宮永咲の白糸台生活   作:タマアザラシ

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宮永咲と荒川憩

この人はとても強い人だ・・・咲は目の前の対戦相手の顔を見ながらそう思った

 

もちろん他の二人もこれまで戦ってきた相手よりも強いが、それでもこの目の前の相手が姉を除いて一番強い相手だった

 

この人に勝つことができたら、どれだけ嬉しいと思うのだろうか、咲は思わず顔がにやけそうになりながら、準決勝の時に笑ったら相手から睨み付けられたので慌てて抑えると

 

『別に笑ってもえーよ』

 

その言葉と共にその相手もニコっと可愛らしい笑みを浮かべながら咲に語り掛けるのだった

 

『自分めっちゃ楽しそうに麻雀打ってるやろ?自分では抑えとるつもりやろうけど、めっちゃ我慢してるのが分かるで』

 

その人にそんな事を言われて咲は思わず恥ずかしそうにしながら顔を伏せると、その人は笑いながら麻雀を進めながら語り掛けるのだった

 

『それになぁ、うちも宮永ちゃんみたいな強い相手と戦えてめっちゃ楽しくてしかたないんや、せやからさ・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

一緒に楽しもうや?

 

________

 

「・・・やなが、宮永」

 

「ふぇ?」

 

夢の中から目を覚ました咲はよだれを垂らしながら顔を上げると、目の前は会場や麻雀卓ではなく、英語教師の顔が映るのだった

 

「私の授業で居眠りとはいい度胸だな」

 

「え、えっと、その」

 

「・・・まあ宮永は普段はしっかりと授業を受けているから今回は見逃してやる、以後気を付けるように」

 

「は、はい」

 

普段の行いのおかげでそれほど厳しく叱られることはなかったが、咲は恥ずかしそうにしながら席に座り直すのだった

 

・・・もっとも

 

「大星ぃ!!お前はまた居眠りか!!」

 

・・・このクラスには淡という問題児が居るため、咲が居眠りしたことはすぐに忘れ去られるのだった

 

______

 

「咲が居眠り、珍しい」

 

午前中が終わり、咲は淡と最近親しくなった同じ麻雀部所属の無表情の顔をしている少女、氷室空美(ヒムロ クミ)にそう尋ねられた

 

「そーなの?」

 

「淡、いっつも寝てる、だから気づかない」

 

「えっへん」

 

「威張るとこじゃない、部長に報告」

 

「それは困る!?」

 

菫にまた居眠りしていたことが知られれば怒鳴られることが確定した淡は涙目になりながら思わずを叫び、咲はそんな二人の様子を見ながら苦笑いするのだった

 

「それで、咲、ぐっすり眠ってたの、どうして?」

 

「いや、それが昨日親が久しぶりに早く帰ってきたから遅くまで家族麻雀をしてたから・・・あ、だからあの時の夢を見たのかな」

 

咲の呟きに淡と空美は首を傾げるが、咲はそれに気づかずに教室の窓から外の青空をじっと見つめるのだった

 

(あの時、あの人と打つ麻雀がとても楽しかった、だから昨日家族と楽しく麻雀を打ったから思い出したのかもしれない、今頃どこで何をしているのかな・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・荒川憩さん)

 

________

 

・・・そのころ、全国団体戦二位であり、そして『全国個人二位』を抱えている北大阪の名門、千里山女子ではある一人の女子麻雀部員がWEEKLY麻雀TODAYの記者からインタビューを受けていた

 

『それでは、荒川憩選手の今年の目標は』

 

「それはもちろん打倒白糸台、打倒宮永照ですぅ、特に宮永照さんは今年で卒業ですからね、だから団体戦よりも個人戦に気合が入ってますぅ、あ、これ監督に知られたら怒鳴られるんでオフレコでお願いしますぅ」

 

そんな冗談交じりのインタビューに答えている少女、先ほど咲が気にかけた荒川憩は、記者の質問に対しても可愛らしいと思えるにこやかな笑みを浮かべながら答えるのだった

 

『それではやはり荒川選手が一番気になる相手は宮永照選手なのでしょうか?』

 

打倒宮永照に燃えている憩にそう尋ねた記者だが、憩は一瞬考え込むように思考をした後に少し苦笑いを浮かべるのだった

 

「確かに宮永照さんも気になる相手ですが、ウチが一番気になっとる相手は他に居ります」

 

その憩の答えに記者とカメラマンは驚きの表情を浮かべた、高校一年の時点でインターハイ全国二位の成績を持ち、宮永照にもっとも近い存在と言われている荒川憩が照以外の相手を気にしている事が信じられず、またその相手が誰なのかも気になるのだった

 

『その気になる相手とは誰なのでしょうか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宮永咲」

 

・・・その憩の答えにかつて咲をインタビューしたことのあるこの記者は驚愕の表情を浮かべ、そして憩は懐かしみながら、そしてどこか悲しい表情を浮かべながら答えるのだった

 

「うちが今でも気にかけとる選手は宮永咲ちゃんですぅ」

 

________

 

記者は知っていた、荒川憩と宮永咲が初めて勝負した一昨年のあの一戦を

 

インターミドル個人戦決勝戦、あの試合は歴代インターミドル決勝戦の中で名勝負として語りつかれるだろう一戦だった

 

闘牌はもちろんの事、オカルト地味た場面も多々あったがお互いに持てる力を用いて四人全員が戦い、激闘という激闘を繰り広げるのだった

 

そしてこのインターミドル決勝戦は今までの決勝とは違っていた・・・それは四人が四人、本当に楽しそうに麻雀を打っていたからだ

 

