素直クールヒロインとツンデレ主人公モノ   作:K@zuKY

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16:日常におけるエンカウント

 食事を採り終え、食器を全て洗い終えて、黒のダッフルコートを着つつ家の電気を全て落としてさぁ出発だ、という時に気付いた事がある。

 お互い靴を履き終えた後、俺は確認の為に口を開いた。

 

「そういえば、一緒に登校するって事になるのか、これから」

「違うのか? キミが嫌なら先に行くが」

「そこじゃなくて。そのな、これからどう誤魔化していけばいいのかってさ」

「何をだ?」

 

 全く判っていないクーラに、俺は額に拳を当てて、リズムを刻みながらどうしたものかと考える。

 食器を洗っている時に気付いたんだけど、クーラに友人が出来て誰かを家に招くケースは必ず出てくるだろう。少なくともあっちでもこっちでもそこは変わらない筈。

 となれば、想定できる会話としてはこうなる。

 

「ねね、クーちゃんクーちゃん、今度お家に遊びにいってもいーい?」

「勿論。いつでも――あぁ少し待って欲しい。圭吾に聞いた後でなら」

「え? 何で圭吾ちゃんに聞くのー?」

「同居しているからな」

 

 夏海さんならこの流れか。

 昨日やらかしたので知っているから全く意味がない仮定になったけど。

 

「マッカートニーさん、貴女の家は何処に有るのかしら?」

「それを聞いてどうする?」

「いえ、伊佐美君とよく帰りが一緒だと聞いたから、興味本位で」

「同居しているから当たり前だろう」

 

 石動さんの場合はこうなるか。あの人は確証というか証拠集めた後、証言集める過程で接触ってトコだな。

 ……大魔王からは逃げられないって何のフレーズだっけ。そもそもこの2人が友達になれるのか判らない上に、これって友人を招くケースというよりはスリルオブバトルな感じがする。

 

「圭吾?」

「あー、いや、ほら、同居しているのってさ、バレると色々面倒くさいと思うんだよ。変な噂が立つだろうしさ。クー、そういうの嫌だっただろ」

「今の私は一向に構わないが」

 

 危うく噴き出しかけるところだった。

 平然としているクーラをガン見しても、涼やかな表情は変わらない。本気か。

 そりゃマズイだろう、色んな意味で。いやアレか、堀を全部埋める系か。

 と思って反論しようと口を開きかけて、また自分本位な考えをしている事に気付いた。

 良く考えてみればクーラに友人が出来たとして、家に招くのは当たり前だ。

 その当たり前を、果たして俺の一存で潰して良いのだろうか。例え堀を埋める気持ちが多少でもあるにせよ、だ。

 良くないに決まっている。

 なら、どうするべきか。

 簡単な事だ。気にしない。結局物事ってのはなるようにしかならないってのは中学時代で嫌と言うほど思い知っただろう俺。

 それに石動さんが何時か気付くのは確定事項。

 その時に隠していたなんて知られたら……

 

「吊るされるな」

「?」

「いやなんでもない。そうだな、別にバレてもいっか」

 

 理解して、納得しての発言をした俺に、思わず、と言った風に眼を瞬かせるクーラ。

 言いたい事は判るぞ。俺だって思い当たらなかったら、多分必死に口止めしようとしていただろうし。

 

「どうせ何時かはバレると思うと、ものっそい無駄に思えてさ。それに、クーに友達が出来たらうちに呼ぶだろう? それを制限するのはなぁ……俺は嫌だな」

 

 我侭を通すのは良いんだけど、こんなトコで通すのは、ちょっと、人として情けない。

 こう、お前はダメーとか、悪いな、コレX人乗りなんだ的な感じでみっともない。

 

「そうか」

「うん、そうだ。ま、だからといって自分から同棲しているんだぜー、なぁんて言わないけどさ。言ったら頭悪すぎるし」

 

 海斗とバンドを組んでいるとある友人がそれを聞いたら「おぅゴラ、テメッ、アレか、ソリャ自慢か、オゥ?」と、お前どこの昭和のチンピラだよと言わんばかりの口調で胸倉掴んでくるだろう。

 石動さんがそれを聞けば、生徒会室に呼び出された挙句、謎の失踪を遂げる、かもしれない。勿論俺が。

 海斗が聞けば、にやにやしながら「墓場へレッツゴージャスティーン」とか言ってくるに違いない。

 何だか腹立ってきたのでアイツだけは後で「いきなりだけど殴って良い?」と聞いておくべきか。

 

