どうやら英雄が逆行した模様です   作:もこりん

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前話から随分と間が空いてしまいました。
もしかしたら文章の雰囲気に違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれませんが、久しぶりの投稿ということでひとつご理解いただきたいです。

一応第1話で言っといたからいいよね…


第3話

突然、目線が上がるのを感じる。

思わず自分の体を眺めると、火影時代の体に戻っていた。

子供の姿に戻ってから未だ半日といったところではあるが、ずいぶん久しぶりの感覚であるかのように思える。

元の体に戻ったのは、ここが精神世界であるからだろうか。

自分の精神は元のままであると確認し、ナルトは少し安心した。

ただ、チャクラは今の現実の姿相応になっているようだった。

 

周囲を見渡すと、懐かしさとともに僅かな恐怖を覚える。

水浸しの空間には高濃度のチャクラが充満していた。

クラマのチャクラというより、九尾のチャクラと言った方が適切だろう。

憎悪を孕んだそのチャクラは、慣れ親しんだクラマのチャクラとはまるで別物のように蠢いている。

しかし今のナルトには、憎悪に隠されたクラマの悲しみが手に取るように分かった。

 

ナルトは本来、ここよりもう一段深い精神世界に入ることができる。

むしろ、クラマと和解した後にはこの空間に来ることはほとんどなかった。

しかし、今この精神世界にいるのは、クラマ側の協力がないせいなのだろう。

クラマがこの世界に一緒についてきていないことを確信し、ナルトはこの世界のクラマのもとへと歩みを進めた。

 

 

「お前は何者だ」

 

クラマが最初に発した言葉はそれだった。

突然己の依り代となっている人柱力が別人のように変化したときの尾獣の驚きは想像に難くない。

しかも、クソガキと思っていた相手が急に中年の姿となって現れたのだから、その混乱もひとしおであろう。

そんな状況下で平然と(少なくとも、さも平然としているかのように)ナルトに問いかけたクラマには賞賛を送るべきである。

 

ナルトは事情をクラマに話した。

さしものクラマといえど、この状況でナルトの話を聞かないわけにもいかない。

比較的おとなしく話を聞いていた。

だからと言って納得しているわけではないようであるが。

 

もっとも、ナルトとしても真実を伝えたわけではない。

現状、真実が真実である保証もない。

クラマという影響力の強い存在に見境なく何もかも吹き込むのは危険であった。

それに、この世界のクラマにナルトと和解したクラマの話を伝えても、それはきっと混乱の元でしかないだろう。

見ず知らずの他人といってもいい今のナルトと和解しろなんていうのも、どだい無理な話である。

チャクラは子供の時のものであったため、六道仙人の話も省けたのも上々であった。

 

「話は理解した。さっさと消えろこのクソガキ。」

 

クラマはそういうと、もう何も聞く気はないと言わんばかりに口をつぐんだ。

和解した後のクラマを知っている身からすると、この関係はむず痒いばかりだった。

しかし、この世界のクラマは元のクラマと別の存在であると思い直し、ナルトは精神世界を後にした。

 

 

精神世界から戻ったナルトは、今後の行動方針について考えを巡らせた。

 

この世界が幻術なのであれば、何か大きな行動を起こすことで破れるかもしれない。

しかしナルトは、この世界がどうにも現実であるような気がしてならなかった。

この世界が現実ならば、何か不都合なことが起きても取り返しがつかない。

幸いにも、今のところは自身の過去の経験と完全に一致している。

昔と同じようにすれば、このまま自身の経験をなぞらえる可能性が高い。

未来を知っていることは大きなメリットである。

判断材料が少ない今、現状維持に努めることが最善だ。

 

 

考えをまとめたところで、どっと眠気が押し寄せる。

こんなことが起きているのだ、疲れない方がおかしい。

 

布団に入ると、寂しさが押し寄せる。

思えば、一人で眠るのは久方ぶりであった。

いつもは家族で暮らす家で寝ているのだ。

公務での出張でも、火影としての立場上護衛がつく。

もちろん寝室に堂々といることはないが、ナルトはその気配をはっきりと感じることができた。

 

 

元の世界の仲間のことを考えながら、ナルトは眠りについた。


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