繋いだ手と手が 紡ぐもの   作:雪宮春夏

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ヒーロー殺し、ステインさん。
この人もいろいろ奥が深い方で、考えるのは苦労しそうです。
死柄木、ステイン、クロ君、彼らの思想の違いを考えてみるのも面白そうかも。



職場体験編
職場体験 開始


「……これが、僕のヒーロー名です」

来る職場体験の為のヒーロー名の考案で、出久が考えた名前は、嘗ての彼には蔑称でしかないものだった。

けれど、麗日さんの一言で意味が変わって、その言葉に出久自身も何度も己を鼓舞されてきた。

(それに……僕がこの言葉の意味を今送りたいのは僕だけじゃ無い……!)

麗日さんには、「頑張れって感じ!」と称された言葉。それを今の出久は、昨日拒絶の言葉を投げかけられた子どもに送りたかった。

まだ、自分は彼の抱えている悩みや苦しみは知らない。その上でこの言葉は無責任かも知れないとも思った。しかし。

(僕も頑張るから……だから、君も……!!)

もし今会えるのなら、出久はそう彼に伝えたかった。

(あんな終わり方で、終わりたくないんだ……!!)

敵連合の一角、あのフレイアという敵と彼が無関係とは言えない。オールマイトですら断言できない事を出久程度が断言はできない。それどころかあの容貌の相似を考えれば、何らかの関係性はある可能性の方が遙かに高いだろう。

(だけど……そんな()()()()()()()()()拒絶なんかしたくない……!!)

それは昨日の一件を経て、出久が定めた覚悟だった。

カタカナでホワイトボードに書いた少しばかり歪な二文字。それを改めて見つめて、出久は笑顔を浮かべた。

 

「君に指名が来ている」

放課後、教室のドアを開けた先で、お辞儀のような姿勢を保ったままのオールマイトが現れたことに驚いた出久だったが、その後更に送られた言葉に、俄然言葉は弾んだ。指名の無いものは受け入れ可能な事務所から選ぶシステムで有るため、職場体験が出来ないと言うわけでは無いが、不特定多数誰でもなのと、己の存在に目をかけて選んでくれた場所では俄然受ける気分に影響は出ると言うものである。最も、たとえどこであろうが、出久としてはやることを変える気は無いが。

オールマイトの話によれば出久を指名してきた相手はグラントリノ。一年だけ、雄英高校の教師を務め、にオールマイトの担任にもなった相手で、出久がオールマイトから受け継いだ個性、「ワン・フォー・オール」のことも知っているらしい。

「私の指導不足を見かねての指名か……あえて嘗ての名を出して指名をしてきたということは……怖ぇ……怖えよ……!」

ブルブルと足を震わせる普段ならあり得ないオールマイトの動揺ぶりに、自然と出久も戦きを感じてしまう。

(どんだけ凄い人なんだ……!)

いい機会だからしっかりもまれてくるようにと言ったオールマイトは、本当に震えていた。

 

職場体験初日、体育祭の影響か、未だに僅かな人々の視点を感じながらも、一年A組の生徒達はそれぞれの受け入れ先へ行く為、バラバラに行動していく。受け入れ先自体が全国に散らばる分、彼らの行き先も北から南へ様々だった。

その中でも、東京の保須へ向かう飯田君に、出久と麗日は心配そうな表情を浮かべていた。

保須にて飯田君のお兄さん、プロヒーローのインゲニウムは、ヒーロー殺しと呼ばれる凶悪な犯罪者に襲われている。そしてその犯罪者は未だに捕まってはいなかった。

「本当にどうしようも無くなったら言ってね?……友達だろ?」

コクコクと頷く麗日さんと共に、出久が飯田君に贈れたのは、そんなありきたりな言葉だけだった。

それに頷く飯田君を信じて、出久もまた、グラントリノの事務所へ向かうために行動を始める。

……職場体験の始まりだった。

 

「なるほどなぁ……お前らが雄英襲撃犯……!」

舌舐めずりを隠しもせずに言い放った男は素早くそのバーにいる者達に目を走らせた。カウンターの内側、バーテンダーの立ち位置にいる、黒い靄で顔面を覆うワープ系の個性の持ち主、カウンターの椅子に座る、おそらくここでのリーダー格となっている薄鼠色の髪の青年。しかし彼らよりも、ヒーロー殺しと呼ばれる男が興味を寄せる存在が、青年の後方、テレビの傍らに立って俯く、十代半ばの赤茶色の髪の少年だった。

テレビやマスコミでも神出鬼没と謳われ、今まで警察でさえ嗅ぎつけもしなかった己のアジトを探り当てた存在。

もしヒーロー側にいればこれ以上無い厄介な存在になっていただろう少年。

そんな彼が所属している組織と聞いてみたから、どれほどのものかと興味を抱いて会ってみたが、第一印象として感じたのは失望だった。

その度合いは、青年の目的を聴いて更に膨れ上がる。なまじ興味を抱いていただけに、失望も大きい。

「興味を持った俺が浅はかだった……おまえは……俺が最も嫌悪する人種だ……」

鋭い眼差しで死柄木を射貫く男が次いで目を向けたのは、周囲の言動など気にもしないと言うように俯くままの子どもの姿。

己を殺し、殻に隠るその姿には、いっそ哀れみさえも覚えてしまうほどだ。

「子どもの癇癪につきあえと?」

腕を伸ばし、腰に差した二つの刃物をゆっくりと抜き取る。その音は当然聞こえているはずなのに、子どもにはやはり動く気配は無い。戦意さえ持たないその姿に、「見込み違い」かと、男は思考を青年に戻した。

「信念無き殺意に、何の意義がある……!!」

後ろにいるワープ系の個性の男が、テレビの向こうの何ものかと何かを話している。しかしそれすら、男にはどうでもいいことだった。

男は自らの責任を知っている。

何故自らの力を奮うのか。

そのたった一つの信念(おもい)の為に、多くの血に染まったとしても、男はそれをなさなければならないと己に課したのだ。

そう出なければ、変わらないこの世界の為にも。

(それほどまでの信念(おもい)があるのか、試させて貰うぞ……!!)

心の内で静かに囁き、男は動いた。

 

 

 




短めですがこれにて!
さて。この後はどうなるのかはもうしばしばお待ちください。
それではここまでお読み下さり、どうもありがとうございました。

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