繋いだ手と手が 紡ぐもの   作:雪宮春夏

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年明けまでに、USJ襲撃編を終わらせられないか、等と考えております雪宮春夏です。
少し無理そう……うん。ゆっくりで良いよね?

基本的に、原作と変わらない部分は略して有りますので不満な方は原作を読んで下さい。
ではどうぞ。



フレイア

突如USJを襲撃してきた者達は、「(ヴィラン)連合」と名乗った。

すぐさま先陣をきって迎撃に出た相澤先生の指示により、13号先生の引率によって避難をしようとした出久達だったが、大穴の個性の持ち主と思っていた黒霧と呼ばれていた男の個性「ワープ」によって、施設内にバラバラにされてしまう。

その中で水難エリアに飛ばされた出久、峰田実、蛙吹梅雨の三人は、彼らを包囲していた雑魚敵を何とか撃破し、水難エリアから脱出しようとしていた。

「あれで全員だったのは運が良かった……凄い博打をしてしまっていた……普通なら念のため何人か水中に伏せ解くべきだもの」

個性の発動によって折れた左手の指を右手で押さえながら、反省点を呟き続ける出久に対して、峰田を引っ張りながらついてきていた梅雨は表情の読みにくい顔のまま、苦言を呈した。

「緑谷ちゃん。やめて、怖い」

……尤もである。

「次どうするかじゃないかしら?」

初戦闘にして初勝利を経験したものの、彼女には調子に乗る様子はない。

平常心を保つ彼女の精神を頼もしく思いながらも、出久は考えていることを口にした。

「とりあえず、救けを呼ぶのが最優先だよ。このまま水辺に沿って広場を避けて出口へ向かうのが最善。……だけど」

しかしこの時、梅雨と違い、出久の方が冷静とは言い辛かったのかもしれない。

「敵の数が多すぎる気がする。……先生は制圧するつもりだろうけど、僕らを守るためにムリを通して飛び込んだと思うんだ」

そこまでで出久の言わんとしていることを察したのか、峰田が僅かに慌てた様子で制止をかける。

「待てよ緑谷。拙いって!」

「……ケロ」

梅雨の方もそこに込められた言葉を察したのか、心配そうな様子で二人を見比べた。

そんな二人の様子に言葉足らずだったというように、緑谷は慌てて言葉を選ぶ。

「ベ……別に、邪魔になるような事は考えてないよ!!」

……なぜなら、錯覚してしまったのだから。

「ただ隙を見て……少しでも先生の負担を減らせたら、って……」

……自分達の力が敵に通用すると、錯覚してしまったのだから。

 

 

USJ内のエリアの一つ、土砂ゾーンは氷原へと姿を変えていた。

そこにいる子どもはたった一人。推薦枠で合格した、「半冷半燃」の個性の持ち主、轟焦凍である。

(オールマイトを殺す。初見じゃあ、精鋭を揃え、数で圧倒するのかと思えば、蓋を開けてみれば生徒用のコマ……チンピラの寄せ集めでしかねぇ……)

二つの異なる個性を持つが為に、生まれつきでなってしまったオッドアイを眇めながら思案にふける焦凍だが、決断は早かった。

敵の「ワープ」の個性によって、このエリアに飛ばされた直後、自らの個性の能力の一つである凍結の能力のを広範囲に使い、共に飛ばされてきた敵共々辺り一帯を凍結させたのだ。

その場所にいる敵の一人に近付きながら、徐に焦凍は口を開く。

「このままの状態を保てば体はじわじわと壊死していく。俺もヒーロー志望だ。できればそんなことはなるべくしたくねぇ……」

口ではそう言いながらも、その表情には慈愛の色はなく、瞳は冷徹なまでにさめたままだ。

「そこでだ。お前らに聞きたいことがある……「オールマイトを殺せる」その根拠って……策って何だ?」

 

