素直クールヒロインとツンデレ主人公モノ   作:K@zuKY

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素直クールvsHの時だけデレデレになる女の子
ファイッ!!


04:石動生徒会長

 始業式を終えて。

 ホームルームで幾つかの連絡事項を聞いて。

 全授業終了のチャイムが鳴ったのと同時に、生徒達はガヤガヤと噂話や世間話で盛り上がったりしながら帰宅をし始めた。

 俺は机に突っ伏して脱力していた。今の俺の眼はハイライトなんて存在しないだろう。それ位、精神的な意味での疲労がやばかった。ついでに言うとそれに伴う胃の痛みも酷かった。勿論幻痛だけど。この年で胃潰瘍になって堪るか。

 

「マジで今日何なんだよ……」

「オイオイ圭吾、そんな状態で大丈夫か?」

「大丈夫じゃない、大問題だ。つーかお前マジお前ふざけんな。煽りやがって……」

 

 ぐったりしながらも減らず口を叩く事は忘れない。大袈裟に言えばそれが俺のアイデンティティだからだ。

 まぁ、それでもしんどいものはしんどいのだが。

 さて、こんなに俺がグッタリしている原因は、何と言うか、海斗の言葉を借りて言えば。

 

 修羅場った。

 

 いや、俺はそうじゃないと思っている。

 だって俺は今、誰とも付き合ってない。

 気になる子は何人か居るには居るが、そういう意味では俺みたいな奴はこの学校のみならず全国でごまんと居るだろうよ。

 ただまぁ、修羅場を経験した事も、夏海さんとその彼氏さんの修羅場を見た事も、ゲームでも経験があるらしい海斗がそう言っていたのだから、アレは修羅場なんだろう。全然嬉しくない上に、生徒会長の石動さんから改めて眼をつけられたのでもう泣きたい気分だったが。

 

 時は始業式まで遡る。

 始業式で校長先生や教頭先生が有り難くもクソ長い話をするのはどの学校でも同じ。

 そう思っていた時期も、俺にはあった。

 入学してから判ったんだが、この学校、生徒会長や風紀遵守会等の会長クラスがそれを勤めるんだよ。校長先生や教頭先生は入学式と卒業式しか口を挟まない。

 うちの学校は結構特殊な部類で、生徒会長が割と結構な権力を持っている。なので、任命責任だのなんだのと、他の学校には絶対無い言葉がついて回る位、シッカリとした人選で決定されている。勿論、最終的には投票で決まるんだが、立候補や推薦をしても各クラスの先生から許可を得れないとそれすら出来ない。中途半端な奴はふるいにかけるって事だ。

 明確な条件は明かされていないが、歴代を見る限り、成績優秀者であり、人望(カリスマ)があり、人気(アイドル性)もあり、華(容姿)もあり、出来れば運動もそつなくこなせて常識と非常識を巧く使い分ける事が『出来そうな』生徒、そういう可能性を感じさせる者が、生徒会長に選ばれている……と海斗が言っていた。

 しかも代々生徒会長は1年生か2年生から選出される。3年は基本的に『生徒会長補佐』という形で落ち着く。要は、生徒会長補佐が実務を執り仕切り、生徒会長が花形として表に出る方式だ。勿論、普通に3年生が生徒会長を務める事もあるにはるが、歴代を見るとやはり補佐に落ち着くのが通例らしい。

 実際有効な手だと思う。何せ教えるという行為が3年生は学べるし、1~2年は上を見て育つからだ。

 ……で、何で生徒会長だの補佐だのの条件やらなんやらを思い出しているのかというと。

 

「貴方、伊佐美君と何をしているのかしら?」

「手を握っているだけだが?」

 

 眼の前でクールな絶世系美女とアイスな和風系美少女が俺を挟んで睨み合い始めているわけで。いや、睨み合ってはいないな、ただ普通に話しているだけだ。2人とも表情が凍っているのかと思う程、ピクリとも動いていないが。