「だから、聞かれたら答える、位でいいと思うよ、俺はね」

「――驚いた。正直言わせて貰うと、絶対隠せと命令されて、登校と帰宅途中はお互い別行動まで言うと思っていたのだが」

「……いやうんまぁ、正直言わせて貰うと、それは勿論考えたけれども。何ていうかさ、それって凄いカッコワルイなぁって。自分の事ばっかしか考えられない大人にはなるなって、父さんから言われているし。でもまぁ……ぶっちゃけ思い出したのは今なんだけどね」

 

 最後の言葉は流石に小さくなるし、苦笑しながらにもなる。ついでに石動さんが怖いから、というのも隠しておく。全部を正直に言うのはちょっとアレだろう。言わなくて良い事は言わず、言うべき事だけを言うと人生は豊かになるよ、なんて父さんが言っていたのだ。

 それを実践する時が、今なんだ。そう思え俺。どっちにしろカッコワルイけれども。

 

「ま、そんな感じさ。それで良いか?」

「十分だ。嬉しいよ」

 

 少しだけ、眼を細めて小さく頬を緩ませたクーラ。

 それを、可愛いな、という感想を持ったのは、3秒以上ガン見していたと気付いた後。

 なるべく自然な風を装って視線を切ってドアを開ける。見惚れていましたなんて言うわけがない。俺は日本人だぞ。

 

「それじゃ、行こうか」

「ん」

 

 ドアを抑えて先に出ろと促すと、一つ頷いてクーラが出る。

 鍵をかけて歩き出すと、背筋をスッと伸びた綺麗な姿勢で歩くクーラが寄り添うように付いてくる。

 まぁ、横だろうが前だろうが後ろだろうが、付いてくるんだ、ポジションなんて何処も同じだな、と半ば諦めの境地、半ば納得の境地に達しながらも釘を刺すことは忘れない。

 

「でも手を繋ぐのはダメな」

「む、何故だ?」

「道はもう判っているだろうよ。昨日の朝っぱらやら下校時の待ち伏せやら出来たんだしさ」

「……失敗したな……」

 

 素直で宜しいのか宜しくないのか。

 とにかくクーラは溜息をつきながらも直ぐに諦めたようだ。

 暫く歩いていると、無言のまま行くのは嫌だったのか、それとも本当に聞きたかったのかはともかくとして、

 

「そういえば圭吾」

「ん? 何だ?」

「何故石動さんに敵視されているのだ? 流石に過去の一件がどうであれ、それだけであそこまで敵意を抱けるとは思えないが」

「まぁ、確かにな。俺だってそこは不思議に思っているよ」

 

 頭を捻っても、癒奈さんが一枚噛んだ騒動以前は話したことが殆ど無い。アレ以降、今までずっと絡んで来ているのだ。

 となれば、あの一件が始まりの筈なんだけど……

 いやこれで、実は幼年期にあってましたとかそういうパターンだったら絡んできそうではあるが、フィクション世界の住人でもあるまいし、それは無い、絶対に無い。

 幾ら脳にクモの巣が張っているとはいえ、会っているのなら面影とか名前とか苗字とかどこかしらで引っかかってもおかしくはない。そりゃ昔がすっごいデブでしたとかだったら判らないと思うけど。

 まぁ無い……だろう、多分、きっと。いやまぁちょっとは覚悟しておくか?

 

「昔、彼女の心が折れそうな時に助けたとか、結婚の約束をしていた、とかそういうモノを忘れているとかではないだろうな?」

「おいクー、ギャルゲーやらラノベやらネット小説やらで良く有るイベントを現実に持ってくるんじゃない。そんなもの、現実にあるわけないだろう。そういうのは二次元にしかないんだよ」

「その場合、キミも私も二次元という事になるのだが」

「ぐッ――」

 

 頬が苦笑の形を描いたクーラにやんわりと言われて、思わず言葉に詰まる。

 脊髄反射的に言い返してしまってカウンターを喰らった結果だ。

 けどまだ言い返せるレベルだ。

 

「あ、あれ位ならよくあるハナシだろ」

「その『よくあるハナシ』で私は救われた事になるのだが」

 

 訂正、もう言い返せなくなってきた。

 俯いて苦笑を深めたクーラを見て、流石に口を閉ざしてしまう。

 

「つまり、キミにとっては普通かもしれないが、誰かにとってはそうじゃないというパターンが構築されているのかもしれない。確かそういう事をフラグ乱立、もしくはエロゲ主人公とも言っていたな」