普通公式戦の、特に決勝となると、全員が優勝を狙うために殺気立ち、重苦しい雰囲気を出すものだった

 

しかしこの決勝戦はそうではなかった、四人とも本当に楽しそうに、そして今までにない素晴らしい闘牌を見せ多くの観客と記者を魅力する麻雀となったのだ

 

結果は宮永咲が荒川憩にリーチ棒一本分で勝利をおさめ、最後にはお互いに熱い握手を交わしたのだった

 

_______

 

『あの勝負は今でも鮮明に覚えています、まさにインターミドルの歴史に残る名勝負でした』

 

「ホンマに、嬉しいわー」

 

憩は記者があの勝負のことを知っていたことに満面の笑みを浮かべながら嬉しそうに語るのだった

 

「あの時の勝負があったからウチはどんな相手でも笑って麻雀が打てるようになった、いつの間にか忘れてた麻雀が大好きだって気持ちを思い出させてくれた、だから咲ちゃんにはお礼を言っても言い切れないですぅ」

 

『だからこそ気になる相手は宮永咲選手と』

 

「そうですー、だからこそウチは・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・あの長野での出来事を絶対に許せません」

 

・・・先ほどまで和やかな雰囲気を纏っていた憩は無表情で『殺気』を纏いながら語った瞬間、記者たちは身の毛が立つほどの恐怖を感じたが、憩はすぐに殺気を消すといつもの笑顔を浮かべるのだった

 

「これはもう過去の事ですから今更とやかく言うつもりはありません、それにそんな事よりも今年は嬉しいことがありましたから」

 

『それは一体』

 

「咲ちゃんが今年の公式戦に出場するんですぅ」

 

その憩の言葉に記者は一瞬自分の耳を疑ったが、確かに憩は宮永咲が二年ぶりに公式戦に参加すると言ったのだ

 

『そ、それは本当ですか!?』

 

「ハイー、去年の冬ごろに咲ちゃんに千里山(ウチ)に来ないかって誘ったんですけど、どうも誘った時点でお姉さんと同じ高校に通って公式戦にも出るって言ってましたから確かですよー」

 

咲ちゃんと照さん率いる白糸台とかウチ一人じゃどうにもならなくなったんですけどね、なんて笑いながら話している憩であるが記者の耳には入ってこなかった、ただただ咲が公式戦に再び現れることを、あの闘牌がまた見えることに興奮せずにはいられなかったのだ

 

「記者さんずいぶん嬉しそうな顔をしてるなぁ、咲ちゃんの事も知ってましたね」

 

『ええ、私は個人的に宮永咲選手の大ファンですから』

 

記者さんが目を輝かせながら咲の大ファンだと言い切ったことに憩は一瞬驚いた顔を浮かべた後にそーですかーといった後ににっこりと笑うのだった

 

________

 

一方そのころ

 

「まもの!!」

 

「サキー、今日よくくしゃみするけど大丈夫?風邪でも引いた?」

 

「う、ううん、体調は悪くないんだけど、もしかして誰か私の噂話でもしてるのかな?」

 

「そうかも、でも、油断は禁物」

 

「咲ちゃん、今暖かいお茶を入れてくるね」

 

「高校生活にも慣れてきて気が緩んで疲れが出たんだろう、今日は早めに上がれ」

 

「咲、今日はお姉ちゃんと一緒に寝よう」

 

「も、もうお姉ちゃん私はそんなに子供じゃないよ!!」

 

よくくしゃみをする咲にチーム虎姫メンバー+空美は咲の体調を心配する様子に、誠子は咲、愛されてるなーと温かい目で見守るのだった、なお他の部活動メンバーは

 

(まもの・・・)

 

(まものって)

 

(どんなくしゃみやねん)

 

(一瞬自分が魔物って自覚したんだと思った)

 

(咲さん可愛い)

 

咲のくしゃみに(一人は全く別のことを考えながら)各々思うことがあったが、それを言ったら周りのメンバーが怖いので言えなかったのだった

 

・・・今日も白糸台は平和に過ぎるのだった




人物紹介

『白糸台高校一年』氷室空美
本作のオリジナルキャラで咲と同じ白糸台麻雀部所属
無口無表情で喋る時も片言、何を考えているのか全く分からない少女であるが、ただ単にボーっとしているだけの天然系女子
中学時代は麻雀部はなく、ネット麻雀しか触れてなかったがその実力は強豪のレギュラーを狙えるほどの実力を持っている
麻雀のスタイルは基本的にデジタルだが、相手の仕草、動作から相手の思考を一瞬で見抜ける鋭い洞察力を持ち、白糸台のレギュラーメンバーが相手の時でさえも振り込みはほぼ0の成績を出している、ただし引きの良さは並程度である

『千里山女子高校二年』荒川憩
原作では三箇牧高校出身であったが今作では千里山女子麻雀部に所属している
中学三年の時にインターミドル決勝戦で咲と対戦、その結果リーチ棒一本分の点差で敗北するもインターミドルの歴史に残る名勝負であり、憩はこの敗北をきっかけに千里山への進学を決めた
宮永姉妹は倒すべき目標であるが咲は自分に笑顔で麻雀を楽しむことを思い出してくれたために気に入り、可愛がっている、だからこそ長野での『ある事件』がいまだに許せずにいる
なお原作では三箇牧高校の制服はナース服みたいなものだったが、今作では彼女の私服がナース服に見えるもので、その理由は彼女の趣味だからである

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