素直クールヒロインとツンデレ主人公モノ   作:K@zuKY

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01:再会とエンカウント

 朝は誰にでもやってくる。何時も通りの俺、何時も通りの朝。携帯電話のアラーム要らずな体質って本当に便利だ。

 起床直後に急ぎ足で洗面台に向かって3分間、丁寧に歯を磨き、顔を冷水で叩いて意識をキチンと覚醒させる。

 

「朝食は白米、納豆、ワカメの味噌汁で良いか」

 

 独り言が増えるのは、独り暮らしの弊害だと誰かが言っていたが、確かにそうだな。

 感情や思考は取り留めなくあるし、口に出す事も多い。ただ、俺の場合はあくまで『独り』で居る時限定なのだが。

 独り暮らし2年目に突入する前から料理をしていた俺にとって、今回の献立は手抜き以前のものだ。といっても、出汁の素とかは絶対に使わないし、合成調味料も体質上、吐き気を催すので使わないから、出汁取りから始まらなければならないのは、些か面倒だ。

 取り留めない思考に流されるまま、手足だけは正確に調理をしていた。所謂、気付いたら出来上がっていた図式だ。日常化すればこんなものである。

 

「頂きます」

 

 音を立てずに手を合わせ、一礼。飯を喰い終わるのは10分もかからず、食器を洗ったり磨いたりする時間の方が長い程だ。昔から良く噛めと言われていたが、きちんと噛んでいる。音を立てないで高速で噛む練習をしていたら出来る様になったのだが、誰もそれに気付いてくれないのは、まぁ仕方ないトコロだ。

 何時もの朝、何時ものルーチンワーク。

 それが崩れたのは、今。

 高校入学以来、初めての事だった。

 

 ピンポーン。

 

「ん……こんな時間にか?」

 

 今は7時過ぎ。余裕を持って登校出来る時間帯だ。そんな時間帯に来る友人は居ないし、宅配を頼んだ覚えも無い。

 誰だろうか。

 まぁ、勧誘ならばさっさと追い出すか、とスリッパをパタパタさせて鍵を外してドアを開ける。下げていた視線を上に上げながら、俺は言葉を紡ごうとして、止まった。

 

「どちら様、で……」

 

 友人ならば「何だお前か」と言えば良い。

 宅配ならば「どうも」と一言で返せば良い。

 勧誘ならば「興味無いので」とバッサリと斬り捨てれば良い。

 だが、この場合はどうすれば良いのだろうか。

 日本の血が入っているとは思えない程、綺麗にウェーブがかったハニーブロンドの髪を風にはためかせ、碧色の眼は二重瞼に彩られて華やかな印象を持たせている。

 写真では判らなかったが、174cmある俺と余り変わらない位の長身、かつ制服越しにも一目で判る位、発達した(グラマラス)な肢体。

 艶やかな桃色の、ぽってりとした厚い唇から、涼やかな声が一直線に飛んできた。

 

「伊佐美圭吾だな」

 

 そう。

 腕組みをして立っていたのは、昨日写真で見たばかりの幼馴染、クーラだった。うちの高校の制服である、前開きタイプの白いセーラー服に、白色でラインを1本入れた藍色のリボンと藍色と白色のチェックスカートを纏っている。

 一瞬。ほんの一瞬だけ、腕組みをしたせいで双丘……双高山が盛り上がっている処を見てしまい、即座に視線を顔へと固定する。表情はあくまで無表情の俺と、涼やかな表情をした彼女と視線がぶつかる。

 

「違うのか? 圭吾に弟が居るとは聞いていなかったが」

 

 取り合えず、弟は居ないと言わんばかりに首を横に振る俺。怪訝そうな表情に変えたクーラに、何の用だと首を傾げてみせると、

 

「どうした圭吾、まさか風邪で声が出ないのか?」

 

 と、予想通りの疑問がすっ飛んできた。眉を顰めて違うと首を振ると、

 

「いきなり押しかけたから怒っているのか? そうだとしたら謝るが」

 