 

 エロゲ主人公て。

 と絶句している俺に、伏し目勝ちで持論を展開していたクーラが、こちらを見てキッパリとした口調で言い放った。指差しつきで。

 

「正にキミだ。今も昔も、そこは全然変わっていない」

「いや待て、そこに至る過程と理屈がおかしい」

「そういう事だろう? 無自覚で人を救うヒーロー、でも良いが」

「お前がそういう眼で俺を見ているのは判ったが、流石にそれは違うだろ。というか誰がそんな言葉教えたんだよ、その……エロゲ主人公って。ラノベか? ラノベなんだよな?」

「いや、キミと海斗が話していただろうに」

「――あの時かッ」

 

 思わず吼えるのも仕方ない。質問攻めにあっていたのに良くこっちの会話聞けたなオイ。凄いぞクーラ。全然褒めたくないけどな。そしてその直後かどうかは判らないが、この時間までに意味を調べて使ってみたと。大した行動力だなオイ。

 早くも追い込まれている気がしないでもないが、それでも反論っぽいナニカはしておかなければならないだろう。でなければ本当にヒーロー体質だと思われてしまう。そんな一歩間違えたら八方美人、なんて言われているような渾名は全力で回避したい。

 

「正直に夢エクスプロージョンな事を言うけどさ。クーの時はたまたま叔父さん達と父さんに頼まれたからやったんだよ。流石にあそこまで献身的っつーか親身っつーかになれって言われても、もうなれないと思う、流石にな」

「知っていたよ」

「うん。え。あ、知って……いたのか……」

 

 知らないと思っていたんだが。

 思わず立ち止まって唖然とする俺に、当然だろうと頷くクーラ。

 

「だから、キミを邪険に扱った」

「あー……成る程な、そりゃそうなるか」

 

 自主的ではなく頼まれて慰めに来たり、義務感や紐付きの優しさで一緒に登校していたなんて知っていたら俺だってふざけんなと思う。

 しっかし何処でバレていたんだ。俺はそんな事、一言も言ってなかったけど。

 首を傾げておっかしいなぁ、と思いながらも再度歩き始め、

 

「もしかして俺、そんなに判りやすかったか?」

「いや、キミというよりもその話しをしたタイミングが不味かったな」

「――あー、つまり。居たんだな?」

「飲み物が欲しかったから降りていた」

 

 偶然だけど、最初からバレバレだったわけか。

 けど、そうだとしたらおかしなハナシになる。流石に義務感オンリーとまではいかないけど、それに近い状態で接していたのを知っているのなら、今の彼女にはならない筈だ。

 何か抜け落ちているのか?

 

「うーん……余計にアレだ、そう、その、俺を好きになる理由が全く思い浮かばないんだけど?」

 

 そう言ってみると、小さな笑みを零して眼を細めるクーラ。何だ?面白がっているのは何と無くわかるが、この状況で俺、何か失言でもしたっけか?

 

「少なくとも、キミは私を救った。それだけで今は十分だと思って欲しい」

「今は、ねぇ……つまりアレか、付き合ったら教える、みたいな?」

「それでも良いな」

 

 まるで判らない。一体俺、何をやらかしたんだ?

 そりゃクーラを守ったり登校させる為に、色々打てる手は全て打っておこうと色々やった記憶が幾つかはハッキリとまでは断言できないけど覚えているっちゃー覚えている。

 けど、それだけじゃないと思うんだよなぁ。きっと何か俺が言った事とか仕出かした事とかでこうなった可能性が高いし。

 つってもなぁ……でもまぁ、嫌われていないよりはマシか。コレでこっち来て渋々同居だったら胃薬は確定だったと思うし。

 そもそも渋々だったとしたら此処に来る事も無いわけだけども。

 あ、海斗が横断歩道渡ってる。

 クーラに目配せをして、小走りで海斗を追いかけると、足音で気付いたのか、立ち止まって首を此方に向け、右手で背負っていたギターを左手に持ち替えて手をヒラヒラさせた。

 

「よーう、昨日は悪かったな」

「昨日……? あー別に仕方ないだろ」

 

 夏海さんの電話で襲撃事件の事か。アレはもう天災だからしゃーない。という意味合いを持たせて、軽く肩を竦めて見せると、正確に意味を汲み取ったのか、頭をガシガシとかいて大仰に溜息を吐いてみせる海斗。

 この瞬間、俺と海斗の感想は全く同じものだった。

 つまり、いい加減にしてくんねーかなあの人、と。

 

