今後も加糖していく所存です。
どこまでも真っ直ぐな彼女の告白に対して、断りの言葉を告げた俺。
約束が違うと怒り狂う可能性も考慮に入れ、自分の浅ましさも含めた、言葉。
その反応は。
「そうか。判った」
と、本当に素っ気無いものであった。表情も、今までのやりとりが全く無かったように感じられるような、冷厳としたもの。
いや、本気でこの反応は想定していなかった。
していなかったので、思わずまじまじと覗き込むようにクーラの顔を見詰めて、本音を吐露してしまった。
「――何と言うか、正直助かるんだが、クーにしては随分とまぁ、ええと、ぶっちゃけ昔と比べて聞き分けが良いというか……」
「私も多少なりとも変わったさ。それに、今はその気がないなら、その気になるまで口説き落とすだけだ」
今凄い単語言われた。
いますんごいこといわれた。
さらりとそう言われて、俺はどうしようもなく動揺して赤面してしまった。
同時に申し訳ない気持ちにもなる。健気だな、と何処か醒めた声が心の内から排出され、その事で自身に苛立ちを感じてしまう。まだ引きずっている事にも。
アレをノーカンにしたい気持ちは十二分にある。でも、そんな事は出来ない。噂をバラまかれた原因は俺にもある。いや9割相手だが、1割位は多分ある……筈。何らかの衝突ってのは、何らかの形で両方悪いんだって、父さんから言われているし。いや流石にアレは納得出来ないが。
取り留めの無い思考を溜息を2つ程吐いて破棄し、頭を振って気分を一新させる。早いとこ家に戻らないと荷物が来るらしいし。
「……帰るぞ」
「圭吾、聞きたいことがある」
「歩きながらで良いなら。で、何だ?」
「キミは『今は』付き合えないと言っていた。その真意を聞きたい」
……まぁ、聞く権利は、あるか。遠まわしならともかくとして、正直ドストレートに告白されるとは思ってもみなかった。話さないのは少しだけフェアじゃないだろう。
そう判断した俺は、道すがら話す事にした。といっても全てを詳細かつ克明に話すわけではない。アレを全て話し切るには、まだ心の傷が癒えていない。
「……こっちに戻ってきて中学に上がって2年目の夏休み入る少し前に変声期が来てさ。夏休み終わる直前で俺の声がガラリと変わったんだが」
「ああ、凄いセクシーになっていて私好みの声だ」
「いや、うん、ありが、とう? じゃなくて。変声期前後で身体が異常にだるかった時期があってさ。その時の俺の雰囲気と声で、まぁ、変な噂が立ってたんだよ」
本当にくだらないと思う。夏越えて雰囲気と声が変わっただけでどうして童貞を捨てた事になるのだろうか。しかもそこから女喰いまくりだのなんだのと、酷い噂がバンバカ立ってたんだよな。
あぁ言う噂が立つ理由は、きっと転入生、いや、留学していた者に対する悪い感情もあったんだろう。少なくとも速攻で嫌ってきているグループがあったし。
決定的だったのは、グループ単位で虐められていた子を何人か助けた事。アレで、本格的に俺はその手のグループから嫌がらせを受け始めた。
「変な噂?」
「……俺が童貞卒業したとか女遊びを始めたとかそういう噂だよ」
思わず早口でまくしたてるように言ってしまったが、聞き取れたんだろう。成る程成る程と頷いて何か考え始めたし。というか言わせんな恥ずかしい。
俯いて思案している様子のクーラに、何か言って来るだろうと察して俺は黙って歩いた。色々思い出しながら。
桜並木が綺麗だから、この学校選んだんだっけな、そう言えば、とか。
車の通りが少ない道順って本当に楽だな、排気ガス吸わなくて済むし、とか。
……そういうのを思い出しながら、ずっと待っているんだが、一向に口を挟んでこない。気まずいって事はないが、それでも久しぶりに再会してまだ初日というのがきつい。告白されたってのもあって距離感が全く掴めない。
「あの、クー。何か質問とか、感想とかあるか?」
「ん。そうだな……多少なりとも共感は出来るよ。私も成長期に入ってから性的な視線なら毎日受け続けていた身だしな」
