繋いだ手と手が 紡ぐもの   作:雪宮春夏

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今月初投稿、雪宮春夏です。

どうもお久しぶりです。またまたお待たせしてしまって申し訳ありません。

アニメの方では大事件が終わりました。

こっちも早くそこまで行きたいものです(苦笑)


爆豪の職場体験 その③

 フィオーレヒーロー事務所には、四名の相棒がいる。

 剛腕フレイアー炎剛丸(えんごうまる)。本名はザクロ。

 マーメイドヒーローブルーベルン。本名は涼代奏(すずしろ かなで)

 リーフヒーローSEED。本名は植継(うえつぎ)桔梗。

 ホロウアイズヒーロートリカブト。本名は不明。

 彼らがミルフィオーレヒーロー事務所の稼ぎ頭達であり、同時にフィオーレヒーロー事務所を立ち上げた白蘭の家族でもある。

 家族と、相棒を呼ぶプロヒーローは、正一は白蘭しか知らない。その理由は白蘭には本当の家族を作るつもりが、今に至るまでの過去にも、これからの未来にもないからだろう。

(……いや、それは白蘭さんだけじゃ無いな)

 小さく溜息を零しながら、彼は本日体験日一日目の雄英生、爆豪勝己に包帯を巻いていた。

 公にはされていないがフィオーレ事務所のメンバーは、正一以外、家族と呼べるコミュニティーを持った経験のないヒーローの集まりである。

 社会の最底辺とも呼べる、劣悪な環境にいた孤児や、組織犯罪に巻き込まれ、実験体等という形で利用されていた被害者を、救けた白蘭自らがスカウトして、ヒーローの道へ導いた。

 言い方を変えれば、彼らはヒーローとなってからフィオーレ事務所に所属したのではなく、事務所に所属するために、ヒーローとなったのだと言っても、過言では無い。

(そう言うところは抜け目ないと言うか……侮れないというか……)

 正一が吐き出したそれは、諦観を含んだ溜息だった。

 彼との付き合いはまだ正一が義務教育を受けている最中からになる。正一自身の視点からするが、その当時から彼はそこの読めない相手だった。

 同い年ではあったものの、良くも悪くも平凡である己とは釣り合わない容姿端麗、非凡秀才……そしてそれ以上に型にはまることのない変人でもあった。

 無個性でないことは分かっていたが、個性をはっきり見たのは彼がヒーロー科に進学してからだ。

 元より大抵の事はそつなく熟せてしまう白蘭は、それまで人前で個性を使う必要がなかったとも言える。

 小学校時の「個性教育」に至っては、何だかんだと指導する側である筈の教師を口先だけで丸め込んですらいた。

 そんな姿を見ていたからか、当時の正一は、白蘭にはヒーローになるという願望が無いのだと思い込んでいた。

 だからこそ、彼が雄英高校のヒーロー科を第一志望にしたと話したときは、思わず聞き返したほどである。

 しかも彼は、それを打ち明けた時点で、既に正一の経営科受験の根回しを完璧に行っていたのだから質が悪いなんてものじゃない。

(それ以来の腐れ縁とは言え、よくもまぁ事務所まで共同で立ち上げたものだ)

 賞賛を送るべきは己の我慢強さにか、白蘭の計算高さにか。

 それは今となっても判断は出来ない。

 

 

 共同経営者にかなり酷い言葉の数々を与えられていたヒーロー、白龍こと白蘭は、現在、一人の客人を迎えていた。

「成る程ねぇ。()()()僕に爆豪勝己君を指名してほしいって頼んだっていうわけかい?」

 椅子に座った白蘭は、クルクルと、指先に引っ掛けた一つの指輪を回していた。

「それで……具体的にはこれ、裏のマーケットでは幾つぐらい出回っていると思う?」

 そう白蘭が問いかけたのは、明らかに彼より年下の、十五歳かそこらの少女だった。

「その指輪の形では、量産はされていないと思います。あちらからどれほどの数が持ちこまれたのかは分かりません」

 そう答えた少女は、艶のある黒髪を肩まで伸ばした少女だった。薄金色の瞳はやや楕円を描いており、その目は注意深く、白蘭の一挙手一投足を見つめている。

「警戒しているのかい? ()()ちゃん」

「分かりません」

 即答。迷い無く答えたその言葉は、ただただ頼りないものである自覚はあったのだろう。

 僅かに目線を逸らしてから、言葉を選ぶように少女は続けた。

「私は貴方とは初対面です。ヒーロー「白龍」」

「うん」

 コトリと、クルクルと回していた指輪を机の上に置いて、白蘭は静かに耳を傾けた。無言の承認に僅かに頭を下げて、少女は話を続ける。

「私が知っている()()は、彼の世界の「私」から送られてきた、彼の世界の「貴方」の事でしか無い。同一視する事は誤りです」

 彼女はただただ正論を述べる。

 だが、それは彼女の警戒を解く理由にはならないのだろう。

 それを理解した上で、白蘭は笑った。

「ありがとう。でもね、やっぱり僕のことは信頼しない方が良いよ」

 投げられた言葉と共に浮かべられているものは、自嘲の色が強い。

「あれも僕の一面だ……あるヒーローの言葉でもあるけれど「ヒーローと敵は表裏一体」。育つ環境、関わる人物によっては、僕も同じ道を辿っていた可能性は否定出来ないんだよ」

 上っ面の笑み、と分かる表情を浮かべてみせるヒーローに向けて、微かな笑い声を零し、少女は否定した。

「貴方は大丈夫ですよ。きっと」

次いで加えられた言葉には、最早苦笑するしか無い白蘭であったが。

「自覚が出来ているなら、道は踏み外しようは無いでしょう?」

 

 

 




後数話で終わると、前話では書かれておりました。

どうやって終わるつもりだったのか、今春夏を悩ませている一番の難題です。

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