宮永咲の白糸台生活   作:タマアザラシ

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宮永咲とのどっち

大星淡は咲でも照でもない、全く知らない存在Xによって窮地に立たされたのだ

 

ありえない、この私が、高校100年生の私が、と淡は目の前の光景を信じなかった、しかし現実に淡の持ち点は残り少なく、あと少しでトビ終了してしまうほどだった

 

淡は頬を伝う汗を拭きながら牌を捨てた、その瞬間

 

『ロン』

 

「うぎゃああああああああああああ!!!???」

 

『パソコン』からの電子音と共に淡の悲鳴が木霊するのだった

 

_______

 

「見事にトバされたな」

 

菫は淡の背後でネット麻雀での淡の今の試合を見て、これで三連敗中の淡に呆れ、淡はシクシクと泣き言を言いながらパソコンを睨み付けるのだった

 

「なにこれ全然ダブリーできないし、リーチしても裏ドラも乗らないし、そもそも牌が全然見えないし、これって本当に麻雀」

 

「それが普通の麻雀だ」

 

(淡ちゃん、その気持ちすっごくわかるよ)

 

「咲も一人で共感するな」

 

咲と淡は今日は能力に頼らない麻雀練習を行うために二人並んでネット麻雀をしているのだった、二人は能力に頼った打ち方がよく見られるためにその能力が発生しないネット麻雀に触れることで二人の雀力を高めることが目的なのだ

 

淡は最初ネット麻雀で一位をとれと菫に言われた時は「そんなの超ヨユーだし」と余裕ぶっていたが、いざ始めてみると普段の麻雀が全然できずに結果三連連続最下位という不甲斐ない成績を残すのであった

 

淡は普段の打ち方ができないネット麻雀に文句を言うも、そもそもこれが普通の麻雀だと菫は淡の頭を小突き、咲は昔淡と同じ感想を抱いたことがあるのでうんうんと頷くのだった

 

「咲の方は・・・フム、一位は一、二回しか取れてないが淡と比べれば全然ましだな、なんだ?やったことがあるのか」

 

「ハイ、中学時代に三年の先輩にネット麻雀を進められて、それからはたまに家でもネット麻雀で打ってたんです」

 

「なるほどそれでか」

 

咲はネット麻雀の経験者のため、普段より成績は悪いがそれでも淡と比べれば全然良いため、菫はさすがだなと咲に笑いかけながら頭を撫で、咲は少し恥ずかしそうにしながら笑みを浮かべるのだった

 

「ブーブー、咲ばっかりずるい」

 

「よしよし、お前も頑張ってるもんな」

 

「セイコに撫でられても嬉しくないし」

 

「この生意気な後輩が・・・!?」

 

淡はそんな咲を羨ましそうにし、誠子はそんな淡を慰めるように頭を撫でたのだが、淡は余計な一言を口にしたために誠子の怒りを買い、そのよく伸びる頬っぺたを引っ張られるのだった

 

________

 

「ちぃかれたー、タカミーお茶ー」

 

「ハイハイ、すぐに準備するね」

 

「渋谷、あまり淡を甘やかすな」

 

菫からの許しが出てようやくネット麻雀から解放された淡は疲れた様子でソファーの横になって尭深のお茶をねだると尭深は特に嫌がることなく準備を始め、菫は淡を甘やかす尭深を注意しながまだネット麻雀で打っている咲の様子を見るのだった

 

「しかし咲はデジタルでもそれなりにものになるな」

 

「そうですか?」

 

「ああ、十分期待できるレベルだ」

 

菫に褒められて「ありがとうございます!!」と咲は満面の笑顔を浮かべてお礼を言うと、咲の笑顔にやられたのか菫は少し顔を赤くするのだった

 

「菫、咲にお礼言われて照れてる」

 

「う、うるさい!?」

 