「無理をするなよ。イレイザーヘッド」

捕まれた肘がボロボロと崩れていく様子に、逆側の拳を振り上げ、主犯の男に一撃を与え、相澤は距離を取った。

「動き回るから分かりづらいけど……髪が下がる瞬間がある」

立ち上がって滔々と彼が述べるのは、戦う相澤を観察する中で気づいたことから導き出した己の考えだ。

「一アクション終えるごとだ。そしてその間隔は……だんだん短くなっている」

相澤の個性の切り替え時は、髪の動きで視認できる。

個性を発動させると、逆立つように髪が上がり、個性の発動を解除すると髪が下がる。

それには早い段階で気づいた。

後は……気づけば簡単だっただろう。それは相澤にも容易に理解できた。

己の優位性を確信したのか、男は勝ち誇るように含み嗤う。

「その「個性」じゃあ……集団との長期決戦は向いてないんじゃないのか?……君が得意なのはあくまで、奇襲からの短期決戦だろう?」

それは男に言われるまでも無く、相澤自身がとうの昔から熟知していたことだ。

己の個性は目に負荷をかけるため、家系図で見てもこの個性を持つ親族は皆生まれながらにドライアイになりやすい。己もその例に漏れることなく、継続的に個性を使い続けることはどうしても出来なかった。

しかし、そのマイナス面も覚悟の上で、ヒーローを志したのは己自身だ。

敵を苛つかせる効果もあるかと狙って、敢えて無言を貫くも、相手は気にする風もなく、言葉を零し続ける。

「それでも真っ正面から飛び込んできたのは、生徒に安心を与える為か?」

ふふっと、肩を揺らしながらも、嗤う男の視線は相澤から僅かにズレていた。

それに気づき、相澤がその方向に目線を向けたのと。

「所でヒーロー」

その小柄な手が。

「本命は俺じゃない……!」

相澤の頭を掴み、床に叩きつけたのは……ほぼ同時だった。

 

倒壊ゾーン。そこには荒く息を吐く、二人の子どもの姿があった。

「これで全部か。……弱ぇな」

他にいるのは、十人を超える敵達だが、その全ては、床に倒れており、既に意識が無い。

改めてそれを確認した子どもの一人、切島鋭児郎は、共にここにいた、爆豪勝己に声をかける。

「よし!じゃあ早く皆を助けに行こうぜ!攻撃手段が少ねぇ奴らが心配だ!!」

爆豪に提案する切島の言葉に、爆豪も黙って耳を傾ける。

その背後に一人、姿を擬態させた敵がいることには気づいていないように見えた。

「俺らが先走ったせいで13号先生が後手にまわった。先生が、あの靄を吸い込んでしまえばこんな状況にはなってねぇ筈なんだ。……責任取らねぇと」

悔いている様子を隠すこともせずに、言葉を零す切島に対して、同じ行為をしたはずの爆豪はにべもなく言い放つ。

「行きたきゃ勝手に行け。俺はあの靄をぶっ飛ばす」

その言葉は切島からすれば、単なる我が儘にしか聞こえなかったのだろう。

しかも相手は靄状の体で、物理攻撃は効かないと言って良い。

そこを指摘し、思いとどまらせようとするが、「うるせぇ!」と一括されていた。

「敵の出入り口だろ。塞いどくに越したことはねぇ。あの靄の対策も考えてあんだよ」

そんな二人の言い合いを聞きながら、見潜める敵は思わず笑みを浮かべていた。

ヒーロー志望と言えどもまだ子ども。

擬態した己を見つける事もできず話し込む姿は敵にとってはただ愉快極まりない物だった。

背後から忍び寄り、敵はその瞬間を思い浮かべ悦に入る。

(これで終わりだ……!!)

「……っうかよ」

手を伸ばした敵が攻撃をしかけるために擬態を解いたのを目視した直後、微かな呟きと共に爆豪の個性が発動していた。

「俺らに当てられてんのがこんな三下なら、大概大丈夫だろ」

後に残るのは、黒焦げになった敵の姿のみ。

(……すっげぇ反応速度)

瞬く間に行われた攻撃に、内心賞賛を送りながらも、切島はこの数日間の間に知った爆豪のイメージと、現在の様子に齟齬を感じて、ついつい口に出してしまう。

「お前、そんな冷静な感じだっけ?」

「はぁっ?!俺はいつでも冷静だ!クソ髪!!」

「ああっ!そう!それだぁ!!」

端から見れば、まるでコントのような有様だっただろうが、いつもの爆豪の反応に、切島は柄にもなく安堵していた。

立て続けに予想外の事が起こり、混乱していたせいなのかもしれない。

最も爆豪の方はそれに気づくこと無く、素っ気ない態度で突き放した。

「じゃあな。行っちまえ」

そのまま踵を返そうとする爆豪を慌てて押し止めて、切島は硬化した腕をならす。

「待て待て!ダチを信じる……!男らしいぜ爆豪っ!」

にっと、不敵に笑った男が下した決断は……。

「お前にのった!!」

 