引き結んでいた口許を僅かに苦い形に崩してそう言ったクーラに、俺は反射的に視線を顔、胸、腹、尻、足の順番に向けてしまった。
美人のパーツを多数持ちながら、幼さと色気が同居する顔、特に唇はぽってりとしていて色気が漂っている気がするし、適度な大きさの眼と碧眼は魅了するに十分な威力を持っている、と思う。
同世代の中では文字通り飛び抜けている胸もでかさだけではなく、形も良さげだし、制服越しでも何となく判る位にスッキリとしたお腹と鋭角なくびれが目立つ腰周りや存在感のあるヒップも凄い。
しなやかで、明らかに日本人とは一線を画している長さを持つ手足なんて誰が見ても羨望の眼差しを向けるだろう。
何よりもその白い肌。
西洋人でも此処まで健康的な真っ白な肌はそうそうお目にかからないんじゃないか。
確かになぁ、コレは視ても仕方ない。俺でも余裕で視てしまうし。
とまぁ、此処まで眺めた後で気付いた。
いやこれ今セクハラ。
とっても俺セクハラ。
気付いた後、急激に罪悪感に苛まれ、俺は反射的に謝った。
「……ごめん」
「いや、キミなら別に構わない。好きな人に視られるのは良いものだ」
あっさりとそう言ってくるクーラ。
いや、ホントになんというか。
欧米在住者って日本人と真逆だなマジで。俺は絶対言えそうにない。住んでいたけど恋愛どーのこーのになるわけもなく、クーラを守っていただけだしなぁ。一応あっちでも友人は出来たけど、恋愛となるとまぁ、所詮はジュニアハイスクール、大人びようとも背伸びしようとも思わなかった俺には縁の無いハナシだった。
「それはともかくとして。噂が立ってから確認してくるバカが色々居てさ。最初こそ否定していたんだが、次第にバカらしくなってスルーしたんだよ。そしたら、それが事実になった」
「……どういう事だ?」
「そいつらの中では事実になったんだよ。親が家に居ないのを良い事に連れ込んで金を取ってるとか、な」
「学校の先生は、止めなかったのか?」
「止めるわけ無いだろう。ここは、日本だぞ」
我ながら力無い笑みを浮かべたな、と自覚出来る程度には、遣る瀬無さが全身を侵している。あの教師は少なくとも本当に役に立たなかった。
あんな噂が立ったら学校や担任にも火の粉がかかるというのに、それをスルーしたのだから。あっちに居た頃の先生はかなり良心的だったんだなと思い知らされた一件でもある。
結局、スルーは最悪の手段だったと気付いた時には既に手遅れで。噂は学校外まで広がっていて、払拭は不可能な段階まですっ飛んでいた。
「まぁ、色々あってしんどくなっていた時にな、それでもそんな貴方が好きだと告白してきた子がいてな」
「ほう。どんな子だ?」
「外見だけなら、清楚って言うのが本当に似合ってたよ。中身は真逆だったが」
当時の俺は、噂のせいで酷く疲れていたのもあり、見た目と言動にコロッと騙された結果、より酷い目にあうなんて思ってもみなかった。
黒髪を腰まで伸ばし、控えめな笑顔と眼鏡が似合う、目立たない地味で清楚な子。
そう思っていたのは俺の間違いで。
実は裏で相当に悪い噂が立っていたと知ったのは別れた後というか、コトに及ぶ直前と言うか、押し倒された直後と言うか。それも、俺と似た様な噂が立つ位の。
違ったのは、俺は冤罪で、あの子は真実、それも自らドップリ浸かりにいく享楽的な性質を持っていたぐらいか。
何もかもが手馴れていた。
そう、何もかも。
あの子の誤算は、俺の噂は全て冤罪で、酷く『そういう事』と『そういう行為』を嫌っていた事だ。
今まで付き合っていた相手とは全く別次元で、且つ、より愉しめる相手だと思って接触してきた、彼女。
或いは、冤罪と知って尚、近付いてそっち側に引っ張ろうとしたのか、或いはそんな自分を俺側へと引っ張って貰いたかったのか。
あの時の記憶は酷く曖昧で、思い出したくないという気持ちで全部が薄められている。
結果として残ったのは、付き合って即座に別れた事と、その直後に俺の印象が男娼だのヤリチンだのへと確定するような噂が多重に立った事、この二つ。
よくあるハナシに現実味を薄めさせて無駄にスケールアップしたような、三文小説よりも酷い現実。物凄く下らないハナシ。
