路を起動していなかったら、鼻血どころか鼻骨にヒビが入ってもおかしくない。
「……ごめんなさい、男性の顔が目の前にあったから、つい」
大きくはないがよく通る、心地よい美声。
想像以上に綺麗な声に緊張するが、
「いや、当然の反応だよ……」
なんとか自然にそう返す。
これは本心だ。
女の子が起きた瞬間に、名前も顔も知らない男が目の前にいたら、条件反射的にぶん殴るだろう。
まあ、少しはフォローのつもりで言ったのだが……。
「そう」
彼女は一言そう言っただけだった。
「えっ?ああ、うん」
「…………」
(……終わりかよ!?)
随分素っ気ない対応だ。
しかも、それ以降何も言わない。
(気まずい……)
何か話そうにも、彼女の情報が少なすぎる。
わかるのは、とんでもない美人であることと、年齢はちょっと年上くらいかな程度だ。
そうして、彼女としばらく見つめ合っていると、唐突に彼女が口を開いた。
何度か小さく開け閉めした後、
「何を、していたの?」
と、小さな声で言った。
「えっと……サーヴァントの召喚を……」
そこまで言って、口をつぐんだ。
考えてみれば、彼女が魔術師であるとは限らないのだ。
魔術の大前提『神秘の隠匿』。
それを思いっきり破るはめになってしまう。
しかし、彼女の反応は予想外だった。
「なるほど……。それを聞いて思い出したわ」
「? 何を?」
「私の現状を」
そう言い、俺が返事をするより早く、彼女は立ち上がった。
服の膝についた埃を払い、彼女は名乗る。
「召喚に応じ、参上したわ。サーヴァントキャスター、真名『久遠寺 有珠』。よろしく頼むわ、マスター」
「…………………はっ?」
本日三度目の衝撃。
人間は驚き過ぎると、逆にリアクションが小さくなることを知ったのだった。
実を言えば元々青子推しだったのですが、改めて見ると有珠が強いわ可愛いわ戦い方が好みだわで、速攻で浮気してしまいました。
……我ながら意思が弱いことこの上ないですね。