照にからかわれて菫は顔を真っ赤にして怒鳴り、他のメンバーはやっぱり二人とも仲がいいなーとのほほんとしていると、少し回復した淡が尭深のお茶を飲みながら咲の後ろからパソコンを覗き見るのだった

 

「サキー、サキーも私と一緒で牌に触れて麻雀した方が良いのに、なんでネット麻雀でもそれなりに打てるの?」

 

「うーん、私の場合は中学の先輩に強引に進められたのもあるけど、ネット麻雀についていろいろと教えてくれた先生がいたからね」

 

「なにそれずっこい」

 

ネットでも咲に先を越されたため、そういう出会いに恵まれている咲に羨ましそうにしている淡は頬を膨らませ、咲は淡ちゃん可愛いなあと思いながら、自分のID画面の中にある複数のフレンドリストから一つ、自分にネット麻雀について教えてくれた人物を見つめるのだった

 

 

 

 

・・・ハンドルネーム『のどっち』を

 

______

 

ハンドルネーム『のどっち』

 

ネット麻雀において伝説と呼ばれる存在であり、その腕前はそんじゃそこらのプロよりも凌駕し、メールを送っても一切返信がないことから一説では将棋やチェスと同じように誰かが作ったスーパーコンピューターなのではないのかという噂されているのであった

 

・・・しかし咲はこののどっちがコンピューターなどではないことを知っている、なぜならメールを送っても返信が来ないはずののどっちから・・・唯一メールを返信されたことがある人物であるのだから

 

中学一年生の時の咲は、当初は当然・・・というか現在でものどっちの噂を全く知らず、たまたま対戦が開いており、たまたま対戦することができ、そして当然のことながらぼろ負けしたのだった

 

のどっちの前にすでに何度もぼろ負けしていたため、泣くことがなかったが、ただ純粋にのどっちが強い人だなっと思い、当時の三年の先輩に尋ね、そして

 

『まーじゃんおつよいんですね』

 

変換が全くできていない、パソコンに慣れていない素人であることが分かるメールをのどっちに送るのだった

 

当時これを見た先輩はこのメールに大爆笑をして、のどっちは基本的にはメールを返さないことを伝えた、その時だった

 

 

ピロリン

 

そんな電子音と共にパソコンにメールが届き、それを開いてみると・・・そこには丁寧にキーボードの使い方を説明したのどっちからの返信メールが届いたのだった

 

それから咲とのどっちはメールのやり取りを行うようになった、パソコン初心者の咲にわかりやすいように使い方を説明し、ネット麻雀でなかなか勝てない咲にどうすればいいか教えてもらい、ネット麻雀を始めて一年目で咲はパソコンとネット麻雀にすっかり慣れたのだった

 

それからも咲とのどっちはお互いにメールのやり取りを行うのだった、お互いの最近の出来事を、お互いの麻雀部についてメールのやり取りで教えあい、お互いに顔を見たことがないが、咲とのどっちはお互いに友人と思える関係を気づき上げたのだった

 

・・・あの中学二年の秋までは

 

______

 

(・・・のどっちさん、今頃どうしてるんだろう)

 

二年の秋ごろから咲はネット麻雀どころか麻雀にも少し離れており、こうしてネット麻雀に触れるのも久々であり、つい自分にいろいろと教えてくれたのどっちのことを懐かしんでいると、淡から「サキーお茶が入ったよ」と言われて「うん、今行くね」と返事をしながらパソコンの画面を閉じて淡の元へ行くのだった

 

・・・その画面に、のどっちからのメールが届いたのを気づく前に

 

______

 

(・・・返信が来ませんね)

 

そのころ、長野にある清澄高校麻雀部の一室で『のどっち』ことインターミドルチャンピオン『原村和』は自分の唯一のフレンドであり久しぶりにログインしていた『リンシャン』さんへメールを送ったのだが、相手からの返信はなく、和はため息を吐くのだった

 