 ついでに言えば、廊下には人気がないのは、時間が推している事が一番、二番目は何か凄い重い空気だから近寄りたくない、という理由だろう。

 一応海斗だけは居るが、その海斗も苦笑いしつつ4m程距離を取って見守っている状態。今はまだ口を挟むべきではないと言う判断を下したんだろう。俺だってそうすると思ったので何もいえないが、やはり最初から参戦してくれないとちょっと……いや、かなり辛い。この空気と怖気を感じる程の美女二名に挟まれるとか、そんな経験が無い俺には辛すぎる。

 とまぁ、始業式開始まであと10分切っているというのに、俺達は席に辿り着けずにいるわけだ。

 見事な天使の輪だと言わざるを得ないほど、サラサラとした綺麗な黒髪を腰まで伸ばしている生徒会長――石動雪華が冷ややかな視線と共に、静かに、窘めるように、或いは非難するようにその小さくて薄い桜色の唇から流麗な声を紡いだ。

 

「風紀が乱れる事をしてはならない筈ですが?」

「おかしな事を言う。ハグやキスをしていないだろう。手を繋ぐ事が風紀の乱れと、この学校の規定にでも書いているのか? そうだとしたら過剰だと言わざるを得ない」

「そうですね、確かに書いてはいませんが、風紀というものは意外と乱れる時は直ぐに乱れるものです。その芽を摘み取る事も大事、そう思いませんか?」

「一理ある。が、私は圭吾に案内して貰っている。だから離す必要性が無い」

 

 いや、うん。

 怖い。

 凄い怖い。

 歯がカチカチなったり怖気の余り鳥肌が立ったりとか、そういう漫画めいた事は無いが、普通に怖い。

 お互い口調は何時も通りなのに、何でこんな帰りたいと思わせる力を持っているんだろう。言霊って奴か?

 そもそもどうしてこうなった。

 いや、判ってるんだ、眼の前の生徒会長は昔から潔癖なトコロがあり、厳格にして公明正大な性格と言うか性質というか、ともかくそんな感じの、正に皆がイメージする『生徒会長』だ。

 それ故に、中学時代の同級生が立てた悪い噂を丸呑みした挙句、俺を呼び出して審議にかけた事があった。

 勿論冤罪だ。噂はあくまで噂。ただまぁ、広がり方が尋常じゃなかったり、中学からそんな噂が纏わり着いていた事を石動さんが知っていたのもあり、結構な騒動となったんだよな。

 俺は冤罪だと言い切り、成績優秀者であり、推薦入学者でもある海斗が擁護し、石動さんが冤罪かどうかをわざわざ『家人を使って』調査をした。結果的には当然のように冤罪だと証明されて事無きを得たが、アレ以来ちょくちょく絡んで来る困ったチャンだ。まぁ、自分の経歴に傷がついたようなものだからな、と海斗が言っていたしなぁ。こっちとしては大迷惑としか言いようが無い。

 ただ。

 俺はその事を忘れていたわけじゃない。石動さんは生徒会長だから時間をずらして講堂に入れば鉢合わせないだろうという目論見があった。

 のに、何でか知らないが、講堂の入り口に突っ立っていたのだ。

 アレか、もう情報が出回っていたのか。

 手が早すぎるだろう、常識的に考えて。ついでに情熱的にも考えて。

 そして、俺はクーラと手を繋いでいたわけで。咄嗟に振り解こうとしても、意地でも離さないと言う風にしがみつかれたところまで見られて、俺は諦めた。

 もうなんか、丁度良い獲物を見つけたと言わんばかりに石動さんが姿勢良く颯爽と来たのもあったし。

 でまぁ小言だろうな、と覚悟はしていたが、クーラが真っ向からぶつかるとは思わなかった。適当に謝って手を放せば良いだろうに、どうしてこう頑固になる事があるのだろうか。

