雪宮春夏です。
さて……内容ですが、皆さん、前回の投稿で察してたと思いますので。
まぁ、他の小説も見れば薄々分かるかと思いますが、春夏はどうしても「彼」を物語に加えてしまう悪癖があるのです。
……単に趣味の問題かもしれませんが。
それでは新年第一話。どうぞご覧下さい。
今年もよろしくおねがいします。
(氷結……!轟少年か!!)
轟焦凍の氷結は、オールマイトの凍らないギリギリの範囲で上手く調節されていたが。
「……っ!」
(何なんだ!この掌は!これさえなければ今の内に距離をとれるというのに!!)
オールマイトの掌を仮面の敵と結合させているのがなんなのか、冷静に解析できていたのは焦凍のみだった。
(氷……?だが、単なる氷結によるものじゃねぇ……あの敵の個性か?!)
氷を溶かすことができるのは熱だけだ。だが、そこで敢えて、轟は思考を押しとどめた。
(あれは……
「……出入り口を抑えられた。こりゃあピンチだ」
一方、オールマイトは、未だ封じられているとは言え、計四人の幼いヒーローの卵に囲まれた死柄木は、しばし思案にふけった。
己自身が動くのはリスクが高すぎる。
いくらオールマイトを殺せる絶好の機会と言っても、あの態勢ではフレイア自体も、拘束のみで手傷を負わせることは不可能だろう。それ以前に、氷結によって、身動きを封じられた以上、溶かさなければほとんど役には立たない。
(溶かしたら、おそらく
オールマイトが来るよりも前に、生徒が一人逃げている。元より時間はあまり残っていないのだ。
(思ったほどじゃない。また捕まえられないほどじゃないんだから。……今は)
「その氷を溶かして出てこい。フレイア。出入り口の奪還だ……爆発小僧を始末しろ」
「……!?」
その異変に始めに気づいたのは轟だった。
「何だ、ありゃあ!あいつの個性か!?」
次いで切島も声を上げる中。ほぼゼロ距離にいるオールマイトには、はっきりとそれが見えていた。
空気と皮膚の間に揺れる、微かな境界。
陽炎が生み出す蜃気楼のようにそれは、ユラユラとフレイアの体を包むように渦を作っていた。
(突然見えるようになった……!?違う……!まさかあれ……!!)
彼らと同じように、その変化を見つめていた出久は、この敵と接触した時の事を思い出し、目を見開いた。
オールマイトから受け継いだ個性「ワン・フォー・オール」を発動し、受け止められた時感じた、ジリッと感じた熱さ。爆豪の爆破よりもじっくりと炙られるかのような痛みを伴う高温。皮膚からだと思ったそれは……。
「まさか……見えないほどの高温で……ずっと体に纏っていたのか……!あの炎を……!?」
ジュゥ……と、音が立つほどの湯気と共に、氷が溶けていく。いみじくも、己と類似する個性の持ち主との邂逅に、爆豪も声無く魅入っていた……その時。
フッと、彼らの視界から、フレイアと言う敵は姿を消した。それと同時に、爆豪が居たはずの場所から強い衝突音と、爆風が吹き上がる。
「かっちゃん!?」
咄嗟に叫んだ出久に対して。
「うっせぇ。バカ……喋んな」
掠れた小さな声。それでも間違いなく、出久の幼なじみである男が傍らにいた。
「か……かっちゃん、避けたの?……凄っ!!」
「違ぇよ!」
反射的に怒鳴る爆豪とて、全てを理解できていた訳では無かった。
何も……見えなかったのだから。
爆発小僧が居たはずの場所を見ると、腕でガードをしたオールマイトの姿があった。
「……加減をしらんのか」
壁際まで衝撃で踏ん張っていた筈の体を押されながらも、余裕を崩さないその姿に、死柄木は苛立つこと無く、冷静に分析する。
(子どもを庇ったか……)
両者の攻防を見ながら、轟は半ば混乱状態に陥っていた。
「ありえねぇ……どういうことだ!?これは……!!」
思わず零した声の切迫した様子を、目敏く見つけた切島が誰何の声を上げる。
「あいつの個性……爆豪の炎だけじゃ無い。オールマイトを捕らえて居たのは俺と同じ氷の個性だ。つまり……」
鉛のような重さを感じる口を必死で動かして、轟は動きを見せない仮面の敵を見据える。仮面の敵は騒がしいこちらに目を向けることもなく、ただ主犯の男の指示を待つかのように、オールマイトを吹っ飛ばした地点から動く様子はない。
その姿は、まるで人形のようだった。
「氷と炎の両刀……だと?!」
何だよそれ!と声を上げる切島に、次の言葉を告げられなかった。
対極と言っても良い二つの個性の複合型。
切島の言うように偶発的にできるものではないことは、轟が一番よく知っている。
己が同一の個性を持つからこそ。
「……でも、おかしいよ!それなら相澤先生が消せている筈!……それに、あの主犯の敵、仮面の敵は「無個性」だって……!!」
「アホかテメェ!相手の戯れ言を、真に受けてんじゃねぇよ!!」
疑問を呈する出久を叱責と共に切って捨てる爆豪に、主犯の男は堪えきれないと言うかのように、クックッと、笑みを零す。
「何がおかしい……!」
ギロリと睨むオールマイトを気にする様子も無く、主犯の男はまるで己の玩具を自慢する幼児のように、高揚した声音で言葉を紡いだ。
「おかしいさ……!そこの……あー……地味な奴。そいつの言葉に嘘はないぜ?それは無個性だよ!傑作だと思わないか?」
くくっと笑いをこぼすその姿は今までの静かさを知る身ならば、むしろ不気味とさえ言えるものだった。
「この超人社会で!無個性として生まれたとしても、ここまでの力を持てる!!これが世間に明らかにされれば、さぞかし面白い事が起きるだろう!!」