「とまぁ、話せる範囲で話すとこんな感じか」
「――圭吾」
「ん?」
「その女は、何処に?」
平坦過ぎる声に違和感を感じて横目で見て、ようやく俺はクーラが激怒している事を知った。良く見ると刷いたような眉が寄っていたり、関節が白くなるほど右手を握り込んでいる。
いや、うん。当時の海斗達と似た様な反応ありがとさんよ。でも、もう終わった事だ。
「あー、クー? もう過ぎた事だから怒らんでも良いんだぞ?」
「そういう問題ではない。キミだけが泥を被ったのも頂けないし、何よりもキミが傷ついたままじゃないか」
「……いや、まぁ、そうなんだけどさ。もう良いんだよ。俺の中ではもうケリがついた事だし、今の高校生活には何も問題ないからさ。それに、正直言って蒸し返して欲しくない」
これは、冤罪騒動で調査した結果、極めて珍しく感情的に、もっと言えば赫怒した石動さんにも、マジギレしてブン殴りに行きそうになった海斗にも言った事だ。
結局どっちが悪かったのかなんて、そんな事はもう、どうでも良くなっていた。
哀しかったし、辛かったし、疲れた。
だから、もう良いと、俺は言った。
当事者が良いと言っているのだから、動く事が出来ないと、聡い二人は理解してくれた。俺にとってはそれだけで十分だった。まぁ、石動さんは相変わらず俺に絡んでくるのがメンドイままだったが。
「やはり納得がいかない」
「俺は、もう良いと判断したって言ってるだろ? 蒸し返されてまた騒動になったりするのだけは避けたいんだよ」
憤懣やるかたない、という雰囲気を発しているクーラを宥めるように、俺はクーラの頭を撫でた。少し驚いたのか、歩調が乱れるクーラ。それで誤魔化される相手ではないと判っているが、取り合えずはそうして時間を稼ぐ。怒りってのは中々持続しないのを身をもって知っているからな。
しかし厄介だ。
思春期以降という意味では初恋の相手があの子。今でも酷い体験だったと思う。
けど、あの時に貰った幾つもの言葉が、例え心無い、気を引く為だけのものだったとしても、俺は救われていたんだ。
だから、恨みきれないし、憎みきれない。
本当に、厄介な事で――
「圭吾」
「ん?」
「その子の事は、今でも好きなのか?」
肺から吐き出される二酸化炭素と、肺に取り入れる酸素がぶつかりあったように、呼気が乱れた。
表情に出さないように注意していたし、海斗にも気付かれていない筈なのに。
「……好き、なのか」
「いや、違う。そうじゃない」
いや、好きじゃない。もう好きじゃない。
ただ、嫌いになりきれないし、無関心を貫けるわけでもなく。
どうしようもない中途半端なだけ。正直、二年も経っているのに引きずるとかどうなんだとは思うが、こればっかりは仕方ない。
そう告げると、クーラは「そうか」と言って腕組みをしながら顔を俯かせた。癖なんだろうけど、胸が強調されているから正直やめて欲しい。
二の腕の幅よりも胸があるから、何やら恐ろしい事になっているし。男子生徒から見た視界的な意味で。見なきゃ良いんだが、まぁ、見てしまうのは本能だ。
と、急に顔を上げて天啓が閃いたと言わんばかりにポン、と手を打ったクーラが、
「よし、そうしよう」
「ん? 何を?」
聞き返した俺に対して。
ぎゅっ。
と、腕を組んできた。
ブラジャー越しの柔らかい感触とか、仄かどころか強く香る石鹸と体臭の入り混じった良い匂いとか、そういうの諸々であっという間に全身に熱が入ったわけだが。
そうじゃない。いや待て。どういう状況だコレは。
「え、いや、あれ? ちょっと待て何で引っ付く」
「今までは日本式、此処からは英国式でいこうかと」
「いや唐突過ぎて意味わかんないから。どういう事だよ」
「日本人は告白してから付き合うと聞いた。郷に入っては郷に従えという諺通り、日本式でやってみたが断られたのでな。先の話を聞いたのもあって、こうやって英国式に切り替える事にした」
英国式ってええと……あっちだと、つまり、知り合いの関係から徐々にボディタッチを増やしていく系、だったっけ?
