繋いだ手と手が 紡ぐもの   作:雪宮春夏

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この物語、話の文字数が全く一定にならないなぁと、頭を抱えています。雪宮春夏です。
内心は既に諦めの境地。最初の新章の最初の一話はどうしたって話は短くなるものですよ。

とりあえず、体育祭は平和に終わる予定です。表向きは。


体育祭編
体育祭開幕


「オールマイト」

雄英高校の会議室で開かれた教師達も交えた会議を終えてすぐ、塚内直正は知己であるオールマイトに声をかけた。頼まれていたものの結果を伝える為である。

オールマイトも、呼ばれた一声で、その内容を予期していたのか、彼以外はあまり使わない仮眠室へと塚内を導いた。

「ゴメンよ塚内君。内密に調べてくれだなんて」

開口一番に謝意を示すオールマイトに、気にするなと笑いながら、塚内は笑う。

「どうせ例の主犯達を調べるために取り寄せる必要はあったんだから序でだよ。……それに伝えられた特徴を考えても、全くの無関係とは考えられないだろう?」

彼の言うことは最もだが、それでは優先順位としてはあまり高くはなかったはずだ。それとも、この情報をも精査しなければいけないほど、情報は少ないのか。

(両方かな……)

そう予想するオールマイトに微笑みながら、塚内は調査の結果を知らせる。

「結果はおそらく黒に近いだろう。死柄木達と同じく、個性登録も戸籍も無い。裏の人間だ。犯罪歴も無いからいきなり逮捕という事は出来ないだろうが、このタイミングは気になる。偶然とは思えない」

「……緑谷少年が狙われている、と言うことか」

自然と口調が重くなるオールマイトに対して、塚内も慎重に言葉を放つ。

「狙われているのが彼個人と断定は出来ない」

少なくとも彼らが、襲撃前にヒーロー科の生徒の情報を持っていたとは考えづらかった。

もしそうならば、USJでも、生徒らの不得意なエリアにそれぞれ転移させることも出来たはずだ。

「君と緑谷くんの関係を知っている者はごく僅かだ。本来ならばその緑谷くんの元にピンポイントで、敵を送り込むことなんて、出来ない筈なんだが……」

現状は起きている可能性がある。

(……彼らの中に裏切り者がいるとは、思いたくないが)

オールマイトは自然と、己の秘密を共有する面々の顔を思い浮かべていた。

塚内もおそらく分かっているのだろう。溜息を零しながら、まだ確証はないさと、続ける。

「監視を置くよ。それと……校長には知らせておいた方が良い」

「分かった」

大事な後継者が、家族を抑えられているかもしれない。その不安で、オールマイトの動きは重い。

「あまり思い詰めすぎるな。それが奴らの作戦と言う可能性もゼロじゃ無いぞ」

そう元気づける親友に、オールマイトは力なく頷いた。

 

そんな会話から二週間あまり……雄英体育祭は、始まろうとしていた。

 

「雄英体育祭?」

近頃もしかして俺はこの人に行動を張られているんじゃ無いだろうかと、思うときがある。

実際は学校に行っていなくても、俺の行動は死柄木達の呼び出しが無い限りほぼパターン化してきているから、分かり易いと言う理由だけかもしれないけれど。

平和の象徴と言われるヒーローオールマイトとその親友が、俺に対してあのような不穏な内容の会話などしていたなどと知る由も無く……そもそも、監視を置かれてたことさえも気づかぬまま、俺は代わり映えのしない日常を……言い換えれば平和な平穏の時を過ごしていた。

「何ですか?それ」

俺の言葉は予想だにしていなかったのか、インコさんは驚いた様子で俺に問いかけてくる。

雄英体育祭を知らないのか、その言葉に俺は迷うこと無く頷いた。

(いや、文面通りならば予想はつくんだけど……)

そう考えて、しかし俺は首を傾げた。

高校の体育祭が、どうしたというのだろう?

「あ……出久君が出るからですか!」

己の息子の晴れ舞台だからこそ、見に行こうと言うことだろうか。しかし、それなら雄英高校へ向かう必要があるだろう。何故家の中へ上がらないかと言う話になるのかが分からない。

「クロ君。本当に知らないのね……」

俺の様子に納得した様子のインコさんが、何故か張り切った様子で、俺の肩を優しく叩いてくる。

「じゃあ、おばさんと一緒に見ましょう!きっと楽しめるはずよ!」

確かに、実の息子の活躍を一人で見るのは寂しいのかもしれないが。

(学校行事が……何でテレビ放送されているんだろう……?)

この時俺は本当の意味での、雄英体育祭を理解していなかったのかもしれない。

 

雄英体育祭。それは個性が発現したことにより、形骸化したオリンピックにかわり、現代日本においては、嘗てのオリンピックと同等とされる、国民的イベントである。

「……でもその実態って、スカウト目的のプロヒーローによる品評会ですよね」

(いや、それ言っちゃあ元も子もないけど)

そう思いながらも、それでも一つの学校の体育祭が、オリンピック扱いされている事にはどうも違和感を覚えてしまう。

(学校行事って言うんならもう少し健全な方法でやれば良いのに……)

現場まで見に来る相手は全て企業若しくはプロヒーロー。まだ親離れしていない筈の子供達が下手をすれば怪我をするかもしれない戦いに歓声を送り、子どもを庇護すべき親はテレビ越しにしか見守る事さえ出来ないと言う現実。

(ヒーローを目指すなら仕方ない、のかなぁ……)

ふとそんな言葉が浮かんでくるが、出来るのならば同意したくは無い言葉だった。

ヒーローだから、そんな理由で危険に飛び込む人間を黙ってみている事は賛成できない。

(いや、俺の意見なんて、誰にも求められてないんだけどさ)

出来るのならばテレビでさえもあまりみたくはないのだが、乗り気なインコさん相手にやはり帰ります等と、言うことはもう出来そうにない。

溜息を呑み込んでインコさんと並んでテレビの前に座る。

(なることなんて出来やしないけど、なれたとしても、俺はヒーローにはなりたくないな)

広告が明けて、歓声と共に映像が動くのを見ながら、俺が己の内でそう結論を出したとき。

 

『お前はヒーローになんてなれねー男なんだぞ』

 

空耳か、誰かの声が聞こえた気がして、俺は辺りを見回した。

「クロ君?」

問いかけてきたインコさんの声で、俺は漸く彼女に目線を戻す。部屋の中にはやはり、俺と彼女以外、誰もいなかった。

《「せんせー。……俺が1位になる」》

テレビからは、何とも不遜な選手宣誓が行われていた。

「……いえ。何でもないです」

慌てて、そう言い繕ってから、改めてその生徒……爆豪勝己と名前が表示されている。……を見ると、ツンツン頭につり目と、何よりもさっきの宣誓のせいか、優良生徒とは間違っても言えない空気を醸し出している。

(明らかに不良……うーん)

確かにあの見た目でスポーツマンシップに則って云々と言われても、それはそれで嘘くさいだろうが……。

(ああいうの見て子どもが真似するようになったら……って)

ヒーローでもその危険性はあるのかと、思い至り、あくまでも現場主義なやり方の学校に、実力主義な社会に溜息をつきたくなる。

「絶対ただじゃあ終わらないよなぁ……」

再びついたその溜息は、何を思ってのものなのか、考える気にもならなかった。

 

ただ、ああいう感じの目は嫌いじゃない。何故かは分からないがそう思った。




春夏としては別に雄英や原作の世界観が嫌いという訳ではありません。
しかし、どうしてもヒーローという職業に懐疑的になるとこういう見方にもなるという一例です。……多分。

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