「おはよう海斗」

「おう、おはようさんだクーラちゃん」

「ちゃん付け似合わないなぁ……」

 

 思わず呟いてしまったのだが。

 後悔した。

 ギンッ、という音が聞こえるほど、超反応で此方を見詰めてきたのだ。勿論クーラが。

 咄嗟に海斗をチラ見するように視線を逃げさせてみると、逃げた先のイケメンは呆れ顔になっていた。俺も自分で馬鹿だと思うよ。どうせ試しにちゃん付けで呼んでみたかったから言っただけだろうし、俺がそれで反射的に感想を述べただけだし。

 ただ、反射的に言ったんだから仕方ないだろ。

 なんて言えるわけも無い。

 実際似合っていなかった。ロリ顔ではなく、やや童顔ではあるがロリとは別種で、しかも程遠いパーツの1つ1つが派手なクーだ。それに加えて怜悧な雰囲気と涼やかな相貌を持つクーには、石動さんとは別の意味で様付けの方が余程似合うというかシックリ来ると言うか。

 ちゃんとか無い。全然無い。絶対無い。似合ってないとかじゃない。無い。

 

「圭吾」

「はい」

「例え事実であっても、言ってはいけない事がある」

「はい、ごめんなさい」

「あー、クーラさん。俺も悪かった。ちょっと言ってみたかっただけなんよ」

 

 珍しく引き気味にそう言う海斗に、絶対零度の視線を向けたクーラが、

 

「別に構わない。私もキミの事を海斗ちゃんと言うだけだ」

 

 瞬間的に噴き出した俺を、誰も責めることは出来ないだろう。

 海斗が、ちゃん付けで呼ばれるような可愛い面は内面も含めて一切無い。

 何処に出しても恥ずかしいイケメンだと言われる海斗だが、顔も童顔とは程遠い、彫りの深い顔立ちやパーツで構成されているし、声も高音ではない。流石に俺よりは高い声質だけど。

 夏海さんには可愛げが足りないと嘆かれる程だし、そもそも石動さんと対等にやりあえる時点で可愛げなんてものは存在しないと確信している。

 いや、音楽関連になるとやたらめったらにはしゃぐけど、それを可愛いと言えるかと聞かれたら、俺は首を横に振るね。あのはしゃぎっぷりは「わーい」とか「やったー」とかそういうもんじゃない。アレは「ひゃっはー!!」とか「いいぜいいぜぇ!!」という、なんつーか外道悪役っぽいノリ。

 ついでに言えば、クーラの声と顔からして、誰かにちゃんを付けるというのが物凄い似合わないというのもある。

 これはひどい。

 

「正直すまんかった、今は反省している」

「わかれば宜しい。それで圭吾、さっきから首を横に振っているがどうした?」

「海斗を考察していたんだけど、やっぱりちゃんは無理だという結論に達したってだけさ」

「うるっせーよ、そこは自覚あんだよ」

 

 苦々しいと忌々しいを足して割るという、随分とまた器用な表情を浮かべた海斗に俺は肩を竦めてみせた。間接的に自爆した海斗だが、結構珍しいっちゃ珍しい。普段ならそこも考慮している筈なんだけど。

 

「んで圭吾。結局あの後、釈明したのか?」

「あー、いや。謝ったけど俺からは別に。夏海さんと何話したのかは詳しく聞いてないけど、聞く程の事じゃ無いだろ……多分」

「そりゃそうだな」

 

 俺も居たしな、と言外に告げる海斗に若干の安堵を覚える。

 誰だって自分のトラウマを抉る秘密をベラベラ喋るわけじゃない、けどそこはそれだ。夏海さんの場合、ついやっちまう可能性もあるのだ。万が一位だけど。

 

「あ、そうそう。クーラさん、弁当貰えた?」

「正直意外だったが貰えた。勿論、鞄の中にある」

「いや待てよお前ら。ナチュラルにどういう会話の持ってきかたをしてんだよ……」

 

 少なくとも話題転換の方向性がおかしい。次に何でそれを見切れたのかという点で海斗がおかしい。んでもって素直に答えるクーラもおかしいし、口止めしなかった自分が一番おかしい。

 全方向におかしい。

 

「圭吾、会話の持ってきかた、ではなく会話の持って行き方、ではないのか?」

「持ってきかたでいいんだよ、口語体ってのは何いっても問題ないから」

「そうなのか?」

「そうなんだよ、そういうもんだから」

 