 違うという意味で……まぁ、判らないとは判っているが溜息をつく。

 別に誰が押しかけようとも、俺のスタンスは殆ど変わらないのだ。今回の場合も怒る理由になぞならない。変な言い方だが、俺は自分の声を誰かに聞かせる事が嫌いだから出したくないだけで。

 とは言ったものの、日常生活には声は必要不可欠だ。故に、必要最低限度でしか俺は会話しない事にしている。つまり、こんな時間から声を出すという事は想定外だった為に、出していないだけで。

 

「それとも、その、私の事を覚えていない、とか?」

 

 まぁ、眼の前の幼馴染がそれを知らないので、恐る恐ると言った風な、或いは天気が崩れる間際な雰囲気を持って聞いてくるわけだ。それにしても表情だけは変わらないのが変と言うか、違和感が強いと言うか。

 取り留めなく続く思考を断ち切る為に、もう一度だけ、溜息をつく。まぁ、イレギュラーな状況にはイレギュラーな対応を、だ。

 

「いや、全然。ただ、押しかけてくるのは予想外だっただけさ。久しぶりだな、クー」

 

 出した声色に、僅かに眼を見開くクーラ。

 さて、いきなりだが俺の容姿を此処で説明しよう。

 4年前から30cm程伸びて身長174cm、体重58kg、体脂肪は9%と絞り気味、普通よりはやや上に位置する良く言えばクール、悪い言い方をすれば嫌味ったらしい切れ長な一重と眼が特徴の俺。

 但し、最大の特徴にして最大の問題は俺の声。

 

「凄いセクシーな声だな、驚いた」

「言うな」

 

 顔を顰めるのも仕方ないだろう。

 掠れ気味の低く、女子受けする甘い声。

 声優好きの友人からそう評され、声フェチの学友達からは軒並み高評価を貰うこの声。

 この声こそ、俺の最大の特徴であり、俺が嫌いな特徴でもある。この声の御陰で俺は、中学で酷い目にあったのだから。

 立ち直ったのか、涼やかな表情に戻した彼女が首をこてん、と傾けた。そんな仕草もサマになるのだから、美人というのは得だと思う。

 

「……言われるの、嫌なのか?」

「好きじゃないんだ、自分の声が」

「勿体無い、そんなに色っぽい声と仕草をしているのに」

「仕草?」

 

 何だ、それは初めて言われたぞ。

 本来なら「悪いけど、マジで自分の声が嫌いなんだ。だからあんまり触れて欲しくない」と言って断ち切る筈だったのだが、仕草までは言われた事が無い為、怪訝な表情で見詰めてしまう。

 

「キミは声と身体が連動している、特に眼がな。日本語で、眼は口ほどに物を言うというのがあるだろう? 正にそれだ」

「……初めて言われたな、というより何だ、色っぽい仕草って」

「キミの声に合わせて流し目や眼を細められたり、肩を竦めたりされると、中々にクルものがある」

 

 思考が、空転した。

 いや、何が来るって。いやいや待て待て、アレだ、クーラがエロい身体してる上に俺も思春期だからな、そういう発想になっただけだろう。

 そう、クーラは多分、凹むという意味で言ったに違いない。

 あぁ、馬鹿だな俺。そういう身勝手な欲望は妄想までにしとけと。

 まあ、一応。一応確認だ、確認だけはしておこう。万が一コレが当たってしまっていたら、俺はアーサーおじさんと優美おばさんに説教しなければならない。

 

「そのクルものというのは、凹むという意味で、だよな?」

「いいや、こう、キュンとクルものがある、という意味だぞ?」

「……あぁ、そうか、クーはまだ日本語上手じゃないんだな。それなら仕方ない、仕方ない。こいつはうっかり、うっかり、という奴だな、うん」

「申し訳ないが日本語能力試験はN1をパスしているし、日本語検定は既に1級を取っている。性的な意味でキュンキュン来むぐぅ!?」

 

