開会式も終わり、明日からの団体戦に向けてそれぞれの高校は優勝を目指す準備を始めていた、あるものは対戦相手の牌譜を見直したり、あるものは少しでも実力を伸ばすために部員同士で試合を行ったり、あるものは観光がてらに気分を落ち着かせたりと様々だった
そして当然白糸台も明日からの試合へ向けての準備を始めていた
「咲、観戦用のお菓子はこれで、試合中のお菓子はこれ、自分用のお菓子はこれにしよう」
「お姉ちゃん、遠足に行くんじゃないんだからね?」
・・・もっともこの二人の姿を見たものは本当に優勝に向けての準備をしているのか疑問に思ってしまうだろう
というのも、白糸台はそもそもシード校、出場するのは二回戦からの高校なのだ、なのでしばらくは他の高校の観戦が中心となり、長時間の考察は頭が疲れるからお菓子などで糖分を摂取しようという算段のため、近くのお店でお菓子に詳しい照が疲れた時に食べたら美味しいお菓子をわざわざ選んでいるのだった
・・・というのは建前で本当は照は好きなお菓子をたくさん食べられるためにウキウキしながら選び、部長の菫もお菓子がなかった時の照は全く観戦に集中しないために何も言わないでいた・・・・それでいいのかチャンピオン
「咲、とりあえずこれだけ買お」
「・・・とりあえずって、かご一杯にお菓子が入ってるんだけど、お小遣いは大丈夫なの?」
「大丈夫、お父さんにお願いしたら快くお小遣いをくれたから」
(・・・後でお母さんに報告しよ)
これだけのお菓子を買うお金がどこにあるのかと思ったが、おそらく照が父に甘え、娘たちを溺愛している父が照にお小遣いを上げたことが発覚したので、咲は母にとりあえずこの事を報告することを誓った(なおその夜に父と照は母から一時間の説教を受けることになった)
「・・・・あれ?」
照は自分が選んだお菓子の会計を済ませているときにふと咲は見覚えのある人物の顔を見かけるのだった、一瞬咲は自分の見間違いなのではと思ったが、その相手も咲に気づいたのだ
「よう咲、久しぶりだな」
「きょ、京ちゃん!?」
その相手の名は須賀京太郎、咲の中学時代の友達だったのだ
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「まさか京ちゃんが清澄高校の麻雀部に所属してたなんて」
「俺もまさか咲がそんなすごい奴だなんて知らなかったぜ」
思わぬ再会に咲と京太郎はとりあえずコンビニから出てお互いの近況を報告しあったりした
「でもなんで京ちゃんは急に麻雀なんて始めたの?」
「い、いやまあ咲が楽しそうにやっていたのを思い出して俺も興味をもってな・・・」
「そうなの?てっきり原村さんが入部したからだと思った」
京太郎はギクリと肩を震わせ、その様子に咲はやっぱりとため息を吐いた、かつて咲が話した京太郎がおもち好き・・・要は胸の大きな女の子が好きなことを知っていた咲は京太郎が麻雀部に入った理由が原村和(胸が大きい娘)が理由である事をすぐに察したのだ
「た、確かに最初はそうだったかもしれないが今じゃ俺も麻雀が面白いって本当に思ってるからな!!」
「本当かな~」
「本当だって!?」
京太郎の慌てている様子に咲は久しぶりの友人とのやり取りに笑みがこぼれて、京太郎は咲の昔のおとなしい雰囲気からは想像できない様子に戸惑いを覚えていると
「ちょっと須賀君、勝手に外に出て私に荷物を持たせるつもり」
「げ!?部長!?い、いやそんなつもりは全くなかったんです、ただ中学の時の友達とたまたま会って」
すると、どこかで見覚えがある制服を着た女子生徒がお店からでて京太郎に指さすと、京太郎は慌てて弁明しながら咲を指さすと、生徒は咲を見た瞬間驚いた顔をしたのだった
「ちょ、なんで白糸台の子がここに居るのよ!?」
「いや、俺もたまたま同じ店の中であって」
「しかも宮永咲ってことはさっき大量のお菓子を買ってたのはまさかチャンピ・・・」
女子生徒が驚きのあまりに少々混乱している様子であったが、ふと後ろからゾクっと背筋が凍るようなプレッシャーを感じ、恐る恐る振り返ると
「・・・・私の妹に何か用?」
そこには両手に大量のお菓子を詰めた袋を持つ冷たい眼差しをした大魔王(チャンピオン)が立っていたのだ
なお照がここまでするのは、淡から和との朝の一連のやり取りを聞いており、和と同じ制服を着た人物が大切な妹に絡んでいるように見えたために、このようなプレッシャーを放っているのだった
その照からの圧に飲まれた女子生徒は誤解を解こうとするも声が出ず、震えが止まらなかったが
「お、お姉ちゃんちょっと待って!!私は別に何もされてないから!?」
咲が慌てて照と女子生徒の間に入り、照はその言葉に「本当?」と尋ねると、咲が首を縦に振ったら出していた圧をおさめ、女子生徒は呼吸を整えながら二人に尋ねるのだった
「とりあえず・・・なんでこうなったのかちょっと説明してちょうだい」
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「・・・あーなるほど、それはウチが原因ね」
女子生徒・・・清澄高校麻雀部部長、竹井久は今朝の和と咲たちとのやり取りを聞き、それは警戒されても仕方ないわと手で顔を覆いながら納得した