初めてリンシャンとメールのやり取りをしたのは中学一年の夏ごろだった、当時奈良に住んでいた和はネット麻雀の対戦の後に明らかに素人だったリンシャンさんからのメールが届いたのがきっかけだった、和は基本個人が特定されないためとメールでのやり取りが好きではなかったためいつも通りに中身だけ見てスルーしようとしたのだが・・・そのあまりにもパソコン慣れしていない文章に彼女のダメな人へのお節介が発揮してしまい、思わずリンシャンへメールを送ってしまったのだ

 

この事にリンシャンさんは本当に和が教えた通りにして感謝のメールが来たため、それからリンシャンとメールのやり取りを行うようになったのだ

 

・・・しかし中学二年の秋が終わりに近づいたことからリンシャンがログインすることなく和は友人が一人いなくなった気持ちになりながらも仕方がないと思ったのだった

 

そんなリンシャンが久しぶりにログインしてきたので和は思わずメールを送ったのだが、その返信はなく、少し寂しい気持ちになるのだった

 

「どーん!!」

 

和が落ち込んでいるときに、長野でできた友人である片岡優希が両手でタコスを抱えながら部室のドアを思いっきり開けて入ってきて、和は優希に呆れた顔を向けると

 

「優希、もう部活は始まってますよ」

 

「イヤ~タコスを買いに行ってたら遅くなったじぇ」

 

「それはいつもの事でしょ」

 

優希のいつも通りに呆れながらも先ほど浮かべていた寂しそうな表情はなくなるのだった

 

「けどぶちょーや染谷先輩、あと犬よりはやいじぇ!!」

 

「部長が学生会議で、染谷先輩は今日はお店のお仕事、須賀君は部活の物品を買いに行ってもらっているので遅くなると連絡がありましたよ」

 

優希は他の部員メンバーが来ていないことを指摘するも、他のメンバーはそれぞれの用事で遅れる連絡が来ていることを言うと、優希は気まずそうに目をそらしながら話題を変えるのだった

 

「の、のどちゃん、今から練習をするじぇ、どうせ『副ぶちょー』が部屋の中にいるから三麻ならできるじぇ!!」

 

「・・・まあ私もそろそろ練習したかったですしね」

 

和は優希をジト目で見ながらも練習も大切であるため奥の部屋で去年の県大会のビデオを見て対戦相手を研究中である『副部長』を呼んで練習を始めようと動くのだった

 

________

 

・・・・・『のどっち』と『リンシャン』は知らなかった

 

お互いに親しい友人になりながら、お互いに一度も顔を合わせたことがないと思っているが、実はお互いに『一度だけ』顔を合わせたことがあるのだ

 

・・・しかしその出会いは

 

『そんな・・・こんなオカルトありえません、ありえる、はずがありません、も、もう一度だけ勝負してください』

 

『・・・・・・ごめんなさい』

 

・・・お互いに全く望んでいなかった出会いだった

 




人物紹介

『清澄高校一年』原村和
ネット麻雀の伝説である『のどっち』本人であり去年のインターミドルチャンピオン
原作では高校で一位にならなければ引っ越しだったが、ここではインターミドルで優勝に変わり原作同様見事優勝、母の説得もあって残ることを許されたが変わりに大学へは進学してほしいと言われ、和はこれを承認した
父親と母親は東京へ転勤ということで和は現在片岡家でお世話になっており、(和の一人暮らしを父がもう反対したため)親友である優希と高校生活を楽しんでいる
インターミドル優勝後にマスコミからは『天才少女』ともてはやされたかインターミドルでの対戦相手や記者の一部、さらには名門のスカウトまで『宮永咲』はどうしたんだと尋ねられ、そのためか宮永咲を意識するようになった
・・・そして引退前に咲の通っていた麻雀部に練習試合を申し込み、念願の咲との対局・・・だったのだが、咲の圧倒的実力差の前に敗北、敗北後は意気消沈していたが優希や部活の後輩の励ましでどうにか立ち直り、今は誰にも打ち明けていないが打倒『宮永咲』を掲げるのだった

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