 しかしこのまま傍観するわけにはいかない。この対立は意味が無いのだから。

 

「ええと、石動さん。知っていると思うんだけどコイツは留学生で、ついでに言うと幼馴染でな。全く日本に馴染みが無いので俺が面倒見ているんだが、当然ながらまだ日本の常識を余り理解していない。後で俺が言い聞かせておくから今回は勘弁してくれないか? 時間も5分切ったしさ」

 

 キリキリと神経が締め付けられるような、嫌な感覚を覚えながらも何とか口を開いて、懇願した。頼むってレベルじゃない、コレはもう懇願だ。

 まるで人形のような、或いはアンドロイドのような整った顔立ちとセットでついている一重の、俺とは違った意味での切れ長な眼が俺を呑もうとしていた。

 気後れするな。

 眼を逸らすな。

 俺は間違っていないという事を示すんだ。俺は何も悪い事をしていないのだから。

 10秒。俺にとっては10時間ぼったちの刑よりも辛い10秒が経過し、小さく息を吐いた石動さんが頷いた事で、この件は手打ちだという事を知る。

 

「――良いでしょう。貴方の言う通り、時間もありませんし。ですが、心しておきなさい。もし貴方がマッカートニーさんと淫らな行為を神聖な学び舎で行ったら」

「するつもりもないし、そもそもそんな関係でもないが、取り合えず聞いておこう。行ったら?」

「少なくともこの地域では暮らせないように取り計らいます」

 

 すげぇ脅しが来たぞオイ。しかも実行可能だと思わせる程の名家なんだから恐ろしい。

 石動家はこの地域のみならず、日本国内有数の旧家というか、華族というか、とにかく名家である事は間違いない。まぁ、名家とかそういう事を知ったのは海斗からだから、案外知らない方が常識的というか庶民的なのかもしれないが。

 世界的に見れば石動家は様々な分野で出資をしているスポンサーとしての面が強く出ている。CMとかで名前は殆ど出ないが、企業の株主としては有名だとか。コレも海斗から知ったんだけどさ。

 バリバリの英才教育を受けたモノホンの御嬢様が生徒会長にならないわけはないのだが。うちの学校の生徒会長って結構外部の露出が多いから、そういう奴らしかなっていないぽいし。

 いやいや待て待て、ズレてるズレてる。アレだ、此処まで目の仇にされると、イラッと来るものがある。

 が。

 イラッと来たのは俺だけではないのは予測出来た事だ。クーラなら、多分キレると。案の定、眼を僅かに細めて一歩、前に出ようとした彼女の手を咄嗟に強く握って自制を促した。

 被るのは、俺だけで良い。

 此処まで言われて言い返せないのは、俺が嫌なので、

 

「そいつは凄い。精々、冤罪には気をつけることにするよ」

 

 つい、皮肉気に言ってしまった。

 言って速攻で後悔した。コレは何と言うか、挑発、挑戦の類だろうよ。

 流石に失言過ぎる。

 案の定、スゥッと眼を細めて此方を見てくる石動さん。眼が既に「ほう、良く言った小僧」みたいになっている。自業自得だけど、コレはマジで怖い。本当にこの人俺と同い年なんだろうか。

 一生勝てる気がしない。いや、勝とうとも思わないし、そもそも争いたいわけじゃないんだ、全年齢対象の突発性反抗期を発症しただけで。

 

「そうですね。冤罪にならないように綿密に調査してから、叩き潰して差し上げます」

「以前のように冤罪騒動になるとお互い面倒だからな。そこは頼むよ。またいつかのように無駄な調査をしないようにさ」

 