いやでもこんなんじゃなかった、気がする……と思うのは俺が生粋の日本人で、あっちの事を結構忘れているからか。
いやいや、冷静になれ、こんな風にやっている奴らなんて……いたなぁ、居たよ、でもアレ日本で言う処のバカップルって奴だったような……いや待て俺、此処は流されてはいかんだろ俺ッ。
「違う、絶対違う。こんなの英国式じゃない」
「ふふん、ずっと住んでいる私が嘘をつくとでも? それに、私がキミに嘘をつくと思っているのか?」
こちらの顔を覗きこんで自信満々という風に、或いは疑問系なんて飾りで、殆ど断言するように言ってくるクーラに、俺は首を即座に縦に振った。美人になったからといって騙されんぞ俺は。
「俺は忘れていないぞ。助けて欲しいのに助けなんて要らないとか言っていただろうが」
「それは見解の相違というものだ。あの時は本当に要らないと思っていたよ」
「なら俺の眼を見て話そうか」
ついっと不自然に眼を逸らしながら言う辺り、自覚はあるようだ。アレが本気でそう思っていたのなら、こいつは天性の天邪鬼だろう。今の俺が言えた義理ではないが。
「まぁそれはともかく」
「BY THE WAYすんな」
「圭吾、発音が下手になったな。昔はもっと滑らかだった」
「うるせぇよ何年こっちで生活していると思ってんだ」
日本語と英語と英会話は全部別物なんだぞ。言語体系とか節の区切りとかまるで違うんだから判らなくなるのは当然だろうよ。
じゃない、そうじゃない。危うく流されるところだった。
何度も首を振っているせいでそろそろ筋肉が悲鳴をあげてきた気がしないでもないが、もう一度だけ振って余計な思考を除去した。
「とにかく、離れてくれ。いきなり腕組みとか常識的に考えて変だろ、流石に」
「私にとって、コレ位は普通だが」
「あぁもう……じゃあアレだ、郷に従えだ。日本ではそういう事してはならないんだよ」
「先も言った通り、従った結果、不本意な状況に陥るのなら本末転倒だ。それに……キミが本気で嫌がるなら、やめる」
「……その言い方は、卑怯だ」
何でやめるの時に変化出すかなこの子は。いっそ離せば楽なのかもしれない。
嫌いじゃない、けど好きとも言えない。
恋愛が怖い。
裏切られる事も、裏切る事も怖い。
心が離れていくのが怖い。心を離すのも怖い。
理解されない事が怖い。理解出来ない事も怖い。
結局、引きずりすぎて宙ぶらりんのままなのだ。
情けない。
そんな俺の心情を知る筈が無いクーラに罪は無い。
こんな考えをしていた自分が数年後、当時の自分を思い出して「あの時の俺スゲェ自分に酔ってる系で気持ち悪ぃ」と七転八倒し、海斗から散々かつメタクソに笑われながら「恋愛なんざ自分と相手に酔ってなんぼだ、ドンマイ」なんて言われる事になるのは、まだ先のハナシだ。
「――嫌じゃない。全然嫌じゃないよ。けど、色仕掛けっぽい事をされると、その、俺が困る。こういうので付き合うとか考えるのは、何と言うかアレだし、何よりも、あの子の事を思い出す」
引きずっているが故に、全く違うタイプでも似た事をされてしまうと思い出してしまう。
クーラ自身を見ずに、あの子の影を見てしまうのが失礼だとは判っているんだが、コレばかりは仕方無い。
流石にそういわれては離れざるを得ないと判断したようで、ゆっくりと絡ませていた腕を外すクーラ。眉が少しだけ下がっているのは、見ないフリをしてかわした。
いや、実際ボディタッチでどーのこーのは、ちょっとなぁ。嬉しい事は嬉しいんだけど、もう少し何と言うか、内面というか、心と言うか、そこら辺で判断して欲しいから時間をかけさせて貰いたい。そう思うのは駄目なんだろうか。
「――手は、繋いでも?」
恐る恐ると言った風に、普段よりも少な目の声量で呟くようにして問いかけてきたクーラ。
駄目だ、と首を振る方が良い。線引きをキッチリしていないと流されるのは、以前にもあっただろう。
けど――
「……その位ならな」
クーラは眼を伏せずに、キチンと俺を見て聞いた。
眼を合わせて、望む事を伝えてくれた。だから、まぁ、コレ位は、良い……筈だ。