できうることなら相澤先生の負担を少しでも減らそうと、彼の戦っていた噴水付近まで、水辺に沿って移動してきた出久達は、そこで見せられた光景に、一様に言葉を失っていた。

「どうだ?こいつが、対・平和の象徴。「フレイア」だ」

そう自慢そうに相澤先生へ声をかける主犯の男に反応する事も無く、「フレイア」と呼ばれた存在は相澤先生の両手足に手足をかけていた。

先生の顔は出久達からは窺えないが、その両手はどちらも、本来ならばあり得ない方向に折り曲げられている。

「緑谷……もうダメだ。流石に諦めたろ?」

涙声で震える峰田に、梅雨も心なしか水に半ば潜った顔が優れない。ケロ……と無く声もか細い物だった。

問われた出久は信じがたい光景に声を失い、ただそこにある情景を眺めることしかできないでいた。

「「個性」を消せる。素敵だけどたいしたことないよね」

出久達に気づいていないのか、相澤先生を見つめながら悦に浸る主犯の男は、まるで玩具を自慢するかのように、「フレイア」という存在の事をかたっていた。

「元から個性がない存在には、何の役にも立たない……だってこいつは単なる無個性だもの」

 

痛みから何度も遠のきかける意識を必死に保ちながら、相澤は男の言葉に驚愕した。

(無個性だと……!嘘だろ!?)

感情が必死に否定しようとするが、確かに既に何度かこいつの体は視界に入っている。

相澤の個性は体の一部が視界に入るだけでも発動するのだから、現状も個性は消しているはずなのだ。

「………っ!」

ベキッと、今度は指の関節に痛みが走った。

漏れそうになる声を堪え、相澤は必死に分析を続ける。

(こいつは素の力は大したことねぇ……!だが、それをカバーしてあまり有る、オールマイト並のスピードについていくことができねぇんだ。しかもこの動き、抑え方……場慣れしてやがる……!人を壊すことに、躊躇いがねぇ……!!)

相澤がそう考えている間にも、グッと、頭に浮遊感が襲う。奴が頭を持ち上げたのだ。掌が、体がやけに熱い。それが「フレイア」と呼ばれる存在の特徴の一つだった。

持ち上げられた頭はそのまま床へ、一気に打ち付けられて、口の中から溢れた血が、ポタポタと、床の上をはねる。

「死柄木弔」

掠れかけた意識の中で聞き覚えのある声を拾った。奴らの仲間……ワープの個性の持ち主だ。

「黒霧。13号は仕留めたのか?」

死柄木……と呼ばれた男の言葉から、生徒の避難を一任した同僚の姿を思い浮かべた。

(まさか……やられたのか!?)

思いもよらないほど切迫してしまった事態に焦燥を覚える相澤だったが、それに気にする様子も見せず、死柄木と黒霧と呼ばれた二名の会話は続く。

「行動不能にはできたものの……散らし損ねた生徒がおりまして、一名、逃げられました」

「……は?」

死柄木が、そう零した途端、周りの空気が変わった。

相澤を抑えていた青年には変化が見られなかったが場の空気の変容に相澤は嫌な予感を感じざるを得ない。

「はぁー」

力なく、溜息をつく死柄木からは、微かに何かをかく音が聞こえる。

「はぁっー」

再びの溜息。だが、ガリガリと零れる音はさっきよりも確実に大きくなっている。

「黒霧。お前……お前がワープゲートじゃ無かったら、粉々にしてたよ」

漸く口を開いた死柄木の様子は明らかにさっきまでとは違う。

「でも流石に何十人ものプロ相手じゃ敵わない。……ゲームオーバーだ。…あーぁ」

そこでピタッとひきかいていたのだろう音が止まる。

「帰ろっか」

あまりにもあっさりとした、撤退宣言。まるで掴みづらいその口ぶりに飛びそうな意識の中で、必死に思案しようとした時……その声が聞こえて、血の気が引いた。

「帰る……?帰るつって、言ったのか?今」

「そう聞こえたわ」

その声は、自分が受け持つ生徒の声。

(バカな……!?何故ここにいる?!)