 うん。

 俺の馬鹿、重ね重ね挑発すんなよ。

 御陰でビキリ、と音がした気がしないでもない。

 いや、うん、した。凄いした。まるでアニメや漫画で出てくる異音が聞こえた。幻聴なのは判るが、俺は確かに聞こえた。

 なぁんかこう突っかかってしまうんだよな、気に入らないというわけじゃない。この学校の生徒会長は本当に重職だ、それを涼やかな表情でこなし続けるってのは凄いと思う。

 だけど毎回毎回俺に突っかかってくんなよ、ってどうしても思ってしまう俺はまだ子供だ。

 だが、此処で俺達の会話は打ち切られる事になる。

 海斗が横から視線を遮るように、石動さんの前に立ちはだかったのだ。何かこういう時の海斗ってヒーローみたいだな。

 

「ったく、お前らその辺にしとけ。圭吾、少しだけオマエも悪くなってるぜ」

「……あぁ、悪い、石動さん。少し気が立ってた」

 

 呆れ顔で肩越しに俺を見やって注意する海斗の言葉に、俺は言葉に詰まりかけ、結局謝罪した。今のは俺が悪いというのは判っていたし。

 石動さんが素直に謝罪を受け取るかどうかは別だけどな、と捻くれた考えが脳裏に過ぎるが、言わなければ良いだろうさ。

 ぐりん、と首を正面に向けた海斗が、今度は鋭い声で石動さんへと言葉を放った。 

 

「それと、石動。オマエはちっとやりすぎじゃねぇかな」

「……何故かしら?」

「そらそうだろ。歴史持ちの御嬢様はわかんねぇかもしれねぇけど、庶民組に向かってこの地域では、なんて親を巻き込んでの死活問題だ。しかもオマエにはマジでやれる力もある。それって脅迫だって判って言ってんのか?」

「脅迫はしてませんよ。そもそも彼らがそういう行為を行わなければ済む問題です」

「あぁ? 根本的にテメェが言った時点で問題なんだよ。何の為の生徒会長だよ。今は振るうんじゃなくて学ぶ為だろ? 使い方間違えんなよ『二年目』」

 

 たまーに思うんだが、海斗ってやっぱボンボンなんだなぁ。親は世界的に有名な音楽家だし、夏海さんはともかくとして、海斗も楽器に関しての造詣が深い。将来の夢も、親の影響だと言ってるし。

 何よりも言葉が違う。使う重みも違う。石動さんが汚い部分を洗い流す為の水だとしたら、こういう時の海斗は全部を巻き込む大海嘯のようだ。苛烈極まりない。

 というか、地味に海斗、キレモードになったな。テメェなんて言葉を使うのは久しぶりに聞いたぞ。

 ……うん?『二年目』?そういえば、石動さん生徒会長二年目か。

 あれ、二年目?生徒会長って任期1年だったような――

 

「五木君」

 

 ぞくりと。

 背筋が泡立った。ラノベやらバトルモノでよくある表現。

 それをまさか実感する時が来るとは思わなかった。いや、体験したくなかったんだけど……

 コレは、ヤバイ。

 海斗の肩越しに見えた石動さんは、笑っていた。

 静かに、ともすれば艶やかに。良く言ったと。

 全力で逃げ出したい。

 立ち去るのではなく、石動雪華という存在から1mでも距離をおいて逃げ出したい。

 そんな気持ちにさせる、笑顔じゃない笑顔。

 だが、それにも動じない海斗も海斗だ。頭を掻いて、首を振った後の海斗は、いつもの飄々とした海斗だった。

 

「あー悪い、今のは俺が悪かった。アンタが良くやっているのは聖さんから聞いてる。だが今回はやりすぎだろって事、わかってくんねぇかな?」

「……判りました、発言を取り消します」

「そいつは良かった。あぁ、そうそう」

 

 踵を返して颯爽と立ち去ろうとする石動さんに、海斗がニヤニヤっと嫌らしい笑みを浮かべながら引き止めた。

 何ぞ?