「あの、ごめん、私もきちんと確認してないのに睨み付けるような事をして」
「いえいえ、宮永照さんが妹さんを大切になさってるのですから当然の反応ですよ」
「・・・それと喋る時は普段通りで構わない、その方が私も咲も楽だから」
「そう?なら気兼ねなく照って呼んでもいいかしら?」
照は先ほどの謝罪を行い、久も特に気にしている様子もなく、むしろ咲に対しての申し訳なさの方が頭の中を占めていた
「それと宮永咲さん」
「ひゃ、ひゃい!?」
そんな三年生同士のやり取りの途中で突然久に話を振られた咲は思わず変な声で返事をしてしまい、京太郎は思わず吹き出し、照と久は可愛らしいなとのほほんとしながら久は咳ばらいをして咲と向かい合った
「ウチの和があなたに対して失礼なことを言って本当に申し訳ないと思うわ、清澄の部長としてあなたに謝らせてちょうだい」
そういって久は咲に対して頭を下げ、咲は久の謝罪にただ慌てるだけだった
「い、いえいえ、その、原村さんの意見は一般的には当たり前の事ですし、私も、そう言われた事も何度もありますし、気にしていませんから!!」
「そう?それを聞いてちょっと安心したわ」
咲の様子に久はすぐに頭を上げて笑みを浮かべ、京太郎は我らが部長の切り替えの早さに苦笑いを浮かべていた
「それでも和には私から厳しく言っておくわ・・・あの子もかなり頑固なところがあるから謝罪はしばらくは無理かもしれないけど・・・」
久は和の件については彼女の頑固な性格から自分の考えを曲げない限りは謝罪は無理だろうと感じ、申し訳なさそうにしていたが、咲は首を横に振った
「いえ、お互いに大会中ですからそこまで無理をなさらなくても」
確かに白糸台と清澄の間にちょっとした問題ができたが、だからといって大会中にその問題を解決しようとは咲は思わなかった、なぜならお互いに負けられない試合がこれからあるからだ、問題解決は大会が終わってからの方が十分に時間が取れるはずだ
すると、京太郎の携帯からメールの着信音がなり、内容を確認したところ、げ、っと言葉をこぼした
「部長、優希のやつから早く帰ってこいってメールが」
「あら、だいぶ長いしちゃったみたいね、それじゃあ照に宮永さん」
「あ、私も咲でいいです」
「そう?なら咲、私たちはそろそろ行くから、今度会うときはお互い敵同士の試合の時ね」
試合・敵同士・・・白糸台と清澄はお互いに反対のブロック同士である、それはつまり初出場校である清澄が決勝まで残る自信があるということだ
「そんな約束をしていいの?、県大会と違って全国は強者しかいないけど」
「そうね、確かに県大会程決勝に行くまでは楽ではないでしょうけど・・・
私、これでも結構強いから大丈夫よ」
そう自信満々に笑みを浮かべて答えた久に咲と照は、全国に出てくる強者たちと同じプレッシャーを感じ取った
そして歩き去っていく久と京太郎の姿を見送りながら、改めて竹井久という選手の記録を思い返していた
(あれが清澄高校の部長にして中堅を務め、県大会優勝の一端を担い、個人戦でも原村和を抑え二位という結果を残した)
(地獄待ちからの和了が多く、かと思えばそれを意識した相手を欺くかのような打ち回しをして和了する、清澄一の曲者)
清澄のトリックスター、竹井久・・・!!
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(いやー、まさかあんな所でチャンピオン姉妹に会うなんてね)
久は歩きながら体から流れる冷や汗の気持ち悪さを感じながら先ほどの咲と照の姿を思い出していた
(チャンピオンは当然として彼女もとんでもないわね)
チャンピオンから放たれたプレッシャーもとんでもないものだが、何もしていないのに自然と出ていた咲のプレッシャーを久は感じ取っており、それは姉の照さえも凌駕するものだった
(あれが決勝まで進んだら戦う相手、インハイチャンピオンの宮永照と)
白糸台の嶺上使い、宮永咲・・・・!!
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「「あ・・・」」
改めてお互いの評価をした咲と久であったが、ふとあることを思い出してしまったと思っていた
「『先輩』の事、聞くの忘れてた・・・」
「『あの子』の事を、話すの忘れてた」
自分たちにとって重要な人物についての話を、お互いにしたいと思いながらすっかり忘れてしまっていたのだった
『人物紹介』
清澄高校麻雀部部長・竹井久
清澄高校の麻雀部部長にして団体戦の中堅を担う、清澄の中心人物
原作同様、大会には三年の時に初めて参加したが、ここでは一年の時に『彼女』と出会い、交流を深め、そして地元の麻雀店に道場破りみたいな事をしながら腕を磨いていた。また『彼女』からの指導により地獄待ちを見せながら、相手の仕草から思考を読み取り、相手の裏を読み取るセンスを獲得する。その卓上を荒らす打ち方から県大会終了後には清澄のトリックスターとして名が知れ渡るようになった
なお、『彼女』からの話から宮永咲には興味を持っており、実は咲とも中学三年生の大会の時に対戦した経験があった