宮永咲の白糸台生活   作:タマアザラシ

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宮永咲と弘世菫

宮永咲にとって弘世菫は麻雀部の部長であり姉の友人ということ以外はあまり詳しくはない。

 

初めて会ったときは中学三年生の時の冬休みであったが、その時は淡とばかり相手をしていたためあまり多く話すことはない、なので咲が抱く菫のイメージは身長が高く綺麗でかっこよく、鋭い眼差しをしているためにどこか厳しい人であると思っており、麻雀以外では気が弱い咲にとっては苦手な分類の人物であった

 

・・・咲はその苦手意識を持っている菫と現在

 

「咲、そこ段差があるから気を付けろ」

 

「ハ、ハイ」

 

・・・なぜか部活で使う道具を一緒に運んでいるのであった

 

______

 

「宮永さん、悪いんだけど倉庫に置いてある残りの麻雀道具一式を持ってきてくれない」

 

それは淡が授業中寝ていたために教員に呼び出され、咲一人で部室に訪れてすぐのことだった、白糸台麻雀部の部員数は百を超え、全員が練習を打つためには大量の道具が必要となる、そのためまず一年生は他の先輩たちが来るまでにすぐに練習するように準備をしなければならないのだ

 

これにはチーム虎姫に入った咲や淡も例外ではなく、今日は咲と目の前の他の一年生たちが準備をする番であるため、先に来て道具を取りに行った一年生たちが残りを咲にお願いするのは別におかしくはないのだが

 

(・・・・明らかに、一人ひとりの運ぶ量が少ない)

 

そう、目の前の一年生たちが運んできた道具一式は一人が運ぶべき量と比べほんの少しだけ少ないことに咲はすぐに気づくのだった

 

「・・・わかりました」

 

しかし咲はそのことを指摘することはなかった、あからさまに量が少ないわけではないのでそれを指摘したところで水掛け論になるだけであるし、何より相手は複数だ、こっちが何かを言ったとしても数の暴力で押し通されるだけだ

 

・・・別に咲はこの手の『嫌がらせ』は初めてではない、インターミドルで優勝した時にも同じようなことがあり(その時は同じ部活の先輩がぶち切れて解決?したが)、今回の輩も入部してすぐにインターハイチャンピオンの照と同じチームに妹だから入ったと思われている咲に嫌がらせを行っているに過ぎない・・・なのである程度自分たちの気分が収まれば気が晴れるだろうと思い、咲は何も言い返さなかったのだ・・・結果、部室から少し離れた用具室から一人で運ぶには少々量が多い道具一式を抱えていると

 

「何をやっている咲」

 

たまたま通りかかった菫にふらふらしながら運ぶ姿を見つかり今に至るわけだ

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

(・・・き、気まずい)

 

咲と菫は互いにしゃべることなく歩いていた。もともと咲は自分から積極的に話すタイプではなく、菫もおしゃべりしながら歩くというタイプではなかった、なのでお互いに無言を貫き、咲はこの空気に気まずく感じていたのだ

 

なお、同じ無口な照と一緒にいるときは彼女自身の天然な行動から場が和むので問題ないのである

 

「・・・ところで咲」

 

「は、はい」

 

咲は突然菫から話しかけられ思わず緊張して声を上げたが、菫はなぜか少し不思議そうな顔をしながら

 

「なぜ部活の道具を持ちながらあんな場所にうろついていた?」

 

「え?その、今日は道具を準備する当番なので部室に運んでいる最中だったんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・部室と反対方向に向かって歩いていたぞ?」

 

「え?」

 

咲は思わず目を開いて驚いた顔で固まり、しばらくの静寂の後、菫は「・・・プ」と思わず吹き出すのだった

 

「ひ、弘世部長!?」

 

「い、いやすまない、少し一年のころの照を思い出してな、ふふ」

 

咲は顔を真っ赤にしており、菫はツボにはまったのか必死に笑い声を抑えて震えており、咲は恥ずかしさのあまりうつむきながら歩くのだった

 

「しかしまさか姉妹揃って方向音痴とは改めて思うが信じられないな、なんだ?麻雀が強くなるリスクとして方向音痴になりやすくなるのか?」

 