 ペチンと、頬を挟みこみ、グリグリと捏ね回すと、絶世の美女が奇形へと変化した。むーむー!!となにやらよくわからない言語を発している元・幼馴染、現・痴女にランクダウンした物体をジットリとした視線で見下ろした。

 

「俺の知っている幼馴染はそんな事言う子じゃなかった。少なくともシモネタで顔真っ赤にして言った奴をブン殴っていた表情豊かな子だった」

「むーむー!! むーーーー!!」

 

 じたばたと暴れるので、溜息をついて開放すると、頬を抑えたクーラは、

 

「これでも思っている事を素直に言えるようになったんだぞ。日本語が余りわからなかったから勉強したというのに」

「あぁうん、多分その勉強方法が拙かったんだと思う。クーの口からそんな言葉が出てくるのは、ナニカのマチガイって奴だし」

「? 性的という意味のくだりは本当だむぐぅ!?」

「ハッハッハ、朝っぱらから人様の玄関先でナァニいってやがんだろうなこの痴女は」

 

 ホッペグニグニの刑に処する。

 しかしどうしたというんだ、この子は。昔は表情が豊かだったのに。

 つーか、全然判らん。クーラが何処の学校にいくのかは……まぁ、着ている制服を見る限り同じ高校だとは判るが、何処に泊まっているのかとか、親御さんはどうしたとか全然わかっていない。

 そこを聞いてみるかと、処刑を中止して、

 

「でだ。おじさん達は何処に居る? 隣に引っ越したとかじゃないだろうし」

「ほっぺ痛い」

「あぁ、あとなんでうちの高校に転入したんだ?」

「ほっぺ痛い。凄く痛い。傷ついた、主に心が」

「……お前ね、拗ねたいのはコッチだよ? 玄関先でアホな事言った上に、制裁食らわせたらキレるとかどういう所存だよ」

「圭吾、使い方が違うぞ。所存ではなく了見がこの場合――」

 

 もういいや、ドア閉めよう。

 バタン、ガチャっとな。

 決して。

 決して日本語の使い方間違えてますよ、と半分外国人に指摘されたのがイラっときたわけでも、少し恥ずかしかったわけでもない。

 ただちょっと、場の空気読めよとは思ったが。

 案の定、ピンポンラッシュが始まった。なんつーか、こういうところは変わんないんだなぁ。

 取り合えず放置し、身支度を整え、鞄を担いで通学の準備をした後。

 極めて不機嫌ですと言う表情を作って、開錠し、ドアを開けた。

 案の定、俺の表情を見て、文句を言おうとして強めていた語気を速攻で弱くさせる辺り、こいつらしい。

 

「酷、い……じゃないか。その、いきなりドアを閉めて鍵までかけるなんて」

「空気読めないお前が悪い。そろそろ時間だろ。行こう」

 

 そう言って俺は歩き出した。登校時間にしては早いが、転入する際は早い時間に行く事は俺自身も経験があったので、そう言ったのだ。

 ちらりと肩越しに振り返ってみると、クールフェイスが僅かに崩れていた。眦が下がって口許を緩ませる程度だったが、多分嬉しいんだろう。

 ……美人って本当に得だな。

 トトトト、と小走りで隣に来たクーラが、何かを噛み締めるように、

 

「成る程、コレが亭主関白というものか」

「待てよ」

「?」

「いや、何お前、間違ってないよね? 的な顔してんだよ。間違ってるだろ。結婚してないし、付き合っても無いだろう」

 

 その言葉に今度は大ショックを受けたと言わんばかりに「神よ……」と天を仰ぐクーラ。あぁ、オーバーなところは変わってないんだな……顔に出てないままとかシュール過ぎると思うが。

 

「圭吾」

「何だ?」

「4年前、最後にかわした約束を覚えているか?」

 