 

「まだ何かあるのですか?」

「いやぁ、ちょっと良いか? 圭吾もな」

 

 怪訝な表情の石動さんに、海斗はニヤニヤしながら胸ポケットからメモ帳を取り出し、サラサラっと何事かを書いて引き千切る工程を二度繰り返した後、まずは石動さんに、次は俺にそっと手渡した。

 それを読んだ後の石動さんの反応は、劇的で、衝撃的でもあった

 滅多に表情を崩さない石動さんがカッと、或いはアッと言う間に顔を紅潮させたのだ。

 ってオイ待て、一体何を書いたんだよ、海斗。

 

「ダーッハッハッハッハ!! 諸君、また会おう!!」

 

 シュタッ!!と右手を挙げ、高笑いをしながら全力疾走して講堂へと駆け込む海斗に、

 

「五木君!!」

 

 足音を殆ど立てずして、あっという間に講堂へと消える石動さん。

 え、あの、廊下は確か走らないとか……いや、うん、もう良いか。

 

「圭吾、メモは見ないで良いのか?」

「あー、まぁ、そうだな。何を書いたのやら。どれどれ……」

 

 何の気になしにペラリと捲って、俺は後悔した。このパターンてアレじゃねぇか、少し前にあったじゃねぇかよ俺。

 その内容とは。

 

 

≪修羅場乙wwww

  生徒会長と留学生の恋の鞘当とかwwwww

   エロゲ主人公乙wwwww

 五木海斗 心からの SAKEBI≫

 

 

「――ほう」

「いやオイ待て、何が『――ほう』なんだよクーラ。そんなモンじゃねぇよ。機会があったら説明してやるけど、あの人は俺を目の仇にしてんだよ。好意なら気付いているぞ、流石に」

 

 そもそも真っ当な好意があるのなら、査問や裁判めいた会議に呼び出したり、停学退学を喰らわせようと画策したり、俺が何かやらかすだろうと決め付けてくるわけがない。生徒会長として失敗したのが俺関連しかないのだから悪意しか無いだろうよ、常識的に考えて。いや、アレは自業自得だと思うんだけどなぁ。

 もしも実は恋愛感情がありましたとか言われても性根が歪みすぎていてこっちがドン引くわ。アレか、性根が螺旋階段タイプだから設置面積がかからない上に、遠目から見ると真っ直ぐに見えるタイプか。

 

「だが、キミはもてるだろう?」

「眼科か脳外行って来い。もしかしたら神経外科も必要かもしれないな」

「客観的事実だ。顔は割かし整っているし、体型も引き締まっている。キミが嫌っている声もセクシーだと評判だったぞ?」

「ちょっと待った、何時そんなのを聞いた?」

 

 評判て、何だ、何処で聞いていたんだ?だって、クーラがこの学校にきてからまだ1日も経過していないんだぞ。

 

「キミが海斗と話していた時に」

「……あぁ、あの時か。ってお前聞き出してたのか?」

「勿論。圭吾がどういう風に学校生活を送っているか、知りたかったからな」

 

 一歩間違うとそれってストーカーって言うんだが、本当に判っているのかコイツは。

 俺の周りに座っている奴らは、高校からの付き合いばっかだし、悪印象を持っている奴が俺の傍に来るとは思えないから、そういう評価にもなる……のか?いやいや、流石にそこまで回復していないだろう。生徒会長に睨まれているってだけで大きなマイナス評価になるし。

 

「まぁ、良い。俺達も行こうか」

「あぁ」

「クー、もうそろそろ手を離してくれると俺が助かる。石動さんみたいなタイプがこの学校多いから離してくれ。これ以上は流石に先生に目をつけられてもおかしくないからな」

「……………………判った」

 