「ほ、方向音痴と麻雀は関係ないです!?」

 

菫が珍しく冗談をいい、咲は恥ずかしそうに言い返しながらプンプンと怒り、菫は咲のその姿に笑みを浮かべるのだった

 

「しかし咲もそうだが照の方向音痴も酷かったな」

 

「・・・そうなんですか?」

 

「ああ、入学式の時は本を読みながら歩いて他の新入生たちが一緒に歩く中で反対方向に向かって歩いているは、一年の全国大会では一人で控室に帰れなかったから私が連れて行かなければならないは、そのくせ意地っ張りだから迎えに来なくていいと言うは、良い奴なのは確かなんだが自分で何とかなると思って行動するのは止めてもらいたいものだ」

 

菫から照の話題が出たので咲は興味も持って尋ねると、菫は照との思い出を思い出しながら語り、大変そうに、でもどこか楽しそうに語っている姿に咲は意外そうな表情を浮かべるのだった

 

「どうした?」

 

「いえ?その・・・弘世部長はお姉ちゃんとやっぱり仲がいいんだなって改めて思いまして」

 

「まあこれでも入学時からの付き合いだからな」

 

入学当時から、その言葉に咲はそういえばと思った・・・姉の照も咲ほどではないが人見知りをするタイプだ(初対面の相手には営業スマイルで対処している点から)そんな照が菫と仲良くしている点から考えても、自分が思っているほど菫は怖い人ではないのではと思うようになった

 

「そういえば咲とこうして二人で話すのも初めてだな」

 

「そうですね、普段はお姉ちゃんか淡ちゃんが一緒ですから」

 

「・・・咲、この際だから聞いておくが」

 

「はい?」

 

「・・・私のことは苦手か?」

 

菫はそう困ったように尋ねると、咲も戸惑いながらも笑みを浮かべたのだ、おそらく菫は咲が普段からどこか自分を避けるように淡の後ろや照の後ろに隠れているため、自分の雰囲気から嫌われているのではないかと思い、二人っきりの今だから思い切って咲にそう尋ねたのだ

 

「その、正直言いますと少し怖い人だと思ってました」

 

「・・・・そうか」

 

咲の正直な思いに菫は表情には出さないものの落ち込んだ雰囲気を持っていた、というのも菫自身自分の雰囲気から後輩に避けられることは結構あるのだ、菫はそのことを結構気にしており、咲に改めて言われるとショックだったのだ

 

だけど今の咲は

 

「でも、今はそうじゃないんだと思ってます。お姉ちゃんのこともしっかり見てくれてますし、今もこうして手伝ってもらってます、だから弘世部長ってしっかりもののお姉ちゃんだなって今はそう思ってます」

 

咲の今の素直な思いに菫は一瞬驚いた後にすぐに顔を少し赤らめてうれしそうな顔を浮かべ「そうか」と呟くのだった

 

「照がさっきの発言を聞いたら睨み付けられそうだな」

 

「お姉ちゃんはお姉ちゃんでしっかり者ですよ?」

 

「それはきっと咲の前だけだろうな」

 

菫と咲は先ほどの無言の雰囲気が嘘のようにお互いに笑みを浮かべながら談笑し、そして話し込んでいるうちにいつの間にか部室の前に到着して菫はそのまま咲と話しながらドアを開けるのだった

 

「あ、宮永さんお疲れ、て弘世部長!?」

 

咲に道具を一式を持ってくるように言ってきた一年生の一人が咲が部長である菫と一緒に道具を運んできたことに顔を真っ青になり、他の今日の当番である一年生たちも同じ表情を浮かべたのだ・・・咲が運んできた量は自分たちが分かりにくくするために少しずつ減らしたとはいえ全員分となるとそれなりの量になる、だから一年生たちが咲に多くの荷物を押し付けたことに菫にばれたと思い顔を青くするのだった

 

・・・そしてその一年生たちの表情を見て菫は当然、なぜ咲の荷物がこれほど多かったのかをすぐに察するのだった

 

「・・・咲、今日のお前の練習メニューはどうなってる?」

 

「え?きょ、今日は淡ちゃんと一緒に去年の全国大会の牌譜を見て研究する予定です」

 