「ありがとう」
「どういたしまして」
肩を竦めて、ぶっきらぼうに右腕を差し出す。眦を少しだけ下げて、でもおずおずと手を握るクーラ。距離は密着する事もなく、俺が手を引いて歩いているような状態になった。
昔、クーラが虐められていた頃、俺がこうやって手を繋いで引っ張りまわしていたんだっけな。
「何か、懐かしいな」
「あぁ、よくこうして圭吾に引っ張り回されていたな」
視線を回さずに呟いてみると、クーラも同じ事を思っていたのか、懐かしむような声を発していた。
クーラの言う通り、引き篭もろうとしていたクーラを強引に連れ回してはウザがられていたんだよなぁ。
あの時の俺の忍耐力は凄かったというか、自分に正直だったというか、無駄に正義感フルバーストだったというか。
御人好し、だったんだろう。流石にバカみたいな、とまではいかなかったけど、それでも相当アレな感じの。
「まぁ、あの時のクーの事に関しては後々言うとして」
「いや、言わないで欲しいんだが」
「後々言うとして」
「……キミは意地悪だ。昔のキミなら言わなかった筈なのに」
「恨むなら海斗を恨むんだな。アイツの御陰で大体愉快な性格に――」
後ろに視線を流し、俺は海斗がするように口の端を持ち上げて嫌みったらしく笑おうとして。
……そこで、俺は気付いた。いや、気付いてしまったというべきか。
とにかく、一瞬だけ凍りついた。というよりも二度見してしまった。
「なぁ、クー」
「何だ?」
「お前どうして自分の胸を触ってるんだ?」
「あぁ、これか?」
そう、妙にモゾモゾと制服越しに自分の左胸をまさぐる……とまではいかないが、少し顔を顰めて空いている右手でえっちらおっちらと何事かをしているクー。
え、ホントに何してんの?
「ブラがな」
「ぶら?」
「あぁ、さっき強く抱きついた時に、胸がブラから零れてな」
え。
いや、ブラから胸が。え。零れるって何?零れるものなの?液体じゃないだろ胸って。
冗談だろう?と思った俺は立ち止まって首ごとクーラに向けるも、真剣な表情というよりは少し困った表情を浮かべていた。
あぁ、ガチか。いや、ガチだ。コレはガチだ。
「またサイズアウトしかかっていた事を忘れていたんだ。後で買いに行きたい」
そういいながらも、むにゅりむにゅりという感じで片手で位置を直そうとして失敗しているクーラ。
やばい、視覚的にこれは、やばい。いや、マジでコレは目の毒だ。このままでは俺の股間がヴォルケイノしてしまう。
というか両手使えよ。何だ、誘惑か。誘惑してんのか。というよりもまたって何だ、またって。以前もあったのかよ。
思わずガン視したまま時が停止している俺の視線にようやく気付いたのか、処理しようとしていた手を止めて視線をかち合わせたクーラが、
「圭吾、見ていても良いが、出来れば手伝って欲しい。今片手しか使えないからな」
「手伝えるかこのバカ!!」
思わず繋いでいた手を振り解いて、条件反射的にスパン!!とクーラの頭を平手打ちして突っ込んでしまった。衝撃で零れて形が歪んでいる左胸が大きく弾んだ。
あんなに弾むのか……凄いな……じゃない、俺は一体何を考えているんだ。いやでもアレはそう思う
「圭吾、頭痛い」
「直せ、良いから直せ。お前の胸は健全な男子高校生にとって極悪だ」
むぅ、と頬を僅かに膨らませながらも、両手を使って胸をブラの中に押し込め始めるクーラに俺は溜息をついた。
全く、無頓着なのか、それとも無防備なのか、それとも両方なのか。
マジで勘弁してくれ。
俺は取り合えずクーラに背を向けてズボンのポケットに手を突っ込んでモゾモゾさせた。
「圭吾、何をやってるんだ?」
「うぉぁ!? もう復帰したのか!?」
「慣れているからな。それで、何をしているんだ?」
「い、いや、良いからお前ちょっとあっちいってろ。それと、良いというまで俺の方を向くな」
その言葉に怪訝な表情を浮かべて首を傾げるクーラ。
判んないだろうなお前は、女の子だから。
「理由を知りたい」
何その羞恥プレイ。これだから天然は……天然か?