悦に入ったかのように言葉を紡ぐ男の顔は窺えないが、無言を貫く二人の敵と比べれば、その饒舌な様子は異常にも感じられた。
「俺はな!オールマイト!怒っているんだ!敵だの、ヒーローだの。個性だと無個性だので、白黒付けられるこの社会を!!」
大袈裟な身振り手振りを加えながら、まるで演説のように言葉を吐き出す姿に、出久達生徒は息をのんだ。
「平和の象徴?個性の中で強い力を持つ、それだけのお前は所詮抑圧の為の暴力装置でしかない!……個性だけで決められる社会には、力しか尊ばれないのだとお前を殺すことで世の中に知らしめる!」
「……めちゃくちゃだな。そういう思想犯の目は静かに燃ゆるもの」
饒舌に話す男とは対照的に、あくまで静かにオールマイトは言葉を重ねる。
「自分が楽しみたいだけだろう。嘘つきめ」
「……バレるの。早……っ」
追い詰められている筈なのにも関わらず、薄く笑みを浮かべるその姿は、ただ不気味さをましていた。
平然とする死柄木とは裏腹に、黒霧は焦りを覚えていた。
(オールマイトは確かに弱っている。しかしそれ以上に……
黒霧が目を向けたのは、フレイア、そう呼ばれる先生から死柄木に贈られた手駒だ。
黒霧も、彼がどのような経緯を経て、先生の手に渡ったのかは知らない。彼の使う力に関しても、分かっているのは先生の呼称する能力名のみである。
死柄木にはあくまで貸し出されているだけであり、持ち主は先生であるためか、反抗は無いわけでは無いが、それを差し引いても、見せて貰った彼の力は絶大なものだった。
(何より……生まれながらに迫害される
人という
生まれながらにそれだけで否定されてきた者達にとってみれば、尚更だ。
自分達でも力を持てる。
個性を持つ者達を超えられる。
フレイアの持つ力……「死ぬ気の炎」にはそれだけの可能性があるのだ。
しかし、それだけの価値がある力の使い手でありながら、フレイアはある欠点を抱えていた。
「死柄木……」
その欠点を頭に入れていた死柄木には、黒霧のその一言で伝わったのだろう。
不本意だと言うように、小さく舌を打ってから、「分かっている」と言葉を返す。
「フレイア、黒霧。やれ……俺は子どもを始末する」
死柄木が、目を向ける先には、確かに子供達が固まっている場所で。
「クリアして帰ろう」
そう言い切る直後、命令を受けたフレイアも、一歩踏み出す。
しかしその直後……。
前方から発された生々しい気迫に、黒霧と死柄木の体は後退っていた。
かなりの大きさの差違がある二つの拳が、接触した瞬間、ぶわりと風圧が生じた。
間髪を入れずに再び拳を繰り出したオールマイトの拳を相殺するため、フレイアもまた拳を重ねる。
それが……オールマイトの狙いだった。
「真っ正面から、殴り合い……!?」
(生じた風圧に阻まれる……!近づけん……!!)
風圧の強さに手で顔を覆う出久の耳に、オールマイトの声が届く。
「敵共よ!君たちの最も愚かな行為は、この子の自我を失わせたことだろう!……戦い方というものは、一番よく知るのは力を奮う当人以外はいないのだから!!」
突風をも、巻き起こしながら続く連打の中で、出久にはその声がやけに鮮明に聞こえた。
「私並みのスピードがあったとしても、力は私には及ばない!だからこそ彼は始めから!早さを重視した力の使い方をしているのではないのかい!?」
叫んだ瞬間に、風の流れでオールマイトの顔面に赤いものがこびりつく。血を吐いたのだ。
(血を吐きながら……!!全力で!!ただめったやたらに打ち込んでるんじゃ無い!)
我が身を省みること無く力を奮う、自己犠牲という言葉ではとうてい済まないだろう戦い方に、出久が感じたのは紛れもなく畏敬の念だった。
(一発一発が全部!!100%以上の……!!)
「ヒーローとは 常にピンチを ぶちこわしていくもの!」
あまりの迫力に、爆豪、轟、切島の三人は見つめる事しかできないでいた。
「敵よ!こんな言葉を!!知っているか!!?」
今まで奮い続けてきた以上の力を、その一発に凝縮して、オールマイトは、迷い無く振り下ろした。
「
振り下ろした拳は、敵の仮面を砕き。
「
施設の天井を割り、場外へ吹き飛ばず……それほどの力だった。だが。
「……何っ!?」
施設の天井に達するギリギリの部分で、敵は踏みとどまっていた。その背後に莫大な量の炎を放出しながら。
「……っていうか、空、飛んでねぇか?」
呆然と呟いたのは切島だけだったが、生徒達が受けた衝撃はどれも似たり寄ったりだっただろう。
「……っ!」
だが、ここで生徒以外にも、この状況のまずさに青ざめた者達がいた。
一人はオールマイト。
(まずい……もう)
土煙に紛れて、蒸気が零れだしていく。
(時間切れだ……!)
そしてもう一人は、黒霧。
大量に放出される炎に隠れて、オールマイト達には気づかれてはいないが、フレイアの顔色はどんどん蒼白に近くなっている。
(これは……まずい!)
目線を戻すと、死柄木も気づいているのだろう。コリリと首筋をかく。
「炎が尽きる……
同時かよ!と思わず自分で突っ込んでしまいました。雪宮春夏です。
……何で原作一話分だけでこんなに時間かけているんだろう?
そう首を傾げたくなる現状でございます。
多分次ででUSJ襲撃編は終わる予定です。
それが済んだらまた、他の小説の方も書かせて頂きます。
それではまた。良ければ読んでやってください。