「・・・それは明日に変更しろ、監督には私から伝えておく、その代わり今日は」

 

だが菫は彼女たちを咎めたりはしない、だが、お咎めなしだと彼女たちがつけあがり部の雰囲気や咲のモチベーションにも影響を受けるかもしれない、だから手っ取り早く解決するために

 

「同じ一年生と・・・そうだな、今日の同じ当番であった一年生たちと三対一の状況で打ってみろ」

 

一年生たちは菫のその提案になぜそんなことを提案したのか分からず首を傾げ、二年生と三年生は菫の提案に一年生たちが何かやらかしたのかをすぐに察したのだ

 

実は咲と一年生たちが打つのは今日が初めてである、というのも咲の実力は全国優勝校である白糸台をもってしてもずば抜けており、チーム虎姫以外の上級生でも相手にならないのだ(それでも照や淡のような圧倒的暴力のような麻雀ではなく、牌に愛された子レベルと打てるのは上級生にとってもいい経験になるため人気があるのだが)、その上級生よりも格下である一年生では・・・結果は火を見るより明らかだった

 

「地区大会だけでなく全国大会でもこれと同じような状況になることも十分に考えられる、これはその経験を積積むための練習だ・・・だから大会と思って手を抜けずに、全力で打て、できるな?」

 

しかし菫には少し不安があった、咲はとても心優しい少女だ。照や淡のように圧倒的な力でねじ伏せることはしないため、菫はその優しさから甘い打ち方をするのではと思っていた・・・が

 

 

 

 

 

 

 

「わかりました」

 

咲のまっすぐ相手を見る目を見て菫は自分の不安は杞憂に終わることを察したのだ。それも「できます」ではなく「わかりました」と言った・・・それはつまり三対一でも何も問題がないということだ

 

「そうか、なら行ってこい」

 

「ハイ」

 

・・・先ほどまでのおどおどしていた少女とは違い、今の咲は姉である照と同じ圧倒的強者の風格を纏っていた・・・そのことに菫は思わず笑みを浮かべた、それは白糸台の全国大会三連覇が確実に見えたためか、それとも・・・ただ今の咲が照とよく似ているためなのか、その答えは本人以外は誰にも分らなかった

 

________

 

・・・翌日

 

「み、宮永さんおはようございます!!」

 

「宮永さん荷物をお運びしましょうか!!」

 

「み、宮永さん喉乾きましたか?ジュース買ってきます!!」

 

「・・・・サキ昨日なにしたの?」

 

「あ、あはははは」

 

今まで咲や淡に対してあまり良い感情を抱いていなかった少女たちが咲のパシリ(咲自身は全く頼んでいないのだが)となっている姿に淡はジトーっと咲を見つめ、咲はある意味注目を浴びてしまう少女たちのその行動に苦笑いを浮かべるしかなかった

 

 




人物紹介

『白糸台高校三年・麻雀部部長』弘世菫
白糸台麻雀部部長であり照の親友
原作と大きな変化はないが照がシスコンのために事あるごとに咲の話題を振っているため咲自身は知らないが咲のことはよく理解している
他の生徒からは厳しい性格と思われていたが、照の天然に振り回され、淡のわがままをしかりつけ、おどおどしている咲を心配するなど周囲からは『お母さん?』と思われるようになった
なお(天然トリオに振り回されやすいので)麻雀部一の苦労人でもあるが、本人は否定するだろうが楽しそうでもある

『白糸台高校一年生』モブ美、モブ子、モブ恵
白糸台麻雀部の新入部員、特に特徴のないいわゆるMOBUである。
インターハイチャンピオンである照の妹の咲や中学に実績のない淡がチーム虎姫に入ったことが気に入らず目の敵にしていた
・・・が咲との麻雀で惨敗したことによって咲を恐れるようになり今では立派なパシリとあった
・・・が、咲自身も頼んでもいない事なのでこの後すぐにやめさせられ、今は同じ部活の仲間として接してほしいといわれた
これ以降彼女たちは宮永さんから咲さんへと呼び方に変わり、咲たちを嫉むことはなくなった・・・なおなぜ咲さんなのかは、「普段はともかく麻雀を打っているときの咲さんをちゃん付けで呼ぶことなんてできません」とのこと

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