「ふ、ふざけんな。とにかく、あっち行って俺の方を向くな」
「何か悪いことしたか?」
「ある意味そうだから、頼むから、あっちいってくれ。すぐ終わるから」
そろそろ痛いんだよ、中心部が。
と。
何を思ったか、クーラがするりと俺の前に回り込んだ。
思わず硬直する俺。
クーラの目線が俺のズボン……というよりはポケット部分に差し込まれている手へと向けられ、視線を少し動かした後、あぁ、と一つ頷き。
「成る程、納得した」
俺は問答無用でスパーンと、先程よりも強い力でクーラの頭を張り倒した後、素早くポジションを直してクーラの頬を両手で挟み込み、一気にこねり上げた。
「むーーーーーー!?」
「オイこの痴女、なぁにが成る程なのか。俺が空気読めと言ってたのに聞いとらんで回り込むとか、あぁお前アレか、気付かないフリしているだけで実際は判ってただろ。なぁ? 幾ら温厚で通っている俺でも我慢出来ない時にはこうやって怒るんだからな?」
「むーーー!! むーーーー!!」
厚い唇が残念なタラコ唇ぽくさせたり、柔らかほっぺを引き伸ばしたり、やや垂れている二重瞼を鬼な角度に釣り上げたりした後、ペチンと頬を叩いて開放した。
すると、クーラは頬をゴシゴシと撫でながらジットリとした視線をこちらに向けて、
「圭吾。全体的に痛い」
「黙れこのボケナス。俺は心が痛いわ」
ポジション直そうとした現場を幼馴染に見られるとか、本当に此処から消え去りたい。胸の奥から込み上げる羞恥と全力で応戦しながら、俺は半眼でクーラを睨み返した。
「圭吾、キミに聞きたい事が出来たのだが」
「駄目だ」
パチクリと、眼を一度瞬かせるクーラに、俺は溜息混じりに、嘆きを込めて呟いた。何でこんな事を言わなければならないんだ。
「ポジション直しの見せあいっことかそういう意見なら却下だからな」
「いや流石にそれは言わないが」
「え。違ったのか。俺はてっきり『私のを見たんだからキミのも見せろ』とか、そういう変態的でアホな事を言うと思ってたんだが……」
「それは思っているだけで言わないぞ。まだ恋人じゃないんだ」
思ってのかよ。
そしてまだなのかよ。
しかも恋人なら言うのかよ。
この子、大分残念な子になってる。黙っていれば絶世系美女なのに、口を開くとドンガラガッシャンガラガラパリンと崩れるのは駄目だろう。
取り合えず、クーラが言った言葉をスルーする事にして、何を言いたかったのかを聞こう。万が一にもシモい系じゃなかったらちゃんと謝っとくかな。
「判った、取り合えずそれは置いておくとして、言いたい事って何だ?」
「さっきのアレは私の胸で興奮した、という事で間違い無いのか?」
あぁ、コイツの扱い海斗と同じで良いや。
俺は容赦無く拳を落とした。
圭吾の付き合いかけていた女子の元ネタは
ビッチな娘が一途になったら
淫乱な女の子でエロパロ
腹黒女が純真な男に惚れてしまうSS
ここら辺からチョイスしました。