 そうして、俺達は時間ギリギリになってようやく自分達の席に座れたのだが。

 この後が一番半端無かった。

 多少ガヤガヤしていながらも始業式は滞りなく行われたのだが、石動さんのスピーチの時は水を打ったように静まり返っていたのだ。

 いや、何時もはもう少し他の生徒の声があったりするんだが、今回はまるでそういう雑音が無かった。

 普段の石動さんとは全然違うからだ、という事は、俺でも判った。

 笑顔だ。

 とても、笑顔だ。

 普段、愛想を振りまくタイプではないのに。

 とても、とても。

 そう、うまく言えないが、とにかくアレは笑顔なのだ。

 石動さんを知らない人はアレで魅了されるだろう。

 だが俺は違う。海斗も違う。クーラも多分判った筈だ。

 アレは、キてる。キレてるかどうかは判らないが、相当キてる。

 先程の光景を思い出した俺は、胃が本格的に幻痛を訴え始めた為、お腹を抑えながら横に居る海斗に声を投げた。

 

「……海斗、お前何を書いたんだよ」

「あちゃー、どれがクリティカルだったのか。的中3割なトコ幾つか突いたんだけど、もしかして全部マジだったのか」

「いやお前ホント何やってんだよ、アレ絶対キてんぞ」

「本人のプライバシーに関わるからお前でも言えねぇや、悪いな」

 

 マジでお前何書きやがった。そう聞こうとして。

 石動さんと眼が合った。海斗の隣に居るから、俺と眼があったとは思えないのだが、俺と眼が合った気がした。深窓の御令嬢らしい、名家の御嬢様らしい、素晴らしく綺麗な、純度100%の笑顔を見せながら。

 俺にはなんか『シメル・バラス・ウメル』と表情に書いている気がしてならなかった。不純100%過ぎる。

 思わず視線を逸らして海斗を見ると。

 

「うわぁ……」

 

 顔芸だ。

 とても、顔芸だ。

 ハニワのようなポーズと表情を作ったり『あの生徒会長コワイヨー』とばかりに白目を剥いて顎と首をカクカクさせたりしてる。イケメンが台無しだ。

 コレはウザイ。凄いウザイ。果てしなくウザイ。

 休み時間で教室に居たのなら、俺は間違いなくフルスイングストマックブローでゲロ吐かせている自信がある。

 ちらりと、本当にちらりとだけ石動さんに視線を飛ばしてみると。

 笑顔の輝度が200%上がっていた。2割増しとか白飛ばしとかそういう次元じゃない、もうアレは後光が差すレベルだ。

 さっき見た笑顔に非常に近付いている。ガチギレ寸前じゃねぇか。

 と、まぁ。

 コレに挟まれた俺は血の気が引き過ぎて貧血に陥ったような感じになっていた。よせば良いのに全部見届けてしまったのだ。俯いておけば良いかも知れないが、そうすると目立つのだ。

 誰一人として顔を下げていないのだから、そら目立つだろう。

 結局。

 発言の合間合間に、視線を巡らせているように見えても、殆どロックオン状態でコッチを見続けている石動さん。

 何処ぞの吸血鬼ばりに見えているのが判っているのか、合間合間でキモ顔を作る海斗。

 胃に穴が開く寸前にスピーチが終了した事で、俺はぐったりと首を下に向けた。

 ほぼ全員が拍手をしている為、俺も力無く拍手の真似事をする位はしたが、消耗しすぎて音出しの拍手やれるほど元気が残っていなかった。

 海斗は元気に拍手してんだろうなぁ、と思ってチラリと横目で見て。

 この瞬間。

 俺は人生で初めて、顔文字というのは本当に顔の造形を模っていたんだな、と実感し、見た事を後悔した。ついでに友達付き合いも考え直したくなってきた。

 どうみても海斗の横顔が、完全に『(プ』になっています、本当にありがとうございました。

 

「ブラボー!! おぉ、ブラボー!! 会長最高!! まいしてうー!!」

 

 おい。

 おいおいおいおいおいおいおいおい。

 やめろ。

 やめてくれ、スタンディングオベーションとかやめてくれ。

 煽るな。

 頼むから煽らないでくれ。

 あぁ、石動さんが発光していく……


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