 ……あぁ、そうか。だからか、表情筋働いてないの。

 4年前に父さんが日本へ帰国する辞令を受け取った際、当然ながら俺も帰国するとクーラに告げた。

 そうしたら泣いた。物凄い勢いで泣き出した。6年間何処にいても一緒で、いじめられていたクーラを庇い続けていたのもあり、辛かったんだろう。

 俺は生まれて初めて号泣というものを見た。それも、罪悪感を感じるには十分な位の。

 クーラの泣き顔を見たくなかったのが9割、そこまで号泣されるのも正直うざかったのが1割という比率があったが、俺はこう言ったのだ。

 

『また会えるよ。何時か判らないけど。それに、どうしても会いたくなったら日本にくれば良い。僕がまた守るから。まぁ、それまでに良い女になっていてほしいけど。そう、出来ればクールでセクシーな』

 

 と言ったのだ、家族の居る前で。今思えば、フラグ乱立のマセガキがのたまう言葉だよなぁ、とは思う。

 それを真に受けて努力したっぽいなぁ、全くこの子は何でもかんでも間に受けおる。いやもしかしたらアーサーおじさん達も真に受けていたのかもしれない。そうすると全部俺の責任になりかねないが、それはそれ。

 ただ。

 まぁ。

 ぶっちゃけ、デブになろうが美人になろうが何になろうが、正直まだ受け止め切れていない部分が多い。戸惑い80%位か。

 それに、コレで受け入れて昔と違うとか言われて速攻破局とか在り得そうだから、俺が嫌だ。付き合うならキッチリと相互理解した後に付き合いたいものだし。

 ……付き合って幻滅された上に妙な噂ばら撒かれたくは無いしな。いや、もうアレは手遅れだったが。

 

「勿論覚えてる。別に付き合うとかそういう言葉を使っていなかったような気がするが」

「私は圭吾に身も心も捧げるべく此処に来たのだぞ」

 

 何か凄い言葉貰った。

 なんかすんごい言葉が来た。

 何なんだお前は。取り合えず突っ込まないといけないが、どこから突っ込めば良い。そう、ええと多分無難な方向から突っ込むしかないだろう。

 此処で「そうか、なら遠慮なく」とかやれるほどアレな子じゃないのだ、俺は。多分。

 

「……お前、よく恥ずかしくないな」

「何故だ? 好きな人にはきちんと余す事無く伝えるのがマナーだろう。日本人はそこが駄目だと思う」

「すげぇ、日本じゃ考えらんねぇ上に絶対それ、クールールじゃねぇか。イングランドマナーにもなかったよなそれ。つーかお前も日本人の血を引いているだろ」

「日本人の奥ゆかしさとイギリスの淑女さを含めて、イタリア人のように情熱的に言うのが今の私だ」

 

 表情を変えないまま、えっへん、とスイカップ系(推定G以上、寄せ上げブラならE以上に与えられる称号)の胸を「ボタンはちきれんぞ……」とこちらが危惧する位に張って堂々と言うクーラに、今度は俺が空を仰ぐ番だった。視線をそらす意味もある。

 あぁ言えばこう言うのは変わらず、ベクトルだけが変わったわけだ。

 だが、その方向のベクトルチェンジは頂けない。余りにも一方通行だ。

 

「絶対に学校でそういう事言うなよ」

「何故だ? 圭吾がモテるからか?」

「一度たりとも付き合った事が無い俺によく言った。いやそうじゃない、お前、それを皆の前で言ってみろ、速攻イジメの対象になるぞ」

 

 昔みたいにな。と付け加えると、表情は変わらず、だが眼を地面に向けるクーラ。あの頃のクーラと今のクーラの違いは、表情と言葉遣い……というよりかは使用言語、この2つしか違いは無い。物怖じせずズバッと切り込むような言葉をストレートに、誰彼構わず投げるのだ。耳が痛いどころではない。

 それを許容出来る人が極端に少ないのも、痛い目を見ていたんだから判っている筈なんだがなぁ……

 学校を通じて遠慮等を学ぶ筈が、周りには出来て、彼女だけが出来ていなかった。まぁ、学校でも正直は美徳であり、嘘は大罪である、なんて教えていたが、時と場合による、なんて教えてはいないし。

 つと、地面に視線を落としていたクーラが、弾かれたようにこちらを向いた。

 何ぞ?