この時、相澤は黒霧という敵の個性によって、生徒達がバラバラにされていたのだという事を知らなかった。大多数を相手にするのが精一杯で、生徒達が受けたアクシデントにまで注意が回らなかった。

「気味が悪いわ。緑谷ちゃん。」

緑谷と発した蛙吹梅雨の声で、相澤は入学式の日に初めて会った個性の制御も満足に出来なかった子どもを思い出す。

(拙いぞ……こいつらだけで太刀打ち出来る相手じゃねぇ……!)

危機感を相澤が募らせるのも空しく、声を発した事で気づいたのか、はじめから知っていたのかは定かでは無いが……死柄木が、動いた。

「へし折って帰ろう」

平和の象徴と謳われる、オールマイトへと見せしめとするために。

 

「本当に格好いいぜ……イレイザーヘッド」

梅雨の顔に五指を当てた男が、忌々しげに振り向いた先では……相澤先生の個性が発動していた。

触れている部分を僅かに減らし、男はイレイザーヘッドを……彼を押さえつける仲間を一瞥し、続けた。

「フレイア」

その途端、相澤先生にのっていた青年の掌が、相澤先生の頭に添えられ、床へ押しつけられる。

ミシリと、床の一部にひびが入った。

「……っ!」

(ヤバイ……!)

その瞬間、出久の中を支配したのは焦燥感だった。

(ヤバイヤバイヤバイヤバイ……!!)

水難エリアで戦った敵とは明らかにかけ離れた相手だった。

傍にいる二人を……梅雨を助ける!

その一念のみで出久は拳を振り上げ……。

「手ぇ……離せぇ!!」

「フレイア」

smash、のかけ声と共に個性を発動させた拳には、確かに何らかの感触があった。

(当たった!)

感触からそう確信を深めた出久は次の瞬間に目を瞬いた。

 

………キィィィ……ン

 

次いで耳鳴りのような何かを感じ、一瞬意識を逸らしかけた出久だったが、何故か個性を発動させたにも関わらず、痛みを感じない拳に目を見開いた。

(まさか……折れてない!? 力の調整が、こんな時に!!)

無意識に浮かんだ歓喜の笑み。

初めて上手く決まったそれは……。

「え……」

己の拳を掌で受け止め、僅かに揺れる空洞のような橙色の瞳で己を射貫く無骨な仮面の青年……フレイアの姿に、言葉を失っていた。

(速っ……いつの間に……というか、受け止めた……!)

そこで脳裏に蘇ったのは、水難エリアで梅雨が口にした言葉。

『……殺せる算段が整っているから、連中こんな無茶してるんじゃないの?』

(……まさか)

固まる出久を嘲うように、死柄木は口を開いた。

「良い動きするなぁ……smashって、オールマイトのフォロワーかい?」

しかしそれ以上の興味は示さないのか、死柄木は、「フレイア」と次の指示を出す。

「焼き潰せ」

グッと、出久の個性を直撃したはずの掌で、その拳を捕まれる。

ジリッと感じたそれは、勝己の爆破よりもじっくりとあぶるようで、皮膚から伝わるその温度は更に高温だった。

泣きそうに出久は顔を歪めた。

死柄木に再び顔を捕まれようとした梅雨は身を捻りながら、出久を救おうと舌を伸ばす。

体感時間では、何分、何十分と感じたその時。

 

バァン……!!!!

 

鋭い音と共に、入口が弾け飛んだ。

()()()()()……()()()()!!!!」

そこにいたのは、希望の光。

 

 

『……傍にいる二人を、助ける!』

暗闇の中で聞こえた声に俺は僅かに意識を浮上させた。

「たす……ける?」

声に出したその言葉は、何故かとても懐かしい気がした。

(前にも……誰かに同じ事を……言った?ような……)

重くなっていく瞼負けて、俺は再び意識をおとしていく。

(いつの……ことだっけ……)

思い出せないまま、意識は途切れた。

 




たくさんの視点で書いたので、その分分厚くなりました。
次からは本格的な戦闘描写……の予定です。
多分時間かかります。

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