 挙句の果てにクーラから日本語がおかしいとか言われるなんて。

 クッソ、俺よりも日本人しやがって。ちゃんと言えってか。運びとか古い感じで言えば良いのか。

 苦虫を纏めて噛み潰したような表情を浮かべて、俺は溜息を吐いた。

 

「というかな、海斗。お前何いきなりヒトん家のプライベート爆晒しをやらかしてんだよ。普通聞かないだろ」

「いやぁ、取り合えずお約束は踏襲しないとさぁ?」

「何処の世界でのお約束なんだよそれは……エロゲか? エロゲとかそういうのか?」

「朝チュンは流石に無かっただろうからなぁ。俺としては合った方が面白かったけーどなー」

 

 こ、こいつは……

 1日で交際開始とか、どんだけ俺のフットワークが軽いと思っているんだ。むしろ鉄球繋がっている状態だから鈍足だろうよ。

 それはともかくとして、今はクーラもいるんだ、このままやられっ放しだと俺が単なるヘタレにしか思われなくなるだろうし、何とかしてやり返したい、こう、物理的な方向以外で。ブローぶっぱとかするとぜーったい「げふ……図星ワロス!!」とか言うだろうし。

 ……そういえば昨日の放課後、海斗の奴、石動さんに呼び出し喰らって家に招かれてたよな。

 自分が体験したからといって相手にそういう話題を振るとかそういう事をやっているわけはない、だろう。

 ないよな?

 ……それは面白いな。

 

「あぁ成る程、石動さんと宜しくやれたって事で良いのか?」

「――は? 何でそこで石動が出てくんの?」

「えー? お前が俺にそういうの振ったってことは昨日そういう流れになったんじゃねーのー?」

 

 自分なりに涼やかな、スカした感じでフッと笑ってそう言ってやると、気難しい顔をして視線を空に向け、数秒してから深々と溜息をついて海斗は言った。

 

「圭吾……そりゃ駄目だろうよ」

「いやうん、俺も言った後に無いなとは思ったんだけどさ」

「お前、性格悪くなってんぞ? もうちょっと純真無垢なお前に戻っておけよ、ここらでさ」

「海斗、その話、出来るだけ詳しく」

 

 kwskというネットスラングが脳裏に過ぎた程度には間髪入れずに会話に入り込んできたクーラの頭を軽くはたく。

 ohとか聞こえたけど別に痛くは無いだろ、ペチンもいってないし。

 というか俺に純真無垢な時代は無い。無いったら無い。幼年期以外。

 

「あ、そうそう。なぁ圭吾、花見しようぜ」

「いきなりの話題転換は一体何なんだよ。つーか今年はもうしただろうよ……」

 

 お前は何を言ってるんだという風に海斗に視線をやると、コイツは駄目だと言わんばかりのアメリカンジェスチャーをかましてきた。

 イラッと来るものの、俺も発言し終えた直後、風に運ばれている桜の花びらを見て気付いたから何とも言えない。

 チラリと右隣にいるクーラを見て、

 

「クー、明後日の放課後に花見をしようと思うけど――」

「行く」

「――来る、よな、まぁ、そうだよね」

「勿論だ」

 

 即答である。ほぼ遮るレベルでの即答。

 こいつの反射神経どうなってんだ本当に。ベッドから0距離加速するし。アレは相当残念だったな。

 不意に込み上がってくる思い出し笑いを咳払いで誤魔化しながら、海斗に顔を向けて、

 

「勝手に決めたけど確か海斗って明後日空いてるよな?」

「勝手に決められちまったが、勿論空けられるぜ。姉貴も誘って良いよな?」

 

 言外に、顔合わせはさっさとすべきだろ?と込められたメッセージを受け取って、俺は小さく笑って頷く。

 モテるわけだよ、ホントに。

 じゃ、メールしとくわー、と早速行動に移し始めた海斗。

 それを見て、ふと、もうちょっとで学校着くんだ、面倒な生徒会や風紀委員に見つかるとアレだから後にすればと言おうとして。

 

「面――」

「あら、歩きスマホをしている五木君、マッカートニーさん。それから伊佐美君、おはようございます」

「よう石動、相変わらずセメントだな」

「おはよう、石動さん」

「――どオハヨウ」

 

 お前なんで俺を呼ぶ時に余計なインターバルを置いた。

 なんて言えない。

 けど、絶賛もにょり中で挨拶を返す俺は間違っていない。




キャラの属性付けは確定しているものの、噛み合わせと内容で四苦八苦という状態。

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