 

「と言う事は、キミはvirginityか」

「何でそこだけネイティブにした。そういう事する機会が俺にはまだ巡って来ていないだけだ」

 

 女子やセックスに興味はある。あるのだが『S.O.R(正直オナニーの方が楽同盟)』を組んでいる身としては、まぁ、良いかなこのままでも、と思ってしまう。

 成田離婚ばりにスピード破局して変な噂を追加でばら撒かれたり、初体験の失敗談を聞きすぎたりしたのも原因だと思うが。両方の原因は、俺の声と噂がウェイトを占めているわけで。声というのは外見以上に左右されると、心理学のおえらいさんも言っているそうだが、この説を俺は信じている。でなければ俺の噂がエロ系ばかりで埋まる事は無かった筈だ。ましてや娼年的サムシングな噂なんぞ。中学でどうやってそんな事が出来ると思えたんだろうか。いや、イジメの対象が欲しかっただけだろうけどさ。

 御陰で耳年増になって結果的に性的な意味でも達観キャラとかマジで俺に救いは無い、と心の中で愚痴っていた俺に、肩をポンと叩いてくるクーラ。

 哀れみなんざ要らねぇ、とばかりに視線を送ると、クーラは、

 

「圭吾、私もvirginityだ。初めて同士という共通項むぐぅ!?」

「だから、そういう事を言うと、イジメの対象に、なる、つってんだろうが、な? 話を、聞けよ、オイ」

 

 恥ずかしい事この上ない。

 歩きながらも器用に頬で縦縦横横○描いて延長戦か~ら~のどーのこーのをする俺。逆らわずに歩きながら甘受するクーラ。

 ……昔とは立場が逆になっただけと気付くのには、さして時間はかからなかった。

 昔は変な事やデリカシーの無い事を言って張り倒されていたのは俺だというのに、どうしてこうなったんだろうか。

 

「日本はイングランドよりはハーフに対する扱いは悪くないと思うけどさ、それでも人気もヘイトも集まりやすい人種っての、自覚しとけよ」

「そこは判ってるさ。圭吾に助けられなければ、私は……不登校のままだったしな」

 

 まぁ、正直、イジメの原因としては非常になりやすいものだ、人種というものは。何だかんだ言って、白人がアジア人を見下している節があったり、差別という点では未だに根強く残っているのは、俺もあっちで住んでいた時に嫌でも思い知っている。

 生意気なイエローモンキーと、ハーフ(紛い物)な正直者は馬鹿を見るのだ。そう扱わない奴らも結構な数居たが、日本人ばりの日和見主義者だったしな、俺が住んでいた地域だけ、とは思いたいが、はてさてやれやれ。

 

「まぁ良い。とにかく、俺とお前は幼馴染だが、情報はそこまでにしとけ。好きだの愛してるだの、嫌いだのなんだのは絶対に言うな。後、授業終わっても話しかけに来るなよ。周りの奴と打ち解けておけ」

「何故だ? 私は一杯話したい事があるのに。というかキミを嫌うわけがなかろう」

「はいはいわかったわかった。話したいなら俺の家かお前の家か、どっちかで話せば良いだろう」

 

 溜息混じりに譲歩案を出すのも忘れない。アレがダメ、コレがダメとか全部ダメで通せば反発して御破算になるのは当然だ。ガキの俺でもわかる。だから、譲歩案を出して呑ませるのが一番だ。

 

「判った。幼馴染だけなら言って良いのだな?」

「それ位ならな」

 

 目線を前に戻して、俺は軽い舌打ちをした。

 50m前方に、悪友寄りの親友が唖然とした表情でこちらの様子を伺っている事に、今更ながら気付いたのだ。

 というか、気付くまでずっと後ろ歩きで距離維持してただろお前。

 馬鹿じゃねぇの。

 何時からやってたんだよ。

 その表情フェイクだろ絶対。


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